09.無力な小鳥
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包み込むような温かさ。耳にこだまする心地良い音。柔らかな布の感触────。
まだ重い瞼をそっと持ち上げると目の前では小さな炎が踊るように揺らめいていた。
いつの間に寝てしまったんだろう。
だんだんと覚めてきた目で辺りを見回そうと体を持ち上げる。途端、足首に激痛が走り声が口を突いて出た。
────っそうだ、わたし木ノ葉の暗部に刺されて……。
直前まで痛みがなかったからすっかり忘れてしまっていた。ぶり返した痛みに耐えられず起き上がることすらできず、しかたなく再び横って首だけを動かながら辺りを見回す。
その場にいるはずのイタチを探すけれど、薄暗い洞穴の中に彼の姿はなかった。
────イタチ、どこ行ったんだろう。
冷たい洞穴の中、いつ寝てしまったのかは覚えていない。
けれどそれでも、本来なら寝心地が悪いはずのこの環境でわたしがこんなにも熟睡できていたのは他でもない、イタチの気遣いのおかげだった。
────枯れ草に、この羽織はイタチの……。
地面ではなく枯れ草のベッドを作ってくれた上に、自身の羽織を布団替わりにかけ、たき火まで用意してくれている。
────足、も……。
動かせない左足の代わりに手を伸ばして患部へと触れると確かに包帯の感触がある。
これもイタチがやってくれたに違いない。
……わたしが、のんきに寝ている間に。
いろんなところで滲み出るイタチの気遣い、優しさに感謝の気持ちとやるせなさがぶつかり合う。
もっと力があれば、もっと機転がきけば……あの時、捕まることもなかったはず。
今回はイタチがあいつらの息の根を止めてくれたおかげでわたし達暁の目撃情報が里へ漏れることはきっとないだろう。
でも死体は自然と消えるわけじゃない。
いずれ帰って来ないあいつらを心配した里の奴らが死体を見つける。
どのみちわたしがヘマしたせいでこっちが不利になってしまったのは確かだった。
「はぁ……」
この世界に来てからの日々はあまりにも濃厚で目まぐるしい。……こうしてため息が出るほどに。
最初の頃は夢だ夢だと自分に言い聞かせていた。
けれど、それも長く続くはずがない。
オビトと話したあの日、一向に醒めない夢に終止符を打った。
ここを現実だと受け止めた次にとるべき行動は、この環境に慣れること。
忍は平気で山や里を越えて行く。野宿だって当たり前で、その合間に敵に出くわすことも珍しくない。
……それなりに、覚悟していたつもりだった。
でもその覚悟の先に突きつけられたのはわたしと彼らとの感覚の差。
何もかも桁が違う。まさに言葉のまま、〝次元が違った〟んだ。
────生きて、いけるかな。……いや、生きなくちゃ。
生きて、生きて、生き抜いて、絶対に両親が待つ元の世界へ帰るんだ。
「起きていたのか」
その声にはっとして頭を持ち上げる。そこには両腕に枝を抱えたイタチが立っており、起き上がろうとするわたしを手で制して弱くなりかけたたき火に枝をくべ始めた。
装束を着ずにこの寒い中、枝を集めに行ってくれていたと思うと申し訳なさと心苦しさが膨れ上がっていく。
イタチへ謝ろうと一度口を開くも、なんて声をかければいいのかわからなかった。
そんなわたしに気がついたのか一瞬だけイタチと目が合う。
少しの間のあと、彼は呟くように言葉を零した。
「……すまない」
ばつの悪そうな顔をしながらそう零すイタチに疑問符しか浮かばない。
────なんで? どうしてイタチが謝るの?
イタチは悪くない。彼が謝ることなんて何ひとつないのに。
むしろ謝るべきはわたしだ。
弁解しようとわたしが口を開くよりも先にイタチは続きを話し出した。
「今回の任務は中止にした方がいい」
────中止……。そう、だよね。
わたしが暗部に見つかってしまった時点でそんな気がしていた。賢明な判断だと思う。
返す言葉もないわたしの代わりにイタチは少しずつ、今の状況やこれからのことを話してくれた。
今回の任務はわたしの〝
最初はそう聞かされていたけれど、本当の目的はもっと別のところにあったらしい。
本当の目的────それは〝大蛇丸をあぶり出す〟こと。
まぁ簡単に言えば、わたしは囮に使われていたということになる。
気分の良い話ではないけれど、大蛇丸もわたしの
────確かに、大蛇丸から狙われるのは勘弁。
暁はこうして経過を待ってくれるし、守ってくれるけれど、もし間違ってでも大蛇丸に捕まってしまったらすぐにでも人体解剖が始まってしまいそうだ。
想像するだけでも鳥肌がたつ。
「これ以上木ノ葉に近づけば確実に戦闘が待っている。もちろん、お前も巻き込んで、だ」
……戦闘、か。
今のわたしでは彼の重荷にしかならないだろう。
わたし自身深手を負うことは目に見えてるし、下手すれば〝死〟だ。
それは暗部との交戦でわかりきっている。
話を聞くとどうやらさっき見えた人影は大蛇丸の手下だったらしく、わたしをこの洞穴に隠したあとイタチはすぐ交戦しに行ったのだと言う。
確かにあぶり出すことには成功した。
けれど思ったよりも早く嗅ぎつかれてしまったらしい。
それほど相手も血眼になってわたしを探しているということだった。
「中止という形にはなるが、実質任務は達成だ。何も気にすることはない」
イタチは最後にそう言った。
わたしはそれが彼なりの優しさなのを知っている。
でも────今回、わたしが足を引っ張ってしまったのは事実。
力のない自分がもどかしい。
守られてばかり。
いつも誰かの背を見つめことしかできなくて、いざ独りになると手も足も出ない。
……せめて、自分の身を守れるくらいの強さがあれば。
そうすれば少なくともあの時、イタチに迷惑をかけることもなかった。
────強く、なりたい。
生きるために。……ならなきゃいけない。
この世界はそういう場所だ。元々、力がある者しか生き残れないようになっている。
わたしは特別な目を開眼しただけであって、その力が戦闘で役に立つわけでもなければ、使いこなせるわけでもない。
今にも風に掻き消されてしまいそうな炎を前に確固たる意志を刻む。
────守れるだけの、強さを。