09.無力な小鳥
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────どれくらい、歩いたんだろう。
茶屋を出発してから森に入り、もう随分と歩いた気がする。
どんどん奥深くへと進んでいるのか、辺りの光景はすっかりジャングルのように入り組んだものになっていた。
同じ景色が続く中で足元を確認しながら一歩一歩、慎重に進んで行く。
さっきから相変わらず少し先を歩くイタチはさすが忍、とでも言おうか。
忍たる者、常に痕跡を消し、決して敵に存在を勘付かれてはならない────。
そう彼から教えてもらった通り、一体どこに足をつけたんだと言いたくなるほど歩いた形跡がなかった。
────あれ? どうしたんだろ。
ふと前を歩いていたイタチがわたしを待つように振り向き、控えめに手招いた。疑問を抱きながらも待たせてはいけない、と早足に草木を掻き分けながら彼に追いつく。
わたしがそばまで来たのを確認してからイタチは話し出した。
「この辺り一帯は霧が出ると数日間森を出られなくなる」
そう言いながらゆっくりと宙を見回すイタチを真似て、わたしもそっと視線を泳がせた。
────気の……せい、じゃないよね。
見回した空には薄く膜を張るように白い靄がかかり、太陽も厚い雲に隠れようとしている。
イタチは眉をひそめ、呟いた。
「……早いところ出るぞ」
それだけを言い残して歩き出したイタチの背を慌てて追う。
────急がなきゃ…!
そう思うのとは裏腹に体力は限界を迎え始めていた。
当然と言えば当然だ。
体感だけど、歩き始めて3時間以上は経ってる。それを運動が得意でないわたしが休み無しで歩いたんだもの。
息は上がり、一歩踏み出すごとに足首に鈍い痛みが走る。
急ごうとすればするほど、イタチに追いつこうとすればするほど、足はもつれて上手く進めない。
そんなわたしを閉じ込めるように霧は濃くなり、嫌でもあせりが全身を支配する。
────早くしなきゃイタチを見失っちゃうのに……!
視界がどんどん奪われていくジャングルの中、独りっきりで迷子なんてそんなの絶対に嫌だ。
その一心で歩みを進めるもののイタチの背中は遠くなるばかり。
「あ、れ……」
遂には必死に追っていた背中も絵の具を零したように濃く伸びる霧に掻き消され、完全に孤立してしまっていた。
────嘘…でしょ……?
1メートル先も真っ白。なんにも見えない。
耳を澄ましても聞いたことのない動物達の鳴き声が響くだけで、またどこか違う世界に置いていかれたような感覚に陥ってしまう。
────どう、しよ……。
この場合、下手に動かない方がいいのか。
それともイタチからもらった地図を頼りに目的地を目指すか……って言ってもこの地図普通の地図じゃないし、読み方もよくわかんないんだけど。
消去法で考えた結果、この場で彼を待つことにした。それが今一番、賢い選択なのかもしれないと思ったから。
近場にあった太い木の幹に背を預け、白く濁った空を見上げる。濃い霧にぼんやりと映る枝や葉は不気味に揺れていた。
────イタチのことだもん、きっと探してくれてるよね。
そうは思い込もうとしてもすぐ嫌な想像が脳裏をかすめる。
────まさか置いて行ったり……ってないない! 絶対、たぶん、そんなことない! ……はず……。
……大丈夫、絶対大丈夫…来てくれる……。
来ると、来てくれると思い込まないと、孤独や不安に押し潰されてしまいそうだった。
自身を落ち着けようとひとつ息を吐いた時────。