気づいてください、先輩。
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────ワンちゃんが、飼いたい。
そう思い始めたのは少し前、犬塚キバ先輩と話すようになってから。キバ先輩の家系は代々忍犬と過ごしていると聞いて、とても羨ましく思った。
「せんぱーい! 遊びに来ました!」
「へいへい、どうせ目当ては赤丸だろ」
「えへへ。赤丸くんはどこですか?」
「さぁな」
「……尻尾、みっけ」
「あ"! 赤丸、隠れてろって……!」
「うわぁああ…ふわふわ……っ」
キバ先輩とのこのやり取りは、もうテンプレートと化している気がする。
わたしが赤丸くんのことを好きすぎて会うとしばらく離れないからって、先輩はわたしが来ると知ると赤丸くんに隠れてろ、って言う。でも赤丸くんはわたしと会うの、満更でもないみたいで、いつも隠れ方が適当だからすぐに見つけられる。
最近はその隠れ方が適当の度を越して、彼の遊びの一環にすらなっているようにも思えた。
今は大きい赤丸くんだけど、昔は先輩の頭に乗るくらい小さかったって聞く。その時の写真とかを見たけど、ぜひとも過去に戻って小さい赤丸くんを抱っこしてもふもふしたいと強く思った。
「ぁ~……わたしも、ワンちゃん欲しいなぁ……」
赤丸くんのお腹に顔を埋めながらついそんな呟きが出てしまう。浮気しないで、って言ってるみたいに赤丸くんはしきりにわたしの顔を舐め回した。
「ちょっ……! やめっ、赤丸くん! ふばっ」
そのままじゃれるように飛びついて来た赤丸くんに押し倒されて、笑いながらわしゃわしゃと撫でてやっていると、それまで黙って見ていた先輩が口を開いた。
「じゃあ、保護区に行ってみるか?」
「保護、区……?」
話を聞くと保護区と言うのは言葉のまま、野良になったワンちゃん達を保護している、いろんな施設が立ち並ぶ場所らしい。
ただその施設は大きいもので、若いワンちゃんは忍犬へと訓練するということもしており、実際その施設からは優秀な忍犬がたくさん輩出されているのだとか。
それとは裏腹に、時期に生涯を終えてしまう老犬達にも幸せな最期を送って欲しい、という思いからそれぞれに小さな家が与えられ、宿屋のような場所で余生を送っているという。
これは障害を背負ったワンちゃん達もそうだと言った。
同時に里親も募集しており、ワンちゃんがこの飼い主の元でちゃんと生涯を終えられるか、といった厳しい審査のもと送り出されているらしい。
見学をするのも有料になってはいるが、それほど欲しいのであれば、そこから引き取るのがいいのではいか、と先輩は勧めてくれた。
「そんな施設が……」
「ああ。お前がそこまで言うなら、オレはそこへ行ってみるのもアリだと思うぜ」
「……うん、行ってみようかな」
「おう! 頑張れよ」
わたしが本気だっていうのを察してか、キバ先輩は気合を入れるように背を叩いて応援してくれた。
でも、なんだかその言い方って……──。
「わたし、独りでですか……?」
「…………」
呆れたような、めんどくさそうな表情をする先輩。わたしはそんな先輩の顔も好きだけど……。
「わたしには犬の知識なんてこれっぽっちも────」
「……だーっもう! 行けばいいんだろ!? ……これじゃオレが泣かせたみたいじゃねぇか……」
こういうところに弱くて、慌てる顔も好き。
「……ぇへ。じゃあ、先輩、今度の休みはよろしくお願いします」
そう言いながら最後に赤丸くんに抱き着いて先輩に別れを告げた。
嘘泣きだ、ってまた怒られたけど、それに何度も引っかかる先輩も先輩だよね。
次の休みが待ちきれない。
もう少し。もう少しでそのタイミングが来そうだから────。