6-4 聞き慣れた明るい声が耳に届いた。

  • バイトがある今日、勝生の『数Ⅲ』試験対策は明日にお預け。

  • 昨日の帰りに寄ったファミレスで、サーロインステーキセットご飯大盛とフライドポテト大盛、チョコレートパフェを嬉しそうに平らげた勝生は、

  • 俺がバイトで勉強を見れない日は、数学教師の[#ruby=日和_ひより#]に試験範囲を叩き込んでもらうのだと豪語していた。

  • …けれど。

  • 『教え方が意味不明』と、早々に勝生からLIN〇があった。

  • バイトに向かおうとしたときに連続で鳴る通知音に気付いて、叔母の家のガレージでマウンテンバイクにまたがったまま返信を打つ。

  • 瀬名 眞白

    【とりあえず頑張れ】

  • 武藤 勝生

    【マジで分かりにくいんだって】

  • 武藤 勝生

    【眞白の方が教えるのダントツうまい】

  • 武藤 勝生

    【眞白がいないとやっぱだめです】

  • 武藤 勝生

    【眞白らぶ】

  • 瀬名 眞白

    …ッ、

  • ポンポンと浮かぶ連投の最後のメッセージに思わず吹き出す。

  • 相変わらずのひょうきんさが勝生らしい。

  • 瀬名 眞白

    【今は休憩中か?日和は?】

  • 武藤 勝生

    【なんか電話かかってきて、教室から出て行った】

  • 武藤 勝生

    【ああもう、不良教師だな】

  • 武藤 勝生

    【生徒が勉強してるときに電話とか】

  • 武藤 勝生

    【戻ってきたら無視してやる】

  • 瀬名 眞白

    【八つ当たりはやめとけ笑】

  • 武藤 勝生

    【八つ当たりしたくもなるよ】

  • 武藤 勝生

    【マジでなに言ってんのか分かんないし】

  • 武藤 勝生

    【日和のヤツが教え方うまくなればいいんだよ!】

  • 教え方がよくない…というよりも、日和は数学を把握している者を無意識のうちに教える基準にしてしまっているから、

  • 苦手な者からすれば、理解の糸口を掴みにくいんだろうと思う。

  • 瀬名 眞白

    【今日やったとこ、また明日一緒にやろーぜ】

  • 瀬名 眞白

    【とりあえず、バイト行ってくるわ】

  • バイトのときは特に、早めの10分前行動を心掛けておいてよかった。

  • 武藤 勝生

    【いってらー】

  • 武藤 勝生

    【眞白らぶ】

  • 瀬名 眞白

    (勝生のヤツ、ハマってんな、この表現)

  • また笑ってしまいながら、バイト先のコンビニまでマウンテンバイクを飛ばした。

  • 瀬名 眞白

    (今日もよく働いた…)

  • ふわわ…っとあくびが出そうになるのを噛み殺しながら、腕時計に目を遣るとバイトが終わる22時少し前。

  • 帰ったらまず風呂に入って少しテスト勉強をこなして…そんなことを思いながら、業務の最後に店内を見回って商品整理をしていると、

  • ---

    眞白っ。

  • 聞き慣れた明るい声が耳に届いた。

  • 聞き慣れた…といっても、聞くにはずいぶん久しぶりな声色。

  • 振り返ると、これまた見慣れた…といっても、久しぶりに再会する人物が立っていた。

  • 口角を三日月のように上げた爽やかな笑顔が視界に入る。

  • 瀬名 眞白

    碧芭…どうしたんだよ。

  • 瀬名 碧芭

    久しぶりに、眞白の顔を見に来たんだよ。

  • 瀬名 碧芭

    元気だった?

  • にこにこと人懐っこい風貌は、いつ見ても変わらない。

  • それでいて、ナチュラルにセットした嫌味のないヘアスタイルや、パリッと着こなしたダークグレーのスーツ姿は品位があって、コンビニに訪れる客の目を引いている。

  • 瀬名 眞白

    (仕事帰りか。それにしても…、)

  • 地味な色のスーツでも、相変わらず目立つ人だな…。

  • こういった人物をイケメンと例えるのだろうとぼんやり思いながら、やれやれと小さく息を吐き出して整理中の手元の商品に視線を戻した。

  • 瀬名 眞白

    元気。そっちは?

  • 瀬名 碧芭

    元気だよ。

  • 瀬名 碧芭

    母さんも、…父さんも元気。

  • 瀬名 眞白

    …あ、そ。

  • 瀬名 眞白

    良かったじゃん、みんな元気で。

  • 瀬名 碧芭

    もう、素っ気ないなあ。

  • 瀬名 眞白

    碧芭と母さんには普通に接してるじゃん、俺。

  • 瀬名 碧芭

    そうだけど…、たまには家に戻っておいでよ。

  • 瀬名 眞白

    だーれが。嫌に決まってる。

  • 瀬名 碧芭

    寂しいなあ…もう。

  • むくれたように声のトーンを落とした『瀬名 碧芭』は、年の離れた俺の実兄で。

  • 明るく朗らかで、父親が抱く理想の息子を体現し、兄弟ながら俺とは真逆と言える人だ。

  • 父親と同じ職業の弁護士を目指して法学部を首席で卒業後、司法試験も難なく突破し、

  • 祖父の代から受け継がれてきた法律事務所で弁護士の一員として活躍している。

  • まさに、秀逸。

  • 言い方は悪いが、俺より遥かに父親に従順なこの兄貴がいるおかげで、俺はこうして自由でいられる。

  • 瀬名 碧芭

    あ、ねえねえ、眞白。

  • 瀬名 碧芭

    コレ、眞白が小さい頃に大好きだったよね?

  • ふと、商品棚の食玩を手に取った碧芭は嬉しそうに破顔して続けた。

  • 瀬名 碧芭

    あのとき、僕はまだ中学生でさ、
    お小遣いを貯めて大人買いして、眞白に買ってあげたなあ。

  • 瀬名 碧芭

    眞白はそのとき、幼稚園の年長さんだったかな…覚えてる?

  • 瀬名 眞白

    …覚えてる。

  • 瀬名 眞白

    買ってくれたソレ、今も部屋に飾ってるから。

  • 瀬名 碧芭

    ほんとに?!

  • 瀬名 眞白

    ほんと。

  • 瀬名 眞白

    叔母さんちに移るときに、一緒に持って行ったから。

  • 瀬名 碧芭

    そうなんだ!嬉しいなあ!

  • 手にしたその食玩を掲げながら、碧芭は俺の顔を横から覗き込んだ。

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