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ついて行った先の国語科資料室には、他の教員の姿はなく俺と鷹野の二人きり。
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以前よりも、こういったシチュエーションに対しての耐性が付いてきたものの、やっぱりまだちょっとドキドキする。
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鷹野 光星瀬名にコレを渡したくて。
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鷹野は自分のロッカーから一つの綺麗な紙袋を取り出し、俺にそっと手渡した。
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瀬名 眞白
…なに?これ。

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藍色の、質の良さげな紙袋は用紙サイズで言えばA3くらいの大きさで、膨らんで厚みも加わっているから見た目よりも重量感がある。
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鷹野 光星シフォンケーキのお礼。
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鷹野 光星とってもおいしかったよ、ありがとう。
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瀬名 眞白
お礼とか別にいらねーのに。

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瀬名 眞白
美味いって言ってくれただけで十分だよ。

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鷹野 光星それだけじゃ俺の気が済まないから。
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鷹野 光星前に言ってあっただろう?
シフォンケーキをまた作ってくれたら、お礼に渡すって。 -
瀬名 眞白
……あ、もしかしてこの中身って…、

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鷹野 光星うん。
瀬名が好きだって言ってたグミだよ。 -
瀬名 眞白
おっ、マジか!

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「お礼はいらない」と言っておきながら、思わず口元が綻ぶ。
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瀬名 眞白
…にしても、この量、すげーな。

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鷹野 光星あれもこれもと選んでいたらつい。
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鷹野 光星種類は問わないんだったよな?
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鷹野 光星いろいろおいしそうなグミを買ってあるから。
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瀬名 眞白
おお…さんきゅー!

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鷹野 光星ただ、いきなりたくさん食べないようにな?
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鷹野 光星俺も同じものを買って食べたんだけど…ちょっと胃もたれしてさ。
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瀬名 眞白
えっ、胃もたれ?大丈夫かよ?

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鷹野 光星ああ。大丈夫なんだけど…、
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鷹野 光星好きな珈琲を飲めないくらいには、胃がもたれてる。
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肩をすくめて自嘲気味に笑った鷹野は、自分の机の上のペットボトルに目を配った。
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鷹野 光星今しばらくは珈琲を我慢して、水だけで調整しないと。
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瀬名 眞白
それ、大丈夫って言わねーだろ。

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鷹野 光星ははっ、ちょっと食べ過ぎたのかもしれない。
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瀬名 眞白
まさか、これと同じ量のモノを一気に食べたのか?

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鷹野 光星んー…そうだな、わりとあっという間に食べてしまった気がする。
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瀬名 眞白
…っ、バカだろ!?

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瀬名 眞白
あのさ、グミってそんな一気に食べるもんじゃねーんだよ、

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瀬名 眞白
少しずつ食べるものなんだよ、分かる?

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鷹野 光星そのようだな。
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瀬名 眞白
なに余裕かまして笑ってんだよ…ったく、

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瀬名 眞白
まるで子どもじゃん。

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鷹野 光星その様子だと、やっぱり瀬名は一気に食べたりしないんだな。
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瀬名 眞白
当たり前だろ、食わねーよ、そんな。

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胃の具合が心配で、つい叱るような口調で切り返してしまいながら、やれやれと溜め息交じりに鷹野を見遣った。
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鷹野 光星だって…、
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瀬名 眞白
「だって」…って、なに。

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鷹野 光星瀬名が好きなものを、俺も知りたかったから。
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鷹野 光星今日おまえに渡すまでに、全部の味を知っておきたくて、つい…。
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瀬名 眞白
――…

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伏し目がちに、どこか甘えるように呟いた鷹野に即座にキュンとなる。
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なんだよ、その不意打ち…、
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思いっきり抱きしめたくなるわ。
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瀬名 眞白
…鷹野。

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鷹野 光星…うん?
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瀬名 眞白
ここでその顔はやめろ。

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鷹野 光星えっ?
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瀬名 眞白
…、はあ……、

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瀬名 眞白
鷹野さ…、知っててそんな顔してる?

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鷹野 光星「そんな顔」?いや…そんなことはないけど。
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瀬名 眞白
もー…マジで可愛いすぎじゃん…、

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瀬名 眞白
俺が壊れてもいいのか?

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鷹野 光星「壊れる」?
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きょとんとして俺を見る。
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瀬名 眞白
だからもう、そういうのやめろって…。

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瀬名 眞白
(マジでヤバイ、抱きしめそうになる…)

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瀬名 眞白
(まだ教師と生徒…ここは学校、鷹野の立場を考えろ、俺)

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念仏を唱えるように自分を律しながらも、鷹野に無垢さが加わるとある意味最強なんだと実感。
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瀬名 眞白
い、いいから、もう。

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瀬名 眞白
無防備にその顔晒すの禁止。

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鷹野 光星…、
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瀬名 眞白
…じゃ、そろそろ俺行くわ。長居しねーほうがいいし。

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瀬名 眞白
これ、めっちゃ嬉しい、ありがとな。

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グミが詰め込まれた紙袋を軽く掲げて、満足げな笑顔を見せる。
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なんとか気持ちを切り替えて落ち着き払ったようなその裏側では、ドキドキやらキュンキュンやら、俺の心は忙しなく騒ぎっぱなしで。
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瀬名 眞白
(あー…好きすぎるわ、ほんと)

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瀬名 眞白
(もつかなー…俺)

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瀬名 眞白
(…いや、もたせないとな、うん)

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卒業までは、『教師と生徒』を貫くって決めたから。
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鷹野 光星…瀬名。
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瀬名 眞白
ん?

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鷹野 光星…、
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踵を返して離れようとした俺の手を、鷹野が引き留めるように掴む。
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驚いて振り向くと、少しばかり妖艶に微笑む鷹野と目が合った。
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