5-2 なんだよ、その不意打ち…、

  • ついて行った先の国語科資料室には、他の教員の姿はなく俺と鷹野の二人きり。

  • 以前よりも、こういったシチュエーションに対しての耐性が付いてきたものの、やっぱりまだちょっとドキドキする。

  • 鷹野 光星

    瀬名にコレを渡したくて。

  • 鷹野は自分のロッカーから一つの綺麗な紙袋を取り出し、俺にそっと手渡した。

  • 瀬名 眞白

    …なに?これ。

  • 藍色の、質の良さげな紙袋は用紙サイズで言えばA3くらいの大きさで、膨らんで厚みも加わっているから見た目よりも重量感がある。

  • 鷹野 光星

    シフォンケーキのお礼。

  • 鷹野 光星

    とってもおいしかったよ、ありがとう。

  • 瀬名 眞白

    お礼とか別にいらねーのに。

  • 瀬名 眞白

    美味いって言ってくれただけで十分だよ。

  • 鷹野 光星

    それだけじゃ俺の気が済まないから。

  • 鷹野 光星

    前に言ってあっただろう?
    シフォンケーキをまた作ってくれたら、お礼に渡すって。

  • 瀬名 眞白

    ……あ、もしかしてこの中身って…、

  • 鷹野 光星

    うん。
    瀬名が好きだって言ってたグミだよ。

  • 瀬名 眞白

    おっ、マジか!

  • 「お礼はいらない」と言っておきながら、思わず口元が綻ぶ。

  • 瀬名 眞白

    …にしても、この量、すげーな。

  • 鷹野 光星

    あれもこれもと選んでいたらつい。

  • 鷹野 光星

    種類は問わないんだったよな?

  • 鷹野 光星

    いろいろおいしそうなグミを買ってあるから。

  • 瀬名 眞白

    おお…さんきゅー!

  • 鷹野 光星

    ただ、いきなりたくさん食べないようにな?

  • 鷹野 光星

    俺も同じものを買って食べたんだけど…ちょっと胃もたれしてさ。

  • 瀬名 眞白

    えっ、胃もたれ?大丈夫かよ?

  • 鷹野 光星

    ああ。大丈夫なんだけど…、

  • 鷹野 光星

    好きな珈琲を飲めないくらいには、胃がもたれてる。

  • 肩をすくめて自嘲気味に笑った鷹野は、自分の机の上のペットボトルに目を配った。

  • 鷹野 光星

    今しばらくは珈琲を我慢して、水だけで調整しないと。

  • 瀬名 眞白

    それ、大丈夫って言わねーだろ。

  • 鷹野 光星

    ははっ、ちょっと食べ過ぎたのかもしれない。

  • 瀬名 眞白

    まさか、これと同じ量のモノを一気に食べたのか?

  • 鷹野 光星

    んー…そうだな、わりとあっという間に食べてしまった気がする。

  • 瀬名 眞白

    …っ、バカだろ!?

  • 瀬名 眞白

    あのさ、グミってそんな一気に食べるもんじゃねーんだよ、

  • 瀬名 眞白

    少しずつ食べるものなんだよ、分かる?

  • 鷹野 光星

    そのようだな。

  • 瀬名 眞白

    なに余裕かまして笑ってんだよ…ったく、

  • 瀬名 眞白

    まるで子どもじゃん。

  • 鷹野 光星

    その様子だと、やっぱり瀬名は一気に食べたりしないんだな。

  • 瀬名 眞白

    当たり前だろ、食わねーよ、そんな。

  • 胃の具合が心配で、つい叱るような口調で切り返してしまいながら、やれやれと溜め息交じりに鷹野を見遣った。

  • 鷹野 光星

    だって…、

  • 瀬名 眞白

    「だって」…って、なに。

  • 鷹野 光星

    瀬名が好きなものを、俺も知りたかったから。

  • 鷹野 光星

    今日おまえに渡すまでに、全部の味を知っておきたくて、つい…。

  • 瀬名 眞白

    ――…

  • 伏し目がちに、どこか甘えるように呟いた鷹野に即座にキュンとなる。

  • なんだよ、その不意打ち…、

  • 思いっきり抱きしめたくなるわ。

  • 瀬名 眞白

    …鷹野。

  • 鷹野 光星

    …うん?

  • 瀬名 眞白

    ここでその顔はやめろ。

  • 鷹野 光星

    えっ?

  • 瀬名 眞白

    …、はあ……、

  • 瀬名 眞白

    鷹野さ…、知っててそんな顔してる?

  • 鷹野 光星

    「そんな顔」?いや…そんなことはないけど。

  • 瀬名 眞白

    もー…マジで可愛いすぎじゃん…、

  • 瀬名 眞白

    俺が壊れてもいいのか?

  • 鷹野 光星

    「壊れる」?

  • きょとんとして俺を見る。

  • 瀬名 眞白

    だからもう、そういうのやめろって…。

  • 瀬名 眞白

    (マジでヤバイ、抱きしめそうになる…)

  • 瀬名 眞白

    (まだ教師と生徒…ここは学校、鷹野の立場を考えろ、俺)

  • 念仏を唱えるように自分を律しながらも、鷹野に無垢さが加わるとある意味最強なんだと実感。

  • 瀬名 眞白

    い、いいから、もう。

  • 瀬名 眞白

    無防備にその顔晒すの禁止。

  • 鷹野 光星

    …、

  • 瀬名 眞白

    …じゃ、そろそろ俺行くわ。長居しねーほうがいいし。

  • 瀬名 眞白

    これ、めっちゃ嬉しい、ありがとな。

  • グミが詰め込まれた紙袋を軽く掲げて、満足げな笑顔を見せる。

  • なんとか気持ちを切り替えて落ち着き払ったようなその裏側では、ドキドキやらキュンキュンやら、俺の心は忙しなく騒ぎっぱなしで。

  • 瀬名 眞白

    (あー…好きすぎるわ、ほんと)

  • 瀬名 眞白

    (もつかなー…俺)

  • 瀬名 眞白

    (…いや、もたせないとな、うん)

  • 卒業までは、『教師と生徒』を貫くって決めたから。

  • 鷹野 光星

    …瀬名。

  • 瀬名 眞白

    ん?

  • 鷹野 光星

    …、

  • 踵を返して離れようとした俺の手を、鷹野が引き留めるように掴む。

  • 驚いて振り向くと、少しばかり妖艶に微笑む鷹野と目が合った。

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