-
・
-
・
-
・
-
体育祭の2日前から天候に恵まれず、雨が降り続いていた。
-
ただひたすらにシトシトと降る秋の長雨のせいで、二人三脚の練習は滞ったまま当日を迎えることになる。
-
でも、これまでほぼ毎日のように練習を重ねていたから、俺はもちろん円香にも不安はない。
-
あるとしたら、体育祭が中止にならないか…くらいだ。
-
今夜中に雨が止めば、教員や校務員たちがグラウンドの整備を行って、明日の体育祭は実施されるらしい。
-
たぶん今、この学校で誰よりも体育祭の開催を望んでいる円香のためにも、秋雨にはおとなしく引っ込んでもらいたい。
-
天気予報では、今日の夜から雨も止んでくるらしいけど。
-
瀬名 眞白
…天気予報、当たれよ?

-
小さくひとりごちながらオレンジジュースの紙パックを片手に、廊下の窓から、雨粒を落とす灰色の空を見上げた。
-
瀬名 眞白
(…お、)

-
不意に、下の方から話し声が聞こえて視線を落とすと、傘を差した数人の教員たちの姿が目に入り、思わず口元が綻ぶ。
-
その中に、透明の傘を差した鷹野が居たからだ。
-
瀬名 眞白
(雨の中、大変だな…)

-
おそらく、雨でぬかるんだグラウンドの状態を確認しに行くのだろう。
-
一旦立ち止まって、皆で何やら話し込んでいる。
-
瀬名 眞白
(…鷹野、おはよ)

-
国語の授業は5限目だし、今日の鷹野は俺にとっては初見だ。
-
むくむくと嬉しさがこみ上げるが、降りしきる雨の中、風邪を引かないか心配になる。
-
瀬名 眞白
(いつもより気温も低いし、大丈夫かな…)

-
瀬名 眞白
(鷹野、風邪引くなよ?)

-
鷹野 光星……、
-
瀬名 眞白
…!

-
体調を崩さないようにと願いながら熱い視線を送ってしまっていたせいか、それを察知したかのように鷹野がいきなり上を見上げた。
-
鷹野 光星……
-
瀬名 眞白
…――

-
ばっちり目が合う。
-
瀬名 眞白
お、おう!雨だな!

-
瀬名 眞白
今日は、ちょっとだけ寒いっつーか…!

-
咄嗟に口から飛び出したのは、挨拶代わりのなんの洒落っ気もない言葉。
-
瀬名 眞白
(もう少し気の利いた言葉を掛けられねーか、俺…)

-
鷹野 光星…―――
-
鷹野 光星、 、 、 、 、 、 、 、 。
-
内心でうなだれていた俺に向けて、鷹野は声は出さずに何か言葉を刻んだ。
-
瀬名 眞白
…えっ?

-
瀬名 眞白
(今、なんか言ったよな?)

-
瀬名 眞白
(なんて言った?)

-
分かりやすく眉根を潜めて訝る俺に鷹野は静かな笑みを浮かべてから、
-
もう一度、次はゆっくりと唇を動かした。
-
鷹野 光星” だ ”
-
鷹野 光星” い ”
-
鷹野 光星” じょ ”
-
鷹野 光星” う ”
-
鷹野 光星” ぶ ”
-
鷹野 光星” だ ”
-
鷹野 光星” か ”
-
鷹野 光星” ら ”
-
瀬名 眞白
――!

-
『大丈夫だから』
-
鷹野はその言葉を残して、他の教員たちと揃って校庭に向かった。
-
瀬名 眞白
(マジかよ…)

-
鷹野のことを心配していた想いが実際に通じたかどうかは分からない。
-
俺と円香が体育祭に向けて二人三脚の練習を頑張っているこを知ってるから、
-
グラウンドの様子や体育祭の実施について、『大丈夫だから』と告げてくれたのかも知れない。
-
けど、どちらにしても、俺にとっては以心伝心のように通じ合えたことが奇跡で、胸がホカホカとあったかくなる。
-
瀬名 眞白
(めっちゃテンション上がるわ…)

-
嬉しすぎて緩んでしまう頬をそのままに、再び空を見上げた。
-
NEXT
タップで続きを読む