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武藤 勝生鷹野先生って、高校のとき弓道部だったんだな。
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瀬名 眞白
…みてーだな。

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だから今、晴蘭で弓道部の顧問をやってるんだな…とぼんやり思う。
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鷹野の家からの帰り道。
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昼間よりは少しだけ暑さもマシになった駅までの道のりを、勝生と肩を並べて歩く。
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見上げた夜空には、たくさんの星。
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小さな煌めきを幾つか目で辿った後、そっと息を吐き出した。
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瀬名 眞白
……

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鷹野の好きだった人の影が、頭の中でウロウロする。
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会ったこともないただの心象のくせに、なかなか手強い。
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告白をしなかったとはいえ、高校時代の鷹野の心を独占していた人。
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瀬名 眞白
(……うぜー)

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…っていうか、俺が。
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誰だって普通に生きてたら好きな人が一人や二人くらい居たって当然だし、
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そんなことくらいで心が掻き乱されてどうする。
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瀬名 眞白
(ダセーな、俺…)

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ウザくて、そんなガキな自分に少しイラついた。
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武藤 勝生家に帰ってから、コレ読むの楽しみだなー。
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不意に、鷹野から借りた『風〇谷のナ〇シカ』の原作漫画が入った手提げ袋を目先まで持ち上げた勝生が、喜びでふやけた顔を晒す。
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武藤 勝生朝まで『ナ〇シカ』漬けだ、今夜は。
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瀬名 眞白
…俺は帰ったら、明日のバイトに備えて風呂入って寝る。

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武藤 勝生おっさんのセリフだな。
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瀬名 眞白
俺は勝生みたいに暇じゃねーんだよ。

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武藤 勝生あ。なんか棘のある言い方ー。
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瀬名 眞白
……、

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いつものようにひょうきんな笑顔でおどけた風に言って見せた勝生に、ふと我に返った。
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瀬名 眞白
…悪い。

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武藤 勝生え?なにが?
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瀬名 眞白
いや、なんか…ほら、さっきの言い方がさ。

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武藤 勝生なーに?
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武藤 勝生どうしたんだよ、らしくないじゃん。
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瀬名 眞白
…いや、なんとなく。

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武藤 勝生そんなのいちいち気にしてないよ。僕も冗談で言ったんだし。
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武藤 勝生眞白のココ、ちゃんと分かってるから。
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自分の心臓の辺りを指先で小突くようにしながら、勝生はこちらに振り向いた。
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武藤 勝生…しんどい?眞白。
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瀬名 眞白
え?

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武藤 勝生……
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瀬名 眞白
え、なによ?

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瀬名 眞白
熱中症のことか?今は平気だけど?

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武藤 勝生違うよ。
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瀬名 眞白
じゃあ、なに?

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武藤 勝生……
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瀬名 眞白
勝生?

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武藤 勝生…好きなんだよな?
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瀬名 眞白
えっ、

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武藤 勝生鷹野先生のこと。
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瀬名 眞白
っ…――

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武藤 勝生当たり?
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俺の顔色を一瞬だけ覗き込んだ勝生だったが、すぐに前に向き直ってそのまま歩を進める。
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たぶんそれは、俺が本音を言いやすいようにと、こいつなりの配慮。
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瀬名 眞白
……ご名答。

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ここまできて、シラを切るのも見苦しい。
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深呼吸に似た溜め息を零した後、胸の中にしまい込んでいる鷹野への想いを口にした。
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