3-6 …いる。めっちゃいる。

  • すっかり熱中症の症状も治まり、夕方までのんびり鷹野の家で過ごしていた俺たちだったが、

  • 話題のほとんどが勝生と鷹野の『風○谷のナ〇シカ』で盛り上がっていた。

  • 鷹野は、自分の親が所持していたDVDを観たことがきっかけでドハマりし、子どもの頃に小遣いを貯めて原作漫画を買ったのだと話していた。

  • 俺自身、その作品についてはそこまで興味があるわけじゃない。

  • リアルに俺は虫がすごく苦手だし、あの世界が現実ならきっと生きていられない。

  • でも、あの世界観を嬉しそうに、それぞれのキャラクターのことを目を輝かせて話す鷹野がもう可愛いすぎて。

  • 大人の男にここまで魅了される俺は、かなりの重症。

  • 四字熟語で言うなら『[#ruby=愛及屋烏_あいきゅうおくう#]』だ。

  • …そして、夕方。

  • 鷹野が晩飯を奢ってくれることになり、俺たちは焼き肉店に来ていた。

  • 熱中症になってしまった俺のことがあったからか、

  • 『猛暑に負けないようにスタミナをつけないと!』…と意気込む鷹野に従ったわけで。

  • 食べ放題の店を強く推奨したのは俺。

  • ただでさえ、細身なわりに勝生がよく食べるから。

  • 武藤 勝生

    うまっ…!

  • 武藤 勝生

    食べ放題でもランクいい店は違うなー!

  • 鷹野 光星

    武藤は食べっぷりがいいから、見ていて気持ちがいいな。

  • 武藤 勝生

    こういった食べ放題がある焼き肉屋じゃなかったら、先生、破産しますよ。

  • 鷹野 光星

    ははっ、確かにそうだな。

  • 鷹野 光星

    …瀬名は、ちゃんと食べてるか?

  • 瀬名 眞白

    ん…、食べてるよ。

  • 瀬名 眞白

    (鷹野は、飯をたくさん食う人が好きなのかな…?)

  • 考え込むように自然と眉根を寄せてしまいながら、焼きたての肉を口に運ぶ。

  • 瀬名 眞白

    (勝生のこの食べっぷりを褒めるってことは、たぶんそうだよな)

  • 瀬名 眞白

    (俺、食べる量って意外と普通だからなー…)

  • 瀬名 眞白

    (やっぱあれかな、女の人でも、良く食べる元気な人がタイプとか…?)

  • 鷹野 光星

    瀬名、どうした?難しい顔して。

  • 瀬名 眞白

    え、ああ、いや、なんでもねー。

  • 武藤 勝生

    そういえば、先生ってさ、好みのタイプってどんな人?

  • 瀬名 眞白

    ッ…、

  • 俺の考えていたことを見透かしたような勝生の問い掛けに、思わずむせそうになる。

  • 瀬名 眞白

    (勝生、なんでいきなりそんな質問…っ)

  • 内心であたふたしつつも落ち着き払った外面を保ちながら、二人のやり取りをこっそり注視した。

  • 鷹野 光星

    うーん、そうだなあ…。

  • 武藤 勝生

    ちなみに今、付き合ってる人っています?

  • 鷹野 光星

    いや、いないよ。

  • 瀬名 眞白

    (おっ、それはナイスな質問と回答)

  • 勝生の隣で黙々と肉と白飯を食しながら、ほんとはガッツリ聞き耳を立ててるのに、まるで気にも留めていない様子を保ち続ける。

  • 武藤 勝生

    先生ってイケメンだし、めっちゃモテそうだけどなー。

  • 鷹野 光星

    そうかな?

  • 武藤 勝生

    告白しても、振られたりしなさそう…っていうか、

  • 武藤 勝生

    今までに、告白して振られたことってあります?

  • 鷹野 光星

    …ないな。

  • 瀬名 眞白

    (そりゃ当然)

  • 瀬名 眞白

    (鷹野みたいにいい男が振られるわけねー)

  • 武藤 勝生

    おっ、さすが!

  • 鷹野 光星

    違うよ。
    なんていうのかな…、

  • 鷹野 光星

    自分からちゃんとした告白というものを、これまで一度もしたことがないんだよ。

  • 武藤 勝生

    え?!
    そうなんだ!意外ー!

  • 瀬名 眞白

    (…確かに意外だ)

  • どこか諦めたような鷹野の微笑みを気づかれないように見つめる。

  • 鷹野なら、告白すればきっと両想いになれたはずなのに。

  • 鷹野 光星

    告白する勇気がなかなかなくてさ。

  • 武藤 勝生

    んー…まあ、告白ってかなり勇気がいりますからね。

  • 瀬名 眞白

    (…いる。めっちゃいる)

  • 武藤 勝生

    じゃあ、先生が好きだった人って、どんな感じの人?

  • 瀬名 眞白

    (勝生…どういうわけか、怒涛の質問ラッシュだな…)

  • 鷹野 光星

    ん?
    そうだなあ…、

  • 鷹野 光星

    高校のときに好きになった人は、とても綺麗な人だったな。
    弓道部の一つ上の先輩でさ。

  • 瀬名 眞白

    (綺麗な人か…。しかも弓道部…鷹野は凛としたしとやかな美人が好きなのかも)

  • 武藤 勝生

    そのときも、告白はしなかったんですか?

  • 鷹野 光星

    ああ。勇気が出なくて告白できなかった。

  • 鷹野 光星

    それに…、
    先輩のことを、遠くから見ているだけで十分だったから。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • ちょっぴり照れくさそうに思い出を掘り返す鷹野が健気で、片想いの甘酸っぱさみたいなものが胸に飛来する。

  • 瀬名 眞白

    (分かる…。見てるだけで、近くにいるだけで十分って気持ち)

  • 武藤 勝生

    眞白もめっちゃモテるんだよね。

  • 武藤 勝生

    ね、眞白?

  • 瀬名 眞白

    …え?俺?

  • 片想いの真髄みたいなものをひっそりと噛み締めていたが、いきなり矛先を変えて飛んできた勝生の言葉にきょとんとなった。

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