1-3 二人で一緒に来たらまるで恋人…

  • 5月半ばに開催される学園祭で、俺のクラスの2年A組の出し物は模擬店。

  • 【Café 2A-Style】と店名を決めて、ちょっとした喫茶店をやることになった。

  • 落ち着いたピアノ音楽をループで流して、雰囲気や居心地のいいカフェを目指す予定で。

  • メニューは、500円のケーキセットを提供し、

  • 客は紅茶か珈琲のどちらかを選択して、シフォンケーキ・ガトーショコラ・チーズケーキの3種類の中から好きなケーキを選ぶ。

  • それらケーキも裏方のみんなで作ることになっていて、俺は4つ年上の従姉妹の影響もあってお菓子作りが得意だから、

  • 裏方に回ってケーキを黙々と作って、当日は表に出ることなく紅茶や珈琲の配膳の準備をしていたかったのに。

  • 瀬名 眞白

    (接客とか…オッケーしたものの…、)

  • やっぱ、超絶だるい。

  • 武藤 勝生

    あ、そうだ。接客のときは、ギャルソンの恰好をしてもらうから。

  • 瀬名 眞白

    …は??なにそれ??

  • 瀬名 眞白

    「ギャルソン」って、なによ??

  • 武藤 勝生

    フランス料理とか高級レストランにいる男のウェイターのことだよ。

  • 武藤 勝生

    ソムリエの恰好、テレビとかで観たことあるだろ?あれとほぼ同じ。

  • 瀬名 眞白

    ……あれか…、白いシャツ着て、長い丈のエプロンを腰に巻いた?

  • 武藤 勝生

    そう、それそれ!ベストも着てさ、ばっちりキメてもらおうと思ってる。

  • 武藤 勝生

    衣装は、レンタルを予約してるから。

  • 瀬名 眞白

    そんなコスプレみたいな…

  • 瀬名 眞白

    いや、コスプレが悪いってことじゃねーけど、

  • 瀬名 眞白

    別に普通に制服でよくね?

  • 武藤 勝生

    いやいや、そこを適当しにたらダメなのよ。

  • 武藤 勝生

    『晴蘭の学園祭に来たはずなんだけど、え、ここって、ほんとに教室?!学園祭の模擬店ってこと忘れちゃう!』…みたいに、お客には思ってもらいたい。

  • 武藤 勝生

    そのためにも、ある程度クオリティーの高いものを目指さないとね。

  • 瀬名 眞白

    500円のケーキセットしか出さねー模擬店が、そこまでのクオリティーを語るか。

  • 武藤 勝生

    うるさいの。そこは学園祭の限界があるから仕方ないの。

  • 武藤 勝生

    でも、やるからには、できるだけ完成度の高いものを目指したいんだよ。

  • 瀬名 眞白

    (……勝生の目がキラキラしてる…。これは何を言っても曲げない表情…)

  • 小学校からの親友のこの眼差しは、これまでに何度か見たことがある。

  • そして、この目をしたときの勝生は、必ずいろんなことを成し遂げる。

  • 武藤 勝生

    な、眞白っ。

  • 瀬名 眞白

    (…仕方ねーな…。思い出作りの一環としてやってみるか)

  • 武藤 勝生

    よろしく頼むよー。

  • 瀬名 眞白

    …分かったよ。ギャルソンもおっけ。

  • 武藤 勝生

    よっしゃ!

  • 武藤 勝生

    …あ、そうだ、

  • 武藤 勝生

    早速だけど――はい、これ。

  • 瀬名 眞白

    ん?

  • 勝生が脇に挟んでいたクリアファイルから取り出した長方形の紙に視線を移した。

  • 武藤 勝生

    模擬店のチケット。今日から捌いていって。

  • 武藤 勝生

    クラスのみんなそれぞれ5枚ずつ、一応ノルマだから。

  • 瀬名 眞白

    りょーかい。

  • 武藤 勝生

    他校の友達とかバイト先の人とか、捌けるだけ捌いてほしい。

  • 瀬名 眞白

    はいよ。

  • コクリと従順に頷いた直後、

  • 鷹野 光星

    瀬名、武藤、

  • 鷹野 光星

    学園祭の打ち合わせか?

  • 瀬名 眞白

    …、

  • 背後からのいきなりの低音に、心臓がトクンと跳ねた。

  • 武藤 勝生

    あ、鷹野先生!

  • 鷹野 光星

    準備は順調か?

  • 武藤 勝生

    なかなか順調ですよ。乞うご期待!

  • 鷹野 光星

    そうか。…瀬名も順調か?

  • 静かな笑顔の鷹野に向けて、少しだけむくれて見せる。

  • 瀬名 眞白

    俺は…裏方から接客対応に変更になって、ちょっと心外っつーか。

  • 鷹野 光星

    へえ、接客とかいいじゃないか。

  • 鷹野 光星

    おまえの接客なら、きっとお客も喜ぶよ。

  • 武藤 勝生

    ですよねー。

  • 瀬名 眞白

    二人してなにを根拠に…、

  • 鷹野 光星

    あ、そうだ、

  • 鷹野 光星

    クラスの模擬店のチケット、黒木先生の分と2枚欲しいんだけど、

  • 鷹野 光星

    えっと…どっちから買えばいい?

  • 武藤 勝生

    僕はもう捌いちゃったんで、眞白から買ってもらえれば。

  • 武藤 勝生

    …ほら、眞白。

  • 瀬名 眞白

    ああ、えっと…2枚、ね。

  • 手にしていたチケットから2枚だけを引き抜いて、鷹野に差し出した。

  • 瀬名 眞白

    これ、どーぞ。

  • 鷹野 光星

    ありがとう。

  • 鷹野 光星

    じゃ、これ…1000円。

  • 瀬名 眞白

    …あざっす。

  • 瀬名 眞白

    チケットを買ってくれたってことは、先生たちも来るんだな、模擬店。

  • 鷹野 光星

    当たり前じゃないか。

  • 鷹野 光星

    自分が副担しているクラスの出し物なのに、行かない選択肢はないよ。

  • 武藤 勝生

    やっぱり、黒木先生と一緒に?

  • 鷹野 光星

    「やっぱり」?…そこに副詞を付ける意味が分からないが。

  • 鷹野 光星

    たぶん、黒木先生も俺も学園祭当日は何かと忙しくなるだろうし、別々で行くことになるんじゃないかな。

  • 瀬名 眞白

    (別行動でいいんだよ)

  • 瀬名 眞白

    (二人で一緒に来たらまるで恋人…)

  • 瀬名 眞白

    (もしそうなったら俺、絶対に接客には出ねーからな)

  • 鷹野は俺や勝生のクラスの副担任で、いつも担任の黒木のことを考えて行動している。

  • 今回は模擬店のチケットを、自分と黒木の分まで2枚手に入れた。

  • 二人は仲もいいし、俺たち生徒の中でも『二人は付き合ってるんじゃないか?』という噂も絶えない。

  • 鷹野のことが好きな俺にとっては、そんな噂、まったくもって面白くない。

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