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結局、鷹野がケーキセットを食べることができたのは、学園祭も終わりに近づいた時間帯。
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教室内のカフェのお客の数も減り、そろそろ片付けに取り掛からなければならないという中で、俺と鷹野は向かい合って空いた机の席に着いていた。
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机上には、売れ残ったアイスティー2リットルサイズのペットボトルが一本。
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最終的に、アイス珈琲は完売。
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アイスティーも予想外に売れて、残ったのはこの一本だけだった。
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瀬名 眞白
飲む?鷹野。

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鷹野 光星ああ。もらおうかな。
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瀬名 眞白
ん。

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9オンスの二つの紙コップに、アイスティーを注ぐ。
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鷹野 光星…ありがとう。
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瀬名 眞白
おう。

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鷹野 光星このアイスティー、瀬名が買い取ったって聞いたけど?
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瀬名 眞白
あー……まあな。

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鷹野 光星たくさん売れ残ったとしても、それを全部買い取るつもりだったんだって?
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瀬名 眞白
…そ。

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瀬名 眞白
俺、アイスティー好きだし。

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鷹野 光星……おまえというヤツは…、
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瀬名 眞白
そのことはもういいからさ。

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瀬名 眞白
それより俺、さすがに腹減ったわ。食べようぜ。

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鷹野の苦笑交じりの破顔を見ていると、黒木から何かしら聞いてるのだろうと推測できるけど、
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いろいろと気恥ずかしいからササっとその話題を消し去った。
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鷹野 光星…それじゃ、いただきます。
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瀬名 眞白
いただきまーす。

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俺は遅くなった昼飯の弁当を食べ、鷹野は俺が作ったシフォンケーキを嬉しそうに口にする。
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鷹野 光星これ、生クリームが多いから嬉しいな。
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瀬名 眞白
…そっか、良かった。

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生クリームをたっぷり添えたのは鷹野の分のシフォンケーキだけだという事実を、目の前のイケメン教師は知らない。
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鷹野 光星シフォンケーキもふわふわで、本当にうまいよ。
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瀬名 眞白
それ、俺が作ったんだぜ。すごい?

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鷹野 光星おお…そうなのか!それはすごい!
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鷹野 光星瀬名はなんでもできるんだな。
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瀬名 眞白
たいしたことねーよ。

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瀬名 眞白
でも、料理もできる。

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瀬名 眞白
和洋中、サラッとだけど、ひと通り。

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謙遜しながらも、さりげなく的確に自分を売り込む、俺。
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鷹野 光星すごいな。その弁当も自分で作ってるのか?
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瀬名 眞白
いや、弁当はいつも叔母さんが作ってくれるんだけど、

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瀬名 眞白
今日は従姉妹の姉ちゃんが作ってくれてさ。

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鷹野 光星へえ…、従姉妹のお姉さんとは仲がいいのか?
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瀬名 眞白
うん。俺は姉弟みたいに思ってる。

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鷹野 光星そうか。
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鷹野はほっこりとした、どこか嬉しそうな笑みを浮かべる。
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瀬名 眞白
…なんだよ、ニヤニヤして。

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鷹野 光星いや。
おまえが安らげる場所があるってことに安心したんだよ。 -
瀬名 眞白
…そ、そっか。

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なんとなく照れてしまって、俯き加減で飯を頬張りながら、内心では何気ない鷹野の気遣いに小躍りした。
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鷹野 光星お菓子作りも料理も、叔母さんや従姉妹のお姉さんに教わったのか?
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瀬名 眞白
ああ。
料理をやり始めたのは、晴蘭に入って叔母さんの家に住むようになってからだからな。
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瀬名 眞白
俺もいずれは一人暮らしするから、できるようになったほうがいいと思ってさ。

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鷹野 光星もともと瀬名は器用なんだろうな。
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鷹野 光星普段も料理したりするのか?
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瀬名 眞白
休みの日とかの晩飯は、時々俺が作ってる。

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瀬名 眞白
叔母さんにも、たまにはゆっくりしてもらいてーから。

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鷹野 光星へえ、偉いなあ。
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鷹野 光星……あ、付いてるぞ。
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瀬名 眞白
…ん、?

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鷹野 光星ほら、ココ。
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いきなり鷹野の長い指先が俺の口角まで伸びて、そこをさらりと撫でる。
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瀬名 眞白
…お、っ、?!

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鷹野 光星ご飯粒。
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鷹野 光星瀬名は大人びたところがあるけど、やっぱりまだまだお子様だな。
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指先で掠め取った米粒を何の躊躇いもなくパクリと食べて、鷹野は微笑んだ。
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瀬名 眞白
…っ――

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な、なんだこれ…、
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これが噂の…、
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前にテレビドラマで観たことあるやつ…っ!
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瀬名 眞白
(ヤバイ、これ…、)

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ベタだが、ものすごく、ものすごーく…嬉しい。
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瀬名 眞白
(う、ドキドキしてきた…)

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鷹野 光星瀬名?
箸が止まってるけど…どうした? -
瀬名 眞白
な、なんでもねー!

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瀬名 眞白
…そうだっ、

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瀬名 眞白
早く食べ終わって、片付け手伝わねーとなっ。

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鷹野 光星ははっ、急がなくていい。喉に詰まらせたりしたら大変だ。
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鷹野 光星片付けは俺も手伝うから、焦らずゆっくり食べなさい。
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瀬名 眞白
…っ、

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もぐもぐもぐもぐ…。
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言いつけ通りに、まるでハムスターみたいに飯を頬張りつつもしっかり咀嚼する。
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鷹野 光星…ケーキごちそうさま。
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鷹野 光星すごくおいしかったよ。
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鷹野 光星これ、ほんとにまた食べたいくらいだ。
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瀬名 眞白
…今度、また作って持ってきてやるから、昼休憩にでも食えば?

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鷹野 光星ほんとか?それは嬉しいな。
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鷹野 光星じゃあ俺は、何かお礼を考えておく。
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瀬名 眞白
いらねーよ、お礼なんて。

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鷹野 光星んー…なにがいいかなあ…。
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瀬名 眞白
…って、
人のハナシ聞いてねーし!
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鷹野 光星…そうだ、学食を奢るのはどうだ?
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瀬名 眞白
だから、いらねーって。

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瀬名 眞白
それに俺、ほとんど弁当持ってくるし。

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鷹野 光星そうだったな…、
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鷹野 光星じゃあ、他になにがいいか…、
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瀬名 眞白
……

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瀬名 眞白
(真面目に考え込む鷹野が可愛すぎてたまらん…)

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鷹野 光星じゃあ、なにかお菓子を買ってくるのは?
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瀬名 眞白
マジでいらねーって。

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瀬名 眞白
あんまり食べねーんだよ、お菓子とか。

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鷹野 光星そ…そうか…。
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瀬名 眞白
(…いや、あのさ…鷹野、)

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そんな風に明らかに落ち込んだような顔をするのは、とっても卑怯だと思う。
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瀬名 眞白
あー…、

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瀬名 眞白
グミは好きだから食べる、かな。

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鷹野 光星「グミ」?
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瀬名 眞白
そ。グミ。
種類は別に問わねー。
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鷹野 光星分かった!
いろんな種類のグミを買ってくるよ。 -
瀬名 眞白
(いやいや鷹野…その笑顔はマジで反則)

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子どもみたいに屈託のない笑顔を広げた鷹野に、こっそり悶絶。
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鷹野 光星それにしても、グミか…。
今日の帰りにどこか店に寄ってみようかな。 -
瀬名 眞白
いや、早えーなっ、

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瀬名 眞白
急いでシフォンケーキ作んなきゃだろーが。

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鷹野 光星ははっ、ちょっと下見をしてくるだけだから。
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瀬名 眞白
グミの下見なんて聞いたことねー。

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鷹野 光星グミの種類がたくさんある店って、どこかな?
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瀬名 眞白
いやちょっと、聞いてる?鷹野?

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鷹野 光星うん、ちゃんと聞いてる。
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瀬名 眞白
ほんとかよ…。

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瀬名 眞白
(…つーか、もしかして俺たち、いきなりイイ感じじゃん?)

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まるでわずかな光が差し込んだみたいに、俺の視界のグレースケールがほんのりと色づいた気がした。
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今すぐに、特別な何かを求めてるわけじゃない。
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それでもやっぱり、こういう雰囲気は素直に嬉しい。
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瀬名 眞白
(…実らない恋の醍醐味かも)

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誰にも言えない、そんな切ない片想い中な俺。
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クラスの模擬店で奔走したり、友達を守るために拳を振るったり、
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ハチャメチャだったといえる俺の学園祭の終わりに、このひとときはご褒美だと思いたい。
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【学園祭 編】END
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