2-14 それ、俺が作ったんだぜ。すごい?

  • 結局、鷹野がケーキセットを食べることができたのは、学園祭も終わりに近づいた時間帯。

  • 教室内のカフェのお客の数も減り、そろそろ片付けに取り掛からなければならないという中で、俺と鷹野は向かい合って空いた机の席に着いていた。

  • 机上には、売れ残ったアイスティー2リットルサイズのペットボトルが一本。

  • 最終的に、アイス珈琲は完売。

  • アイスティーも予想外に売れて、残ったのはこの一本だけだった。

  • 瀬名 眞白

    飲む?鷹野。

  • 鷹野 光星

    ああ。もらおうかな。

  • 瀬名 眞白

    ん。

  • 9オンスの二つの紙コップに、アイスティーを注ぐ。

  • 鷹野 光星

    …ありがとう。

  • 瀬名 眞白

    おう。

  • 鷹野 光星

    このアイスティー、瀬名が買い取ったって聞いたけど?

  • 瀬名 眞白

    あー……まあな。

  • 鷹野 光星

    たくさん売れ残ったとしても、それを全部買い取るつもりだったんだって?

  • 瀬名 眞白

    …そ。

  • 瀬名 眞白

    俺、アイスティー好きだし。

  • 鷹野 光星

    ……おまえというヤツは…、

  • 瀬名 眞白

    そのことはもういいからさ。

  • 瀬名 眞白

    それより俺、さすがに腹減ったわ。食べようぜ。

  • 鷹野の苦笑交じりの破顔を見ていると、黒木から何かしら聞いてるのだろうと推測できるけど、

  • いろいろと気恥ずかしいからササっとその話題を消し去った。

  • 鷹野 光星

    …それじゃ、いただきます。

  • 瀬名 眞白

    いただきまーす。

  • 俺は遅くなった昼飯の弁当を食べ、鷹野は俺が作ったシフォンケーキを嬉しそうに口にする。

  • 鷹野 光星

    これ、生クリームが多いから嬉しいな。

  • 瀬名 眞白

    …そっか、良かった。

  • 生クリームをたっぷり添えたのは鷹野の分のシフォンケーキだけだという事実を、目の前のイケメン教師は知らない。

  • 鷹野 光星

    シフォンケーキもふわふわで、本当にうまいよ。

  • 瀬名 眞白

    それ、俺が作ったんだぜ。すごい?

  • 鷹野 光星

    おお…そうなのか!それはすごい!

  • 鷹野 光星

    瀬名はなんでもできるんだな。

  • 瀬名 眞白

    たいしたことねーよ。

  • 瀬名 眞白

    でも、料理もできる。

  • 瀬名 眞白

    和洋中、サラッとだけど、ひと通り。

  • 謙遜しながらも、さりげなく的確に自分を売り込む、俺。

  • 鷹野 光星

    すごいな。その弁当も自分で作ってるのか?

  • 瀬名 眞白

    いや、弁当はいつも叔母さんが作ってくれるんだけど、

  • 瀬名 眞白

    今日は従姉妹の姉ちゃんが作ってくれてさ。

  • 鷹野 光星

    へえ…、従姉妹のお姉さんとは仲がいいのか?

  • 瀬名 眞白

    うん。俺は姉弟みたいに思ってる。

  • 鷹野 光星

    そうか。

  • 鷹野はほっこりとした、どこか嬉しそうな笑みを浮かべる。

  • 瀬名 眞白

    …なんだよ、ニヤニヤして。

  • 鷹野 光星

    いや。
    おまえが安らげる場所があるってことに安心したんだよ。

  • 瀬名 眞白

    …そ、そっか。

  • なんとなく照れてしまって、俯き加減で飯を頬張りながら、内心では何気ない鷹野の気遣いに小躍りした。

  • 鷹野 光星

    お菓子作りも料理も、叔母さんや従姉妹のお姉さんに教わったのか?

  • 瀬名 眞白

    ああ。
    料理をやり始めたのは、晴蘭に入って叔母さんの家に住むようになってからだからな。

  • 瀬名 眞白

    俺もいずれは一人暮らしするから、できるようになったほうがいいと思ってさ。

  • 鷹野 光星

    もともと瀬名は器用なんだろうな。

  • 鷹野 光星

    普段も料理したりするのか?

  • 瀬名 眞白

    休みの日とかの晩飯は、時々俺が作ってる。

  • 瀬名 眞白

    叔母さんにも、たまにはゆっくりしてもらいてーから。

  • 鷹野 光星

    へえ、偉いなあ。

  • 鷹野 光星

    ……あ、付いてるぞ。

  • 瀬名 眞白

    …ん、?

  • 鷹野 光星

    ほら、ココ。

  • いきなり鷹野の長い指先が俺の口角まで伸びて、そこをさらりと撫でる。

  • 瀬名 眞白

    …お、っ、?!

  • 鷹野 光星

    ご飯粒。

  • 鷹野 光星

    瀬名は大人びたところがあるけど、やっぱりまだまだお子様だな。

  • 指先で掠め取った米粒を何の躊躇いもなくパクリと食べて、鷹野は微笑んだ。

  • 瀬名 眞白

    …っ――

  • な、なんだこれ…、

  • これが噂の…、

  • 前にテレビドラマで観たことあるやつ…っ!

  • 瀬名 眞白

    (ヤバイ、これ…、)

  • ベタだが、ものすごく、ものすごーく…嬉しい。

  • 瀬名 眞白

    (う、ドキドキしてきた…)

  • 鷹野 光星

    瀬名?
    箸が止まってるけど…どうした?

  • 瀬名 眞白

    な、なんでもねー!

  • 瀬名 眞白

    …そうだっ、

  • 瀬名 眞白

    早く食べ終わって、片付け手伝わねーとなっ。

  • 鷹野 光星

    ははっ、急がなくていい。喉に詰まらせたりしたら大変だ。

  • 鷹野 光星

    片付けは俺も手伝うから、焦らずゆっくり食べなさい。

  • 瀬名 眞白

    …っ、

  • もぐもぐもぐもぐ…。

  • 言いつけ通りに、まるでハムスターみたいに飯を頬張りつつもしっかり咀嚼する。

  • 鷹野 光星

    …ケーキごちそうさま。

  • 鷹野 光星

    すごくおいしかったよ。

  • 鷹野 光星

    これ、ほんとにまた食べたいくらいだ。

  • 瀬名 眞白

    …今度、また作って持ってきてやるから、昼休憩にでも食えば?

  • 鷹野 光星

    ほんとか?それは嬉しいな。

  • 鷹野 光星

    じゃあ俺は、何かお礼を考えておく。

  • 瀬名 眞白

    いらねーよ、お礼なんて。

  • 鷹野 光星

    んー…なにがいいかなあ…。

  • 瀬名 眞白

    …って、
    人のハナシ聞いてねーし!

  • 鷹野 光星

    …そうだ、学食を奢るのはどうだ?

  • 瀬名 眞白

    だから、いらねーって。

  • 瀬名 眞白

    それに俺、ほとんど弁当持ってくるし。

  • 鷹野 光星

    そうだったな…、

  • 鷹野 光星

    じゃあ、他になにがいいか…、

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 瀬名 眞白

    (真面目に考え込む鷹野が可愛すぎてたまらん…)

  • 鷹野 光星

    じゃあ、なにかお菓子を買ってくるのは?

  • 瀬名 眞白

    マジでいらねーって。

  • 瀬名 眞白

    あんまり食べねーんだよ、お菓子とか。

  • 鷹野 光星

    そ…そうか…。

  • 瀬名 眞白

    (…いや、あのさ…鷹野、)

  • そんな風に明らかに落ち込んだような顔をするのは、とっても卑怯だと思う。

  • 瀬名 眞白

    あー…、

  • 瀬名 眞白

    グミは好きだから食べる、かな。

  • 鷹野 光星

    「グミ」?

  • 瀬名 眞白

    そ。グミ。
    種類は別に問わねー。

  • 鷹野 光星

    分かった!
    いろんな種類のグミを買ってくるよ。

  • 瀬名 眞白

    (いやいや鷹野…その笑顔はマジで反則)

  • 子どもみたいに屈託のない笑顔を広げた鷹野に、こっそり悶絶。

  • 鷹野 光星

    それにしても、グミか…。
    今日の帰りにどこか店に寄ってみようかな。

  • 瀬名 眞白

    いや、早えーなっ、

  • 瀬名 眞白

    急いでシフォンケーキ作んなきゃだろーが。

  • 鷹野 光星

    ははっ、ちょっと下見をしてくるだけだから。

  • 瀬名 眞白

    グミの下見なんて聞いたことねー。

  • 鷹野 光星

    グミの種類がたくさんある店って、どこかな?

  • 瀬名 眞白

    いやちょっと、聞いてる?鷹野?

  • 鷹野 光星

    うん、ちゃんと聞いてる。

  • 瀬名 眞白

    ほんとかよ…。

  • 瀬名 眞白

    (…つーか、もしかして俺たち、いきなりイイ感じじゃん?)

  • まるでわずかな光が差し込んだみたいに、俺の視界のグレースケールがほんのりと色づいた気がした。

  • 今すぐに、特別な何かを求めてるわけじゃない。

  • それでもやっぱり、こういう雰囲気は素直に嬉しい。

  • 瀬名 眞白

    (…実らない恋の醍醐味かも)

  • 誰にも言えない、そんな切ない片想い中な俺。

  • クラスの模擬店で奔走したり、友達を守るために拳を振るったり、

  • ハチャメチャだったといえる俺の学園祭の終わりに、このひとときはご褒美だと思いたい。

  • 【学園祭 編】END

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