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5月某日、学園祭当日。
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予定通り、接客担当の男子6名は、ギャルソンの恰好で朝からお客対応に追われていた。
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白いシャツに蝶ネクタイ、ソムリエみたいな長丈エプロンを着用という風貌は人目を引き、
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教室は裏方チームを筆頭に頑張ってくれたおかげで、とあるカフェが教室内に移転したかのように華やかになった。
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花屋からレンタルした観葉植物も、俺が朝から霧吹きをかけて気合いを注入したおかげもあるのかイキイキとして、雰囲気作りの一役を買っている。
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勝生の読みは当たったようで、前もってみんなで売り捌いていたチケットの数以外にも大勢のお客が来店し、評判も上々、
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あいつが目標にしていた『ほんとのお店みたい!晴蘭じゃないみたい!』といったようなお客の声も、喧騒に紛れてたくさん聞こえてきた。
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そろそろ昼休憩の時間帯になるという頃、
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黒木 紗衣お店、すごい人気だねー!
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黒木が笑顔でやって来た。
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瀬名 眞白
(黒木だけか…。鷹野はまだかな?)

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こっそり思い巡らせつつ、用意されていたトレーをクラスの女子から受け取り、黒木の応対に回る。
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学園祭は生徒主体というのが前提でも、結局はほとんどの教員が学年問わずに生徒たちのフォローに入り、朝から忙しそうにしていた。
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瀬名 眞白
(…なんだこれ?)

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黒木もそんな合間を縫ってここに来たんだろうと思えたのは、
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長い髪を一つに束ねたその頭に、色紙の切れ端みたいな小さな紙が引っ付いていたからだ。
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瀬名 眞白
先生も朝から忙しそうだな。どっかのクラスのフォローに回ってた感じ?

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ケーキを乗せたトレー片手に、さりげなくその紙切れを指先でつまんで取ってやる。
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黒木 紗衣あっ、何かついてた?!
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黒木 紗衣やだなあ、もうー。ごめんねー。
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恥ずかしそうに頭に手をやって、紙が付いていた辺りをササっと撫でつけた。
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その右手には、いつものアームカバー。
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黒木 紗衣1年生のクラスは制作発表だからね、
壁に貼っていた模造紙の制作物がはがれてきて、 -
黒木 紗衣みんなと一緒に修正してたから、それで付いたのかな?
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そのときの様子をサクサクと話してくれる黒木は、想像通りあっさり系の人だ。
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火傷のことを鷹野に聞いてからは、俺の中の無関心というカテゴリから黒木は少し昇格している。
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同情とかじゃなく、黒木が持つ『心の広さ』を知ったし、何より鷹野の大切な先輩だから。
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瀬名 眞白
はいこれ、チーズケーキ。

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瀬名 眞白
黒木の分も取っておいたから。

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窓際の席に一人腰を下ろした黒木に、チーズケーキの皿を静かに置いた。
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黒木 紗衣わあ…おいしそう!
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黒木 紗衣…って、瀬名くん、すごくかっこいい!その恰好、とっても似合ってるよ!
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瀬名 眞白
声がでけーよ…恥ずかしいって。

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黒木 紗衣あ、ごめんなさい、つい…。
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黒木 紗衣でも、大人っぽくてとても素敵なんだもの。本物のギャルソンさんみたい。
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瀬名 眞白
ギャルソン「さん」って…、「さん」付け?

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黒木のふわふわした明るさに、思わず吹き出した。
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黒木 紗衣ね、このチーズケーキも、瀬名くんたちが作ったの?
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瀬名 眞白
いや。チーズケーキは、田中班の女子たちが作った。

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黒木 紗衣そっかあ。
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黒木 紗衣瀬名くんはお菓子作りも得意だって聞いてたけど、今回は接客担当になっちゃったし、作らなかったの?
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瀬名 眞白
一応作ったよ、シフォンケーキ。

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鷹野が食べたいといったそれを、ケーキ作り担当の女子たちに交じって、むしろ俺が主になって作り上げた。
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俺が直々に作った鷹野の分は、もちろん別で取ってある。
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黒木 紗衣シフォンケーキも食べてみたかったなー。
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瀬名 眞白
もしも余ったら、もらって食べたらいいじゃん。

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瀬名 眞白
…まあ、この客入りだから、余るかどうか分かんねーけど。

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1日限定のカフェと化した【café 2A-Style】は大繁盛。
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満席の教室内を見渡して、軽く肩を竦めた。
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