フェードアウトしたい
この町にはちょっとした名物がある。美味しいお菓子やジムリーダー、そんなおっきな名物じゃなくて、本当にちっさな、小さな町の住人だけが気にするような名物が。
それは見目の良い男の子。褐色な肌に黒髪、そこに目を引くような美しいブルーの瞳をした男の子で、人懐っこい性格なのか口を開けて笑えば犬歯が覗いて、垂れ目な瞳を閉じて、それはそれはとても可愛らしいのだ。
でもこの男の子が可愛いだけでは、名物にはならない。男の子だけでは、名物にはなっていない。
それに附随するものがあって名物と化してしまった。
「本当にあなたってキバナくんの迷惑なのよ」
「そうよ、キバナくんが優しいからって調子に乗るんじゃないわよ」
今もその名物が始まっている。
男の子、キバナくんは見目が良くて性格も人懐っこくて、周りの同年代と比べれば体格もしっかりしていて頼りになりそうな雰囲気があり、それはもう女の子に(勝手に)モテた。今より前からモテていた。
それが何故こんなことになったのかと言うと、キバナくんのお隣に引っ越してきた家族の中に、キバナくんよりも少しだけ年下で人見知りしてしまう大人しい女の子が居たからだ。
そんな女の子が隣に越してきたからか、面倒見も良かったキバナくんはお隣さんのお母さんの「この子をよろしくね」と言う言葉もあり、甲斐甲斐しく世話を焼いた。人見知りだから、少しずつ距離を詰めるように笑顔で無理なく会話をし、慣れてきたら必ず手を引いて町の探索を一緒にしたり、女の子を中心な行動に変わってしまうぐらいには世話を焼きまくったのだ。
そうなると別の意味で妬くものが居る。キバナくんに恋心を奪われまくった女の子達だ。
特に初恋の子は酷かった。
好きな人がポッと出の女の子と仲良くしているなんて、そりゃあ、荒れる。さらにその女の子が恋しちゃってる疑惑が出てくるとめっちゃ荒れる。
そして始まったのが、女の子達の女の子いびり。やれ「キバナくんが迷惑してる」「キバナくんと仲良くしないで」「キバナくんが」「キバナくんから」と、キバナくんを出して文句を言ってくるのだ。別に暴力も無く、言葉も特に酷くなく、直ぐにキバナくんが来て女の子達が散開してしまうのもあり大人が出ていく程のものではないと、ちょっとしたイベントのようになってしまった。
なってしまった…………そう、過去形である。
「あんたにはそれがお似合いよ!」
「ほんと、田舎から来た子にはお似合いね」
「なーにその頭! それがあんたのオシャレなんだ!」
クスクスと笑う女の子達、そしてオシャレをしたのだろう可愛らしいワンピースにミドルブーツ。髪はポニーテールにし、可愛らしいリボンで飾っている女の子。
ただ、その髪の毛は無惨にも爆発したように荒れていた。いや、暴れ狂っていた。
女の子は何が起こったのかまだ理解が及ばないのか、恐る恐るポニーテールだったものに手を伸ばすだけ。
女の子達の笑い声とやっちまったんじゃないかと持っていた木の実を食べようとして取り落としたモルペコ。原因は言わずもなが、女の子達が木の実で釣ってきたモルペコの放電である。
「見て、キバナくん。あの子あんな格好してるよ」
何時ものように直ぐに現れたらしいキバナくんに声をかけたのは、笑っていた女の子達とは別の子だった。それでもその声は、女の子を普通なら絶望に落とすには十分な威力を持ってた。
見なければ良いのに、女の子は声の方へ条件反射的に顔を向けてしまった。そこには当然のようにキバナくんが居て、困ったような笑顔を向けていた。
「どうしたんだ、その頭」
その台詞をキバナくんが言った瞬間に女の子の瞳からは大量の水が溢れてきた。ポロポロポロポロと涙だけが溢れ、子供がする大泣きとは違いすぎて、逆に心配になるような泣き方だった。
まあ、その女の子が私なんですけどねぇぇえええ!!!!
待って、記憶戻ってきたの今だし爆発頭をさわさわしながら記憶整理した私優秀じゃん、とか思う間もなく推しが美少年で困り笑顔で私に話しかけてきたんだけど!!!!
思わず尊さで泣いてしまったのはオタクの性だと思う。許して欲しい。ちゃんと現状とかも自分の記憶整理ついでにしたけど。これ優し過ぎるけどイジメだよね。いや、女の世界からしたらこんなの優しすぎるものだけど。髪の毛の原因であるモルペコの放電だって髪の毛爆発しただけだし、その放電のお陰で記憶も戻ったし、結果オーライじゃないかな! そして記憶が来たのならキバナさんと呼ばせてもらおう!!
いや、それよりも問題なのは私の推しのキバナさんが、美少年!!!!そして世話されまくってるとかギルティでは???
だってあのキバナさんだよ?
最強のジムリーダーのキバナさんだよ???
性格ワンパチ(犬みたいに人懐っこい)
笑顔はヌメラ(幼くて可愛い)
戦う姿はオノノクス(勇ましくて格好いい)
そのキバナさんだよ????
ちなみにこれは、立てば芍薬うんぬんって奴を勝手に改造して私がキバナさんの標語にしてるだけである。でも間違ってないと思う、異論は認める。
それにしても記憶整理で始めはキバナくんだったのに、今は整理が完了してキバナさんになったのは前世の記憶と言うか自我が強いのは現世よりも長く生きていたからだろうか。私には転生メカニズムなんて分からないからどうでも良いけど。消えてしまった現世の自我に伝える言葉が有るとするなら、お前メッチャ夢主ポジだな!!!羨ましいわ!!!
でも私はリアルで推しが居たなら影から眺めてたい派なんでそのポジは拒否するけどな!
未だに止まらない涙を拭わずに家に直帰したんだけど、あの女の子達とキバナさんはどうなったんだろう? 私が泣いたことで場が混乱したのを良いことに帰った私が心配することでは無いんだけど。
それにしても涙止まらないんだけど、涙腺ゆるゆるメッソンかよー。
それから私の涙が止まったのは一時間程経ってからだった。私がヌメラ系だったらカピカピになってる所だった。それにしてもポケモンの世界って凄いよね、一人部屋の子供部屋にもテレビが置いてあるんだよ。泣きながらテレビ見てたけど、こっちの世界のテレビも面白いわ。普通にピカチュウが探偵なドラマとかあるし、ポケウッドで殿堂入りした作品をネット配信してたりする。めっちゃ番組楽しいし、作品漁るのも楽しい。え、ちょっとこの世界で馴染めるか不安だったけどテレビと推しが存在してるだけで生きていけるわ。
この一時間で誰か訪ねて来たみたいだけど共働きで私しか居ないから居留守使ってやったわ。泣いてたしテレビ楽しかったし、ピカチュウが探偵だったし…………。普通にテレビに集中してただけだよ、訪ねて来たのも気がするだけだよ、誰も来てない可能性もあるよ!! 仕方ないじゃないか、私の友達は恐れ多くもキバナさんだけだったんだから!しかも惚れてたみたいだし、現世の私、見る目があるな!!
でもちょっとキバナさんとのツーショットがスマホとか写真に多くてね、見た目が現世とはかけ離れてるから夢絵かな?と思えばいけることはいけるけど、自分なんだなぁって、ちょっとでも自覚すると心臓に悪いし推しにも悪いから封印確定である。推しと私が同じ枠に入ってるとか心臓に悪いわ。初めて目にしたときヒギュッて変な呼吸になったよ。
それにしても世界が違うとテレビも新鮮な気分で見れるなぁ。ワイルドエリアの天気予報まで「…………は霧になっています。視界が悪くなっていますのでご注意下さい」よっしゃぁぁぁあ!!!今こそお出掛けの時じゃぁあい!!!出陣の準備をいたせぇぇえ!!!!
服はオシャレワンピースでちょっと造りが面倒だからこのままだとして、髪の毛!お前なんでモルペコの放電一発で傷んでんだよ。スーパーマサラ人の髪の毛を見習え!!後で整えるとしてポニーテール部分からざっくりと切ろう。禿げるの嫌だから根元よりも上の方からね。そのままゴミ箱にシュート!いつか相棒を捕まえるようにって両親からプレゼントされたモンスターボールを掴んで、ちっさなバッグに詰める。これで準備は万全である。
いざ、ワイルドエリアに出陣だぁぁぁあ!!!!!!
いや、ワイルドエリア舐めてました。まじ、何この魔境。こわっ、めっちゃこわっ。え、アーマーガア格好いいとか思ってたけど徘徊してるとか現実だと怖い以外の感想出てこないな。しかもこれにケンホロウも居るしゲンガーだっているし、修羅の国だな、ここ。しかし私は諦めないからな!私の推しポケに会うためにはこの恐怖に打ち勝つしか無いんだから!!! 嘘です、怖すぎて身を隠してるだけで動けなくて帰れないだけです。
まだスイッチを押していない小さなモンスターボールを握り締めながら岩陰で体を縮める。ゲームしか知らなかったからだろう、この無謀な行動はどう考えてもリアルと思ってないタイプのオタク! まあ、私のことなんですけど!!! 本当に考え無しすぎた。条件反射で来てしまった帰りもどうするんだよ、ここが私の墓場か。推しの笑顔を見れたけど悔いは割りと有るんで何とか生き延びたい。
呼吸を細くし、緊張から溢れる涙を無視して気配を消す努力をする。簡単に涙出てくる私はメッソン。いや、人間だけど。涙腺ユルユル具合は本当にメッソン。こんな下らないことを考えてないと恐怖でどうにかなりそう。
でも仕方なくない? 推しポケが出てくる天気だったんだからこの世界に来たなら推しをゲットしたいじゃないか。ラプラスも好きだけど一番はミミッキュ。めっちゃツボ。デザインも好きだけど設定も大好きなんだよー。
だからこそのワイルドエリア! 霧にならないと出てこないから、霧だって分かった瞬間に行動したけどムリゲー。ゲームと現実じゃあ、本当に何もかも違う。
私はこんなにアクティブじゃなかったのになぁ。あれか、よくある記憶の混乱と現実が曖昧になった的なやつか。ゲームとごっちゃになっちゃったかぁ、参ったね! こんな風に現実逃避しても何も変わりはしないんだけどね。
ついに膜以上の量になった涙が溢れて頬を伝う感覚がある。恐怖と緊張と不安と、様々な感情が入り交じって自然に溢れてしまう。ここで死ぬのかなぁって漠然とした思いも、死んだはずなのにって考えが過った瞬間に、まぁ、いっか。なんて思ってしまった。死にたくはないけど、死んでたはずだから。見事矛盾である。まるで私はゴーストタイプだなぁ。
息をそっと吐いて体の力を抜く。さらに涙が溢れてきたけど、もう気にしてられない。絶対明日は目が腫れるな。明日の心配より今日の命を心配すべきなんだろうけど、修羅の国から抜け出せる算段がつかない。これは明日まで生き延びて捜索隊を待つしか無いのでは?
自分の考えに首を傾げれば、目の前に見える岩もこてりと傾げ……………………傾げ?
修羅の住人目の前に居るやん!?
え、目的地の前だけどここも霧で視界が悪かったけど、目の前に修羅の住人いるやん? え、何で気付かなかったんだろうと思ったけど、これアレだ。この住人が茶色と言うか薄いベージュと言うか、くすんだ黄色だから勝手に脳内変換して岩だと思ったと言うか、まだ前世の癖が抜けないから危機管理ががばがばと言うか。ミミッキュやん。
え、待ってミミッキュやんか。よくよく見ればミミッキュがミミッキュでミミッキュだよ。
…………一旦落ち着こう。ミミッキュが私の目の前にいつの間にか来ていた。つまりハグレかな? 固定シンボルは目的地よりも奥に枠に出るから、これは固定シンボルじゃないはず。そもそもゲームじゃないから普通にうろちょろしてるんじゃなかろうか。
それよりもゲットしなきゃ。ミミッキュやで、ミミッキュ。可愛いなミミッキュ!! 推しポケに出会えるなんて、やっぱりワイルドエリアは最高だな!!! 手のひらクルックルに回してる? 知らんな。
握り締めたモンスターボーのボタンを押して、ボールを起動させ「とても強いミミッキュだ。捕まえれそうにない」
「………………………………は?」
無情に流れた機械音声に思わず声が出た。え、何でや。何で捕まえれないと言うか、ボタンを押したら起動する筈なのになんで機械音声が流れるんだよ。今まで捕まえるのにレベルとか……………………新バッジシステムゥゥウウウ!!!!! ここで、新システムが、私を阻むぅぅうう!!!! しかもご丁寧にゲームとは違う注意だよっ!!! 確かに捕まえるには隙がないとか、あれプレイヤー視点だもんなっ! そりゃ、実際の警告はこんなんになるよねっ!!
「ミミッキュゥ…………ミミッキュが居るのにぃ…………絶対に相棒はミミッキュって決めてたのにぃ…………」
目の前に推しが居るのにぃ、ゲット出来ないとか。ミミッキュくそ可愛いな。尊い、推しが目の前に居て動いてるとか、尊い以外の感想は出てこない。涙の勢いが止まることを知らない。私が水分重要なポケモンなら命の危機だな。
実際に目にするとミミッキュの小ささにビックリする。十歳未満の私でも抱き上げれる大きさとか、本当に可愛い。でもゲット出来ない。唐突に自分に現実を突き付けて涙腺を崩壊させる簡単なお仕事です。ミミッキュに手を伸ばしてミミッキュゥ、ミミッキュゥと呻いてる私が軽くホラーになってる気もするけど気にする余裕は無い。
使えないモンスターボールは地面に捨てて手を伸ばしていれば、ミミッキュからも影のような手が伸びてきて、私の手を掴んでくれた。やばっ、嬉しさで勝手に口角が上がってにやけてしまう。にこにこしてしまう。
推しポケが居て触れあえるとか、転生したかいがある。にこにこして、さっきまでの恐怖が去って体の強ばりもすっかりとけて、どっと疲れが押し寄せてきた。ふぁっと欠伸をすれば眠気が意識を刈り取りにきた。やめて、ここ(修羅の国)で寝たらどうなっちゃうの?! 次回「幼女、死す」デュエルスタンバイ! いや、死なないからなっ!!!
「……………………あれ~?」
気付いたら視界には天井だった。ゆっくり体を起こして記憶を辿る。あれ? 私、ワイルドエリアに居たよね。気付いたら我が家って完全にあの後、あの修羅の国で寝た。警戒心ガバガバかよ。いくら推しポケに会えたからって…………。
「ミミッキュ! ミミッキュはっ!?」
そうだ、そうだよ。推しポケに会ったんだよ! しかも強くて捕まえられなかった子だよ!!! もう会えないかもしれないじゃん!!!!!まさかの夢落ち? 確かに推しキャラと推しポケと会えるとか夢でしか無いよね。現実と夢をごっちゃにするとか大人になっても私は童心を忘れないね。オタクはいつでも童心を抱いてるものだし。
「夢だったかぁ…………」
息を吐き出して俯く、横髪がサラリと流れ…………流れ????
待って待って待って、後ろ髪はバッサリ切ったけど長髪だったのは夢の私でしょ? 現実の私はボブだったから流れるほどの長さはないし、何より髪色が違う。何このピンク色…………淡いピンク色だけどピンクは淫乱って同人用語知らないの???? もしかしたらピンク髪ってだけでそんな特性を付与されるかもしれないのに、ピンクとかやだ。私が淫乱とか何の嫌がらせだ。誰の得にもならない。
そうじゃなくて、夢が現実を置き去りにゴールしてないか、これ。つまり夢が現実、修羅の国で寝落ちたのも現実…………えぇ、あの寝落ち前のテンションバク上がりしてたのも現実かよぉ…………。酔っぱらいみたいなテンションだったやん。現実がツラい。
それよりも現実だったって事は、このファンシーで幼女趣味なパステルカラーでピンクでフリフリな部屋の持ち主が私で、ゴスロリみたいなポケモンの寝床に居るミミッキュも現実なのか。幼女趣味って言ったけど幼女だからセーフ。これ両親の意向だから、私の趣味じゃない。少しずつ模様替えしていこう。あ、あと服とかどうよ。オシャレしたワンピースもふわふわ系だったんだけど。あれは二次元美幼女だから許されるのであってだな。私も今は二次元に居るけど、現実になった時点でここは三次元なんだよなぁ。
現実ってまじでツラいなぁって、思いながらクローゼットをオープンすればパステルカラーが多い子供なら許されるふわふわ系が詰め込まれていた。オシャレ着ならまだしも普段着これだとツラい。あ、一応引き出しにシンプルなワンピースとかズボン系がある。良かった、毎日ふわふわ系だったら気が狂うところだった。
それにしてもクローゼットに姿見が付いてるんだけど、そこに映る自分の姿に違和感しか無い。
まずは淡いピンクの髪、目の色は発色の良いオレンジ。
ここまでは許容できる、さっき写真とかで確認したから。許容出来ないのは目だよ。写真で確認したのは伏し目がちだった。今はどうだ、伏し目がちよりは眠そう、またはやる気の感じれない半目。お前、それでゆるふわワンピは似合わな…………違う、私だから似合わない。自分だと思うから似合わないだけだ、これ。顔の造りが普通に良いぞ…………え、美少女やん。私じゃなければ最高だった。
話がずれた。瞼がさらにやる気無くしたのが許容出来ないって話なんだけど。まあ、これをギリギリ許容したとして…………あ、後ろからヒョコヒョコ頭揺らすミミッキュかわえぇ…………。現実直視したくなくて足元見ちゃうぅ…………。
仕方ないから現実と向き合う。服がね、多分着替えさせてくれたんだろうね、ワイルドエリアで汚れたから。でも、服がね…………上着だけなんだけど…………ブカブカで…………明らかに男物なんだよねぇ。写真で見たけどキバナさんが着てたよねぇ…………。
「何でだよっ!!!」
私の叫びにビクッとしたミミッキュ、ごめん。でも何でだよ。何でキバナさんの服着てるの????
あのままフェードアウトしてキバナさんと距離取るつもりだったんだけど、これ洋服返さなきゃならないよね。会わなきゃじゃーん。
「お、起きたのか」
「ヒエッ」
ガチャリと扉を開けられたのでそっちを見たら声をかけられた。にぱーっと可愛い笑顔を向けられたけど、悲鳴しか出なかった。
居るじゃん??? キバナさんが居るじゃん????
何で!!!????
ダッシュでベッドへ行き布団を被り丸まる。何で居るのかな、キバナさんが!!! お隣さんで今まで仲良し(丸わかり片想い)で、私が鍵っ子だからだよねぇぇえ!!! 両親、今は余計なお世話だったよ!!!
このままキバナさんが帰るまで殻に籠らせてもらう。いくら布団の上からポンポンされても出ていってやらないからっ!!
私のフェードアウトは上手くいくと思いきや、何故かキバナさんに世話を焼かれまくる未来が待っていることを今の私には知るよしも無いのだった。
■■■キバナサイド(※視点ではない)■■■
周りが自分の外見に色めき立っていることを少年は知っていた。知っていたが、特に気にする事でも無かった。
キバナと言う少年は、周りと比べれば外見も内面も大人びたものに見えていた。
それは他人から見た評価であり、キバナ自身の評価とは違っていた。そしてその事はキバナの両親も理解していた。
キバナの外見はともかく、内面は大人びたものとは違っていた。
ただ、キバナは大切なものと興味の無いものに意識を割かないだけである。
だからこそ問題を起こすこともなく、誰かを悪く思う興味も無いから笑顔を浮かべて人間関係を構築していく。
全てどうでもいいからこそ。
そんなキバナにとって興味を引いたものは、ポケモンとポケモンバトル。テレビで放送される時は外とは違う目を輝かせて笑顔を浮かべ食い入るようにしている。それ以外は大切な家族とその他。
キバナの世界は狭く小さく、広がる事が無かった。
「…………はじめ、まして」
一瞬星が輝いた気がした。
隣に越してきた家族がキバナの家に挨拶しに来たとき、キバナの視界に星が煌めいたように思えた。それほどに景色が色付いたような、視界が開けたような、そんな不思議な感覚に捕らわれた。
越してきた家族の挨拶が流れていくなか、キバナの目には母親の足の後ろに隠れる子供しか映っていない。おずおずとした挨拶、恐る恐るした様子で此方を見ては視線が合い、体を隠すように親の後ろに逃げる女の子から視線をそらすかとが出来なかった。
年齢にしては大きな体を縮めるように屈み、女の子と視線を合わせれて笑顔を浮かべれば、涙目だった目を瞬かせてからおずおずと細め不器用な笑顔を浮かべてくれた。
(ヌメラみたいだな)
臆病で小さくて弱くて、図鑑で見たヌメラみたいに柔らかそうで、守ってやらないといけない存在。そんな風にキバナには思えて仕方なかった。大切な宝を見つけた気分だった。
だからこそ、キバナは嫌われないように怖がらせないように笑顔で優しく頼れる兄のように接した。段々と笑顔で自然になり、信頼してくれたようでキバナの後ろを付いて歩くようになる。
信頼、友愛、さらにそれとは違う恋心が少女から向けられ始めるのも当然と言えるようにキバナは少女の世話を進んでやっていた。今までの狭かったキバナの世界に、少女と言う宝が増えた事で今まで興味の無かったものにも目を向け始めた事により広がりを見せる。何が好きか、これは嫌いか、これを一緒にやりたい、そんな事ばかりだが確かに世界が平がったのだ。
だからこそ、気付かなかった。キバナの世界は広がったけれども大切なものは少なく、当たり障りの無い人間関係を構築していたから人間の感情に対する機微を察する事が出来なかったし、気にも止めていなかった。
その結果が、アレだ。
「…………え?」
今まで怯えさせないようにと、何時ものように笑顔を向けて優しく声をかけた筈なのに、キバナの思考は停止した。
珍しく外で待ち合わせして、オシャレしてくれるかなぁ、なんて呑気に思いながら待ち合わせ場所に行けば、呆然とした少女とモルペコ。オシャレをしてくれたのだろう、下ろし立てに見えるワンピース姿に似つかわしくない爆発したようなポニーテール。モルペコと少女の表情で原因も分かっていたからこそ不安がらせないように笑顔を向けたのだ。
なのに、泣かれた。
どうして、なぜ、それよりも泣かせた。今まで泣かせないようにしていたからこその衝撃で逃げるように去っていった少女を追いかけることも出来なかった。
周りの人間が何かを言っているのかも耳に入らない。思考が纏まらないながらも、追いかけなければ、そう思い立ち急いで少女を追いかける。去った方向を考えれば自宅しかないと思ってみれば、少女の自室に明かりが灯っていた。
胸を撫で下ろし、扉に手をかればガチャリと半回転も行かずに止まった。え、鍵かけられてる。なんて思ったが、インターフォンもあるし、と気を取り直して押しても反応は無い。少し間を開けて再度押してみるがやはり何の反応も無い。
まあ、泣いていたし、明日には落ち着いてるだろうと自分を納得させて帰宅した。
「キバナくんっ! あの子見なかった!?」
明日どうしようかと悩んでいるキバナの耳に声が届いたのは、日も暮れて少ししてからだった。来たのは少女の母親で、顔は青くなっていた。
「帰ってきたらあの子居なくて…………それにあげたモンスターボールとお気に入りのバッグも無くなってて…………」
キバナくんと仲良くしてたから、何か知らないかしら? とたずねられるも、居なくなったと言う言葉に心臓が騒ぐ。不安が押し寄せてくるが、質問には家に帰宅した後は知らないので正直に話すしか出来ない。
もう日が暮れて星が見える時間帯。自分も探しに行こうとしたが、キバナは子供としては同年代と比べれば体格も性格も大人びていたがポケモンも持っておらず十にも満たない子供として家で大人しくしていろと大人達に言われればそれまでだった。
ザワザワと騒がしかった家が、両親も捜索に加わり去っていけば自分の呼吸と心臓の音しか聞こえない。気持ちを落ち着かせようとしても、最悪を思い浮かべてしまい落ち着くことが出来ない。探しに行こうとしても、すれ違いになる可能性が高くなる事を考えれば行動を起こせない。
どうすべきか考えていれば、コンと小さな音が聞こえた。普段なら聞き逃すほどの小さな音。キバナしか居らず、テレビなどを付けていないからこそ聞こえた音に顔を向ければ、窓を叩く叩くモルペコの姿。別にモルペコを個々で判別出来る訳では無いが、何となくキバナにはあのモルペコだと思えた。
近づけばまるでついてこいと言わんばかりにキバナの様子を伺いながら街頭に照らされた町へと進んでいく。そしてキバナもついていくべきと判断し、窓からモルペコを追うべく外へ出た。
「ワイルドエリアかよ」
モルペコを追いかければ、そこはワイルドエリアの入り口。いつも通りに入り口にはワイルドエリアの入場を管理する職員が立っているはずなのに、珍しく今日は居なかった。そう言えば天候が霧で迷子になるトレーナーが多く職員が仕事で追われているなんてニュースが流れていたな、とキバナは思いだし迷子が増えたかで人員として回されたんだろうとあたりを付け、ラッキーだとほくそ笑む。
モルペコを見失わないように走れば徘徊しているポケモンに襲われる。そんなことを気にせずに体格に似合った歩幅と他よりは良い運動神経を発揮して撒いていく。入り口からそう遠くない壁際になにかのポケモンが暴れたのか岩が散乱している場所へとモルペコが駆けて岩陰へと消える。そこが目的地かと、足に力をいれてさらにスピードを速めて目指す。
「…………居たっ!」
その岩陰を覗けば、スヤスヤと体を丸めてミミッキュのぬいぐるみを抱き締めながら眠る少女の姿。安心して口角が上がる。近付いて手を伸ばせば、霧の影響か少し濡れたような感触と冷えた体。
「こんな冷たくなったら風邪ひいちゃうぞ」
キバナの言葉に答えるように、少女が小さなくしゃみをすれば体から熱が逃げないように体を丸める。しかし霧の水分を吸ったらしいワンピースも冷たく体が小さく震えていた。
風邪をひきかねない状況だが、少女がとくに怪我もなく無事で良かったとキバナは自分の着ていたパーカーを脱いで少女がこれ以上寒がらないように被せてから抱き上げる。
いくらキバナの体格が良いとしても子供で、このまま町までの移動はいくらなんでも無謀だと直ぐ様思い至る。出来ればこのまま家に帰りたかったが無理だと判断してポケットからスマホを取り出す。
これからされるだろう説教を想像し気分が下がるが、冷えた体を温めようとすり寄る少女に頬を緩めながら親へと連絡をするのだった。
キバナの連絡の後、直ぐ様ワイルドエリアの職員が駆けつけ無事に帰宅することが出来た。
ワイルドエリアから帰って来た翌日、少女の様子が気になり隣の家にお邪魔させてもらい少女が起きるまで待っていた。たまに起きているか確認の為に部屋を覗くが、起きた様子は見られない。
ワイルドエリアは暗くよく確認出来なかったが少女の目元は泣いたせいか少し赤く腫れ、長かった髪の毛は自分で切ったのだろう前髪と横髪を残しガタガタに切られていた。その姿を見ると胸が締め付けられるように苦しくなりあまり長く見ていられないが、離れようとすれば不安になり姿を確認したくなる。だからキバナは隣の家で少女が起きるのを待っている。
「離れるつもりはないからな」
行方が分からなくなった時のあの焦燥。それを二度と感じるつもりはキバナには無いのだ。
少しして起きた少女に小さな悲鳴を上げられ布団に逃げられたショックがあったが、逃がす気などさらさら無いキバナはこれからどうやって外堀を埋めていくのか考えるのだった。 少女がフェードアウトしようとしてる事には気付こうが気付かなかろうが、そんなことは関係ないのだ。
※※※※※※
人物紹介
▼ゆめしゅ(少女)
心の中がうるさい転生主。名前はまだ無い。出来れば押しキャラを遠くから応援するモブになりたいタイプ。夢は自分よりオリキャラ作って妄想するタイプ。
ピンクは淫乱とか同人御用達の言葉は有名所をちまちま知ってるタイプ。この度目付きが半目になった。
オタクとしては文字書きだけが出来ないオタク。行動力はあるがインドア。めでたく美少女になったしキバナさんのお隣さんになったがフェードアウトしたい。
裏話として髪の毛触るときに呆然としていたが、この時にキバナさんにめっちゃ心配されていたら転生前の記憶を思い出しても自我復活は無かった。オシャレを台無しにされショックを受けたのにキバナさんは心配どころか笑顔だったので、自分なんかどうでもいい、と思い傷付き自我が弱まり転生主復活となった。初恋の時の傷は少女にとって大きすぎた。
これから多分ポケモンイラストや某ピカ様を連れたスーパーマサラ人の漫画とかを描いたりする。
ヌメラ系とキバナさんに思われてる。
▼キバナさん(まだ10歳前)
お隣の女の子に一目惚れした。
興味あることにしか興味がないし、大切なものも少ない。人当たりは笑顔がデフォなので周りから全く怪しまれないで人間関係(偽)を構築している。
ただそのせいで人間の機微に疎くて今回の原因を理解していない。
多分ポケモンリーグに参加して興味あるトレーナー達が増えていくと人間関係構築(真)をしていく。感情とかの機微もここらで勉強していき、泣かせた理由をなんとなく理解して後々落ち込む。
人間だがドラゴンタイプ気質。大切な宝を抱え込むし離すつもりはないし奪われたら奪い返すし逃げたら拐うタイプ。ラスボスのお姫様拐うタイプだが理性も知性もあるので自分の腕が届く範囲なら自由に行動させ甲斐甲斐しく世話を焼き外堀を埋めていく感じで逃げ場を無くして拐う。
裏話として、転生主の髪の毛が短くなると行方不明事件を思い出しても転生主の近くに居ないと情緒不安定になるが基本的に転生主の近くに居るので本人も知らないトラウマがある。
▼ミミッキュ(ちゃっかり家まで来た)
ピカチュウ目当てで間違えられてキレられたことがある。なので転生主がめっちゃ欲しがってくれて嬉しくて手持ちになりたい。
レベルは60でたまに嵐の時に遠出してピカチュウ狩りに行く。シンボルエンカのピカチュウは犠牲となったのだ。
多分だけど転生主はバトルセンスなくてバッジ集めしないのでゲット出来ずにキバナさんにゲットしてもらい譲ってもらう。転生主の子になれるなら文句は無い。転生主に可愛がられてこの世の春。
▼モルペコ(木の実に釣られクマー)
はらぺこだから仕方ない。放電しにいと木の実を入手出来ない知育餌入れに放電してしまい惨事に。やっちまったなぁ、と思いながら木の実を食べてたら泣いた女の子がワイルドエリアに行って、やべぇやつじゃん、と尾行した。だからキバナさんに知らせることが出来たとさ。ちなみにワイルドエリアじゃなくて町で捨てられて野良になった。野良だと愛嬌良くすれば木の実がっぽりだから好きで野良やってるぺこ。
1/5ページ