名前変換無しの夢小説
目の前にある薄っぺらい紙を前にして首を傾げるしか出来なかった。
これは一体何なんでしょうか?
指先でつまみ上げて上へと持ち上げてみる。ヒラヒラ。うん、何の変哲も無い紙。ただ婚姻届けって書いてあるけど。夫の欄には筆圧が高くてちょびっと角張っている字で降谷零と記入してある。
あれれー、おっかしいぞー。婚姻届けだ。えっ、マジで? マジで降谷零との婚姻届け? あ、でも妻の欄には記入は空白ですね。つまり降谷さんが会いにくい人に渡せば良いんですね! 丸っと理解しました!
「どこの誰に渡せば良いんですか?」
「君がそこに名前を書くんだ」
「なんとっ!」
「何故誰かに渡すなんて考えになるんだ……」
何故かテーブルを挟んで座っている降谷さんが頭を抱えて項垂れてしまいました。仕方ないじゃありませんか、私は降谷さんの恋人なんて恐れ多い。全世界の降谷さんの女に刺されてしまう。
そんなの恋人でも無い降谷さんの女に怯える私が妻の欄に記入とか無茶すぎません? あ、でも酔っぱらって「降谷さんの恋人になっちゃう~」と言った記憶が頭の片隅に。それから普通に同棲して恋人と言うより都合の良い女みたいな生活していたなら恋人と言うよりセフレ感覚。
あれ、これって降谷さん的には恋人のつもりだった?
え、申し訳ないですが降谷さんの女に刺されたくないんですよ、セフレならまだセーフですけど恋人はダメです。私が転生しているんですから他の誰かが転生している可能性が有るじゃないですか!
いや、しっかり考えるんです。あの降谷さんですよ? 安室さんにバーボンの顔を持ち降谷さんの顔すら持つ降谷さんですよ? つまり、この婚姻届けも何かのフラグ。公安のお得意の違法捜査のノウハウを使って違法な偽造でもするつもりなんですね、分かります。
つまりこの紙は私を結婚と言うものに舞い上がらせて、降谷さんが結婚とかそう言った面倒な事からの盾にする為のもの! 再び丸っと理解!
「本当は炙り出しで名前が出てくるとか?」
「そんなもんは無い」
「ロウで色水に付けたら浮かび上がるように」
「そんなもんも無い」
「…………つまり本当に私の名前を書くんですね」
「…………始めからそう言ってるだろ」
少しだけ降谷さんが溜め息を付きますが仕方ないじゃないですか。あなたは私の推しでしたからこんな事になるとは思ってませんでしたし。まだ炙り出しや二重構造になっていて実は既に他の方が記入済みとか…………あ、それあり得ますね。少し光にかざしてみましょう。
「…………二重にもなってない、だと」
「そんなに俺と結婚したくないのか……」
「ひゃっ」
余りにも私の行動がしつこすぎたらしく、地を這うような声で凄まれてしまいました。降谷さんの声は高い方ではあるんですが、あんな低い声が出せるんですね。
どんな表情をしてるかなぁ、なんて軽い気持ちで顔を見てみればめっちゃ冷めた視線です。これが婚姻届けを渡す人間がする表情ですか? 思わずときめいてしまう私は調教済みの立派な降谷さんの女です。
「いいから、さ っ さ と 書 け 」
「…………ひゃい」
指先でコンコンとテーブル叩くの止めてください。調教済みなのでキュンキュンしてしまいます。別にMじゃないです降谷さんの女なだけです。
取り敢えず偽造書類だと思われる婚姻届けにサラサラと自分の名前を書く。証人欄には誰の名前も無いから、出さないでいるのかな? それなら本物でも良いし変な小細工はいらないですよね。そもそも私が考えうる事なんてあの降谷さんが思い付かない筈がない。
「それじゃあ、俺はこれから仕事に戻る。これは俺が出しておくからな」
「別に出さなくても大丈夫ですよ?」
「絶 対 に 出 す 」
「ひえっ」
私の言葉に待たしても睨んでくる降谷さん。そんなに言わなくても出さないつもりでしょう? いや、でも出さないと私は盾にもならないですよね。あ、でも戸籍偽造すれば大丈夫なんですかね。
あの、降谷さん。婚姻届けをそんなに確認しなくても良いのでは? 確かに山田花子って書こうかと思いましたけど降谷さんの眼力がマジでしたのでちゃんと記入はしましたよ。
「良かった。ちゃんと書いてあるな……」
偽名書こうと考えてたのばれてーら。安心したように溜め息を吐かないで下さい。その溜め息私が原因ですけど。
「それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、降谷さん」
「…………」
「どうかしましたか?」
出かけると言いながら私をじっと見てくるんですけど。これはどこまで利用できるかなって考えてる顔ですね。私はどこまでも利用されますよー! でも死にたくは無いので危ないのはごめんです。
ん? 降谷さんと関わった時点で危ないのでは? つまり時既に遅しって状態じゃないですかー。
「コレを出すんだから呼び方を直さないとな」
「えっ、ついに私刺されるんです?」
「何でだ」
降谷さんの女に刺されるかもしれない恐怖は本人には関係無いことですもんね。あと降谷さん呼びが長くて降谷さんとしか呼べないです。
また降谷さんは溜め息を一つ。私の頭の撫でてから出掛けていかれた。
もー、そう言うことするからー。刺される恐怖が倍増だドン! 絶対に降谷さんの女達には知られないようにしなければ。
しかし、転生したら私が愛読していた漫画の世界だとは思わなかったですよ。そしてその漫画の推しとこんな関係になるなんて。
漫画では余り降谷さんが公安として働いてる姿を詳しく描かれたりしなかったから、こう真面目に働いてるのを見るといまだにビックリしちゃう。それに安室さんやバーボンとしての活動もしてるんでしょ? 私の推しが今日も過重労働。
でもあれですね、推しの働きを間近に見れるのはとても嬉しいです。でも降谷さんあんなに働いて大丈夫なんですか?
私の愛読書、赤川先生著『烏達の鎮魂歌』だと降谷零って偽名で公安にスパイとして潜り込んでるんですよね? 黒の組織を邪魔する行動をリークしたり、たまには黒の組織と敵対しながら組織を追ってるヒーローの信頼を上げたり、本名の安室透としてヒーローが住んでる家の下に有る喫茶店で自称探偵のアルバイトしたり、組織の幹部として探り屋バーボンとして活動してるんですよね?
そんな降谷さんが組織をまるで潰さんと公安として力を入れて大丈夫なんですか? むしろ力を入れないと降谷さんが危ないんですかね。
それにしても偽名の降谷の方で結婚しようとするとは、これは降谷零に厚みを持たせる為の行動ですかね。ヒーローに怪しまれてるのかな?
でもめっちゃ贅沢を言うなら安室さんの方で結婚をしたかったです。例え偽装でも安室さんが良かった。あっちが素じゃないですか。夢ぐらいは見たいのです。
ああ、愛読書が無くなってしまったから悲しい。脳内で一生懸命大まかなあらすじを自分でナレーションしないと忘れていきそうで怖い。降谷さんのヒーローがピンチな時に登場し、組織の邪魔をめっちゃした初登場シーンを忘れてしまうなんて、そんな事は出来ない。
降谷零として散々組織の邪魔して、これは最後に組織ヒーローと一緒に壊滅させる強キャラと騒がれ、漫画の中では適役なお巡りさんでは有るけども人気がめっちゃ出て降谷の女を作ったのに、実は降谷は偽名で本名は安室でしたー。となった安室ショックは大きかった。私もモロに食らってしまった。
そんな安室ショックでしたが、降谷の女と定着してしまっていたので安室の女には変更されなかった。降谷も安室の一部です! それが暗黙のルールである。降谷さんの女はバーボンも安室さんも全て推せてこそ名乗れるのです。
閑話休題。つまり偽名の降谷零には結婚するには全て偽造をしなければならない訳で、そんな面倒な事をしなければならないぐらいに原作基準を考えれば危ない状態でもあるんだろう。もう終盤ぐらいかな。降谷さんがスパイとバレてしまえば、その偽造に関係してしまった私も危ないんですけど。
これは一般人で彼は普通の警察官だと思ってました! の演技練習を頑張らなければならないのでは?
出来れば降谷さんは私の命が危険にさらされそうなので特別手当てとして夢を見させるぐらい新婚生活ごっこをしていただきたい。あと安室さんを見たい。
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!平行世界からの転生者
『名探偵コナン』ではなく黒の組織が主役で少しずつヒーローに追い詰められていくダークサイド側の話である『烏達の鎮魂歌』が有る世界からの転生。
そのせいで降谷さんとめっちゃすれ違ってる。
降谷さんは偽名だし居なくなった時がお役ごめんかー。それまで夫婦ごっこか。
刺されると怯えている割りと図太い。
!本名を偽名と思われてる人
恋人がなんか可笑しい。たまにイラッとくるけど文句も言わないし仕事に理解があって側に居ると基本穏やかになれる。そろそろ結婚しようと婚姻届けを出してみた。
細工なんてしてある訳無いだろ。
主人公の勘違いに気付いてる訳が無い。多分気付いて悪の幹部が本業と思われてると知ったらタイトル回収。
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