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うつつでなりて【刀剣乱夢×twst】

監督生もといい、審神者の名前は天花結子(てんげゆうこ)。
天花の一族にとって神とは人間と変わらず身近なものであった。特に無垢な子供のうちは花に妖精の姿を見、鳥の囀りとお喋りをし、風と舞うことも出来るものが少なからずいる。
なぜなら天花の一族は代々神職の家系であり日本最古と謳われる神社の神主も務めている。さらに祖先は神に連なる一族であったということもあり霊力が非常に高く、時折神の力『神通力』をも持つ子が生まれる。神通力を持つ子は普通の人間より妖や怪異に狙われることが多く、身を守るために幼いころから力を扱えるよう様々な修行を行う。神通力は非常に強力で、いくら力があるといえども生身の人間ではその力に耐えきれず、人の身は見るも無残なものになる。
神通力は生身の体ではほとんど扱えない。つまり人間でなければその力を全力で使える。
天花家は古来から秘術として適性のあるものが『成る』。
『成る』、それはすなわち人の身を捨て、神に生まれ変わるということ。
神に生まれ変わるには人間に近すぎる天花家の力だけでは難しく、本物の神の力が必要になる。


「主よ」
「三日月…。大丈夫だよ。どのみち元の世界にいてもいずれは成るはずだった。それが異世界で、ちょっと早まっただけ。別に成ったからって何か大きく変わるわけじゃないし」
「主よ、この三条が月、どこまでも付き合おうぞ」

審神者は三日月に向かって儚げに笑い、刀剣男士を目の前に集めた。

「みんな、今まで人間の私を守ってくれてありがとう。でもこれからはみんなを守ってあげられるように頑張るね!」
「…そんなん今更じゃん!主はいつだって俺たちを守ってくれたし、俺を可愛くしてくれてたし!」
「そうそう、今更だな。俺としてはもう少し、悪戯に引っかかってくれる可愛い主であってほしいと思うぞ!」
「みんな、ありがとう!」

審神者は人である。
人であるため今まで人の営みをしてきた。
四季の豊かな故郷で学校に通い、人の友人と笑い、時には落ち込んで、実家である神社でだるいなと思いながらも力の修行をし、近所のおじいちゃんおばあちゃんから頑張っているねとお菓子をもらい、幸せな日々を過ごしてきた。
しかし神に成るということはその刹那の輪から外れるということ。
かつての友人は灰になり、永遠に姿の変わらない自分は日々めぐるましく変わる人の営みには交わっていけない。
人生100年時代と言われた世でも、神事を行う身体的に人生は50年くらいかなと思っていた審神者には少々早めに事が来てしまっただけだと自分に言い聞かせた。

「あ、あの~、いい雰囲気のところ申し訳ないのですが、さっぱり話が見えないのですが…」

状況についていけないと言うより置いてきぼりにされたNRC側は代表者として学園長が発言した。

「一言でいえば、私が神になって神通力を使い、クロース先輩の物から情報をつかんで時間遡行軍とオバブロを鎮めるって形にしたいなと」
「なるほど…。でも貴方は先ほど神に成らなければとか…」
「ええ。神になるためにはいくつか方法はありますが、今は時間もないし、彼ら刀剣男士がいるのでちょっと手荒になりますが彼らの力を借りる形で方法で神に成るつもりです」
「でも、小エビちゃん死んじゃうんでしょ!なんで、なんでそこまでするの!?ここは小エビちゃんの家族だっていないし、小エビちゃんの住んでた世界じゃないんだよ!」
「…フロイド先輩、確かに私がこの世界を救う義理はありません。この世界の神様がどういう感じかは知りませんが、私の世界の神は自由奔放でわがままなんです。やりたいことはどこであろうがやるし、やりたくないことはやらない。この世界には家族はいないけど、友達はいます。親しい先輩もいるし、この世界、戸惑うことも多いですけど楽しいこともいっぱいありました。私がこの世界を何とかしたいと思う理由には十分だと思いますが」
「…では、監督生さんはこの世界を救ってくださるのでしょうか?正直監督生さんを犠牲にするよりクロースさんを犠牲にしたほうが言い訳も付きます。彼は己の欲を優先するあまり、学校規則どころかきっと世界の法も破っていますよ。それにここは外界から閉ざされているといってもいいほどの孤島です。彼を犠牲にし、監督生さんの刀剣男士という方たちに周りの鬼を退治していただければ事は穏便に済むのでは?」
「ジェイド先輩、私はこの世界を救うとかそんなことには興味ないです」
「ではなぜ…」
「私はこの世界が気に入ったから、お気に入りの物を他人に壊されるのは一等腹が立つんです。それに、クロース先輩を犠牲にしても彼が開いた歪は世界のいたるところで影響を及ぼすと思います。結局のところ、世界をいい感じにするにはこれしか方法はないと思いますよ。それに、上手くいったら学園長に対価を請求するつもりなので」
「…そうですか」
「何かご不満でも?」
「いえ、監督生さんはずいぶんお人よしだと思っていましたが、そうでも無いようで少々興味がわきました。対価の件については我々オクタヴィネルも交渉の座につきましょうか?」
「(え、なんか選択間違ったかな)…まあ、要相談で」

ジェイドと結子の話に一区切りを感じたリリアはマゼンタの瞳を細め口角を上げて言った。

「込み入った話はそれくらいにしとかんとまたあやつが暴れ出すんでないか?」
「あ、そうでした」
「お主は神に成るのか?」
「そうですね。人間から神にジョブチェンジです」

あははと笑う結子にリリアは哀愁を感じていた。
人間が神に成る…もとから妖精族の一員として長い時を生きてきたリリアには人間が人間以外のものに変わるのを見たことないわけではないが、神に成る人間は初めてだった。
己が己の育った環境から逸脱した存在になるのはどういった気持ちなのか。
刹那の時を生きる人と永遠とも云える時を生きるモノ。
リリアは生まれながら後者であるからその気持ちはわからない。
でも、時の流れが違うものだからこそわかることはあった。
リリアとて友がいなくなってしまうことは非常にさみしいものであった。
出会いは楽しい、別れは哀しい、幾つ重ねようが変わらない。
でもその傷は長い時を経て、癒されるものだと身を持って知っている。100年も過ぎればそもそもそういうものだと体が覚える。
ではもともと刹那を生きてきた人間はどうなのだろうか。
リリアは己には真に理解できぬがきっと最初は想像を絶するつらさなのだろうなと思う。
でも妖精は永い時を生きる。それこそ神の眷属にでもなれれば主と同じ。主から離縁されない限りはずっと一緒。
口角を隠しながらリリアは言った。

「妖精の加護は神に悪影響かの?」
「えっ?どうでしょう?昔の人は精霊とか人ならざる者の加護を受けてた人は多いらしかったですけど、神の眷属にそれっぽいものもいますし、妨げにならないような内容なら大丈夫じゃないですか?(知らんけど)」
「ふふふ、では…」

リリアは楽しくて仕方ないという顔で結子を見下ろせるくらいまでに浮くと、結子の頭をそっと撫で、ピンクの光が降り注いだ。
キラキラとしたそれは雪が解けるように瞬時に消えたが、周りの視線はギラギラとやかましく感じた。

「…人の子よ、茨の谷はお前を恐れない、いつでもお前を歓迎しよう」

眉が少々上がったマレウスはリリアの手が触れたところを拭くように結子の頭に触ると今度はライムグリーンの粒子状の光が頭どころか肩まで降り注ぐ。

「(あの子たちの神気と喧嘩しないかな…)…ありがとうございます。そのうち観光にでも行きますね」

刀剣男士は各々憤怒の表情だったり、微笑みを浮かべているが全く笑っている気がしない表情だったりしているが、自分たちの主が心配されていることはわかっているため殴りたい気持ちを必死に我慢した。

「さて、では準備しましょうか」

結子はそういうと、刀剣男士とマブを筆頭にNRCメンバーに指示をした。




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