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うつつでなりて【刀剣乱夢×twst】

食堂から北棟を曲がり、学園長室目前となったところで屋根から様子をうかがっていた今剣が監督生のもとへ戻ってきた。

「あるじさま、てきは10こえ、たちがおおいです!」
「ありがとう。中の様子は見える?」
「まどがわれているので…いわとおしみたいなにんげんがひとり、くろいふくをきたひとが…5、6、7にん?なんだかみたこともない結界をはってます。みかづきとほたるまるとやげんはたたかってます!」
「そういえばマレウス先輩がいるってリリア先輩が言ってたな…」
「トリックスター。今日はディアソムニアの寮生がひとり退学になると聞いている。そのことで学園長室にいるのではないかな」
「ルーク先輩は何でも知ってるんですね…」
「ディアソムニアの3年生、クロース・ティターネス。彼はあのサバナクローの寮長より1度多く留年しているらしいです。2年生までは学園生活も成績もほどほどに優秀だったとか」
「ジェイド先輩はどこからそんな情報を仕入れてくるんですか…」
「トド先輩より年上ってこと?」
「ええ、フロイド。アズールに言われて彼を少し調べたことがあるんです」
「ん?だとしても人数が合わないような…」
「あるじさま!なんだか黒い人が大きくなってます!」
「大きく…?…まさか…」

監督生は非常に嫌な予感がした。
監督生のように力の強い審神者は良くも悪くも感がよく当たる。
アイスを買うときは結構便利な力だが、それ以外、特に戦いの場では当たってほしくないものが当たることが多い。
学園長室に到達した監督生たちは、中を見るなり絶句した。
入り口には学園長とマレウスが防御魔法を展開し、リリアは隙あらば攻撃魔法を放ち、シルバーとセベクはマレウスの邪魔にならないよう背後で様子見をしている。
グレートセブンの絵画がある奥には凶悪面の時間遡行軍とその後ろにオーバーブロットしたディアソムニアの生徒がいた。

「学園長!」
「か、監督生さん!それにクルーウェル先生たちも!こちらに来てはいけません!いま化け物が…」
「それの対処は任せてください!それより、オーバーブロットしたその人は!?」
「え、ええ?そんなこと「はやくその人について教えてください!」
「…彼のものはクロース・ティターネス。ディアソムニア寮3年生だった。度重なる留年と学費等々の理由により、今日は学園長から退学を言い渡された。そしたら空が赤く染まり、見知らぬ者たちが出てきて、本人はオーバーブロットを引き起こした」
「簡潔な説明ありがとう、ツノ太郎。…え、でもなんで時間遡行軍?」
「子犬!詳しいことは後にして、この場を何とかするほうが先じゃないのか!?」
「…っそうですね!」

マレウスが冷静に説明している間にも、時間遡行軍の手は止まらない。
清光と今剣、骨喰が加勢するも、相手は太刀と大太刀が多く、戦力としてはぎりぎりである。
ひとつ救いなのが、オーバーブロッドの化身がその場にいるだけで攻撃もなにもしてこないところだろうか。


---------------------数行刀剣男士攻撃ボイス

「主よ、体制を整えたほうがいいのではないか?」
「三日月…あとどのくらい耐えられる?」
「ふむ、じじいとはいえど、あと20分といったところか」
「わかった!じゃあひとまずこの部屋に封印結界を張る。一時撤退して状況を精査しよう」
「あいわかった」
「学園長!」
「は、はい!いろいろ説明はあとでしますから、今は私の指示に従ってください!」
「人間!若様に命令するなど「その若様とやらを死にたくないなら黙ってろ」…」

セベクは初めて監督生が見せた殺気に充てられた。普段ハーツラビュルのおバカコンビとわがまま猫に巻き込まれ照るのにもかかわらず、にこにことお人よしだった魔力のない人間が、いばらの谷で名家に生れ落ち、将来は王の警護をするためあらゆる訓練を受けてきたと自負するセベク自身が圧倒されたことに一瞬思考停止した。

「セベク、あれはマレウス様にも倒せなかった。いまはひとまず監督生の言うとおりにしたほうがいい」
「だが、人間は魔法も使えない!」
「じゃが、面白い力は持っているようだぞ」
「リリア、人の子は本当に人の子なのか?」
「…わからぬ。本質はわしらに近い気もするが、近いだけであってそうではない、ということしかわからぬな」

リリアは目をいつもより赤くして笑った。


「…というわけで、あの時間遡行軍を倒すつもりでしたが思ったより手ごわいのと、オーバーブロットした人がいるという予想外なことが起こっているので、いったん彼らを学園長室に封じ込めて時間を稼ぎます。その間に今拠点となっている食堂に戻り、体制を立て直して時間遡行軍を倒し、クロース先輩のオーバーブロットを鎮めます」
「聞きたいことはたくさんありますが、後にします。それで、私たちは何をすればいいのですか?」
「封印結界を張るには10分ほどかかります。その間、私を守ってください。私は詠唱中、非常に無防備で尚且つ時間遡行軍に狙われやすくなります。そのためできるだけ防御魔法とかで守ってほしいです」
「…わかりました。生徒を守るのは教育者として当然のことです。みなさん、防御魔法が得意なものはこちらへ。監督生さんが結界を張る間は決して気を緩めることないように」
「ルーク先輩はさっき言った通り、クルーウェル先生はルーク先輩とバディを組んでください。無理だと思ったらすぐ撤退してください」
「わかった/ウィ」
「清光!」
「オラッ!!…なに主!」
「今から封印結界術を行います。そのため霊力の全開放に伴い、加州清光に審神者の全権を譲渡します。私が結界を張る間、指揮官はあなたに任せます」
「っ!りょーかい!!」
「三日月宗近、加州清光のサポートをお願いします。あなたにも指揮権を譲渡します」
「あいわかった。っっく!主よ、無理をするではないぞ」
「大丈夫!では、今を持って審神者の全指揮権を近侍、加州清光、三日月宗近に譲渡します」

審神者は両の掌それぞれに小さなぎょくを出すと、2振りに渡した。

「札も資材も存分に使っていいから」
「おっけー!」

監督生は刀剣男士に背を向け、無事を祈った。
監督生、否、審神者はその莫大な霊力と力を持つ故、幼少の頃より様々なモノから狙われてきた。
また力の暴走で自身を傷つけることも少なからずあった。そのため、普段は力ほとんどを自身の奥底に眠らせ、本来の数%の力と審神者の能力によって今まで刀剣男士と戦ってきた。
しかし今回行おうとしている術はその数%ではできない。そのため己の霊力をすべて開放する必要があった。その間は外で起きていることを見ることも聞くこともできない。そのため審神者としての指揮を他のものに任せるしかない。将の判断が一瞬でも遅くなると取り返しのつかないことになるからだ。そのため一番一緒に戦ってきた近侍の加州清光に審神者の全権を譲り、まだ若い清光のサポートとして三日月を選んだ。

「学園長、準備はいいですか」
「こちらはいつでも大丈夫ですよ」
「…ではよろしくお願いいたします」

審神者は持ってきていた筆とインクで円を描き、その中に五芒星といくつかの文字を書いた。
そして円の中心に札を置き、その前に両膝を付き両手を胸の前で結んだ。


祓はらへ給たまへ 清きよめ給たまへ
守まもり給たまへ 幸さきはへ給たまへ

此れの神床に坐す 尊き天照大神 
今ぞ我が身に負ひ持つ業に責を取る


短い祝詞を唱えると、審神者の体は組んだ手から光が溢れだした。
その光はだんだんと大きくなり、ついに審神者の体を包んだ。

「小エビちゃん!」
「いけません、フロイド!」
「フロイドくん、手を出してはいけません!監督生さんのやることを無駄にしてはいけないのです!」
「っ!」

フロイドが駆け寄ろうとするもそれに気づいたジェイドがいち早く己の片割れを止める。
審神者を包んでいた光は次第に小さくなり、審神者の額に吸い込まれるように消えた。

「…っふう」
「小エビちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫です、無事に霊力がすべて体に宿りました。これからが本番ですよ!」

審神者は己の霊力で体が満たされていることを感じた。
今までは常にガス欠する寸前だった力が気を抜けば放出してしまうほどにあふれている。

「ではちゃちゃっと済ませましょう!」

審神者は札を手に取り、額に当てるように持つ。

祓はらへ給たまへ 清きよめ給たまへ
守まもり給たまへ 幸さきはへ給たまへ

「悪しきもの、その御霊を封印すべし!」

祝詞を叫び、札を時間遡行軍に向かって投げる。
札は時間遡行軍の目前で止まると、時間遡行軍も時が止まったように微動だにしない。

「清光!撤退!」
「りょうかい!」
「先生方も今のうちに食堂へ走って!この封印は持って30分くらいだと思います!」
「わかりました!皆さん、移動魔法を使います。こちらに固まって!」

学園長の魔法で一行は食堂へ移動した。
その際、審神者の目にはオーバーブロットの化身だと思われる黒い人型の異形が泣いているように見えた。
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