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砂糖魔女の慈悲


「ここは、どこかしら…」

わたくしは王国にある紫の街(ヴィル・ヴィオレ)で魔法薬店を営んでいたはず。ココアの砂漠にエクルの欠片を取りに行こうとして…

「なんにせよ、わたくしを棺に入れるなんて命知らずな子はオシオキしなきゃね」

そんなこと思っていたらギギィと重たい音がして棺が開いた。

「おやおや、ずいぶん寝坊助な新入生…っ!」
「--ブリエ・エトワール<輝く星>」
「まぶしっ!!いきなり魔法を使ってはいけません!」
「その悪趣味なマスクを取ってくださる?あなたはオグルかしら?」
「はっ!?オグル?というか貴方女性ではありませんか?」
「わたくしを見て男だと思うのならその瞳くださらないかしら。そんな不良品意味ないでしょう。魔法薬に役立ててあげるわ」
「貴方、どこから来たんです」
「…ロワイヨームよ」
「はい?そんな国?地域は存在しませんが…まあいいでしょう。ここ100年は闇の鏡の選定間違えなどありませんでしたが、女性であるあなたはこのナイトレイブンカレッジに入学できませんので、お帰りいただきましょう。--闇の鏡よ、この者を在るべき場所へ」
『…無い。その者の世界は存在せぬ…』
「はい?」
「あらあら。この鏡さんは随分と使い込まれて己の役割を全うできなくなったのかしら?そんな鏡は粉々にして差し上げましょうか…?」
「ちょ、それはやめてください!まったく…これは大変なことになりました…。ひとまず貴方は学園長室に一緒に来てください。--生徒の皆さんは各自寮長に付いて説明を受けてください。解散!」

---学園長室---

「では貴方は異世界の魔法使いということですね」
「ええ。魔界にある街で魔法薬を商品にお店を持っておりましたの」
「魔法薬とはどんなものですか?」
「基本的な惚れ薬や治癒に関するお薬、好きな味になるジュースやマカロンなどお菓子もありましたし、お客様の要望に合わせて調合もしてましたわ」
「なるほど。とりあえず、行く先も身寄りもない貴方をこのまま外に出すのもなんですから、しばらくこの学園で雑用係として雇ってあげます!私やさしいので!とりあえず月給はこのぐらいで…」

…何言ってるかわからないわ。異世界に来たのはあの闇の鏡とやらが勝手にこのわたくしを呼びつけたからでしょう。なのに帰り道も用意しないでこの馬鹿カラスはよりによって雑用係をやらせるのかしら?王国御用達の魔法薬や魔法菓子を作る超一流の腕をもつわたくしが雑用?いい度胸ね…エフィカス・ヴォア<効果的な声>

「…学園長さん、わたくし、こう見えて優秀な魔女ですの。もっと適材適所というものがあるのでは…」
「はわわわわわっ!そ、そんな耳元でささやくなんてはしたない!」

発動した魔法は相手にとって効果的な声になるもの。効果的というのはその場の状況や相手によって違うけれども、基本男性に対しては色っぽい声になることが多いらしいですわ。
それこそ耳元で秘密のお話をするような…

「…?わたくしここから一歩も動いておりませんわ。それより、雑用というお話ですが…すべての非はそちらにあるのにこの世界の右も左もわからないわたくしをこの学園で面倒見てくださることには感謝しますわ。でも雑用はすこ~しひどくありませんか?…働くことについては異論ありませんの。そう、例えばわたくしはお話をしたり、魔法薬を作ったり、治癒魔法なんかも得意ですの…」
「はわっわわわっ!わ、わかりました!で、では、養護教諭ということで、生徒が怪我したり、何かあったとき相談に乗るなどそういうお仕事はいかがでしょう!」
「…それでいいですわ。お給料についてはまたご相談させてください。なんせわたくしはこの世界の物価どころか通貨さえ知らないのですから」
「は、はひぃ…」

さて、仕事は決まったから、住処はどうしようかしら

「ねぇ、学園長。わたくし、どこに住めばよいのかしら…?」
「あわわっ…あ、あの」

話が進みにくいわね。とりあえず魔法の効果…あと1時間くらいね…まあしょうがないわ。

「教員寮は空いてますが、何分教員も男しかいないので…あっ!今は使われていない寮があるのですが、そこはどうでしょう。やや古いですが趣きはありますよ!」
「…とりあえず確認だけしたいわ」

…結果だけいうと、あんな汚い埃どころか鍵もかけられない荒れ果てたオンボロは論外ですわ。教員寮が開いているということでしたのでそちらを使わせていただくことにしました。

「とりあえず模様替えと、異世界なら魔法とかいろいろ確認しなきゃね…」

魔法は元の世界と同じように使えている気がするわ。杖は肌身離さずでよかった。じゃなきゃあのカラスを贄にしてでも魔界へ帰る方法を見つけなきゃいけなかったわ。
まずは寝室から。
白い壁をダークブルーにして上半分は星空のように、
床はダークウッド調にして絨毯を敷きましょう。雲のような形がかわいいわ。パステルな色がいいわね。
ベッドはボルドーのストライプでフリルたっぷりのクッションも必要ね。そうだ天蓋付にしましょう。
チェストは黒で落ち着いた感じにね。
ソファも必要ね。ベッドと同じ柄で金のフレーム。3人掛けと、いちおう一人掛けも。
ドレッサーは黒でいいかしら。鏡は大きく、姿見も忘れないで。
あら、備え付けのシャンデリアはこのままでいいかしら。
次はリビングね。
人が来るかもしれないし、明るい方がいいかしら…いや、別に好きにしていいわよね。
壁紙はグリーンとアイボリーブラックのストライプ。
…あの辺に飾り棚が欲しいわ。ソファは3人掛けと1人掛け2つは必要ね。色はマホガニーで金縁は必須。
テーブルはテキトーな木製でいいし、そういえばテレビってあるのかしら。明日聞きましょう。
調合スペースが欲しいわ。あっちのキッチンと隣の部屋の壁をなくせばいいわね。
そっちは明日以降にしましょ。今日は疲れちゃったもの。

---翌日---


コンコン

「どうぞ、お入りになって」
「失礼します。」

学園長かしら。ちょうどよかったわ。
あら、ところどころ白髪交じりだけどグレージュの髪がきっちりとなでつけられている方、ホワイトとブラックのツートンカラーの方、筋骨隆々の方はどなたでしょう。

「朝早くに申し訳ありません。こちらのお三方を紹介しておきたくてですね…」
「まあ、そうでしたの。まだ散らかっておりますけど、こちらへおかけになって」

昨日、リビングまで手を付けていてよかったわ。
というよりご飯とかはどうなっているのかしら。手持ちのお菓子があるから3食きっちり出なくても構わないけど、お菓子だけではさすがに嫌よ。


「みなさま、紅茶でよろしいかしら?といってもわたくしが飲んでいたものと同じダージリンになりますけど。あと、よろしければこちらお召し上がりになって」
「レディ、貴女のお手を煩わせるわけにはいかない。それに…」
「まあ、女性からのお誘いをお断りするなんて…」
「ぜひ、いただきます」
「ふふ、こちらは普通のキャンディですわ。お近づきのしるしにどうぞ」
「普通のキャンディ…ものすごくキラキラしていますな…。普通ではないキャンディもある、ということですかな?」
「そのキャンディは手作りですの。宝石をイメージしているので身に着けても映えるようにキラキラしているのですわ。また上手に踊れるようになるキャンディやかわいい声になるキャンディなどもありますわよ。…お茶をどうぞ」
「ありがとうございます。さて、まずはこちらのトレイン先生から順に紹介しますから、そのあと、アナタからも一度自己紹介お願いします」
「わかりましたわ」
「…モーゼス・トレインです。NRCでは魔法史を担当しています。この子は使い魔のルチウスです」
「デイヴィス・クルーウェル。レディの部屋にぶしつけに申し訳ない。主に錬金術、魔法薬学を担当している」
「俺は体力育成や飛行術を担当しているバルガス!力仕事や筋肉に関することは俺に任せてくれ!」
「そして私はディア・クローリー。昨日も言いましたがこの名門ナイトレイブンカレッジの学園長を任されています」
「みなさま、ありがとうございます。わたくしは、カメリア・ジェルべ・マカロンと申しますわ。魔界で魔法薬やお菓子を作ってそれを売って生計を立ててましたの」
「カメリアさんには養護教諭として働いていただく予定です。カメリア先生、私は学校内にいないことも多いので、何かあればこの3人に言ってください」
「ええ。手違いとはいえ働くからには手を抜いたりしませんわ。みなさま、どうぞよしなに」
「ミス・マカロンは魔法薬に精通しておいでで?」
「これでも魔女としては優秀でしたわ。ただこちらとどの程度同じくできるかはわかりませんが…。よろしければこちらの世界の魔法薬を見せていただいたりしてもよろしいかしら?」
「では、俺が魔法薬の用意をしましょう。素材もこの学園には自生していたりするので後々そちらも案内します」
「まあありがとうございます。…わたくし、この身一つで来てしまったので、お洋服や身の回りのもの、お食事などどうすればよいか聞いてもよろしいでしょうか?」
「あっ、私としたことがうっかりしていました!食事については基本は学園の方に食堂があるのでそちらでもいいですし、校舎の外れにミスターSのミステリーショップがあるので大抵のものはそこで手に入ります。服などもありますが、ショッピングがしたい場合は休日に鏡で学校外へ行くことができますので、街に出て買うこともできます」
「ミス・マカロン、よろしければ街を案内させてください。ファッションには知見があるので貴女のお気に召すショップをご紹介いたします」
「まあクルーウェル先生、お気遣いどうもありがとうございます。ぜひそうして欲しいですわ」
「では今日のところは食堂で朝食にしましょう。マカロン先生には来週から働いていただくということで、その間に契約書やこまごまとしたものを行いますので」
「ええ。…トレイン先生、契約する際に貴方にも同席していただきたいのですがよろしいかしら?何分こちらの世界のことを知らないので労働基準や賃金についてもどのくらいが妥当かわかりませんの。トレイン先生はなんだかお詳しそうだし…無理かしら?」

この中で気難しそうな顔をして、そういった面では一番頼りになりそうな人はトレイン先生だと判断したけどどうかしら?
まあ、たとえ学園長と共謀しようが魔法を使えばいいだけだけど…

「わかりました。図書館にはその手の法律書もあるので一緒に持参しましょう」
「ふふっ、ありがとうございます」


ひとまずショップや学外のこと、トレイン先生たちに労働について、やることはまだまだたくさんありますわね。

「ところで昨日もお聞きしましたが、アナタの魔法はこちらの世界のものとはずいぶん異なるものです。いくつかお答えいただきたいのですが、よろしいですか?」
「ええ、クロウリー学園長。そんなに怖い目をしなくとも嘘偽りなく答えさせていただきますわ。これからお世話になるんですもの」
「…では、魔法の動作についてですがアナタは杖を使うそうですね。見せて頂いても?」
「こちらになりますわね。ああ、宝石が壊れないように慎重に扱ってくださるとうれしいですわ。安いものもありますけど、ほとんどは小娘には買えない高価なものですから」

わたくしがいつも身に着けているブレスレットからチャームを1つ外すとチャームは徐々に大きくなり、全長50センチほどの大きさになった。
トップについている深紅のルビーは直径8センチの超大型のものであり、これは手に入れるのに非常に苦労した覚えがあるのだから。万が一欠けたりしたらとんでもない弁償額になるでしょうと言外に匂わす。

「これは輝石の国でもなかなか見れないほどの質と大きさだな!」
「ふ~む、輝石の国出身のバルガス先生がいうのなら間違いないでしょう」
「ミス・マカロン、たくさんついている宝石には何か意味が?」
「わたくしの世界の魔法は、基本的に杖を通して魔法を使います。まあ杖じゃなくても何か媒体があればいいんですが。一般的に杖なのは宝石を付けるのに適した形であり、杖そのものが特別な素材でできているから魔力の伝達効率が最も良いとされているからです。そしてこの石の役割ですが…」

説明が結構大変というか、概念的なことって抽象的になりがちで難しくなってしまうのよね。
例を出すのがこちらとしてもやりやすいのだけれども…

「こちらの世界では例えばお掃除をするとき魔法を使いますか?」
「ええ、掃除用具にこのマジカルペンと呼ばれるもので、脳内で掃除用具が掃除しているところをイメージする…といった感じですね」
「呪文とかはありませんの?」
「あるものもありますが、いわゆる掃除や着替えなど生活に基づくものの多くは呪文などはありません」

トレイン先生もお掃除なさるのかしら?
というか既婚なのかしら?

「そうなるとその魔法を使う度にイメージしなければなりませんのね」
「そうなりますな」
「であればこの石の役目はそのイメージすることですわ。この石には特定の魔法が使えるようになったり、魔法効果を高める役割もします。例えばこのアイオライは寒色系のお花を出すことができます――フルール・スピラル=すみれのスノードーム」

杖を一振りして呪文を唱え、すみれを指定する。そうすると菫がわたくしたちの上でドーム状になって空中浮遊している。

「す、すばらしい!」
「まあ、こんなところですね。このすみれはあとで砂糖漬けにでもしますわ」

また一振りして出した菫をまとめて瓶に入れ、キッチンへ移動させる。

「このように、鮮明なイメージはせずとも使える魔法を増やすことができます」
「それはどんな宝石でもできるのですか?」
「…どんなというのは種類の話ではございませんわよね?種類の話ならばイエスです。宝石は何でもいいですわ。宝石を魔法石に変えるには魔法具技師たちによって、その宝石にあった魔法を付与させることが必要になります。なので、例えばこちらの宝石を今すぐこの杖に着けたからと言って何か新しい魔法が使える…ということにはなりませんわ」
「ふーむ、なるほど。では、次の質問ですが…」


あれからいくつかの質問に答え、ようやくお開きになりました。
本当に面倒だったけど、これからの安泰な生活の為に仕方ないわね。
来週からは養護教諭として働くけど、まあなんとかなるかしら。


…あら、かわいい声になるキャンディの在庫が一つ減っているような?気のせいね。数え違いくらい誰にでもあることだわ。


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