梅「審神者として出来ることは全てやらなきゃ」

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女性審神者の名前です。
女性審神者名

 ~薙side~

 ―翌朝。今日は私が初めて朝礼に出る日。そして、下で過ごし始める日。

 どんな人がいるんだろう。
 本丸はどんなところなんだろう。
 私は馴染めるのかな。


 「大丈夫ですよ、薙。僕がいますから」


 「ありがとう」と口を動かす。手に乗せて撫でると気持ち良さそうに目を細めた。


 「さぁ薙、行こう」


 主様と一緒に部屋を出て階段を下りる。上り下りの練習をした日々より冷え込んでいる。雪が降るかもね、と話しながら廊下を歩いていると、長谷部さんの大声と共に鈴が鳴り響いた。私を心配してか、清光くんや堀川くん、石切丸さん、皆と由縁のある人たちが早めに来て待ってくれていた。


 「薙さん、おはよう」


 にっこりと優しい笑みで声を掛けてくれた石切丸さんに小さく「おはようございます」と口を動かす。


 「あんたが薙か。俺は和泉守兼定。かっこ良くて強~い刀だぜ。ヨロシクな!」


 「僕は大和守安定。前の主が清光と同じなんだ。よろしくね」


 「おれは長曽祢虎徹。こいつらの前の主たちを率いていた近藤勇の刀だ。贋作だが、それなりの働きをしているつもりだ。よろしく頼む」


 もふ丸を通して私も軽く自己紹介をして皆を待つ。しばらくしてゾロゾロと集まり、多くの視線に思わず石切丸さんの後ろに隠れてしまったぐらい人が多い。


 「薙さん、大丈夫ですからね」


 緊張と焦りで、声を掛けてくれた堀川くんのことも壁にするかのように石切丸さんの隣に引っ張ってしまった。


 「薙、緊張しすぎ」


 そう呆れながらも清光くんも石切丸さんの隣に来てくれて、「じゃあ僕も」と安定くんもその隣に立つ。そんな様子に主様も「それなら私はここ~」と石切丸さんの前に移った。
 そして朝礼は主様からの挨拶で始まった。


 「皆も知っての通り、新しく顕現した脇差の薙が今日から下で過ごすことになったよ。お香を焚いた部屋にいなくちゃならない時間が多いけど、ヨロシクね」


 「はーい!」と元気の良い返事に主様もにっこりと笑った。


 「さ、薙」


 主様に優しく手を引かれて皆の前に立つ。


 「改めて、薙と申します。この名前は主様からいただきました。そして僕は話せない薙の代わりにコミュニケーションをとらせていただく、ハ・ム・ス・タ・ーの!付喪神、もふ丸と申します。皆様よろしくお願いいたします」


 “ハムスター”を強調した自己紹介に皆から笑いが洩れる。心当たりのある安定くんと和泉守さんは「ごめんって」「悪かったよ」と謝っている。
 それから内番が伝えられ、担当の人がそれぞれその場所へ向かって解散となった。


 「薙の部屋は既に用意してある。案内は加州と大和守に任せているから、行ってみるといい」


 「俺たちに任せて。本丸の案内もするからさ」


 「ありがとうございます」


 石力丸さんたちともここで解散して、まずは宛がわれた部屋に連れて行ってもらう。空気の入れ換えをしていたのか、障子は開いたままだった。


 「ここが薙の部屋ね」


 机には主様と清光くんが買ってくれたシャンプーやトリートメント、ボディークリームが桶に入れられて置かれていた。他にも必要な文房具もあって、あまり部屋から出られない私が過ごしやすいように色々と配慮してくれていた。
 本体を置いてお香を焚き、2振りに本丸を案内してもらう。
 露天風呂、内湯、馬小屋。内番の作業をこなす人たちと改めて挨拶をして、次にやって来たのは花壇だった。


 「わ~、今日もキレイに咲いてるね」


 「…あ」


 様子を見に来ていた小柄な少年が私を見て固まった。


 「えっと、僕は…」


 私が怖いのかな…?


 「大丈夫、緊張してるだけ」


 「ほら、小夜。大丈夫だから、ね?」


 「僕は…、小夜左文字です…。兄さまたち…江雪兄さまと宗三兄さまと花を育てています。その…」


 名前を聞いてピンときた。堀川くんが花の名前すら思い出せない私にお見舞いの花が水仙で、この人たちが用意してくれたと教えてくれたんだった。


 「薙にお見舞いの花をくれたのは小夜くんですね」


 「あ、はい…」


 「ありがとうございます。とってもキレイでした。薙も嬉しかったと言っていますよ」


 「良かったです…」


 小夜くんが小さく微笑んだ。その様子に清光くんと安定くんが少し驚いていて、あまり感情を出せない子なのだと気付いた。


 「薙、体調はまだ大丈夫そ?」


 「大丈夫ですよ」


 「それなら特別な場所に案内しまーす」


 何だろう?と思いつつ2人について行った先は、庭の端にある小さな木だった。色とりどりの短冊が飾られていて、「見てみて」と言われるがままに近付いてみると、それには色々なことが書かれていた。


 “薙さんが早く元気になりますように”


 「…!」


 「薙へのメッセージだよ。皆が書いてくれたんだ」


 「良かったですね、薙」


 “お酒が飲めるようでしたら、一緒に飲みましょう”


 “美味しいお酒とつまみを用意して待ってるよん”


 “俺もとっておきの甘酒を用意して待ってるぜ!”


 この3振りはお酒が好きで、毎日のように飲んでいること、居酒屋風の部屋(これは私にはまだどういったところなのか分からない)もあって、飲めるなら多分楽しい場所だとも教えてくれた。
 他にもたくさんの短冊が飾られていた。万屋に買い物に行こうとか、雪が降ったら一緒に遊ぼうとか、春になったらお花見をしよう、とか。心が温まる短冊にじんわりと視界が霞む。
 「ありがとう」だけではおさまらないこの気持ちは、きっと人の身を得たからこそ感じられるものだと思う。

 この気持ちを大切にしよう。

 そう思って近くの短冊を撫でた。
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