女性審神者の名前です。
桜「僕たちって色んな逸話があったりするんだな」
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~薙side~
内湯から戻って薄着で火照った体を冷ましていると、ばたばたと走る足音が聞こえた後、焦り気味の主様から声が掛かった。主様なら問題ないだろうそのまま廊下に出ると、主様が1枚の紙と私、陸奥守の部屋を順々に見る。
「これ、薙と陸奥守に見てほしくて来たんだけど…」
陸奥守の部屋は暗いまま。内湯に向かう前から明かりはついていなかった。
「先に2振りに見てもらいたかったものなの」
渡されたのは初めて見る資料。主様だけがプリントアウトしていたもので、内容を見て目を見開いた私の反応を見た主様は「やっぱりあの時に話せば良かった」と後悔している。
幕末組と話していた時にこの資料を見せなかったのは、私が三条派で、更に姫様があの豊臣秀吉公の側室だと知った時のみんなの動揺がすごくて、まずは私と陸奥守だけに話そうと判断したから、とのことだった。
そして、一期さんたちと話した後にちょうど陸奥守が戻って来て、改めて私たちにこの資料を見せるチャンスだと思ったら、陸奥守と私が嬉々として写真を撮りに行ってしまい、タイミングを逃してしまったというのもあるという。
…言われてみれば主様の声がした気がする。
その後もみんなと話した分執務に追われてしまって完全にタイミングを逃して今に至る、というわけだ。
普段はプライベートも考えて、主様は基本的に1振り1振りの霊力を視ることはない。怪我をしたり、具合が悪くなったらそれを感じるようにしている程度だ。
それでも嫌な予感がして陸奥守の霊力を視てみたら、彼の心境まで伝わってきて、良くない方向に強くなっている、と下唇を噛んだ。まさかと聞いてみれば予感は的中してしまって、「しまった」と額に手を当てた。
刀工と刀派が分かったらみんなとのこれまでの仲が崩れてしまうかもしれないと、結局は私の杞憂だったことが、陸奥守にとってはそうではなかったのだ。
この資料を知らなくても、私は私で鳴狐さんがしてくれたようにフォローすれば良かったのに、陸奥守があまりにも嬉しそうに撮るものだから、私もすっかり楽しくなって、心から笑って過ごしてしまっていた。三条派のみんなと夕餉を食べたのもそうだ。写真を撮っていたあの姿は無理に明るく振舞っていたものだと考えたら、心が罪悪感に包まれた。これは私にも責任がある。
そんな陸奥守は今、次郎太刀さんのお店にいるらしい。
「私に任せていただけませんか」
「…分かった、薙に任せる」
もふ丸には部屋で留守番をしてもらうことになり、早速次郎太刀さんのお店に向かった。
…その途中。
「あぁ、薙殿。ちょうどあなたのところへ向かおうとしていたところでした」
「陸奥ですね?」
「えぇ」
「私も向かっていたところです」と早歩きで向かう。
入る前に耳を立ててみると「三条派と一緒の方がえいがやろうか…」と零している。その先は声が小さくて聞こえないながらも、話に付き合っている不動くんの「そんなことないって」と励ます声はもう何度も伝えている声色だ。
「陸奥守殿には、薙殿を連れて来ることは伝えていません」
「お手数をお掛けしました…」
陸奥守の落ち込みようはこれ以上見ていられない。早く話さなければ。
「失礼します」
「あぁ、待ってたよ」
陸奥守は3本の徳利を空け、4本目を手にしていた。陸奥守は少し座っている目で私を見た後、居心地が悪そうに俯いてしまった。
「陸奥、行くよ」
そんな陸奥守の近くにゆっくり近づいて、お猪口に傾けようとしていた徳利をそっとテーブルに戻す。心配そうに私たちを見るみんなを見渡して小さく頭を下げた。
俯いたままの陸奥守が立ちあがる。お酒が入っているのもあって足取りは少し覚束ない。みんなに無言で見送られて店を出た。
「……」
「……」
お互いの部屋の前で陸奥守に座ってもらい、「お水取って来るね」と伝えたと同時に手首を掴まれた。ここに戻るまで見れなかった陸奥守の表情。ようやく上げてくれた顔は寂しそうで、でも私が来てくれて安心したような、これまで見たことのない表情で私を見つめている。
「龍馬が今のわしを見たら、“土佐の男がみっともない”って怒るがやろか」
「……」
そこでふと思い出した。
「土佐の男じゃろう。もっと堂々としちょればえいのに」
「…?!」
「って綾菜様の本丸の陸奥守が言ってた」
“何を言うてもそっちのわしは変わらんろうし、特に伝えることはないぜよ”とは目の前にいる陸奥守には伝えてある。ただ、まさかこの言葉を伝える日が来るとは思わなかった。しかもこのタイミングで。
「私が三条派のみんなと一緒の方が良かったら、今こうやって話してないよ」
「き、聞いてたがか?!」
「うん」
「ほんま、向こうのわしの言う通りじゃ…」と肩を落とした。少しずついつもの陸奥守に戻りつつあって、くすっと笑って資料を差し出した。
「読んでみて」
私の部屋の明かりはつけたままにしてある。それを頼りに資料に目を凝らし、私と同じように目を見開いた。
資料にはこう記されている。
“埋忠明寿と関わりのある人物 坂本龍馬”
「は…?」
「私と陸奥はちゃんと繋がりがあったんだよ。…ほら、ここ」
「“坂本龍馬は埋忠明寿の脇差を差していた”、じゃと…?」
つまり、坂本龍馬が“才谷梅太郎”を名乗っていた頃、埋忠明寿が施した梅の彫刻を自身の名前と重ねて、それに魅入られて買った、ということ。
「そうやったがか…」
坂本龍馬を新たに知った陸奥守の顔が、いつも見ている明るい表情に戻っていく。酔いも覚めてきたみたいだ。
「そうか、そうやったがか!ほんじゃあきにわしとおんしはこがな関係やったんやねや!」
「…多分ね。っていうか土佐弁強すぎ」
「すまんすまん、つい」
実は遠くても繋がりがあったと知ったとはいえ、どうして陸奥守はこんなに目を輝かせているんだろう。
…まぁ、いっか。
改めて三条派のみんなとはしゃぎすぎてしまったことを謝ると、「なんちゃあない」と眩しい笑顔を見せ、すくっと立ち上がった。
「ほんなら祝杯や!飲み直すぜよ!」
「少しだけだからね?」
「そう言うても飲むがやろ?」
笑い合いながら次郎太刀さんのお店に戻ると、先ほどとは打って変わってにこにこしている私たちに、次郎太刀さんも景気良く新しく日本酒を開けた。事情を話せば「単純な奴~」と不動くんに笑われつつ、それでみんなで乾杯した。
次の日、陸奥守が二日酔いで朝礼に出たのは言うまでもない、かな。
内湯から戻って薄着で火照った体を冷ましていると、ばたばたと走る足音が聞こえた後、焦り気味の主様から声が掛かった。主様なら問題ないだろうそのまま廊下に出ると、主様が1枚の紙と私、陸奥守の部屋を順々に見る。
「これ、薙と陸奥守に見てほしくて来たんだけど…」
陸奥守の部屋は暗いまま。内湯に向かう前から明かりはついていなかった。
「先に2振りに見てもらいたかったものなの」
渡されたのは初めて見る資料。主様だけがプリントアウトしていたもので、内容を見て目を見開いた私の反応を見た主様は「やっぱりあの時に話せば良かった」と後悔している。
幕末組と話していた時にこの資料を見せなかったのは、私が三条派で、更に姫様があの豊臣秀吉公の側室だと知った時のみんなの動揺がすごくて、まずは私と陸奥守だけに話そうと判断したから、とのことだった。
そして、一期さんたちと話した後にちょうど陸奥守が戻って来て、改めて私たちにこの資料を見せるチャンスだと思ったら、陸奥守と私が嬉々として写真を撮りに行ってしまい、タイミングを逃してしまったというのもあるという。
…言われてみれば主様の声がした気がする。
その後もみんなと話した分執務に追われてしまって完全にタイミングを逃して今に至る、というわけだ。
普段はプライベートも考えて、主様は基本的に1振り1振りの霊力を視ることはない。怪我をしたり、具合が悪くなったらそれを感じるようにしている程度だ。
それでも嫌な予感がして陸奥守の霊力を視てみたら、彼の心境まで伝わってきて、良くない方向に強くなっている、と下唇を噛んだ。まさかと聞いてみれば予感は的中してしまって、「しまった」と額に手を当てた。
刀工と刀派が分かったらみんなとのこれまでの仲が崩れてしまうかもしれないと、結局は私の杞憂だったことが、陸奥守にとってはそうではなかったのだ。
この資料を知らなくても、私は私で鳴狐さんがしてくれたようにフォローすれば良かったのに、陸奥守があまりにも嬉しそうに撮るものだから、私もすっかり楽しくなって、心から笑って過ごしてしまっていた。三条派のみんなと夕餉を食べたのもそうだ。写真を撮っていたあの姿は無理に明るく振舞っていたものだと考えたら、心が罪悪感に包まれた。これは私にも責任がある。
そんな陸奥守は今、次郎太刀さんのお店にいるらしい。
「私に任せていただけませんか」
「…分かった、薙に任せる」
もふ丸には部屋で留守番をしてもらうことになり、早速次郎太刀さんのお店に向かった。
…その途中。
「あぁ、薙殿。ちょうどあなたのところへ向かおうとしていたところでした」
「陸奥ですね?」
「えぇ」
「私も向かっていたところです」と早歩きで向かう。
入る前に耳を立ててみると「三条派と一緒の方がえいがやろうか…」と零している。その先は声が小さくて聞こえないながらも、話に付き合っている不動くんの「そんなことないって」と励ます声はもう何度も伝えている声色だ。
「陸奥守殿には、薙殿を連れて来ることは伝えていません」
「お手数をお掛けしました…」
陸奥守の落ち込みようはこれ以上見ていられない。早く話さなければ。
「失礼します」
「あぁ、待ってたよ」
陸奥守は3本の徳利を空け、4本目を手にしていた。陸奥守は少し座っている目で私を見た後、居心地が悪そうに俯いてしまった。
「陸奥、行くよ」
そんな陸奥守の近くにゆっくり近づいて、お猪口に傾けようとしていた徳利をそっとテーブルに戻す。心配そうに私たちを見るみんなを見渡して小さく頭を下げた。
俯いたままの陸奥守が立ちあがる。お酒が入っているのもあって足取りは少し覚束ない。みんなに無言で見送られて店を出た。
「……」
「……」
お互いの部屋の前で陸奥守に座ってもらい、「お水取って来るね」と伝えたと同時に手首を掴まれた。ここに戻るまで見れなかった陸奥守の表情。ようやく上げてくれた顔は寂しそうで、でも私が来てくれて安心したような、これまで見たことのない表情で私を見つめている。
「龍馬が今のわしを見たら、“土佐の男がみっともない”って怒るがやろか」
「……」
そこでふと思い出した。
「土佐の男じゃろう。もっと堂々としちょればえいのに」
「…?!」
「って綾菜様の本丸の陸奥守が言ってた」
“何を言うてもそっちのわしは変わらんろうし、特に伝えることはないぜよ”とは目の前にいる陸奥守には伝えてある。ただ、まさかこの言葉を伝える日が来るとは思わなかった。しかもこのタイミングで。
「私が三条派のみんなと一緒の方が良かったら、今こうやって話してないよ」
「き、聞いてたがか?!」
「うん」
「ほんま、向こうのわしの言う通りじゃ…」と肩を落とした。少しずついつもの陸奥守に戻りつつあって、くすっと笑って資料を差し出した。
「読んでみて」
私の部屋の明かりはつけたままにしてある。それを頼りに資料に目を凝らし、私と同じように目を見開いた。
資料にはこう記されている。
“埋忠明寿と関わりのある人物 坂本龍馬”
「は…?」
「私と陸奥はちゃんと繋がりがあったんだよ。…ほら、ここ」
「“坂本龍馬は埋忠明寿の脇差を差していた”、じゃと…?」
つまり、坂本龍馬が“才谷梅太郎”を名乗っていた頃、埋忠明寿が施した梅の彫刻を自身の名前と重ねて、それに魅入られて買った、ということ。
「そうやったがか…」
坂本龍馬を新たに知った陸奥守の顔が、いつも見ている明るい表情に戻っていく。酔いも覚めてきたみたいだ。
「そうか、そうやったがか!ほんじゃあきにわしとおんしはこがな関係やったんやねや!」
「…多分ね。っていうか土佐弁強すぎ」
「すまんすまん、つい」
実は遠くても繋がりがあったと知ったとはいえ、どうして陸奥守はこんなに目を輝かせているんだろう。
…まぁ、いっか。
改めて三条派のみんなとはしゃぎすぎてしまったことを謝ると、「なんちゃあない」と眩しい笑顔を見せ、すくっと立ち上がった。
「ほんなら祝杯や!飲み直すぜよ!」
「少しだけだからね?」
「そう言うても飲むがやろ?」
笑い合いながら次郎太刀さんのお店に戻ると、先ほどとは打って変わってにこにこしている私たちに、次郎太刀さんも景気良く新しく日本酒を開けた。事情を話せば「単純な奴~」と不動くんに笑われつつ、それでみんなで乾杯した。
次の日、陸奥守が二日酔いで朝礼に出たのは言うまでもない、かな。
