女性審神者の名前です。
桜「僕たちって色んな逸話があったりするんだな」
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~薙side~
静かな部屋に場所を変え、席に着いたと同時に体から力が抜けた。
「気分は悪くなっていないか?」
「問題ありません、大丈夫です」
水心子さんから飲み物を受け取ってごくごくと飲んだ。体は水分を欲していたようで、1本だけでは足りず、清麿さんが自分の分を差し出してくれた。一方では長義さんと主様が端末で埋忠妙寿のデータを呼び出している。
離れたところでも見える“埋忠妙寿”の文字。あの時見た、脇差に生まれ変わった私の記憶が甦った。
“明寿殿。そなたらはとても素晴らしい”
“至極光栄でございます。今回こしらえた刀装はこちらに記してございます。もし直しが必要であれば、いつでもお越し下さい”
“感謝する。だが、どうかこのことは内密に”
“…はい”
“あくまでもそなたらがこしらえたものの1つとしてくれ。条件とはいえ、側室に過ぎない者が刀工に頼んでまで刀を持つことはあってはならないことだと考えておる。多くの者に知られるわけにはいかぬ”
あぁ、やっぱり前例がなかったから隠したんだ。
側室になる条件の1つが、私と一緒に過ごすこと。
私がいれば万が一に対応出来ること。
この城を守れること。
いつ何が起こるか分からない戦乱の時代だからこそ、方々から脅威の芽があっただろう。側室に過ぎなくとも何かが起これば動かなければならない。姫様はそれを危惧してそうお考えになった。私を嫁入り道具にした以上、その用意があって、強い責任感を抱いていたということかもしれない。
姫様が“私の出番がないのは良いこと”、“少し寂しいものがある”と零していたこと、私が脇差としての戦い方が分からなかったこと。実戦経験はなかった、もしくは極端に少なかったというのも頷ける。そして姫様が側室になってから長らく脅威に直面したことはなかった、ということにもなる。
「…え」
主様の声で意識が現実に戻った。何か新しく情報が分かったんだろうか。
「どうされました?」
「埋忠妙寿のデータを見てる、んだけど…」
「薙に見せてもいいのかな」と躊躇する主様。姫様を側室にした人物が絞れる、とのことだった。
「どうする…?」
出来ることなら、自身の力で全てを思い出したい気持ちはある。それが上手くいかないままこの日までを過ごしてきた。けれど目の前に重要な手掛かりがある。この席からほんの少しだけ歩けばそれを知れる。
「……」
ここまで来たのなら…。
意を決し、席を立って端末の前に進んだ。そこには分かりやすく和暦と西暦で表示された年月と共に、彼の来歴、関わったとされる人物の名前が記されていて、名前を見れば必然的に記憶を思い出せるかもしれないと淡い期待を抱いた。
“足利義昭”
“豊臣秀吉”
“豊臣秀頼”
けれど何も思い出せなかった。誰がこんな意地悪をしているんだろう。
「いずれにしても、紅葉薙の前の主が戦国の世に生きたことは間違いなさそうだ」
「そのようだな」
足利義昭のデータを見ていた朝尊さんが私を見た。
「紅葉薙には埋忠明寿は何歳ぐらいに見えたのかな。基準とするならば遥さんだね。年上に見えたのか、年下に見えたのか教えてほしい。それ次第では足利義昭の側室説は除外されるのだが」
年齢的な外見で判断する方法。これは盲点だった。朝尊さんの着眼点は凄い。
「主様より年上かと…」
「ならば足利義昭の側室ではなさそうだ。このデータを見てくれたまえ」
埋忠妙寿側のデータには足利義昭が征夷大将軍であった頃に十代で仕えていたと記載されている。私が見た彼は明らかに主様より年下だった。
「その観点で言えばこちらも絞れる。熟年を過ぎていれば豊臣秀頼、それより若ければ豊臣秀吉となるな」
長義さんの言葉に彼の姿が頭を過る。熟年と呼ばれるほど年を重ねた姿ではなかった。
「こっちも参考にしてみて」と主様が開いている埋忠妙寿のデータを見ると、豊臣秀吉公に召し抱えられ、刀剣界の元締めのような立場となっていた時代があると記されていた。…ということは。
「姫様を側室にしたのは豊臣秀吉公…ですね」
間違いなく“誰もが知る歴史上の人物”に自分でも驚きを隠せない。
更に長義さんが何かを調べようとして、その手を止めた。
「…これから先は紅葉薙が思い出すべきことだ」
「そうだね。僕たちが力を貸すのはここまでにしよう」
ここまで詳細が分かったのならば、側室が誰だったのか調べるのも簡単だ。刀工は誰なのか、刀派はあるのか、姫様は誰なのか。これらを私自身の力で思い出そうと努力してきたことはここにいるみんなが知っている。
「遥さん、これは見せてもいいんじゃないかな」
清麿さんが画面を指す。そこには“三条宗近の25代目子孫”と表示されていた。
「三条宗近は、“三日月宗近”を打ち出した刀工だよ」
「私は三条派ってことですか…?!」
「そうなるね」
ようやく分かった刀派がまさかの三条派。呆然とする中、これまで全く興味がない様子で私たちを見ていた肥前さんから視線を感じて振り向いた。
「紅葉薙、おれを見ても何も感じないのか?」
「えっと、不思議な気持ちにはなっていましたが…」
「それならちゃんと見てみろよ」
おずおずと肥前さんの頭に手を乗せた。
「…あ」
「ここまで調べてて何で気付かなかったんだよてめぇは」
「ごめんなさい…」
そうとしか言えない私と不満げな肥前さんを見た朝尊さんが微笑んだ。
“初代肥前忠吉(忠広)などの優れた弟子を育成”
静かな部屋に場所を変え、席に着いたと同時に体から力が抜けた。
「気分は悪くなっていないか?」
「問題ありません、大丈夫です」
水心子さんから飲み物を受け取ってごくごくと飲んだ。体は水分を欲していたようで、1本だけでは足りず、清麿さんが自分の分を差し出してくれた。一方では長義さんと主様が端末で埋忠妙寿のデータを呼び出している。
離れたところでも見える“埋忠妙寿”の文字。あの時見た、脇差に生まれ変わった私の記憶が甦った。
“明寿殿。そなたらはとても素晴らしい”
“至極光栄でございます。今回こしらえた刀装はこちらに記してございます。もし直しが必要であれば、いつでもお越し下さい”
“感謝する。だが、どうかこのことは内密に”
“…はい”
“あくまでもそなたらがこしらえたものの1つとしてくれ。条件とはいえ、側室に過ぎない者が刀工に頼んでまで刀を持つことはあってはならないことだと考えておる。多くの者に知られるわけにはいかぬ”
あぁ、やっぱり前例がなかったから隠したんだ。
側室になる条件の1つが、私と一緒に過ごすこと。
私がいれば万が一に対応出来ること。
この城を守れること。
いつ何が起こるか分からない戦乱の時代だからこそ、方々から脅威の芽があっただろう。側室に過ぎなくとも何かが起これば動かなければならない。姫様はそれを危惧してそうお考えになった。私を嫁入り道具にした以上、その用意があって、強い責任感を抱いていたということかもしれない。
姫様が“私の出番がないのは良いこと”、“少し寂しいものがある”と零していたこと、私が脇差としての戦い方が分からなかったこと。実戦経験はなかった、もしくは極端に少なかったというのも頷ける。そして姫様が側室になってから長らく脅威に直面したことはなかった、ということにもなる。
「…え」
主様の声で意識が現実に戻った。何か新しく情報が分かったんだろうか。
「どうされました?」
「埋忠妙寿のデータを見てる、んだけど…」
「薙に見せてもいいのかな」と躊躇する主様。姫様を側室にした人物が絞れる、とのことだった。
「どうする…?」
出来ることなら、自身の力で全てを思い出したい気持ちはある。それが上手くいかないままこの日までを過ごしてきた。けれど目の前に重要な手掛かりがある。この席からほんの少しだけ歩けばそれを知れる。
「……」
ここまで来たのなら…。
意を決し、席を立って端末の前に進んだ。そこには分かりやすく和暦と西暦で表示された年月と共に、彼の来歴、関わったとされる人物の名前が記されていて、名前を見れば必然的に記憶を思い出せるかもしれないと淡い期待を抱いた。
“足利義昭”
“豊臣秀吉”
“豊臣秀頼”
けれど何も思い出せなかった。誰がこんな意地悪をしているんだろう。
「いずれにしても、紅葉薙の前の主が戦国の世に生きたことは間違いなさそうだ」
「そのようだな」
足利義昭のデータを見ていた朝尊さんが私を見た。
「紅葉薙には埋忠明寿は何歳ぐらいに見えたのかな。基準とするならば遥さんだね。年上に見えたのか、年下に見えたのか教えてほしい。それ次第では足利義昭の側室説は除外されるのだが」
年齢的な外見で判断する方法。これは盲点だった。朝尊さんの着眼点は凄い。
「主様より年上かと…」
「ならば足利義昭の側室ではなさそうだ。このデータを見てくれたまえ」
埋忠妙寿側のデータには足利義昭が征夷大将軍であった頃に十代で仕えていたと記載されている。私が見た彼は明らかに主様より年下だった。
「その観点で言えばこちらも絞れる。熟年を過ぎていれば豊臣秀頼、それより若ければ豊臣秀吉となるな」
長義さんの言葉に彼の姿が頭を過る。熟年と呼ばれるほど年を重ねた姿ではなかった。
「こっちも参考にしてみて」と主様が開いている埋忠妙寿のデータを見ると、豊臣秀吉公に召し抱えられ、刀剣界の元締めのような立場となっていた時代があると記されていた。…ということは。
「姫様を側室にしたのは豊臣秀吉公…ですね」
間違いなく“誰もが知る歴史上の人物”に自分でも驚きを隠せない。
更に長義さんが何かを調べようとして、その手を止めた。
「…これから先は紅葉薙が思い出すべきことだ」
「そうだね。僕たちが力を貸すのはここまでにしよう」
ここまで詳細が分かったのならば、側室が誰だったのか調べるのも簡単だ。刀工は誰なのか、刀派はあるのか、姫様は誰なのか。これらを私自身の力で思い出そうと努力してきたことはここにいるみんなが知っている。
「遥さん、これは見せてもいいんじゃないかな」
清麿さんが画面を指す。そこには“三条宗近の25代目子孫”と表示されていた。
「三条宗近は、“三日月宗近”を打ち出した刀工だよ」
「私は三条派ってことですか…?!」
「そうなるね」
ようやく分かった刀派がまさかの三条派。呆然とする中、これまで全く興味がない様子で私たちを見ていた肥前さんから視線を感じて振り向いた。
「紅葉薙、おれを見ても何も感じないのか?」
「えっと、不思議な気持ちにはなっていましたが…」
「それならちゃんと見てみろよ」
おずおずと肥前さんの頭に手を乗せた。
「…あ」
「ここまで調べてて何で気付かなかったんだよてめぇは」
「ごめんなさい…」
そうとしか言えない私と不満げな肥前さんを見た朝尊さんが微笑んだ。
“初代肥前忠吉(忠広)などの優れた弟子を育成”
