女性審神者の名前です。
桜「僕たちって色んな逸話があったりするんだな」
空欄の場合はデフォルト名になります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~薙side~
“声”を追いかけ、夢を辿る。
いざとなると不安で不安で仕方なかった。
いつも通りみんなと話すことも出来なければ、食事も喉を通らなかった。顕現してから1日がここまで長く感じたのは初めてだった。そんな中、いよいよその時はやって来た。
「出来るだけでいいの。見聞きしたものは声に出して教えて」
「薙、頑張れ」
しっかりと頷く。主様、陸奥守、長曽祢さん、清光くん、安定くん、和泉守さん、堀川くん。みんなの立ち合いの下、大きく息を吸って集中した。
「っ…」
早速、空間に現れた“声”の主の視線。相変わらず私を見る目は鋭く、黒くうごめいている。私も負けまいとそちらを見やって向き合った。
震えだす手。握ってくれたのが誰なのか確かめる余裕は既にない。
“何故!どうしてお前ばかり!!”
何度も何度も聞いた言葉。罵倒されようが何をされようが覚悟は出来ている。それを含んだ眼差しを彼に向けた。
“俺は姫様が生まれるずっとずっと前からあのお家にあった。ずっと俺がお守りしてきた。お前が来てから俺の存在が狂い始めた…!”
“……”
“姫様はお前ばかりを愛した…!ただの集合体に過ぎないお前が紅葉薙 と名付けられ、俺ではなくお前を愛刀にした…!!”
「主様、予想通りです」
憎しみの言葉をぶつけながら少しずつ露わになる“声”の姿。それが濃縮されるように歪みながら人の形となっていく。
“お前さえいなければ、俺が全てをお守り出来たのに!!何故あのお方は姫様にお前なんかを授けたんだ…!”
そこに鍛冶場の様子が背景となって映った。打たれている途中の私。刀工は真剣に、かつ喜びを私に込めている表情で打っていた。そうして夢のように飛び飛びで光景が移り変わっていく中、その刀工が誰かと話しているのが見えた。これは私自身の力で見えているのか、声の主に見せられているのかは分からない。
“〇〇家の為に、姫様の為に作刀を承れるとは、大変名誉なことだ”
どうやら後者らしい。わざと声と重ね、家の名前は聞けなかった。そう簡単に姫様のことを教えてくれないようだ。そして、私が記憶を取り戻せていないことも理解している。顔は分からずとも、これが仕返しだと言わんばかりの表情が浮かんだ気がした。
“ですがお身体も大事になさっていただかないと…”
“何があってもこの薙刀を完成させる。俺は名だたる刀工には足元にも及ばない。他の刀工と比べれば体力もなければ体も弱い。だが刀工として生を受けた以上、この薙刀を完成させるまで俺は死ねない”
会話は続いていく。全てを聞くことは叶わなかった。それでも聞き取れたのは…
“いつ何が起こるか分からない時代”
“今も何処かの国では誰かが討ちとられているだろう”
「戦乱の時代かな…」
“げほっげほっ…”
“今日はお休み下さい!”
“あと少しだ。必ずあの薙刀を完成させてみせる…!”
刀工は命を懸けて私を打ち出してくれたのだと知る。献上してすぐに床に伏せ、“悔いはない”と安らかな笑顔を浮かべて息を引き取ったのだから。
“どうだ、人の命を犠牲にした気持ちは”
歪んだ人の形となった声の主が、にたりと笑って私を見た。
“どうだ、人の命を奪った気持ちは”
「っ…!」
姫様が敵を見つけては斬り捨て、見つけては斬り捨てている場面が浮かぶ。浮かぶというより、見せられている。より鋭くなった精神攻撃に、握られている手に力を込めた。
あの時より強く、何度も味わわされる人を斬る感覚に片方の手で拳を振るって抗う。
「薙!」
それを受け止めてくれたのは陸奥守だった。腕から手首、手首から拳と手を滑らせて握ってくれた温かさにみんながいると安心した一方で、息が上がって酸素が足りず、頭がぼんやりしてきた。それでも人を斬る感覚はリアルに伝わり続けている。ここで目を開けて場面から目を背けたら負けだ。
「耐えろ、薙!」
「おれたちはここにいる!」
彼の思い通りにはさせない。
ぎり、と歯を食いしばる。
これに勝る何かがあれば抜け出せるはず…!
姫様が鬼の形相で敵を斬り続けていても、その方法がないか懸命に脳内を探る。
どれぐらい経っただろう。ふと声が聞こえてきた。
“薙のおかげじゃ。感謝するぞ”
その場面の後なのだと感覚的に分かった。それを乗り越えられたのか、姫様のお声を聞けただけなのかは分からない。それでもだいぶ冷静になれた。
“やらねばならぬことは山ほどあるが、まずは薙の手入れをせねばな…”
“…くそっ!姫様は数百年経った今でもお前を思っているのか?!”
勝った、らしい。
「…抜け出せました」
「良かった…!」
それでも陸奥守は私の手を握る力を弱めない。私もまだ油断は出来ないとその手を握り直した。
姫様はその後、とても深い悲しみに包まれて過ごされていた。姫様だけではない。城内にいる者全員がそうだ。
“母上…皆…。どうか、安らかに…”
弔いの言葉にぎゅっと唇を噛んだ。今回見聞きしてきたものが時系列通りならば、犠牲者が多く出た、ということになる。ただ、家臣たちはともかく、何故母君も亡くなられたのか疑問もある。
“俺も姫様と共に戦にあった。…が、姫様が振るったのはお前の方が多かった”
“どういうことですか?”
ここでようやく彼に声を掛ける。“歴史というのは残酷だ”と項垂れた彼が携えている刀剣を鞘ごと抜き、その場に力なく座った。目を凝らして見てみると、恐らく彼は打刀。“俺は姫様が生まれるずっとずっと前からあのお家にあった”ということは、代々受け継がれていたと考えてもいいのだろうか。それを尋ねれば“そうだ”と呟くように返ってきた。
“ここまで見せてやっても記憶が戻らないのか”
“…はい”
“姫様の名前すら思い出せないのか”
“…はい”
“残念な奴だ”
“姫様もさぞかし悲しまれているだろうよ”と言われてちくりと心が痛む。こう言われては素直に教えてくれないと察し、片方の握られた手をするりと落とした。
“俺よりずっと長く姫様といたお前が、姫様のことをほとんど覚えていないなんて、皮肉なもんだ”
何も言い返せない。「神社に奉納されたから」、「焼身になったから」。そう伝えてもただの言い訳に過ぎない。
“同じ家にいたよしみだ。1つだけ教えてやるよ”
“え?”
“姫様はその後、誰もが知る歴史上の人物の側室になった”
“誰もが知る…?”
“それで俺とお前は離れ離れになったってことだ”
そう言って立ち上がって私に背を向ける。
“俺はお前を許したわけじゃない。これからもせいぜい苦しめ”
そう言い残して空間から消えて行き、目を開けた。隣にいたのは安定くん。もう片方の手を握ってくれていたのは彼だった。
「大丈夫?」
「…はい。声の主と少しだけ話せました」
体の力が抜け、手を握っていた陸奥守と安定くんが私の背中を支える。
「良かった…。よし、今夜はここまでにしよう」
「…待って下さい。まだ何か思い出せるかもしれません」
これまで知らなかった記憶を見られたこと、それをきっかけとして他にもまだ思い出せる何かがあるかもしれないことを伝える。
「分かった」
もう私が暴れることはないと判断して、陸奥守以外のみんなはそれぞれ部屋に戻ることになり、場所を私の部屋へと移すがてら、少し休憩しようと飲み物を取りに厨に寄る。あの感覚を乗り越えられたからか、厨には問題なく入れたことに安心した。
思いの外時間が経っていて、仕込みが終わったのかもう誰もいない。電気をつけていつもの冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「ちょっと試してもいいですか?」
「何を?」
調理台の下から取り出したのは包丁。すっかり克服出来ていて笑顔を見せた。
「よ、良かったぜよ…」
「う、うん…。でもね、包丁を持ってにこにこするのは止めようね…」
“声”を追いかけ、夢を辿る。
いざとなると不安で不安で仕方なかった。
いつも通りみんなと話すことも出来なければ、食事も喉を通らなかった。顕現してから1日がここまで長く感じたのは初めてだった。そんな中、いよいよその時はやって来た。
「出来るだけでいいの。見聞きしたものは声に出して教えて」
「薙、頑張れ」
しっかりと頷く。主様、陸奥守、長曽祢さん、清光くん、安定くん、和泉守さん、堀川くん。みんなの立ち合いの下、大きく息を吸って集中した。
「っ…」
早速、空間に現れた“声”の主の視線。相変わらず私を見る目は鋭く、黒くうごめいている。私も負けまいとそちらを見やって向き合った。
震えだす手。握ってくれたのが誰なのか確かめる余裕は既にない。
“何故!どうしてお前ばかり!!”
何度も何度も聞いた言葉。罵倒されようが何をされようが覚悟は出来ている。それを含んだ眼差しを彼に向けた。
“俺は姫様が生まれるずっとずっと前からあのお家にあった。ずっと俺がお守りしてきた。お前が来てから俺の存在が狂い始めた…!”
“……”
“姫様はお前ばかりを愛した…!ただの集合体に過ぎないお前が
「主様、予想通りです」
憎しみの言葉をぶつけながら少しずつ露わになる“声”の姿。それが濃縮されるように歪みながら人の形となっていく。
“お前さえいなければ、俺が全てをお守り出来たのに!!何故あのお方は姫様にお前なんかを授けたんだ…!”
そこに鍛冶場の様子が背景となって映った。打たれている途中の私。刀工は真剣に、かつ喜びを私に込めている表情で打っていた。そうして夢のように飛び飛びで光景が移り変わっていく中、その刀工が誰かと話しているのが見えた。これは私自身の力で見えているのか、声の主に見せられているのかは分からない。
“〇〇家の為に、姫様の為に作刀を承れるとは、大変名誉なことだ”
どうやら後者らしい。わざと声と重ね、家の名前は聞けなかった。そう簡単に姫様のことを教えてくれないようだ。そして、私が記憶を取り戻せていないことも理解している。顔は分からずとも、これが仕返しだと言わんばかりの表情が浮かんだ気がした。
“ですがお身体も大事になさっていただかないと…”
“何があってもこの薙刀を完成させる。俺は名だたる刀工には足元にも及ばない。他の刀工と比べれば体力もなければ体も弱い。だが刀工として生を受けた以上、この薙刀を完成させるまで俺は死ねない”
会話は続いていく。全てを聞くことは叶わなかった。それでも聞き取れたのは…
“いつ何が起こるか分からない時代”
“今も何処かの国では誰かが討ちとられているだろう”
「戦乱の時代かな…」
“げほっげほっ…”
“今日はお休み下さい!”
“あと少しだ。必ずあの薙刀を完成させてみせる…!”
刀工は命を懸けて私を打ち出してくれたのだと知る。献上してすぐに床に伏せ、“悔いはない”と安らかな笑顔を浮かべて息を引き取ったのだから。
“どうだ、人の命を犠牲にした気持ちは”
歪んだ人の形となった声の主が、にたりと笑って私を見た。
“どうだ、人の命を奪った気持ちは”
「っ…!」
姫様が敵を見つけては斬り捨て、見つけては斬り捨てている場面が浮かぶ。浮かぶというより、見せられている。より鋭くなった精神攻撃に、握られている手に力を込めた。
あの時より強く、何度も味わわされる人を斬る感覚に片方の手で拳を振るって抗う。
「薙!」
それを受け止めてくれたのは陸奥守だった。腕から手首、手首から拳と手を滑らせて握ってくれた温かさにみんながいると安心した一方で、息が上がって酸素が足りず、頭がぼんやりしてきた。それでも人を斬る感覚はリアルに伝わり続けている。ここで目を開けて場面から目を背けたら負けだ。
「耐えろ、薙!」
「おれたちはここにいる!」
彼の思い通りにはさせない。
ぎり、と歯を食いしばる。
これに勝る何かがあれば抜け出せるはず…!
姫様が鬼の形相で敵を斬り続けていても、その方法がないか懸命に脳内を探る。
どれぐらい経っただろう。ふと声が聞こえてきた。
“薙のおかげじゃ。感謝するぞ”
その場面の後なのだと感覚的に分かった。それを乗り越えられたのか、姫様のお声を聞けただけなのかは分からない。それでもだいぶ冷静になれた。
“やらねばならぬことは山ほどあるが、まずは薙の手入れをせねばな…”
“…くそっ!姫様は数百年経った今でもお前を思っているのか?!”
勝った、らしい。
「…抜け出せました」
「良かった…!」
それでも陸奥守は私の手を握る力を弱めない。私もまだ油断は出来ないとその手を握り直した。
姫様はその後、とても深い悲しみに包まれて過ごされていた。姫様だけではない。城内にいる者全員がそうだ。
“母上…皆…。どうか、安らかに…”
弔いの言葉にぎゅっと唇を噛んだ。今回見聞きしてきたものが時系列通りならば、犠牲者が多く出た、ということになる。ただ、家臣たちはともかく、何故母君も亡くなられたのか疑問もある。
“俺も姫様と共に戦にあった。…が、姫様が振るったのはお前の方が多かった”
“どういうことですか?”
ここでようやく彼に声を掛ける。“歴史というのは残酷だ”と項垂れた彼が携えている刀剣を鞘ごと抜き、その場に力なく座った。目を凝らして見てみると、恐らく彼は打刀。“俺は姫様が生まれるずっとずっと前からあのお家にあった”ということは、代々受け継がれていたと考えてもいいのだろうか。それを尋ねれば“そうだ”と呟くように返ってきた。
“ここまで見せてやっても記憶が戻らないのか”
“…はい”
“姫様の名前すら思い出せないのか”
“…はい”
“残念な奴だ”
“姫様もさぞかし悲しまれているだろうよ”と言われてちくりと心が痛む。こう言われては素直に教えてくれないと察し、片方の握られた手をするりと落とした。
“俺よりずっと長く姫様といたお前が、姫様のことをほとんど覚えていないなんて、皮肉なもんだ”
何も言い返せない。「神社に奉納されたから」、「焼身になったから」。そう伝えてもただの言い訳に過ぎない。
“同じ家にいたよしみだ。1つだけ教えてやるよ”
“え?”
“姫様はその後、誰もが知る歴史上の人物の側室になった”
“誰もが知る…?”
“それで俺とお前は離れ離れになったってことだ”
そう言って立ち上がって私に背を向ける。
“俺はお前を許したわけじゃない。これからもせいぜい苦しめ”
そう言い残して空間から消えて行き、目を開けた。隣にいたのは安定くん。もう片方の手を握ってくれていたのは彼だった。
「大丈夫?」
「…はい。声の主と少しだけ話せました」
体の力が抜け、手を握っていた陸奥守と安定くんが私の背中を支える。
「良かった…。よし、今夜はここまでにしよう」
「…待って下さい。まだ何か思い出せるかもしれません」
これまで知らなかった記憶を見られたこと、それをきっかけとして他にもまだ思い出せる何かがあるかもしれないことを伝える。
「分かった」
もう私が暴れることはないと判断して、陸奥守以外のみんなはそれぞれ部屋に戻ることになり、場所を私の部屋へと移すがてら、少し休憩しようと飲み物を取りに厨に寄る。あの感覚を乗り越えられたからか、厨には問題なく入れたことに安心した。
思いの外時間が経っていて、仕込みが終わったのかもう誰もいない。電気をつけていつもの冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「ちょっと試してもいいですか?」
「何を?」
調理台の下から取り出したのは包丁。すっかり克服出来ていて笑顔を見せた。
「よ、良かったぜよ…」
「う、うん…。でもね、包丁を持ってにこにこするのは止めようね…」
