女性審神者の名前です。
桜「僕たちって色んな逸話があったりするんだな」
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~薙side~
夕餉は大根のそぼろあんかけだった。他にも野菜炒め、おひたしなど見た目も鮮やかな献立。私のリクエストだと聞いたみんなは、それだけ私が回復していると考えてくれたのだろう。短刀くんたちから遊びに誘われたり、蜂須賀さんと石切丸さんからお茶会に誘われたり、やりたいことがたくさん増えた。洗濯だったり、野菜の収穫だったり、今まで通りの生活を送りたい気持ちがより強くなった。きっと出来るようになる。そう信じて。
「あはは…、やっぱり…」
「薙…」
それでも手の震えは出てしまった。それでもだいぶましになっていて、フォークやスプーンを使わずに食べられるようになった。少し離れた席からそれを見た長谷部さんと蜻蛉切さんが何か言いたげにしている中、昼餉のように自分で全部食べられた。2振りも安堵した様子で食事に戻っている。
もふ丸の小さな口をおしぼりで拭い、これで食事は終了…というわけにはいかない。食器を下げに行かなければ。
そうだ、食器洗いを手伝ってみよう。
食事が終われば手の震えは止まる。けれど今度は膝が震え始めてしまった。今回は1振りでそちらへ向かい、「ご馳走様でした」とシンクに食器を置く。腕まくりをした私に鶴丸さんが「頼んでもいいかい?」といつも通りに接してくれて、食器を拭いていた彼の横で洗い始め、後から堀川くんと長曽祢さんがみんなの分を持って来て、それも含めて洗っていく。普段なら他愛もない話をしながらこなすけれど、今回は食器をキレイに洗うことを意識した。何とか一仕事を終えられて、他に手伝えることはないか確認してからそこを離れた。
「問題なかったか?」
「はい、ちゃんと出来ました」
何も言わずに見守ってくれていたもふ丸を撫で、食休みとして縁側で涼む。今頃は粟田口のみんながお風呂を出て、他の刀派たちが1日の疲れを癒している頃だろう。
「薙、そろそろ風呂に入ってもえいがやないか?」
どれぐらい経っただろう。風呂から戻って来た陸奥守に声を掛けられてそこを立った。
「ちゃんと髪も乾かしてくるがよー」
「う、うん」
まだ露天風呂には入っている男士がいるだろうと、いつも通り内湯で済ませる予定だった。けれどそこへ向かってみると、“入浴中”の看板の横で長谷部さんが立っていた。
「主様が入ってるんですか?」
「主はまだ執務中だ。先に薙が入るといい」
「いいんですか?まだ入ってない人、いますよね」
様々な執務を手伝っている長谷部さんはもちろん、厨当番は片付けがあったり、明日の仕込みがあったりとお風呂に入るのは遅めだ。
「主から明日のことを聞いた」
「あ…」
「俺に出来ることはこれぐらいだ。…すまん」
「…ありがとうございます」
長谷部さんの気持ちを汲んで、ちゃっかり長谷部さんの肩に乗ったもふ丸にこの場を任せて中に入る。お言葉に甘えて今日は1振りでゆっくりと過ごさせてもらうことにした。主様が入る時は私が見張りをすればいいと、まずは髪と体を洗い、胸まで浸かる。
「……」
両手でお湯をすくって、それに映った顔を見つめる。
明日の今頃、私はどうなっているんだろう。“声”と夢を克服しているのか、その最中なのか。考えても仕方のないことなのにどうしても考えてしまうのは私の悪い癖なのだろうか。せっかく長谷部さんが1振りでのお風呂を勧めてくれたのに、その気遣いが無駄になってしまう。
「私は私…」
そう言い聞かせて肩まで浸かった。
色々なことに考えを巡らせて露天風呂から出ると、厨当番の燭台切さんたちが空くのを待っていた。
「お待たせしてすみません」
「薙ちゃんが気にすることはないんだよ。さっぱりしたかな?」
「はい、おかげさまで」
見張ってくれていた長谷部さんに主様のことを尋ねてみると、私が入ってすぐにやって来て、まだ執務が終わらないからと内湯でシャワーだけ浴びてすぐに出たと教えてくれた。主様にも気を遣わせてしまっただろうか。
「陸奥守に飲み物を渡しておいたぞ。2振りで飲むといい」
「じゃあな」と言い残して入って行った鶴丸さんに「何だろう?」と部屋に戻ってみると、陸奥守が縁側の柱にもたれかかって景色を眺めていた。
「鶴丸さんが飲み物を用意したって言ってたんだけど…」
「これじゃ」
小さめの瓶が2本。“ラムネ”というらしい。
「主がみんなに買うたらしい。明日配ると言うておったけんど、わしらが先に飲んでえいってことや」
「初めて見る」
フィルムを剥がして出てきた見慣れないパーツと、瓶を交互に見やった。飲み口にはビー玉のようなものでしっかりと封がされていて、どうすればいいのかさっぱり分からない。
「よう見ちょれ」
パーツ(玉押しというらしい)を強く押し込んでビー玉が窪みに落ちた。陸奥守に倣ってやってみたけれど上手くいかない。思い切りが足りないのか角度が悪いのか、玉押しが滑ってしまう。全身で力を使っても、だ。
「しゃあないねや。貸しとーせ」
結局陸奥守に開けてもらい、窪みに落ちたビー玉を眺めて一口飲んでみる。ビールとは異なる炭酸の強さにむせてしまった。それを笑う陸奥守に口を尖らせ、今度はゆっくりと飲む。
「すまんすまん。美味いじゃろ?」
「…うん」
何を話せばいいんだろう。花見の時はそれなりに話題はあったけれど、今回は特にない。それが伝わったのか、「無理に話さんでもえい」と視線を庭に向けたままラムネを飲んでいる。
「僕は眠いので先に寝ますね」
飲み口をぺろぺろと舐めてラムネの味を堪能したもふ丸が、穴を開けたところから部屋へと戻った。ちょっと心細い。
「えっと、今朝はごめん」
ひとまず謝って、夏用の半袖のジャージを買うことを伝えておく。
「見たのがわしと薬研だけで良かったぜよ。これからはちゃんと髪を乾かして、薄着でいるがは部屋だけにしとーせ」
そうして見た陸奥守の顔は、顔を赤らめていた時とは打って変わって落ち着いたものになっている。これも明日のことがあるからだろうか。
そんなことを考えていたら目が合った。
「どいた?」
「今朝のことがあったのに、どうして今は落ち着いていられるのかなーって」
何だか恥ずかしくなって目を逸らし、ラムネのビー玉をからん、と鳴らす。
「自分と向き合うと決めた薙を見ちょったら、不思議と落ち着いたぜよ。安心した、と言うたらえいがか?」
「安心?」
「薙は優しくて強い刀剣じゃ。わしはずっとそう信じちょった。わしの目は確かやったっちゅうことぜよ」
「あははっ、何それ」
まさか陸奥守の口からそんな言葉が出るとは思わなくて、思わず笑ってしまった。いつもみんなに見せているものとは違う笑顔は、2振りで花見をした時に見せてくれた笑顔。その時の会話が頭を過り、少しだけ見える桜の木を見やった。
「…陸奥」
「何じゃ?」
「私、ちゃんと世界を見られるように頑張るから」
小さく目を見開いた陸奥守に小さく笑む。
陸奥守は空いた手で戸惑いの動きを見せた後、意を決したように私の手に重ねた。大きくて、温かい。
「いくらでも力になるぜよ」
「…ありがとう」
安心感に包まれた雰囲気に重なった手を眺めていたら、陸奥の手がぴくぴくと不自然に動き始める。
「ぶぇっくしょい!!」
「陸奥、何て言うか、あんたさぁ…」
「すまん、何も言わんでくれ…」
夕餉は大根のそぼろあんかけだった。他にも野菜炒め、おひたしなど見た目も鮮やかな献立。私のリクエストだと聞いたみんなは、それだけ私が回復していると考えてくれたのだろう。短刀くんたちから遊びに誘われたり、蜂須賀さんと石切丸さんからお茶会に誘われたり、やりたいことがたくさん増えた。洗濯だったり、野菜の収穫だったり、今まで通りの生活を送りたい気持ちがより強くなった。きっと出来るようになる。そう信じて。
「あはは…、やっぱり…」
「薙…」
それでも手の震えは出てしまった。それでもだいぶましになっていて、フォークやスプーンを使わずに食べられるようになった。少し離れた席からそれを見た長谷部さんと蜻蛉切さんが何か言いたげにしている中、昼餉のように自分で全部食べられた。2振りも安堵した様子で食事に戻っている。
もふ丸の小さな口をおしぼりで拭い、これで食事は終了…というわけにはいかない。食器を下げに行かなければ。
そうだ、食器洗いを手伝ってみよう。
食事が終われば手の震えは止まる。けれど今度は膝が震え始めてしまった。今回は1振りでそちらへ向かい、「ご馳走様でした」とシンクに食器を置く。腕まくりをした私に鶴丸さんが「頼んでもいいかい?」といつも通りに接してくれて、食器を拭いていた彼の横で洗い始め、後から堀川くんと長曽祢さんがみんなの分を持って来て、それも含めて洗っていく。普段なら他愛もない話をしながらこなすけれど、今回は食器をキレイに洗うことを意識した。何とか一仕事を終えられて、他に手伝えることはないか確認してからそこを離れた。
「問題なかったか?」
「はい、ちゃんと出来ました」
何も言わずに見守ってくれていたもふ丸を撫で、食休みとして縁側で涼む。今頃は粟田口のみんながお風呂を出て、他の刀派たちが1日の疲れを癒している頃だろう。
「薙、そろそろ風呂に入ってもえいがやないか?」
どれぐらい経っただろう。風呂から戻って来た陸奥守に声を掛けられてそこを立った。
「ちゃんと髪も乾かしてくるがよー」
「う、うん」
まだ露天風呂には入っている男士がいるだろうと、いつも通り内湯で済ませる予定だった。けれどそこへ向かってみると、“入浴中”の看板の横で長谷部さんが立っていた。
「主様が入ってるんですか?」
「主はまだ執務中だ。先に薙が入るといい」
「いいんですか?まだ入ってない人、いますよね」
様々な執務を手伝っている長谷部さんはもちろん、厨当番は片付けがあったり、明日の仕込みがあったりとお風呂に入るのは遅めだ。
「主から明日のことを聞いた」
「あ…」
「俺に出来ることはこれぐらいだ。…すまん」
「…ありがとうございます」
長谷部さんの気持ちを汲んで、ちゃっかり長谷部さんの肩に乗ったもふ丸にこの場を任せて中に入る。お言葉に甘えて今日は1振りでゆっくりと過ごさせてもらうことにした。主様が入る時は私が見張りをすればいいと、まずは髪と体を洗い、胸まで浸かる。
「……」
両手でお湯をすくって、それに映った顔を見つめる。
明日の今頃、私はどうなっているんだろう。“声”と夢を克服しているのか、その最中なのか。考えても仕方のないことなのにどうしても考えてしまうのは私の悪い癖なのだろうか。せっかく長谷部さんが1振りでのお風呂を勧めてくれたのに、その気遣いが無駄になってしまう。
「私は私…」
そう言い聞かせて肩まで浸かった。
色々なことに考えを巡らせて露天風呂から出ると、厨当番の燭台切さんたちが空くのを待っていた。
「お待たせしてすみません」
「薙ちゃんが気にすることはないんだよ。さっぱりしたかな?」
「はい、おかげさまで」
見張ってくれていた長谷部さんに主様のことを尋ねてみると、私が入ってすぐにやって来て、まだ執務が終わらないからと内湯でシャワーだけ浴びてすぐに出たと教えてくれた。主様にも気を遣わせてしまっただろうか。
「陸奥守に飲み物を渡しておいたぞ。2振りで飲むといい」
「じゃあな」と言い残して入って行った鶴丸さんに「何だろう?」と部屋に戻ってみると、陸奥守が縁側の柱にもたれかかって景色を眺めていた。
「鶴丸さんが飲み物を用意したって言ってたんだけど…」
「これじゃ」
小さめの瓶が2本。“ラムネ”というらしい。
「主がみんなに買うたらしい。明日配ると言うておったけんど、わしらが先に飲んでえいってことや」
「初めて見る」
フィルムを剥がして出てきた見慣れないパーツと、瓶を交互に見やった。飲み口にはビー玉のようなものでしっかりと封がされていて、どうすればいいのかさっぱり分からない。
「よう見ちょれ」
パーツ(玉押しというらしい)を強く押し込んでビー玉が窪みに落ちた。陸奥守に倣ってやってみたけれど上手くいかない。思い切りが足りないのか角度が悪いのか、玉押しが滑ってしまう。全身で力を使っても、だ。
「しゃあないねや。貸しとーせ」
結局陸奥守に開けてもらい、窪みに落ちたビー玉を眺めて一口飲んでみる。ビールとは異なる炭酸の強さにむせてしまった。それを笑う陸奥守に口を尖らせ、今度はゆっくりと飲む。
「すまんすまん。美味いじゃろ?」
「…うん」
何を話せばいいんだろう。花見の時はそれなりに話題はあったけれど、今回は特にない。それが伝わったのか、「無理に話さんでもえい」と視線を庭に向けたままラムネを飲んでいる。
「僕は眠いので先に寝ますね」
飲み口をぺろぺろと舐めてラムネの味を堪能したもふ丸が、穴を開けたところから部屋へと戻った。ちょっと心細い。
「えっと、今朝はごめん」
ひとまず謝って、夏用の半袖のジャージを買うことを伝えておく。
「見たのがわしと薬研だけで良かったぜよ。これからはちゃんと髪を乾かして、薄着でいるがは部屋だけにしとーせ」
そうして見た陸奥守の顔は、顔を赤らめていた時とは打って変わって落ち着いたものになっている。これも明日のことがあるからだろうか。
そんなことを考えていたら目が合った。
「どいた?」
「今朝のことがあったのに、どうして今は落ち着いていられるのかなーって」
何だか恥ずかしくなって目を逸らし、ラムネのビー玉をからん、と鳴らす。
「自分と向き合うと決めた薙を見ちょったら、不思議と落ち着いたぜよ。安心した、と言うたらえいがか?」
「安心?」
「薙は優しくて強い刀剣じゃ。わしはずっとそう信じちょった。わしの目は確かやったっちゅうことぜよ」
「あははっ、何それ」
まさか陸奥守の口からそんな言葉が出るとは思わなくて、思わず笑ってしまった。いつもみんなに見せているものとは違う笑顔は、2振りで花見をした時に見せてくれた笑顔。その時の会話が頭を過り、少しだけ見える桜の木を見やった。
「…陸奥」
「何じゃ?」
「私、ちゃんと世界を見られるように頑張るから」
小さく目を見開いた陸奥守に小さく笑む。
陸奥守は空いた手で戸惑いの動きを見せた後、意を決したように私の手に重ねた。大きくて、温かい。
「いくらでも力になるぜよ」
「…ありがとう」
安心感に包まれた雰囲気に重なった手を眺めていたら、陸奥の手がぴくぴくと不自然に動き始める。
「ぶぇっくしょい!!」
「陸奥、何て言うか、あんたさぁ…」
「すまん、何も言わんでくれ…」
