女性審神者の名前です。
桜「僕たちって色んな逸話があったりするんだな」
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~薙side~
私はもう、逃げない。
昼餉の時に明るく振舞った私を見るみんなの顔を思い出してそう思った。
せっかく久々に大広間でみんなとご飯を食べられて嬉しかったのにあんな態度をとってしまうなんて。それでも普段通りに接してくれているみんなの気遣いを無下にはしたくないし、私もそこから抜け出したい。
朝に舞を行った時に考えたこともそうだ。「今の私に出来ることはこの舞だけ」。これも、自らを塞ぎ込む場所に留まっているだけにしかならない。
向き合わなきゃ。
立ち止まっているわけにはいかない。
ただ怯えているままでいるわけにはいかない。
「薙、今日の夕餉どうする?部屋で食べる…?」
万屋の帰り道、隣を歩いていた清光くんが私の顔を覗き込む。
「大広間で食べるよ」
「みんなで食べた方が美味しいもんね。一緒に食べよう」
安定くんがにこっと返してくれてその笑顔にほっととした。みんなの笑顔には本当に助けられている。
「今日の夕餉は何かなー」
「歌仙さんが私が食べたいものを作るって言ってくれたよ」
「そうやったか。何が出てくるがか楽しみやね」
明るく話しながら帰路につく。
…うん、やっぱり向き合ってこの日常に戻りたい。
今の私は自然体だと思う。みんなにはどう映っているんだろう。…いや、そう思う必要なんてない。逃げないと決めたのだから。
ふと視線を感じてそちらを見る。陸奥守だった。
「どうかした?」
「なんちゃあない、気にせんでくれ」
がしがしと頭を掻いて視線を反らした陸奥守。その表情は2振りで花見をした時と似てる…気がした。
縁側へ向かうのにショートカットで厨の外側を回った時、勝手口から厨当番の山姥切さんとばったりと会った。手には食費専用の財布。
「何か買いに行くがか?」
「醤油が足りなさそうでな。いつもの分は明日届くんだが」
基本的に醤油や料理酒など消耗が早いものだったり、大量に頼むものは直接本丸に届くように注文しているけれど、今回は間に合わなかったみたいだ。
「僕が行って来ます」
「いいのか?万屋に行って来たばかりのようだが」
「いいですよ。一升瓶で買って来れば足りますか?」
「あぁ。すまない」
「せっかくだし、他に足りなさそうなものがあれば俺と安定も一緒に行って買って来るよ。燭台切たちに確認してくれる?」
「ちょっと待っていてくれ」
厨に戻った姿に「3振りなら問題ないよね?」など話しつつ少し待っていると、山姥切さんが覚え書きを手にして戻って来た。みんなで目を通すと、意外とある。
「うん、3振りの方がいいね」
清光くん、安定くん、堀川くんで再び万屋に行くことになって、3振りと一旦別れて縁側へ向かおうとした時だった。
「っ…」
包丁の音が聞こえてきて、反射的に耳を塞いだ。
「薙!」
人を斬る感覚がぞわりと広がる。これも克服しなければならないことの1つ。向かい合わなければならないことは多い。
「早う行くぜよ」
私のこの姿を初めて見る長曽祢さんが私の頭を撫で、優しく背中を押されて早足でここを後にする。逃げないと決めたのに、体はそれを許してくれないように感じて視界が滲んだ。
「大丈夫だ、もう音は聞こえん」
ある程度進んだところで肩を叩かれ、恐る恐る手を離す。止めていた息を吐き、深呼吸を数回して何とか落ち着いた。
「…ごめん」
「わしらの方こそすまん。厨の近くは避けた方が良かったねや」
「ううん、気にしないで。私もこの時間帯なら大丈夫だと思ってたから…」
「顔色も悪ぃし、茶をするなら縁側じゃなくて部屋に変えた方がいいな」
普段は刀派などと関係なくみんなが談笑する時に使う部屋へと入った。長曽祢さんと陸奥守が壁代わりになってくれたおかげか、誰にも見られずに済んだ。2振りにそれぞれ礼を述べて1番奥に座った。
普段だったら私が作っている麦茶のひんやりとした喉越しに少し心が落ち着いた。けれど和菓子を食べる食欲はもうない。もふ丸には少しあげたけれど、もふ丸も同じなのかいつもより食べる量は少なく、先に半分に分けていた分は陸奥守に分けた。
さっきの雰囲気はどこへやら、重い雰囲気が私たちを包む。どんな話題を振ろうか考えあぐねている表情にぽつりと呟いた。
「…私、もう逃げたくない」
俯いたまま、唇を噛んだ。みんなの視線が私に集まり、私に何かを尋ねるわけでもなく、私の言葉を待ってくれていた。
「みんな、協力してくれる…?」
それは、敢えて意識して“声”を辿り、夢を思い出すということ。また暴れてしまうかもしれない。みんなに迷惑を掛けてしまうかもしれない。私1振りの問題でも、どうしても私だけでは乗り越えられない壁。
「えいぜよ」
真っ先に応えてくれたのは陸奥守だった。「わしに任せとーせ」と腕組みをして心強く、そして覚悟を決めた眼差しで私を見た。
「陸奥守だけずりぃぞ。オレも協力する」
「もちろん、おれもだ」
長曽祢さんは事情を知っていても私が暴れた姿を見ていない。それを話すと「この面子なら万が一のことになっても問題ない」と2振りを見た。確かに、体力のある3振りなら対処出来るはず。
「…ありがとうございます」
その後に合流した清光くんたちにも話し、この6振りで守ってもらうことになった。
主様も立ち会い、お香や式札などを用意すると私の考えに同意してくれた。
明日の夜、それは行われる。これで全てが終わってほしいと願いながら、桜の木を見つめた。
私はもう、逃げない。
昼餉の時に明るく振舞った私を見るみんなの顔を思い出してそう思った。
せっかく久々に大広間でみんなとご飯を食べられて嬉しかったのにあんな態度をとってしまうなんて。それでも普段通りに接してくれているみんなの気遣いを無下にはしたくないし、私もそこから抜け出したい。
朝に舞を行った時に考えたこともそうだ。「今の私に出来ることはこの舞だけ」。これも、自らを塞ぎ込む場所に留まっているだけにしかならない。
向き合わなきゃ。
立ち止まっているわけにはいかない。
ただ怯えているままでいるわけにはいかない。
「薙、今日の夕餉どうする?部屋で食べる…?」
万屋の帰り道、隣を歩いていた清光くんが私の顔を覗き込む。
「大広間で食べるよ」
「みんなで食べた方が美味しいもんね。一緒に食べよう」
安定くんがにこっと返してくれてその笑顔にほっととした。みんなの笑顔には本当に助けられている。
「今日の夕餉は何かなー」
「歌仙さんが私が食べたいものを作るって言ってくれたよ」
「そうやったか。何が出てくるがか楽しみやね」
明るく話しながら帰路につく。
…うん、やっぱり向き合ってこの日常に戻りたい。
今の私は自然体だと思う。みんなにはどう映っているんだろう。…いや、そう思う必要なんてない。逃げないと決めたのだから。
ふと視線を感じてそちらを見る。陸奥守だった。
「どうかした?」
「なんちゃあない、気にせんでくれ」
がしがしと頭を掻いて視線を反らした陸奥守。その表情は2振りで花見をした時と似てる…気がした。
縁側へ向かうのにショートカットで厨の外側を回った時、勝手口から厨当番の山姥切さんとばったりと会った。手には食費専用の財布。
「何か買いに行くがか?」
「醤油が足りなさそうでな。いつもの分は明日届くんだが」
基本的に醤油や料理酒など消耗が早いものだったり、大量に頼むものは直接本丸に届くように注文しているけれど、今回は間に合わなかったみたいだ。
「僕が行って来ます」
「いいのか?万屋に行って来たばかりのようだが」
「いいですよ。一升瓶で買って来れば足りますか?」
「あぁ。すまない」
「せっかくだし、他に足りなさそうなものがあれば俺と安定も一緒に行って買って来るよ。燭台切たちに確認してくれる?」
「ちょっと待っていてくれ」
厨に戻った姿に「3振りなら問題ないよね?」など話しつつ少し待っていると、山姥切さんが覚え書きを手にして戻って来た。みんなで目を通すと、意外とある。
「うん、3振りの方がいいね」
清光くん、安定くん、堀川くんで再び万屋に行くことになって、3振りと一旦別れて縁側へ向かおうとした時だった。
「っ…」
包丁の音が聞こえてきて、反射的に耳を塞いだ。
「薙!」
人を斬る感覚がぞわりと広がる。これも克服しなければならないことの1つ。向かい合わなければならないことは多い。
「早う行くぜよ」
私のこの姿を初めて見る長曽祢さんが私の頭を撫で、優しく背中を押されて早足でここを後にする。逃げないと決めたのに、体はそれを許してくれないように感じて視界が滲んだ。
「大丈夫だ、もう音は聞こえん」
ある程度進んだところで肩を叩かれ、恐る恐る手を離す。止めていた息を吐き、深呼吸を数回して何とか落ち着いた。
「…ごめん」
「わしらの方こそすまん。厨の近くは避けた方が良かったねや」
「ううん、気にしないで。私もこの時間帯なら大丈夫だと思ってたから…」
「顔色も悪ぃし、茶をするなら縁側じゃなくて部屋に変えた方がいいな」
普段は刀派などと関係なくみんなが談笑する時に使う部屋へと入った。長曽祢さんと陸奥守が壁代わりになってくれたおかげか、誰にも見られずに済んだ。2振りにそれぞれ礼を述べて1番奥に座った。
普段だったら私が作っている麦茶のひんやりとした喉越しに少し心が落ち着いた。けれど和菓子を食べる食欲はもうない。もふ丸には少しあげたけれど、もふ丸も同じなのかいつもより食べる量は少なく、先に半分に分けていた分は陸奥守に分けた。
さっきの雰囲気はどこへやら、重い雰囲気が私たちを包む。どんな話題を振ろうか考えあぐねている表情にぽつりと呟いた。
「…私、もう逃げたくない」
俯いたまま、唇を噛んだ。みんなの視線が私に集まり、私に何かを尋ねるわけでもなく、私の言葉を待ってくれていた。
「みんな、協力してくれる…?」
それは、敢えて意識して“声”を辿り、夢を思い出すということ。また暴れてしまうかもしれない。みんなに迷惑を掛けてしまうかもしれない。私1振りの問題でも、どうしても私だけでは乗り越えられない壁。
「えいぜよ」
真っ先に応えてくれたのは陸奥守だった。「わしに任せとーせ」と腕組みをして心強く、そして覚悟を決めた眼差しで私を見た。
「陸奥守だけずりぃぞ。オレも協力する」
「もちろん、おれもだ」
長曽祢さんは事情を知っていても私が暴れた姿を見ていない。それを話すと「この面子なら万が一のことになっても問題ない」と2振りを見た。確かに、体力のある3振りなら対処出来るはず。
「…ありがとうございます」
その後に合流した清光くんたちにも話し、この6振りで守ってもらうことになった。
主様も立ち会い、お香や式札などを用意すると私の考えに同意してくれた。
明日の夜、それは行われる。これで全てが終わってほしいと願いながら、桜の木を見つめた。
