梅「審神者として出来ることは全てやらなきゃ」

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女性審神者の名前です。
女性審神者名

 ~堀川side~

 “薙”と名付けられたその人は、燭台切さんが作ったお粥をゆっくりと嬉しそうに食べていた。やっぱり食事が大切なんだと改めて実感する。人の体に慣れるまで食べるものは限られることを教えると納得した表情を見せた。


 「少ししたら薬を飲みましょう。解熱剤といって、熱を下げてくれるんですよ」


 薙さんがどこまで知識があるのかは僕たちも探り探りだ。その間に主さんに頼まれて加州さんが買って来たのは2冊のノートだった。


 「こっちは筆談用、この可愛い方のは日記用ね。毎日でなくてもいいの。感じたこととか、思ったこととか何でも書いて、私たちに教えて欲しいんだ」


 コクリと頷いて、早速ペンをとる。筆談用にさらさらと書いたのは僕たちへの感謝の言葉だった。


 “頑張って思い出します”


 「え、あ、気持ちは嬉しいけど、頑張らなくていいんだからね?!」


 「そうそう。ゆっくりでいいんだよ。俺たちに色々教えてね。楽しみにしてるから」


 そこで加州さんは下へと戻り、長谷部さんと話していた通り、今日は主さんとこんのすけ、僕で交流することになった。石切丸さんの加持祈祷は明日だ。
 しばらく筆談を交えて話していると、外から庭掃除をする音と、離れたところから短刀たちが遊ぶ声も少しだけ聞こえてきた。


 “ここには、人がいっぱいいるの?”


 「はい。今は何振りだったかなぁ。とにかくたくさんいて、毎日賑やかで楽しいですよ」


 この本丸は広くて人数が多いから、毎日日替わりで掃除や馬の世話をしていること、畑もあって色々なものを育てていることを話す。


 「…?」


 どうやら完全に記憶がないわけではないようだ。引っ掛かるものがあるみたいで、一生懸命に思い出そうとしている様子に「無理はしないで下さい」と声を掛けた。


 「そうだ!ずっと寝込んでましたし、少しだけ体を動かしてみませんか?」


 肩回しをしてみたり手を組んで伸びをしてみたり手本を見せる。それを真似した薙さんは少しスッキリしたようだった。


 「薙、せっかくだしちょっと立ってみよっか」


 隣の執務室で作業していた主さんがひょっこり顔を出す。こんのすけも手本になるようにと、足をパタパタしたり猫のように伸びをしてみせた。こんのすけなりに教えたかったみたいだけど、「その伸びはあんまりしないかなー」と主さんに笑われていた。


 「私たちが支えてるから大丈夫だよ」


 「えーと、主さん。僕も触っても大丈夫ですかね…?」


 それにきょとんとする薙さん。何故遠慮しているのか分からないようだ。


 「顕現した女性の刀剣は薙だけでね。他は皆男性だから慣れてないかも」


 良く分かっていないながらに、口が「大丈夫だよ」と動いた。とは言っても気が引けて、支えるのは主さんに任せて、僕は万が一のことがあっても良いように構えておく。最初に立ちくらみはしてたけれど、すぐに慣れたようだ。


 「歩けますし、大丈夫そうですね」


 「うん、そこまで衰弱してないってことだね。良かった」


 安堵したのも束の間、どうしても身長差で僕の視線は薙さんの胸に目がいってしまって、慌てて目を逸らした。それに気付いたんだろう。薙さんも少し申し訳なさそうに目を逸らした。


 「まぁ、こればかりはねー…。“天からの授かりもの”って言ったりするし…」


 主さんが「羨ましい」と言っていたのが分かった気がした。華奢な主さんに対して、薙さんは前に主さんが見せてくれた雑誌の外人さんのモデルのようなスタイルだ。それを見て「もうちょっと身長が欲しかった」なんて零していたっけ。お母さんが小柄な方で、その遺伝子を受け継いだと教えてくれたのも思い出した。


 「まぁ、このことについてはちゃんと考えてあるから。下で過ごせるようになる頃には準備出来るはずだよ」


 「は、はぁ…」


 薙さんの体力は落ちたままだ。熱もまだあるし、少し眠りたいとのことで横になった。下で氷水を張った桶を用意して、冷たい手拭いを額に乗せるとすぅ、と眠りについた。そんな薙さんの額に手をかざして霊力を注ぎ込む主さん。
 ひとまず看病は一旦落ち着いたので、紅茶を用意して来週の内番と近侍について話し合った。内番は直近1ヶ月間のデータを見て決めるとして、問題は近侍だ。


 「堀川くんは誰が良いと思う?まだ皆には薙のことを伝えるのは控えるとして、あと1~2振りには教えても良いと思うのよね」


 「うーん」と考え込む。主さんは次の近侍を薙さんのことを知っている人だけで回すと皆に不思議がられると考えているんだと思う。僕もそう思うし、朝礼かどこかでいっぺんに皆と顔合わせをするより、少しずつの方が良いと考えているのも主さんも一緒だ。


 「薬研さん、ですかね」


 薬研さんだったら体調管理も得意だろうし、その時々の体調に合わせてすぐに薬を用意してくれるはずだ。でも、食事の準備をしてくれる燭台切さんや歌仙さんでも問題ないと思う。厨当番になることが多いから、長谷部さんや加州さんに頼まなくてもそのまま食事を運べるし。


 「ひとまず、3振りのうちの誰かにするのは決まり、かな。今週中に薙がどこまで回復するのかにもよるし」


 「そうですね。引継ぎのタイミングがいつもよりズレるかもしれませんが、仕方ないと思います」


 「あとはお香の完成を待つしかないか…」


 薙さんを起こさないよう、出来るだけ音を立てないように作業部屋の片隅に置いているお香を確かめる。乾燥している冬場だから完成が少し早いのは幸いだと教えてくれた。


 「あまり考えたくはないけど、万が一のことがあったら大変だから、追加でもう少し作っておいた方がいいかな。原料はあるし、昼餉までには作れるから手伝ってくれる?」


 「分かりました!」


 僕はこういった細かい分量を量るのは得意だ。渡された覚え書きと原料を確認しながら2人で作業を始めた。
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