あの日からずっと【第1話】完
「うん、そう」
私は言えないのに尋ねるのは卑怯。そう思ったけど、あっさりと博道は認めた。
「そんな人、いたかな」
「いるよ」
「近所のお姉さんがよく遊んでくれたのは覚えてる」
「それ覚えてて、『ちぃちゃん』は覚えてないの?」
博道はちょっとおかしそうに笑って、私に一歩近づいた。
思いのほか、間を詰められて、後ずさりすると手首をつかまれた。
「博道くん……」
「いつから俺のこと、そんな風に呼ぶようになったのかな。昔は、ひろくんって呼んでたよね」
「あ、そ、そうだったかな。そうだったかも」
そっと引き寄せられて、動転してしまう。
何度も打ち上がる花火の音は聴覚を簡単に奪うはずなのに、破裂しそうなほどに早鐘をうつ胸の音の方がうるさく感じる。
気づけば、博道くんの袖にひたいがぶつかっている。
「近所のお姉さんの名前、覚えてる?」
「小学校の頃に引っ越しちゃったよね。それは覚えてるけど、ほかのことは全然……。なんだっけ?」
「凪沙とおんなじ名前」
「お姉さんもナギサだっけ?」
頭の中が真っ白で何も考えられないのもあるけど、冷静になっても思い出せないぐらい遠い記憶。
顔を上げたら、少しかがんだ博道の顔が間近で驚く。思考が停止してしまう。
「そうだよ。だから俺ら、凪沙のこと、ちいさい方のナギサって呼んでた」
「小さい方?」
「ちっちゃいナギサだから、ちぃちゃんって呼んでた」
ひそひそ話みたいに小さい声で言うのに、耳元で聞こえたその言葉は鮮明に届く。
私は言えないのに尋ねるのは卑怯。そう思ったけど、あっさりと博道は認めた。
「そんな人、いたかな」
「いるよ」
「近所のお姉さんがよく遊んでくれたのは覚えてる」
「それ覚えてて、『ちぃちゃん』は覚えてないの?」
博道はちょっとおかしそうに笑って、私に一歩近づいた。
思いのほか、間を詰められて、後ずさりすると手首をつかまれた。
「博道くん……」
「いつから俺のこと、そんな風に呼ぶようになったのかな。昔は、ひろくんって呼んでたよね」
「あ、そ、そうだったかな。そうだったかも」
そっと引き寄せられて、動転してしまう。
何度も打ち上がる花火の音は聴覚を簡単に奪うはずなのに、破裂しそうなほどに早鐘をうつ胸の音の方がうるさく感じる。
気づけば、博道くんの袖にひたいがぶつかっている。
「近所のお姉さんの名前、覚えてる?」
「小学校の頃に引っ越しちゃったよね。それは覚えてるけど、ほかのことは全然……。なんだっけ?」
「凪沙とおんなじ名前」
「お姉さんもナギサだっけ?」
頭の中が真っ白で何も考えられないのもあるけど、冷静になっても思い出せないぐらい遠い記憶。
顔を上げたら、少しかがんだ博道の顔が間近で驚く。思考が停止してしまう。
「そうだよ。だから俺ら、凪沙のこと、ちいさい方のナギサって呼んでた」
「小さい方?」
「ちっちゃいナギサだから、ちぃちゃんって呼んでた」
ひそひそ話みたいに小さい声で言うのに、耳元で聞こえたその言葉は鮮明に届く。