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あの日からずっと【第1話】完

「博道くん、酔うと電話してくるの。すごくおしゃべりになるよね」
「そうそう。いっつもしかめっ面だけどさ、あれが本性かもな。でも意外だな。あいつが酔って凪沙に電話するなんて」
「うーん。でも、間違えてるから……」

 ちょっと憂鬱に言ってしまう。雅道は少しの変化にも敏感だから、表情をくもらせる。

「博道、なんて?」
「言っていいのかな」
「いいだろ。酔った時のことなんて忘れてるだろうしな」

 迷ったけど、悩みを相談できるのは雅道しかいない。むしろ、雅道にしか話せない。ずっと気に病んでたことだ。意を決して言う。

「博道くんね、ちぃちゃんって女の子が好きみたい。ちぃちゃんは雅道が好きなんだよねって、言ってくるの。ちぃちゃんって子に電話してるつもりなのかなって、返事に困っちゃって」
「なんだそりゃ」
「間違えてるよなんて言えなくて。いつも黙って切っちゃう」
「うわー。博道のやつ、恥ずかしー」

 雅道は顔の前で手をパタパタさせて大笑いする。

「博道くんには内緒だよ。酔わないと言えないなんて、相当悩んでるんだと思うし」
「わかってるさ。それにしても、おかしいな。笑える」

 思い出し笑いするみたいに、雅道はにやにやする。

 話してよかったんだろうか。
 考えてみたら、ちぃちゃんって子は雅道が好きなのだ。彼女が内緒にしてる気持ちまで、雅道に伝えてしまった。

「やっぱり、今の忘れて」
「忘れる忘れる」

 うんうんと、雅道は笑いながらうなずく。軽い口調に真実味がない。

 やっぱり話さなきゃ良かったと後悔していると、リビングで人の気配がした。
 買い出しから雅道のご両親が戻ってきたのかと、リビングに入った私はちょっと気まずい気持ちになる。
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