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刀剣 短編集

「今日の話、凄かったよ。」
政府での定期的な講習と面談を終え、私は本丸で可愛い可愛い近侍の加州清光と雑談に興じている。少し冷えるこの季節、こたつに下半身を呑まれながら駄弁るのは堪らない。
「えー何?そんなすごい話あんの?」
清光はみかんを剥きながらこちらを見て柔らかく微笑んでいる。どんな話も盛り上げようと繋げてくれたり、相槌を打ってくれるのでとても話しやすい。そういう所が一緒にいて楽しいから、いつも近侍に任命したり買い物の時は護衛に指名したりするのだ。それに、愛されたがりの加州だからどれだけ構っても嫌がられることはない。その点で安心して構い倒せる。
「なんかね〜……愛が重いって感じ?」
安全管理のために、要は「そうならないようにしましょうね」という悪例として取り上げられたその本丸の話を思い出しながら話し始める。
─どこかの本丸に、審神者と恋仲の刀剣男士がいた。2人はそれはもう仲が良く、人間の夫婦のように過ごしていた。審神者の髪に白髪が混じり始めた頃、審神者の霊力の衰えが発覚する。それに呼応するように審神者の体も弱り始めた。傍にいて看病すればする程に、審神者は弱っていく。
原因が分かった頃には手遅れだった。恋仲だった彼は、知らず知らずのうちに審神者から過剰な程に霊力を吸い取っていたのだ。事実、彼が手入れ部屋から二日戻らない日は審神者の体調が良かった。
彼は決めた。真実を伝えれば主は無理を押して自分といると言うに違いない。だから、最も残酷に離れることにした。そうして、言った。
「主だから愛していた」
「務めを果たせぬ者に愛は無い」
と。
審神者は嘆き悲しみ、それでも受け入れようとし、最後に一晩だけ共寝がしたいと言った。刀剣男士の方もまた、愛しい審神者とは離れがたく、それを受け入れた。
その夜のことだ、もう何年も同じ床で眠りについて安心しきっていた刀剣男士の本体たる刀で、審神者が自刃したのは。

「……って話。その後該当の男士のメンタルケアやら、本丸の処遇やらで本当に大変だったみたいで……。」
そう話す私を、清光の綺麗な赤い瞳がじっと見ていた。
「……愛が重い、ね。」
「ねー。清光も何か思うとこあるでしょ?」
「そーね。俺たちは元々道具なんだから、傍に置いて、使って貰えて、お手入れもされたら、十分愛を感じるかな。でも……。」
みかんの房をひとつ、ぷちりともぐ音がやけに響く。
「俺、自分の存在で主を苦しめてるくらいなら折れた方がマシだよ。馬鹿だねそいつ。」
「え、」
なんのこともないように淡々と告げる清光に少し背中が粟立つ。折れる、だなんて審神者にとって1番避けたいものだ。
「そ、それは……審神者さんも、望んでなかったんじゃないかな〜?」
「そ。多分そーね。……でも俺たちにとっては主が死ぬのは同じくらい……いやそれ以上に嫌だからさ。俺なら主が死んだら一緒に折れてあげる。でも俺が折れても主は生きて。」
主は長生きしてね。俺はお務めできない体になっても、ずっと主を愛してるから。
そう言った清光はぱっといつもの顔に戻り、みかんを頬張る。美味しいねこれどこで買ったの、と言いながら次々口に運んでいく。
「……アンバランス」
何もかもが不釣り合いな現状に、ただ天井のシミを眺めた。
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