刀さに


「うーん?」

審神者は廊下で1人、首を傾げていた。手には先ほど拾ったハンカチ。

「誰のだろう?」

ハンカチは個人の好み及び趣味が反映されているため、審神者は誰のものか判断がつきかねていた。ハンカチは黒地に少し暗めの赤で、折り鶴がワンポイントで入っている。

「折り鶴…後家兼光…?」

折り鶴から最近やってきたばかりの後家兼光を思い出した。

「あれ?主、どーしたの?」

上から声が降ってきたと思った瞬間、顔の横に先ほど思い浮かべていた男士の不思議そうな、それでいて楽しそうな笑顔があった。

「…っ!!後家君。びっくりするから…」

審神者が顔の近さに顔を赤くして一歩退くと、後家兼光は楽しそうに笑いかけた。

「ごめんごめん。廊下で1人立っていたから何をしているのかなと思って。…あれ?それボクの。主が拾っていてくれてたんだね、ありがとう。」

後家兼光は審神者の手の中にある見覚えのあるハンカチを見つけると、とても良い笑顔で審神者に感謝を告げる。審神者の手事ハンカチを握り、スッと審神者に顔を近づけながら。

「後家君っ!!…手…!!」

審神者は急に手を握られ、普段よりも近くにある綺麗な顔を直視し、顔の赤をどんどん濃くしていく。

「主にお礼がしたいな。…ね?ボクにお礼させてくれる?」

そんな主を見て、後家兼光は笑みを強める。愛しいものを見つめる瞳で。審神者は後家兼光の己を見つめる瞳から目が逸らせず、か細い声で呟く事がやっとだった。

「…っわかった…だから…手」

後家兼光は主の頭が己の事で一杯になっている様子を満足気に見つめると、名残惜しそうに顔を離した。手は握ったまま話を続ける。

「主はお礼、何が良い?」

「別に特別な事なんてしていないから、お礼なんて良いのに。」

審神者としては、落ちていたものを拾っただけ。お礼をされるような事はしていない。しかし、後家兼光は退かなかった。

「ボク、主と仲良くなりたいんだ。…ね?」

だから、お礼させて?と言われて、審神者はそれ以上断る事が出来なかった。

「わかった。…今度一緒に、甘味でも食べに行って欲しい。…これでも良い?」

「もちろん。…デート、楽しみにしておくね?」

審神者の返事に後家兼光はとても良い笑顔で頷くと、スッと審神者の髪を手に取ると髪に軽く口付けをし、良い笑顔で去っていった。手にはいつの間にか審神者から返してもらったハンカチを持って。

「え…?…デート…え、今…髪…!?」

1人残された審神者は口付けられた髪のあたりを抑え、顔を盛大に赤くしたまま呆然と立ち尽くしていた。


「チャンスは逃しちゃ駄目だよね♪」

後家兼光は先ほどまでの審神者の様子を思い出し、楽しそうに愛おしそうに笑う。



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