刀さに
「さむっ…。」
審神者が自室から一歩外に出ると、冷えた風が審神者を撫でた。
時刻は午前10時。まだまだ日差しが暖かくなる時刻には届かない。
「流石に12月に入ったら寒いわ。」
夏の名残が強かった秋が終わり急激に冷え始めた今日此の頃。寒さに比較的強い審神者も冬の風には負けそうだと思いつつ、廊下を歩く。
「油断したらこれは風邪ひくな…。気をつけないと。」
中庭に面した廊下は壁がなく外気を直接浴びることになる。
流石の寒さにいつもは外で姿を見る短刀達も今日は姿を見ない。
「あれ…?」
審神者の進行方向に、寒い中扉が全開になっている部屋が見えた。審神者が不思議に思い部屋をのぞき込むと、火鉢に当たりながら外を眺めている男士と目が合った。
「おや、主ではないか。どうかしたか?」
男士…三日月宗近は審神者にゆったりと声をかけた。
「いや、寒いのに部屋が全開になっているのが見えたので、どうしたのかと思って…。三日月さんこそ、どうして部屋を全開に…?」
審神者の不思議そうな様子に三日月宗近は微笑んだ。
「俺は色々な季節の中庭を眺めるのが好きでな。冬の中庭も中々に趣深いものだ。…そこにいては寒いだろう?こちらに来て、火にあたると良い。」
三日月宗近は己の隣に座るように審神者を促す。
審神者は少し悩む素振りを見せたが、己の身体が冷えてきた事を自覚し、三日月宗近の隣にお邪魔する事に決めた。
「じゃぁ、お邪魔します…。あ、火鉢の周りが暖かい。」
三日月宗近は審神者の姿を見て、何かを考えると己の後ろにある葛籠から1枚の布を取り出した。
「主…身体が冷えているのだろう?これでも羽織ると良い。」
三日月宗近はそっと取り出した布…己の身につけている色と同じ青い羽織を審神者の肩にかけた。
「ありがとうございます。」
審神者が素直に羽織を受け入れると、三日月宗近は満足そうに頷いた。そして、とても嬉しそうに呟いた。
「主が俺の色を身につけているのを見るのは良いものだな。」
「もう、三日月さん。からかわないでくださいよ。」
審神者が困ったように返すと、三日月宗近は笑みを深めた。
「はっはっは。…俺はからかってなどおらぬよ。全て本気だぞ。主が俺の色を纏って、今此処で2人きりという機会は中々無い事だ。滅多にない体験を心から喜んでいるだけだが?」
三日月宗近は含みを持たせた笑みで審神者の眼を真っ直ぐに見つめる。
「…っ!!」
審神者は眼を逸らすことができず、暫し固まってしまった。
暫し見つめ合い、三日月宗近は楽しそうに笑みを深めた。
「主殿はどうやらこういう事に不慣れなようだな。愛い事だ。…他のモノは知らぬが、俺は隙あらばこうして主を独り占めしてしまいたいと思っている。ゆめゆめ忘れない事だな。」
顔を少し赤くして呆然と己を見ている審神者を満足そうに見つめて、三日月宗近は今の静かな時間を堪能する事にした。
(折角向こうから寄って来たのだから、逃がすつもりはないし、ありえんな。)
三日月は庭をの方に顔を向けつつ、視界の端の主の様子を楽しそうに眺めている。
この時間は他のモノが、通りがかるまで続いたという。
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