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優月瞬歌。今日から『芸能総合国元学院』の学生です。
所属学部は『アイドル学部』。『アイドルコース』と『作曲家コース』があるこの学部でわたしが選んだ専攻は『作曲家コース』の方です。
小さい頃からアイドルに曲を作る事を夢見ていたわたしは……夢を叶える為にこの学院を受験しました。 -
『芸能総合国元学院』は一年間でアイドルや作曲家等になる為の勉強をする学院です。
元より倍率が高く、入学試験も卒業試験も厳しくて有名ですが……上手く行けば一年後に学院長である『レインボウ国元』先生の経営する『レインボウプロダクション』から芸能界デビューが決まります。 -
入学試験は人の多さに驚いたけれど……合格して本当に良かったと思います。
もしかしたら作曲のデータを送った事が……良かったのかも知れません。
そうして今わたしは……夢を叶える為の場所に足を踏み入れようとしていました。
でも今日に限って電車が遅れてしまいました。 -
瞬歌
はぁはぁはぁ……も、もう少し……
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諦めて途中の駅で降り、走って来たものの……そろそろ限界です。
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瞬歌
ううう……もう駄目。ちょっと休憩です……
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ふら付きながらも何とか止まった時でした。
わたしの後方から走って来て追い抜いた二つの影がありました。 -
桐波
兄さん、遅いって
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藤空
桐波(きりなみ)が速過ぎるんだよ~
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思わず見てしまうとそこに居たのは既にアイドル『antithese(アンチセーゼ)』として活躍している兄弟アイドル。
冬夏藤空(とうかふじぞら)さんとその弟の桐波さんでした。 -
瞬歌
ほ、本物のアイドル様が……目の前に!
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思わずわたしはその場に静止してしまいました。
……そんな時。
再び後方からの足音が聴こえたと思った瞬間……背中から衝撃が伝わってきたのは。 -
瞬歌
きゃっ
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思わず悲鳴を上げてよろけてしまい、尻餅をついてしまいます。
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モブ男
あぶねーな、糞女!道のど真ん中で止まってんじゃねーぞ!!
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怒る相手の顔を見て……その姿勢のままで必死で頭を下げました。
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瞬歌
すみませんっ!
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だけど相手はわたしの謝罪の言葉を待つ様子さえ無く、忙しなく駆けて行ってしまいました。
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瞬歌
どうしよう……わたしのせいで嫌な思いをさせてしまった
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そう思ったら更に申し訳無くなって、顔が上げられなくなってしまいました。
思えば小さい頃からこんな事ばかりでした。鈍臭いから……人に迷惑を掛けてばかり……。
そのまま落ち込みそうになった時……。 -
???
あんた、大丈夫か?……立てる?
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そんな声と共に目の前に手が差し出されました。
顔を上げるとそこには…… -
桐波
…………
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瞬歌
え!?き……桐波さん!?
ゆ、夢じゃなくて!? -
緊張と恥ずかしさでもう訳がわかりません!
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桐波
ほら、捕まって
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瞬歌
は、はひ!
あ、有難うございますっ -
早口で御礼を言うのが限界でした。
混乱したままですが、何とか捕まって立たせて貰います。
するとその桐波さんの後ろから……藤空さんが何かを差し出していたのが見えました。 -
藤空
あ、あの……落ちちゃった荷物です
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確かに良く見るとそれはわたしが持っていた荷物でした。
ぶつかった拍子に落としてしまったようです。 -
瞬歌
す、すみません!
あ、有難うございますっ -
ああもっとちゃんと御礼を言いたいのに……緊張でどうしても上手くいきません。
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藤空
あ、い……いや。
それよりだ、大丈夫ですか?怪我してない……? -
藤空さんは勢い良く荷物を受け取ったわたしを驚いたように見て……それからそんな風に言ってくれました。
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瞬歌
へ!?は、はいぃ!だ、大丈夫です。
すみません! -
折角心配して下さったのに……わたしはそう答えるのが精一杯でした。
その後は二人に対し反射的に頭を下げ、勢い良く去るのが限界でした。
何て申し訳無い対応をしてしまったんでしょう……もっと上手に対応したいのに。
心機一転、どうにか頑張ろうとは思うのですが……中々難しい。
そう思っていた。この時はまだ……。 -
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