第四話「支えられる者と支える者」
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「
「どうして?」
小さな手を握り、博物館に入る前に彼女はそう言った。
「八百万の神様の中にはね、気に入ったものを自分の手元に置いておきたい方もいるの。そして、本当の名前は魂を縛る呪いになるの。だから、お前がいつか母さんの様に神様にお仕えする事になったら。気に入られてしまわないように、気に入られてしまったとしても攫われてしまう事がないように、本当の名前は隠しておきなさい」
ちょっと難しいわよね。なんて、はにかみながら彼女は頭を撫でてきた。
「僕、神様の前では名前隠した方がいいの?」
「そうね、お前は優しくて綺麗で、可愛い子だから……神様に攫われたら母さんが嫌だわ」
私の可愛い天使だから。そう言って、手を強く握った彼女を前に名前は言うまいと決めた。
チュンチュンッ。
少しだけ開け放した障子から聞こえてくる小鳥の囀りに、目を覚ます。目覚める直前まで見ていた夢のあまりの懐かしさ。久しく見なかったはずのその夢を見た事に衝撃を感じて、己の体温で温かくなっている布団の中で、寝乱れた髪もそのままに呆けてしまう。
(……どうして、子供のころの夢を)
ここ最近、特別な変化など無かったが―――否、昨夜は新しく来た刀剣男士である日本号を歓迎する為の宴があった。しかし、過去幾度もそのような宴こそあれど、あの頃の夢は見なかったのだが。古傷の疼きに顔しかめた時、日本号に抱き寄せられたのも覚えている。その時に、郷土の懐かしい気を感じたのもだ。もしかしたら、それに引きずられたのだろうか。
「だが、何のためにあの場所を尋ねたかまでは……覚えていないのにな」
仲間を守る為に受けた傷のせいで記憶の混濁が生じてしまって以来、思い出せない記憶が私にはいくつもある。先程目覚める前に見た、母との記憶もそうだった。母に連れられ、初めて行った博物館。母の思惑どころか、記憶の中の自分が、なぜそこまで母にせがみ、あそこへ連れて行ってほしかったのかさえ、曖昧過ぎて分からない。あるべきだろう、博物館の中を見学した記憶さえ、思い出せないのだ。
「大切な何かが、私には欠けている……」
「主、起きているか?」
襖の方から声が届く。
「今起きた所だ。少し寝坊してしまったようだ、すまなかったな三日月」
襖の向こうで控えているであろう、今日からの近侍である三日月が袖で殺した笑いを上げる。
「なに、少々の寝坊など大事なき事。俺としては、もう少しばかり主に休息を得てほしいところだ」
襖をあけて、三日月に差し出された普段着を受け取りながら、那緒も笑いを返す。
「いや、今日はそうもいかない。昨夜、話し合いをするから招集をと言ったのは私だからね」
「そうだったな。廊下で控えている故、終わったら教えてくれ」
そう言って、私室から出ていく三日月を見送り、服を取り換えにかかった。
着替えを終えた後、三日月を従えてやって来た本丸の主を大広間で待機していた全ての刀剣男士が静かに出迎える。
「皆、おはよう」
開口一番、那緒が挨拶をすれば口々に挨拶が返ってきた。
「朝早くからの招集に応じてくれた事、まず礼を言おう。さっそく本題に入るよ。先日、この本丸も属する「備前国」全ての審神者が招集された会議があった。その場で話された事は決して容易とは言えなかった。そしてこれは今後、私達の本丸も避けては通れない"脅威"であると判断し、皆に伝える事とする」
優しい主の重苦し気な言葉に新参古参問わず、全ての刀剣男士が固唾を飲み込んだ。
「歴史修正主義者が放つ時間遡行軍とは別の存在が現れた。私達、歴史を護る審神者や刀剣男士だけではなく歴史修正主義者や時間遡行軍すらも赦さぬ―――検非違使と呼ばれる者達だ」
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