第二話「本霊、来たる」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《那緒様の命を救う代わりに、那緒様の"一番大切な想い出"を捧げなければならなかったんです》
その言葉を聞いた途端、手から得物が落ちていた。
那緒の、一番大切な想い出。それは、俺だったのだ。那緒が、大切にしてくれていたのは。だが、そんな一大事に、なぜ俺は顕現しなかったのだろう。なぜ、傍にいてやれなかったのだろう。
「……俺のせいで、あいつは……俺との事を忘れちまったのか」
《何度、大神に訴え出てもだめでした。ですが、審神者様の死は我らの死。背に腹は代えられず、結局捧げる事となった。だからこそ、えぇ……あなたの記憶が、あなたとの想い出が、那緒様の中には"無い"のです。切り取られてしまっただけではなく、都合よく書き換えられているのかもしれません》
俺は思わず、顔を覆った。
遣わされるはずだったであろう、分霊を差し置いて、霊力の高さに物を言わせて本霊の俺が降りたとしても。那緒の中に俺の記憶が無いのだ。俺だけが、あいつを覚えている事が恨めしかった。あいつは生きる為に忘れてしまわなければいけなかったのに。俺はあいつを守る事も出来ずに来てしまった。
《……日本号さん》
「思い出す可能性は……」
《あるでしょうが……確率は……恐ろしく低いかと。しかし、神の理は分かりません。那緒様は神職だったこともあり、格別のご高配を賜っていますから》
得物を拾い、深く息を吐く。
「すまねぇな。だが、事情が分かっただけでも、俺ぁ良かったぜ。那緒との事は内密にしといてくれや」
《はい、日本号さんがそうおっしゃるなら》
その後、こんのすけに案内された大広間で、先住の刀剣男士達に会った。
「天下三名槍が一本にして、日の本一の呼び声も高い、日本号。常なら、ここにも分霊が来るんだろうが、この俺は本霊。本霊なら正三位の位も華があるってもんだろ?」
そう紹介してやれば、短刀達が凄いと騒ぎ出す。ただ、俺の気持ちはすっきりしなかった。一番、喜んでほしかったのは、こいつらじゃない。
(那緒……俺の……唯一)
「歓迎するよ、日本号さん。僕は燭台切光忠。今日は腕によりをかけて御馳走作っちゃおうね。主も本霊を呼ぶとは思ってないだろうから、きっと喜んでくれるよ」
燭台切が嬉しそうに話す。歌仙兼定と名乗った奴も張り切っている。
「後は上等な酒があると嬉しいけどよ」
「それならあたしにお任せあれ!じゃんじゃん持ってこさせるよ!」
「はしたないですよ、次郎」
はしゃぐ次郎太刀を窘める太郎太刀の一幕に男士達がどっと笑う。
「かように賑やかなところだ、日本号もゆっくりと馴染むといい」
美しい
「ぬし様は寛容な方。ここにいる刀達はみな、ぬし様がお好きじゃ。おぬしも気に入るじゃろう」
同じく三条派の刀剣―――小狐丸がニコニコしながら言う。
「おう、そうさせてもらうさ」
(そんな事、昔から知ってら)
無垢な笑みも、声も、人柄も。
お前達よりずっと昔から知っている。俺を唯一、見つけた人の子だ。俺の方が、お前達より長く、お前達よりも深く。
ずっと、ずっと―――好きだって事くらい。
(でも、言えるわけがねぇ)
この世で唯一の愛し子は。
俺を知らない。
愛し子の元へ来た槍
第二話 END.