第一話「六年の時を経て」
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審神者専用居住区・執務室。
道着から審神者用に誂えた式服に着替えた那緒はモニターを起動する。画面に映ったのは六年前からの付き合いである人物の顔だ。
「橘さん、何があったんです?」
『申し訳ありません、那緒殿。実は審神者管理部の上層部より、新たに出現した未知の時空の歪みの調査にあたり判明した事がございまして、各「国」に属する審神者に対し、緊急の審神者会議を招集する事になりましたのでお伝えをと思いまして。「備前国」の招集場所は今お送りしましたので、用意が出来次第、管理部本庁へお越し下さい。では、手短ですが失礼致します』
一言も挟む隙間もなく通信が切られ、モニターがブラックアウトする。
「こんのすけ、これから伝える事を逐一漏らさず記録し、男士達に伝えるように。私は管理部本庁にて会議に赴く。長谷部に本丸の指揮をとらせるように。今日の出陣と遠征は中止とする旨も忘れずに」
《かしこまりました、那緒様》
しばしの間、伝えるべき事をこんのすけに伝え終えた那緒は専用ゲートから現世へと渡った。
行き先は審神者管理部の本庁内にあるゲート専用空間。
本庁に用のある審神者はここにまず到着してから、各自用を済ませるべき場所へと赴かなければいけないのである。那緒は迷いもなく、目的地である会議室へと辿り着く。入り口には和服を身に纏った女性の式神が立っていた。
会釈をした式神は口を開く。
「お待ちしていました、那緒様。どうぞ、中へ」
「ありがとう」
厳重な鉄の扉に手をかざすと、霊力に反応して扉が開かれた。
式服の上に纏った羽織を翻し、中へ入ると、数人の審神者が座っていた。
「よ、先輩」
「吉織!久しぶりだね」
吉織と呼ばれた筋肉質の男性が手を上げて那緒を呼んでいた。
「備前国」は当初、たった三人しか集まらなかった創設メンバーでもって創られた最初の区画だった。第一と第二の本丸の審神者は長年の疲労から既に引退し、第三と第四の本丸の審神者である那緒と後輩にあたる吉織が「備前国」最古参のメンバーとして現役で後進を育てている状態である。
席の端で委縮しているのは恐らく見習いから上がったばかりの新人審神者の子だろう。「備前国」は創設当初からある区画に相応しく、那緒と吉織を始めとして、歴戦の猛者な審神者しかいないのだ。運よく配属された新人の大体は古参の審神者が放つ威圧感と霊力に根負けして他国への配置換えを望んだり、辞めたりする事が多いのである。
「ビクビクしちゃって、可愛いねぇ」
「こら、吉織」
二人で遊んでいると、続々と審神者達が集まり、あっという間に席が埋まる。
集まった審神者達の視線は、吉織の前に座る那緒に突き刺さっていた。無理もない。見目麗しいことを自覚していないのも問題だが、通常なら役人が座る上座に、見慣れない審神者がいる事に驚いているのである。
「ようこそ集まって下さいました、「備前国」の審神者衆。では、さっそく本題に。先日、我が管理部の調査チームにより慎重な調査を行っていた新たに出現した未知の時空の歪みに関して、判明した事がいくつかある為、ご報告させて頂きます。まず最初に、時空の歪み周辺に残された痕跡から、歪みより出現した何者かが、時間遡行軍並びにそれを指揮していた歴史修正主義者を倒したような形跡が認められました。残存する霊力を調べたところ、遡行軍そのものや、どの「国」の審神者や刀剣男士の痕跡とは違う事から、新たな時間遡行軍との仲間割れという線は低いともチーム代表は申しています」
「新たな敵勢力の出現という事では?」
那緒の隣に座った審神者が手を上げながら言う。
「えぇ。審神者とも、刀剣男士とも、まして時間遡行軍とも違う霊力の持ち主です。第三の新たな勢力、と考えてまず間違いはないでしょう。我々管理部は、その勢力に「検非違使」という名称を付け、警戒を始めています。歴史修正主義者をも倒す実力……戦力の少ない審神者衆が当たれば、ひとたまりもありません。「備前国」での出現は未だ見られませんが、見つけ次第、政府に報告の上、再度緊急招集するようにと上層部より言付かっています。出現条件が不明な今、下手な出陣や遠征は出来ません。緊急時とし、資材や食料、その他備品などは政府より供給します」
新たな勢力の登場に、にわかに騒めく会議室内。
那緒もまた、心中穏やかではいられなかった。自分の本丸の子たちは六年の歳月に沿い、実力は申し分ないが、もし、もしだ。「検非違使」という未知の勢力に遭遇し、折れてしまったら。それが恐ろして堪らない。あんなにもいい笑顔を見せてくれる彼らが、いなくなってしまうなど、他の審神者でなくても、考えたくない事だ。
(私に……何ができる……?)
握り締めた拳が震える。
第三の勢力現る
第一話 END.