第一話「六年の時を経て」
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西暦2211年。
「備前国」の「第三本丸」―――審神者専用居住区にその姿があった。山吹色の髪に萌葱色の瞳。美しくもありながら、精悍さを漂わせるその人の容貌は見る者を魅了してやまないと言えるだろう。
「……ふぅ」
この「第三本丸」に鎮座する審神者こそが我らが主、那緒様である。
審神者を助ける役目を背負いし式神「こんのすけ」は、己の主である審神者が毎朝欠かさない鍛錬を見つめていた。那緒は手に真剣を携えている。那緒を中心として、四方に三本重ねの巻藁とそれを固定する台が設置されていた。
「………っ!」
右足が出ると同時に鞘から真剣を引き抜き、右前方の三本重ねの巻藁を上段から斜めに削ぎ落とす。続いて左後方、右後方、左前方の三本重ねの巻藁を上段から削ぎ落とした。四方全て、ブレもなく。
《お見事です!那緒様ー!!》
正段の構えから、納刀し終えた那緒に向かってこんのすけが駆け寄る。
「おはよう、こんのすけ」
《流石、那緒様!その凛々しさたるや備前国一の審神者様ですぅ!》
道着と帯の間に組紐で括り付けている打刀に手をかけながら爽やかに挨拶をした。
「男士達が聞いたら怒りそうだ」
落ち着いた声がこんのすけの心に心地好く染み入る。思わずほわほわしてしまいながら、主の大きな手に撫でられていると、賑やかな複数の声が居住区と本丸を繋ぐ唯一の渡り廊下の端から聞こえてきた。刀剣男士達はこの渡り廊下以外からの居住区への出入りを禁じられているので、渡り廊下が唯一無条件で主である審神者に会いに行ける道筋だ。
「あるじさま!あさげのしたくがととのいましたよ!」
ピョンピョン跳ねながら嬉しそうに告げてくるのは今剣。後ろからおどおどした様子で、でも少しばかりはにかんでいる五虎退が五匹の子虎と一緒に走ってくる。那緒の足元で五匹の子虎がじゃれ合うのを宥めようとするも、那緒が優しく五虎退の頭を撫でて微笑む。
「主様……」
「今剣と一緒に朝餉の知らせをしに来てくれたんだね、ありがとう」
長身の那緒はしゃがみ込み、背に登ってくる子虎たちを意にも介さず、五虎退に礼を述べる。
「い、いえ……そんな!……えへへっ」
大好きな主に撫でてもらえた五虎退は嬉しそうだ。
「さ、あるじさま!ごこたいも!あさげがさめてしまいますよ」
今剣に背を押され、本丸に入っていくと廊下には数人の男士達がいた。
「おはよう、主!今日は道着のままなんだね」
声をかけてきたのは加州清光。那緒は清光と呼んでいる。この本丸が出来て間もない頃に顕現した古参の刀剣だ。
「今剣が着替えさせてくれなくてね」
「あさげがさめてはおいしくないでしょう?できたてのおいしいごはんをあるじさまといっしょにかこんでたべる。それがぼくたちのまいあさのにっかです!」
「確かにそれもそうだね、主と一緒のご飯はすっごくおいしいし!」
「ぼ、僕も同じ気持ちです……!」
えへん、と胸を張って言い切る今剣に微笑ましくなってしまった那緒は笑いが堪えられない。
「ふふ、今剣には叶わないねぇ」
ささ、行きましょう!と手を引く今剣についていこうとした時だった。
《那緒様ぁ!政府からの緊急通信です!執務室にお戻りくださいませ!!》
「……分かった。今剣、五虎退……それに清光。すまないが、今日は一緒は無理そうだ。皆には政府との通信があって来れないと伝えておいておくれ。恐らく、このまま政府まで赴くだろう。今日付けの任務や内番の振り分けはこんのすけに伝えさせる」
踵を返し、居住区へ戻っていった那緒を見送る三人の目は寂しそうだった。
「あるじさまとごはん……」
「仕方ないでしょ、ほら行くよ」
清光に背を押され、二人はとぼとぼと食堂への道のりを歩いていった。
(何もないと良いけど……)
清光は主が去っていった渡り廊下へ目を向けて心の中で呟いた。
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