そのた
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「店舗の火災についてコメントは出されておらず、事故と放火の両面から現在も捜査中です。以上、現場からお伝えしました」
全て終わったと思っていた。あの企業の、ファズベアーエンターテイメントの店舗が燃え尽き灰になったことで。ジャーナリストとして伝えるべきことは全て伝えた。“彼”の思惑の通りに。表向きは、ピッツェリアの姉妹店での事故やそれに関することばかり。それでもコアなファンたちはなにかと店舗の存続を願い、会社はそれに応えてきた。
ウィリアムアフトンの影、上層部の隠蔽体質、企業の法に触れる数々の行為。何より、子供達の魂を使用した機械人形…アニマトロニクスの存在。それを作るために開発した機械の存在も。どれかを報道することは、全ての疑惑を芋づる式に明るみに晒すことになってしまう。
それを“彼”は、すべて炎の中に消し去った。少なくとも今までのことは。
「非科学的。以前の私ならそう言っていました。けれど…」
こうなった今、信じる他はない。
私だって、幼い頃には彼らに憧れて両親にFF'sピッツェリアに連れて行ってとせがんだこともある。新店舗がオープンするって聞いて胸を躍らせたことも。
旧店舗のころのスプリングボニーが一番好きだった。フレッドベアーとお揃いの
カラーリング、ちょっと眠たそうな目も。でも、新店舗と新型アニマトロニクスたちの登場であのボニーの姿は見られなくなってしまった。
噛みつき事件を皮切りにファズベアーエンターテイメントの評判は急落。それからも異臭騒ぎや衛生面の問題で何かと取り沙汰された。こうして焼け跡だけが残る。夢と希望の皮を着た欲望まみれの企業の焼け跡だ。
関係者の話を聞く中で、誰よりも神妙な面持ちの"彼"の言葉を思い出す。HRY、手持ちの端末にはその名前じみた記号だけが残っている。友人だった男を止められなかった、だからこんなことになった。…およそ、マスコミの人間に話すような内容ではなかった。
でも、きっともう彼も限界だったのだ。今ならそう思う。誰かに話して、楽になりたい。少しでも胸の内の淀みを晴らしたい。懇願するようにさえ見える彼の言葉を聴いて私はそれを報道するような決断は下せなかった。
『もし、私の思惑通りに事が運べば、次にオープンした新店舗は火災で焼失する。全ての証拠とともに。でも…ひとつ気がかりがある。スプリングボニーを探してくれないか。もう、姿形はあの時のままとは、とても言えないと思うが…あれが完全に停止していれば…』
「ボニー…?」
新しい店舗には、ボニーやトイボニーといった顔ぶれが揃っていたはず。耳のように見えた部品を目印に周囲の瓦礫を崩してみると、私は言葉を失った。
「……ッ」
子供の頃に会いたかったアニマトロニクス。色はもはや何色だったのかわからない。でもきっとこの指の数、焼け焦げた耳は…
「旧店舗にいた、ボニーなのね…」
スプリングボニー。ヘンリーがそう呼んでいたアニマトロニクスに違いない。そう思って全体像を見ようと瓦礫をさらに取り払っていく。
【ああ、死なないとも…………】
唐突に、脳髄に指でも入れられたようなずるりと入り込んでくる、明らかな不快感。機械音と肉声が混じったような声。
「ヒッ……!!」
視界に掠めたのは白い、骨だった。内骨格と一緒に伸びて来たそれは私の腕に食い込んでくる。迷っている暇は無かった。近くにあった瓦礫を叩きつけて後ずさる。
「ウィリアム、アフトン……!?」
咄嗟になぜそう感じたのか、わからない。そこにある機械はもう、肉も筋繊維もない。なのにスプリングボニーのパーツだけが笑ったように見えた。あの中に魂が、本当に宿っているのだとしてそれは果たして、ウィリアムアフトン本人と
言っていいのだろうか。
魂は変容する、そう感じたときにはもう内骨格に被さった白骨が眼前に迫っていた。ヘンリー、あなたの思惑通りに事は進んだ。けれど、まだここには強烈な悪意が悪夢が、形を成して潜んでいる。
きっと私は逃げ切れない。
「…続いてのニュースです。ファズベアーズフライトの火災現場で女性記者が失踪した事件についてですが、未だ消息がわかっていません。警察は情報提供を呼びかけています。」
end
