そのた
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陽射しもうららかな朝だった。
ねえむはまだ寝癖も
直していないみっともない頭のまま、
よそ行きの服に着替えて
足には走りやすいいつもの
ぼろぼろ靴を履いて、なんとも
ちぐはぐな格好で
家を飛び出した。
あの病院から、彼女が
帰ってくる!
昔に別れたあのこが
帰ってくる!
そう思ったら、ねえむの
足は、ペンについた羽のように
軽いものなのだった。
「アリス!」
ねえむが走りついた先は病院。
蔦が這ったアーチをくぐって
少女、アリスは忌々しい
ラトレッジ精神病院から
出てきたところだった。
「ねえむ…?
ねえむなの?」
ねえむの姿を視認すると
アリスは痩せた顔に大きく目立つ
瞳を更に見開いて、驚きを露にした。
よそ行きの綺麗な服を
着たぐしゃぐしゃ頭の少女が、
道路を挟んで向こう側で
手を振っているのが見える。
その少女は、昔まだアリスが
家族を火事で失う前の、
幸せだった時期によく遊んだ
少女の面影を残していた。
ぼろぼろ靴で駆けて抱きついて
きたねえむを、細い体で
なんとか支えて、あえぎあえぎ
アリスは言った。
「あなた、もしかして、その…
私を、迎えに…?」
否と言われたときの恐怖を
内に押し込めながら尋ねると
ねえむは嬉しそうに頷き
アリスの肩越しに顔をうずめた。
「会いたかった、アリス。
病院にお見舞いにいったって、
誰もあなたに会わせてくれや
しなかったのよ」
「会いにきてくれてたのね、
私ちっとも知らなかったわ。」
だけど会っていたら、
ねえむにつらく当たって
しまっていたかもしれないと
思うと、アリスは少しだけ、
イカれたあの病院に感謝するのだった。
「私ずっとお話したかったの、ずうっとよ。
あなたが長い間笑いもせずに
あそこに閉じ込められてたなんて
考えただけで悔しいわ!」
「もお、泣かないの。ごめんね
私は平気よ、ラトレッジになんて
もう戻ったりしないから」
凛と笑むアリスは、まだ痩せては
いるものの、陽が反射した瞳は
きらきらしていた。
戻らないという言葉は決意の様だった。
「久しぶりにうちに来ない?
紅茶とクッキーでおしゃべり
しましょう。」
「あら、お茶会?いいわね。
でも出来れば、6時を誰かが
刻んでしまわない内に
おいとましたいわ」
「誰か?」
悪夢の世界の、破壊にとらわれた
かつての仲間を思い出して
遠い目をする。
そして「お茶会」と
いう言葉に、ねえむは幼いころ
おかしな帽子屋の話を
アリスに聞いたのを思い出す。
「ええ、水銀でやられた頭の
可哀想なひと。」
その横で、救われた
不思議の国のことも
少しずつねえむに
話してあげようと
アリスは考えた。
「アリス、紅茶に砂糖は1個?2個?」
「私の体が入ってしまわない
コップになら、1個」
皮肉っぽく言うアリスを見て
ねえむは笑う。
「まあ、そんなのうちに
あるはずないじゃない」
「ふふ、それもそうね。」
(折角またおしゃべりが
たくさん出来ると思ったのに、
あなたの笑顔に会えなくなる
なんて、思ってなかったのよ 私。)
end
