それいけ!
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昔に読んだ絵本で、魔法使いは
魔法を使って、他人の心も
自由自在なんて書いてあって
あたしは大層憧れた。
うるさいやつらはみーんな魔法で
あたしの虜にしちゃえばいいんだもんね。
でもそのうち、魔法よか
手っ取り早くて、
後腐れ抜群だけど
一瞬で他人を支配する術が
あるのを知った。
それは未だにあなたが実行
しきれない大きな大きな
壁の向こうだ。
「ばいきんまんは魔法使いみたいだね〜」
目の前で宿敵のパンをやっつける
ための薬だか兵器だかをさくさく
つくりあげていくばいきんまんを見て、
あたしは楽しげにそう呟いた。
手先が器用というだけでは
追い付かないスピードで
はんだごてやらルーターやら
はたまたフラスコやなんかを
動かしている姿が、
何かの儀式みたいに見えた。
あたしのひとりごとにも思えるそれに、
訝しげな顔で復唱したのはもちろん
魔法使いと呼ばれた本人で。
「魔法使いぃ?あのねねえむちゃん
おれさまは化学者!
魔法も便利かもしんないけど、
計算しつくされた秘密兵器には
敵わないのだ!」
自信満々でスパナを振り上げると
お約束のようにスパナは手から
すっぽぬけて、ばいきんまんの
顔面に垂直落下した。
んがっ、と鈍い悲鳴を聞いたら
可笑しくなって、あと同時に呆れて。
惑星が頭のうえで回るばいきんまんの
となりに体育座りしてひとりごとタイム。
「あたしがあなたにアドバイスしたら
アンパンマンなんてイチコロだし、
世界征服だってすぐそこだよ?」
だってあたしはばいきんまんより
汚くて狡猾な醜い手段を知ってるんだ。
だけど秘訣を教えてはあげない。
「あなたは誇り高い
臆病者だからね。」
オクラちゃんさえ切り捨てられない
ばいきんまんに、他の何かを
切り捨てられるはずがない。
「でも、あたしはそんなあなたに
惚れ込んだんだから、
全部を切り捨てられるような
クズにはなったらいけないよ。」
相手がバイ菌だから
キスはしないけど
手袋ごしにそっと
頭をなぜて覚醒を促す。
「んん…?あらねえむちゃん。
おれさま一体どうしちゃったの?」
「大発明の真っ最中にスパナ
ぶん投げて自爆したんだよ」
「あーっ!!肝心なところで!
…このパーツ、どこのだっけかな…?!」
魔法で誰でも思い通り、
化学じゃそうはいかないね。
ただ、面白いのは
宿敵を倒せない程度ではあるけれど、
あたしのことを虜にするくらいの
化学力と、信念と、憎めなさを
あなたは持ってたってことなのだろう。
魔法と違って、
皮肉といえばそうなのだ
"叶わない想い"って意味ではね。
end
