恐怖映画
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誰もあなたを知らなければいい。
たしかに今、この町で
ヴィンセントとレスター、
私をのぞいてボーを知るひとなんて
いないかもしれない。
だけど、それ以上でなければ、
この欲求はまるく私の中で
収まってはくれない。
ボーのお母さんの瞳の色を私が知らないように、
ボーの瞳の色を他の誰にも知られたくない。
その手が温かいこと、髪の流れ、力の強さ
笑った顔の愛しいこと
何よりもお母さんが好きなこと。
この状況で私が手にかけなければ
いけないのは、ボーのかわいい弟。
この子を殺したあとでも、あともう一人は
容易に始末の算段がつく。
「ヴィンセント、少しお散歩しましょう」
素直に頷いたヴィンセントに
いいこね、と笑いながら
錐を利き手側のポケットへ隠す。
どきどきする。
私がヴィンセントを殺したら
ボーはどんな顔をするの?
もし、殺し損ねてボーに
この事実を知られたら
どんな顔で私を殺しにかかるんだろう?
「おう、ねえむにヴィンセント、
珍しいなお散歩かい?乗せてってやろうか?」
「あら、レスター。...丁度よかったわ」
言うが早いか、
エプロンに隠したホルターから
ハンドガンを抜き出すと
迷わず安全装置を解除する。
滑るようにトリガーを引けば、乾いた
音とともに銃弾がレスターの胸を
赤く飾ってくれる。
私を即座に敵と見なしてペイントナイフを振り上げた
ヴィンセントの頭部と胸部へも、錐を突き刺す。
何度も、何度も。
ヴィンセントが動かなくなってから、ボーの
いる協会へ向かった。
一刻も早くここで2人きりに
なりたい。そう思ったの。
「ボー」
「ねえむか、...外へ出よう。
母さんには静かにさせてやりたい」
「ええ」
ママの前では随分いい子なのね。
手のひとつも繋げるかと期待して、
協会を出たところに人影がふたつ。
ボーは途端に私を振り返り
眉間にしわを寄せた。
「こいつは一体どういうことだ」
「どうもこうも、急に撃たれて
危うく死ぬとこだ。ゴホ!
ヴィンセントも、おお
かわいそうにイヒヒ」
「.............」
レスターとヴィンセント。
殺したはずと思っていたけれど
急所を外していたらしい。
それにヴィンセントのあの顔、
大方私が刺した部分は空洞ってわけ。
それにしても胸まで刺されて
生きてるのはしぶといなんてもの
じゃないわね。
血まみれの2人を前に言い訳するのは
さすがに言い逃れできそうにないって
私にもわかるわ。
だから白状することにした。
「ボー!私、できるならあなたに...!」
殺されたいの、そう言えないまま
銃弾の弾ける音が虚しく響いた。
レスターの手にある猟銃から
煙が出ているのが見える。
そして私の体が血を失っていく、
「お返しだよ」
最低な終わり。
好きな男の手で死ねないなんて。
ボーの服を掴もうと手で
空を掻いたけれど、
半歩私から距離をとって
ボーは一言吐き捨てた。
「イカれ女が」
私を侮蔑するあなたの淡い瞳は
きっと、あなたを侮蔑するお母さんに
似たものなのね。きれい。
私あなたのお母さんも好きになれる
自信があったわ。
アンブローズの曇り空が少しだけ
視界に入ったけれど、
もうじき何も見えなくなる。
最後に聞いた言葉があなたの声なら
それはそれで幸せなのかもね。
「レスター、棄ててこい」
「ん?どっかに置かないのか」
「ハッ、そんなもん
見世物にも向いてねえ」
「轢かれたトナカイの下が
お似合いってか?ハハ」
行きすぎた愛は
何ひとつ、報いにならない。
end
