罪花罰
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すべてが唐突、そんなのは世界の法則だ。
だから、彼女の思いつきが唐突なんてことは
なんら問題ではないんだ。
「玉露憂、なんでまだ薔薇紋と結婚しないの?」
ひょい、と鉢植えの影から顔をだすねえむ。
話しかける先は茶筅を飾った緑の髪。
玉露憂は急な質問にも動じずに
すぐにその意味を理解し、屈託のない笑顔を
浮かべて応えた。
「まだ時期ではないようなのでな。
じゃが、まりょは諦めてはおらぬじょ!」
玉露憂が幼い頃から薔薇紋を好いていて、
未だに結婚を夢見ていること。
それをねえむは知っているからこそ
先ほどのような質問が飛び出したのだが、
この行きすぎたお節介は彼女の性格だ。
彼女のお節介に他意はなく、ただただ
友人である玉露憂の願いが叶うことを
願ってのこと。
友人思いで裏表のない、大変「よいこ」である。
問題が大きくなる原因は、彼女の行動力と考えの
飛躍の仕方が大体玉露憂と同じ程度というところ
からだろうか。
「そんなのじれったいじゃない、
男なら行動あるのみよ!
あっ、でも同性同士は日本では
結婚できないのよね」
「そのへんは大丈夫じゃ、ばりゃもんを
女にしてからめとるからの!」
女にしてから、という方法はこの後に及んで
解説が必要か否かは甚だ疑問であるが
一応の記述をしておくことにする。
玉露憂の素直すぎる図解によれば、薔薇紋の
股間へ直接蹴りを入れて男のシンボルを
除去しようという原始的かつ小学一年生の
中休みに匹敵する自由加減を持った方法論を
主に言う。
さすがのねえむも、この方法には
異論を唱えた。
「うーん多分玉露憂の考えてるやり方
じゃあ無理じゃない…?
あっ!玉露憂いいこと考えた!」
「なんじゃなんじゃ?」
「同性結婚OKな国にいって、
薔薇紋をお嫁さんにすれば
万事解決じゃない!?」
「おおー!よくわからんが
解決するなら凄いじょねえむー!」
ぴかぴか、きらきら、オノマトペにすれば
そのような表現なのは間違いない。
そういった希望の輝きを眼に宿して
2人の計画は加速する。
ろくに言葉も交わさず軽やかに、
罪花罰の花々が咲き誇る
店先のドアの前に滑り込む。
「っということで薔薇紋、用意して!
高飛びするわよ!!
あなたと玉露憂が!!」
「まりょが夫で同性がねえむで
ばりゃもんが嫁じゃ!!」
「…はい?」
かくかくしかじか。主語も述語もごちゃまぜの
玉露憂の説明を、なんとか第三者が理解できる程度に
ねえむが翻訳して話を進めていく。
もちろん、玉露憂と薔薇紋が結婚をするために、
ともに海外へ行くなんて非現実的なことに
許可が降りるはずもなかった。
「あなたたち莫迦なんですか?
私は桔梗クンをアレソレする大事な用事が
日毎夜毎毎日毎時山程あるんですよ。
そんなこと出来るわけないでしょう!!」
薔薇紋は玉露憂の身勝手な理由に勝るほどの
理不尽な日課を理由に声を荒げる。
目力の凄まじい薔薇紋に気圧されて子犬のように
縮こまる玉露憂と、桔梗くんの優先順位たっっかい!
と叫びを上げて膝から崩れ落ちるねえむ。
「よーわからんが、お前ら
そんな金ないじゃろ。
現実を見やがれってーの」
金銭的な問題だけではないのだが、
ねえむと玉露憂はまさにひなぎくの
言葉によってそのことに気付いた様子で、
たちまちどよんと影を背負ってしまった。
「ひなちゃん鋭いわ大変…お金のことは
考えてなかったじゃない…!」
「くぅ...失敗か...!まあ次はこうは
いかぬじょ!ばりゃもん!
覚悟しておれぃ!!」
「わーんもう!
完璧だと思ったのにー!」
盛大な音を立てて、生垣に飛び込んでいく2人。
計画性も現実味もない未来に
どうすればそれだけ希望を持てるのか、と
いった顔で薔薇紋とひなぎくは
その背中を見送った。
「暇ですねえ、あのふたり。」
「いっそあいつらが結婚すれば
早いのにの。」
ため息をつく薔薇紋と
ひなぎくの言葉は、テンションのままに
駆けずり回るねえむと玉露憂には届かない。
そして薔薇様とひなが結婚を...というひなぎくの
呟きも、桔梗の生活音盗聴に勤しむ
薔薇紋の耳には届かないのだった。
唐突なんて、この罪花罰では
日常的で、驚きにもならない。
「さあ、玉露憂!薔薇紋との結婚のためにも
まずはアルバイトして小金を稼ぐことが
先決じゃない?!やるわよいくわよハネムーン!!」
「応!!ばりゃもんと婚前旅行じゃ!
ねえむ、感謝するぞっ!」
「友達の夢だもん。当たり前じゃない!」
明日はどんな唐突がやってくるのか。
薔薇紋の言葉を借りればそれこそ、
日毎夜毎、毎日毎時がその連続。
end
