そのた
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「人に触れない、ねぇ」
大きな病院の地下室、
カラフルでどんな構造をしているのか
検討もつかない。
そんな部屋で、ねえむは
精神科医の伊良部に診察を受けていた。
「はい…コンビニでお釣りを
渡されるのも、
友達同士で手を繋ぐのも駄目
なんです…」
異様な雰囲気と妙ちきりんな
医師に戸惑いながら
生活にまで支障をきたした
症状を打ち明ける。
「典型的な潔癖症だネ。
別に死んだりしないんだから
ダイジョーブだと思うけどなぁ~。」
「そんな!
治したくてこちらに伺ったんです!
お願いします!」
やる気の見えない伊良部の
返事に、ねえむは慌てて
すがる様に席から
立ち上がって訴えた。
「ふぅん。まあ、そうだよね。
じゃあさあ、」
ようやく診察らしい見解と、
これからどうしていけば
開放へ向かうかの
見通しが立つかと
安心したのも束の間。
伊良部はねえむの前まで
歩み寄り、椅子に座り直した
ねえむへ、ぐっと顔を
近づけ言った。
「ボクと恋しようよ」
「は」
語尾にご機嫌な音符やら
星型の記号やらがお目見えしそうな
ほどににこやかに、響きとしては
日常会話の一端であるように
切り出された言葉を一瞬では
ねえむの脳は
飲み込み切らなかった。
そのために飛び退くことを
忘れていたねえむは
やっとのことで台詞を噛み砕き、
理解出来ない、といった表情で
椅子から落ちない程度で
精一杯身をよじり
伊良部との距離を置く。
だが開いた距離を再び
詰めるかのように半歩近づき、
伊良部は全開の笑みで尚も
主張を止めようとはしない。
「好きなひとにはやっぱり触りたい
ものでしょお?疑似恋愛、
治療の一環だよ~!
あ、それとも好きなヒトいる?」
「いえ…でも」
その続きの拒否は
うきうきとした伊良部の声に
遮られてしまう。
「じゃ決まり!ボクは君の、
君はボクのコイビト。
明日は公園デートしよーね
ねえむちゃん!
朝10時に病院前ね、また明日~!」
ずいずい、と押し出される
(とはいえ伊良部は手を前へ
突きだしているだけで、
その手に触れられないねえむが
後ずさっているのだが。)
ようにして診察室から追いやられ
ねえむは強制的に
帰宅を選ばざるを
えなくなってしまった。
「あっ、ちょ!せ、先生!?
もっとしっかりした治療…
…で、でえ、と…だなんて。」
ぽつ、とこぼしたその言葉の先が
ねえむ自身でも
否定へ続くのか、
肯定へ繋がるのか、
定かではなかった。
(ただきっと、あの時の
私の顔は赤色をしてた。)
end
