カリスマ
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「じゃ〜ん!!見て見て!お一人様映画館!」
朝一番、ねえむが仰々しく掲げて見せたのは、小洒落たプリントが施された段ボール箱だった。頭が入るほどの大きさではあるが、一見すればただの箱。それを彼女は"映画館"とのたまう。テラはその様子をコーヒー片手に覗き込むと、なるほどねと笑いをこぼした。
「それ、ダンボールシアターってやつ?流行ったの結構前じゃん。今やるゥ?」
「いいの流行り廃りは!前から気になってたんだ」
「何なに?あーここにスマホ入るんだ!へえ〜面白いね」
洗濯の途中で通りかかった依央利も段ボール箱の仕組みを見ては珍しげにしている。寝転がった状態で頭に箱を被せ、天面に開いた穴にスマートフォンを嵌め込むことでさながら1人用の映画館のように映像作品を楽しめるという代物。確かに数年前のいつぞや話題になった気がする、と3人が雑談する横で、いつの間にか大瀬がレジ袋を被って震えていた。
「自分が袋で顔を隠した程度じゃ…やっぱり不愉快でしたよね…!これを被ることで、ねえむさんの眼にクソ吉の顔を映さず済む…ねえむさんにまでそんな手を煩わせて…ごめんなさい…死にます」
「大瀬君!?何その飛び火!?違うよ!??」
「オバケくんその袋取って!!」
「てか大瀬さん朝ごはんまだだよねぇ?食べてないよねえどういうつもり?奴隷に向かってどういうつもり??」
「依央利君だけ行動原理が違うベクトルだな!?」
今にもレジ袋の中で窒息死を選び取りそうな大瀬をねえむとテラが必死で宥め、依央利はレジ袋が取れた大瀬に朝ごはんのサンドイッチを咥えさせることに成功した。大瀬の内罰ゴコロを刺激しないよう、自室へなんとか送り込み、騒ぎが静まったリビングにふみやがひょうひょうと顔を出す。
「絶対聞こえてたけどめんどくさかったから止めに来なかったよね…ふみや君…」
「え?何が?いや、全然なにも聞こえなかったけど全然、なんにも」
「嘘ヘタか!」
「それはさて置き、ねえむその箱で何かするの」
あ、はぐらかした。と指摘するテラの声を当たり前のように聞き流し、ふみやはねえむの持つ箱に視線を落とす。
「今日は皆ほとんどお出かけって言ってたから、広いリビングで寝っ転がってこれで映画観るんだ〜」
「別にレコーダーとか使っていいのに。大画面の方が迫力ない?」
「いやいやふみや君、このデカいリビングを独り占めしてこじんまりやるのがいいのよ」
「うん。なんかよくわかんないけど、ねえむがいいならいいよ」
「すごい、この数十秒の会話でもうダンボールシアターに興味なくしてる。いっそ清々しいよふみやさん」
じゃあもう出るから、と簡素に言い残してふみやはリビングを後にした。こういう時は大抵新作スイーツにテンションが上がって気もそぞろなのだ。続けて洗濯を終えた依央利と身支度を済ませたテラも、各々の目的を果たすべく外出していく。
「それじゃ奴隷は買い出しに行ってきま〜す!ねえむちゃん、映画楽しんで〜!」
「テラくんもお仕事あるから。時々休憩しなよ」
「ありがと、2人ともいってらっしゃーい!」
少し静かになったリビングで、ねえむは鼻歌まじりに映画のウォッチリストを漁る。
部屋へ戻って行った大瀬と、今朝方帰って来た猿川はまだ自室。理解と天彦は朝早くから外出しているようで姿は見えない。しばらくは目論見通り、広いリビングを独り占めできそうだ。
…この時は、あんな事件が起きるとは思いもよらなかったのです。と、後に彼女は語る。
------
(あ〜面白かったー!ラストが最高だった…)
ねえむは2本目の映画を見終わり、余韻に浸っていた。普段は滅多に最後まで見ないエンドロールまで見終えた心地よさは達成感にも似ている。
(次何見ようかな、それか一旦休憩して…)
箱を一度どけようかと考えていると、頭上から声が降って来た。
「おや、このセクシーな肢体はねえむさんですか?」
「全然セクシーのカケラもないけど…はい。ねえむです。天彦さんおかえりなさい」
部屋着のままリビングに大の字になっていた人間を捕まえて、セクシーと形容する美的感覚を持つのは彼だけだ。顔も見ずに段ボール姿のまま挨拶をしてしまい、ねえむは失礼だったと段ボールを外そうとする。慌てるねえむを天彦は柔らかに制止した。
「ただいま戻りました。ああ、大丈夫ですよそのままで。リラックスしているところにすみません」
「いえ、すみません私こそこのまま話しちゃって。でもありがとうございます」
「映画でも見てるんですか?」
「そうなんです。今日はリビング独り占めできるなーと思って!邪魔だったらすぐ退きますから」
「いえいえ。僕のことはお気になさらず、存分に映画鑑賞なさっていて下さい」
リビングに来たのが理解か猿川なら邪魔だからどけと怒鳴られそうだが、天彦は基本的に他人に優しい。こういう所は大人の余裕だなあとねえむは天彦の寛大さにじんわりとありがたさを感じる。
「まあ、今この生まれたままの天彦をご覧いただけないのは残念ではありますが…」
前言撤回だ。悩ましげにため息を吐く天彦。彼の言葉に問題発言が含まれていたような気がして、ねえむはなるべく先ほどまでと同じトーンで質問を試みた。
※以下しばらくねえむとWSAの勢いだけの会話をお楽しみください。
「え?あの…天彦さん?」
「はい?」
「生まれたままのって言ってましたけど、今裸なんですか?」
「そうです」
「なんでですか?」
「セクシーだからです」
「上半身だけとかじゃなくて?」
「下半身まで一糸纏わぬ全裸です。裸体、全裸体です」
「なんでなんですか!?」
「セクシーだから…です」
「無闇にタメるな!いやちょっと待ってください!私これ(段ボール)外せないじゃないですか!!」
「え?なぜですか?いつでも外して貰っていいですよ?…さあ!」
「絶対今ポーズとってますよね!?絶対取れないじゃないですか」
「だから大丈夫ですよ。ほら、さあ!」
「やめて!?ポーズ取らないで!?」
「ハッハッハッハッハッハッハ!ハッハッハッハッハッハッハ!!」
「嫌だ〜〜〜〜〜!!だ、誰か〜〜〜〜!!!」
------
ねえむが天彦に小一時間ほど周りでポーズを取られ続けた頃、悲鳴と笑い声が響くリビングを猿川が訪れた。頭をガシガシと掻きながらあくびをする姿からは、今し方の騒音で安眠妨害されたのであろうことが読み取れる。
「うるっせーな何なんだよ…いやマジで何だコレ!!?」
猿川の苛立った言葉尻は、頭部が段ボールの女と、全裸の成人男性の存在を認識した瞬間驚きに変わった。その声を聞いてねえむは助けが来たと飛び上がるほど喜んでいる。
「猿川君!?助けて〜〜〜!!」
「やぁ猿川くん!」
「どういう絵面だシャレになんねーぞ!服を着ろ天彦!!あと、大瀬もンなとこで震えてんじゃねー!出てこい!コイツふん縛るぞ!」
「えっ!?大瀬君もいたの!?」
理解が居ない今、この部屋に通常通りツッコミが行えるのは猿川1人である。大瀬はというと、リビングに入るか入らないかというところでうずくまっていた。
「すみません…すみません…1時間くらい前からいました…ごめんなさい…」
「いや…大瀬君にこの状況は流石に重荷だから…全然、そんな気にしないで…まじで……」
謝る大瀬だが、ねえむからすれば仕方ないという感想しか出てこない。天彦の暴走はカリスマハウス全員を持ってしてもそうそうは止められないのだ。まして大瀬1人が向かって行ったところでワールドセクシーアンバサダーの世界観に巻き込まれるだけだ。
そうこうする内に、ポージングをキメ続ける天彦を猿川が捕縛している声がねえむにも聞こえてきた。
「ああっ猿川くんもっと優しく!セクシーに縛ってください!いやしかしこの乱雑さもまた…」
「無敵かお前!?ハァ…とりあえず天彦は動けなくしといたぞ。ねえむも大瀬も出てこいって」
「は、はい……」
捕縛した天彦をラグの端の方へ転がし、一仕事終えた猿川はソファへ腰掛けた。ようやく段ボールを頭から外せると息をついたねえむに安息が、訪れるはずもなく。
「ありがとう猿川くん…ってウワーーー!!全裸のままじゃん!!」
生まれたままの天彦を見ることにはなってしまったが、体操座りの様な体勢で縛られていたのでねえむの中の超えてはならないラインはギリギリ守られることとなった。
「だって布とかねーんだもん。ちんこ出てねーだけ良いだろ」
「あ、それは考えてくれたんだありがとう…じゃあ天彦さんの部屋から服取ってくるか…ていうか脱いだ服どこにもないんだけどほんとどうやって帰ってきたのこの人は…」
-余談だが、この日の天彦の服は洗濯物にも出ていなかったので、彼がどうやってお天道様の下を歩いて外出しそして帰って来たのかは全くの謎である。普段は普通に服を着ていく為余計に…-
ねえむは天彦の服を調達しに行こうと、テーブルの上にあった天彦のルームキーを手にする。3.4時間は寝転がっていた弊害か、リビングの出入り口付近にいた大瀬の前で少々ふらついてバランスを崩した。
「あっごめん」
「ぇあ…っ」
ばしゃり、音がしてねえむの服と床に水が広がる。大瀬が一際大きな声を上げた。どうやらぶつかった拍子に大瀬が持っていた物、筆洗の水が溢れたようだ。
「あ、あぁあああぁあああぁ……!!」
「わ、冷たっ!」
ねえむの胸元にかかったのは、絵の具が溶けた色水だ。筆洗の水を替えるために降りて来て、異常な光景に立ちすくんでしまっていたのだろう。まだ入れ替え前だった水が、ぶつかったねえむの割と新しいトップスの色をドドメ色に変えていく。そして大瀬の顔も焦りで同じくらい形容しがたい色味になっている。
「きょ、今日に限って水彩にしてみようとかそんな最低なことを考えてしまったから…!今すぐに死にます!死にます…!」
「だからすぐ死ぬな〜!!ア"〜〜〜もう!!オイほらバケツ落としてるじゃねえか!」
「大丈夫大丈夫!私もよく見てなかったし、依央利君に色落ちるか聞いてみるし!!」
「水も滴るボディライン…」
「天彦さん口チャック!!うわー床も拭かなきゃ!」
--------
「ただいま〜……………えナニコレ」
「ええ!?地獄絵図!?」
大体同じ頃に帰って来たテラと依央利が見たのは、全裸の天彦とドドメ色で濡れた床、同じくドドメ色の水で濡れたねえむ、騒ぎの中で倒された机と椅子、自己嫌悪で死にたがっている大瀬にそれを制している猿川という阿鼻叫喚の光景だったとか。
-------------------
おまけ-その後
反省会。会話文のみ。どれが誰か考えつつお楽しみください。
「う"〜ん…まあ女性に手を出すタイプの変態ではなくてよかったというべきか…?」
「当たり前ですよテラさん。エクスタシーには同意あるべきです」
「何真顔で言ってんだコイツ、露出も当たり前に犯罪だろ」
「ええ…!?私有地内なのに…?」
「同意のない他人の前ですからね!ダメです!ねえむちゃんじゃなかったら訴えられてますよ!」
「天彦さん、反省してください」
「わかりました。天彦、反省しています。…考えてみれば、やはり一方的にというのは良くありませんでした」
「ん?」
「では、次は僕がシアターを被って横になりますので、ねえむさんに全裸でお好きなポーズを取っていただいて…」
「イヤ取るわけないですからね!?」
「全っ然反省してないなァこの人!!」
「うーん。リビングは邪魔だし俺はあんまり見たくないし、まあ部屋でやってくれたら俺はいいかな」
「いいワケないでしょ!ふみやさん!!」
「さ〜て、僕はこのとっ散らかりきった地獄絵図をキレイにしないといけないから、ハイ各自出てったでてった!」
「だから依央利さん!ダメですって!!2度とないように話し合わないと!」
「テラくんのことは一切巻き込まないで。それじゃね」
「テラさんも!!関わってもっと!!秩序が乱れちゃうから!!」
「ねえむさん…最低な1日にしてすみませんでした……」
「大瀬くん!!そう言いながらナイフ持ってくの禁止!」
「あークソくだらね〜…いお飯出来たら呼べ」
「かしこまり〜!」
「猿ーーーッ!!」
「では、ねえむさんは天彦とシアターを」
「しないって!!!」
映画は自分の部屋で見よう!そう心に誓ったねえむだった。
end
朝一番、ねえむが仰々しく掲げて見せたのは、小洒落たプリントが施された段ボール箱だった。頭が入るほどの大きさではあるが、一見すればただの箱。それを彼女は"映画館"とのたまう。テラはその様子をコーヒー片手に覗き込むと、なるほどねと笑いをこぼした。
「それ、ダンボールシアターってやつ?流行ったの結構前じゃん。今やるゥ?」
「いいの流行り廃りは!前から気になってたんだ」
「何なに?あーここにスマホ入るんだ!へえ〜面白いね」
洗濯の途中で通りかかった依央利も段ボール箱の仕組みを見ては珍しげにしている。寝転がった状態で頭に箱を被せ、天面に開いた穴にスマートフォンを嵌め込むことでさながら1人用の映画館のように映像作品を楽しめるという代物。確かに数年前のいつぞや話題になった気がする、と3人が雑談する横で、いつの間にか大瀬がレジ袋を被って震えていた。
「自分が袋で顔を隠した程度じゃ…やっぱり不愉快でしたよね…!これを被ることで、ねえむさんの眼にクソ吉の顔を映さず済む…ねえむさんにまでそんな手を煩わせて…ごめんなさい…死にます」
「大瀬君!?何その飛び火!?違うよ!??」
「オバケくんその袋取って!!」
「てか大瀬さん朝ごはんまだだよねぇ?食べてないよねえどういうつもり?奴隷に向かってどういうつもり??」
「依央利君だけ行動原理が違うベクトルだな!?」
今にもレジ袋の中で窒息死を選び取りそうな大瀬をねえむとテラが必死で宥め、依央利はレジ袋が取れた大瀬に朝ごはんのサンドイッチを咥えさせることに成功した。大瀬の内罰ゴコロを刺激しないよう、自室へなんとか送り込み、騒ぎが静まったリビングにふみやがひょうひょうと顔を出す。
「絶対聞こえてたけどめんどくさかったから止めに来なかったよね…ふみや君…」
「え?何が?いや、全然なにも聞こえなかったけど全然、なんにも」
「嘘ヘタか!」
「それはさて置き、ねえむその箱で何かするの」
あ、はぐらかした。と指摘するテラの声を当たり前のように聞き流し、ふみやはねえむの持つ箱に視線を落とす。
「今日は皆ほとんどお出かけって言ってたから、広いリビングで寝っ転がってこれで映画観るんだ〜」
「別にレコーダーとか使っていいのに。大画面の方が迫力ない?」
「いやいやふみや君、このデカいリビングを独り占めしてこじんまりやるのがいいのよ」
「うん。なんかよくわかんないけど、ねえむがいいならいいよ」
「すごい、この数十秒の会話でもうダンボールシアターに興味なくしてる。いっそ清々しいよふみやさん」
じゃあもう出るから、と簡素に言い残してふみやはリビングを後にした。こういう時は大抵新作スイーツにテンションが上がって気もそぞろなのだ。続けて洗濯を終えた依央利と身支度を済ませたテラも、各々の目的を果たすべく外出していく。
「それじゃ奴隷は買い出しに行ってきま〜す!ねえむちゃん、映画楽しんで〜!」
「テラくんもお仕事あるから。時々休憩しなよ」
「ありがと、2人ともいってらっしゃーい!」
少し静かになったリビングで、ねえむは鼻歌まじりに映画のウォッチリストを漁る。
部屋へ戻って行った大瀬と、今朝方帰って来た猿川はまだ自室。理解と天彦は朝早くから外出しているようで姿は見えない。しばらくは目論見通り、広いリビングを独り占めできそうだ。
…この時は、あんな事件が起きるとは思いもよらなかったのです。と、後に彼女は語る。
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(あ〜面白かったー!ラストが最高だった…)
ねえむは2本目の映画を見終わり、余韻に浸っていた。普段は滅多に最後まで見ないエンドロールまで見終えた心地よさは達成感にも似ている。
(次何見ようかな、それか一旦休憩して…)
箱を一度どけようかと考えていると、頭上から声が降って来た。
「おや、このセクシーな肢体はねえむさんですか?」
「全然セクシーのカケラもないけど…はい。ねえむです。天彦さんおかえりなさい」
部屋着のままリビングに大の字になっていた人間を捕まえて、セクシーと形容する美的感覚を持つのは彼だけだ。顔も見ずに段ボール姿のまま挨拶をしてしまい、ねえむは失礼だったと段ボールを外そうとする。慌てるねえむを天彦は柔らかに制止した。
「ただいま戻りました。ああ、大丈夫ですよそのままで。リラックスしているところにすみません」
「いえ、すみません私こそこのまま話しちゃって。でもありがとうございます」
「映画でも見てるんですか?」
「そうなんです。今日はリビング独り占めできるなーと思って!邪魔だったらすぐ退きますから」
「いえいえ。僕のことはお気になさらず、存分に映画鑑賞なさっていて下さい」
リビングに来たのが理解か猿川なら邪魔だからどけと怒鳴られそうだが、天彦は基本的に他人に優しい。こういう所は大人の余裕だなあとねえむは天彦の寛大さにじんわりとありがたさを感じる。
「まあ、今この生まれたままの天彦をご覧いただけないのは残念ではありますが…」
前言撤回だ。悩ましげにため息を吐く天彦。彼の言葉に問題発言が含まれていたような気がして、ねえむはなるべく先ほどまでと同じトーンで質問を試みた。
※以下しばらくねえむとWSAの勢いだけの会話をお楽しみください。
「え?あの…天彦さん?」
「はい?」
「生まれたままのって言ってましたけど、今裸なんですか?」
「そうです」
「なんでですか?」
「セクシーだからです」
「上半身だけとかじゃなくて?」
「下半身まで一糸纏わぬ全裸です。裸体、全裸体です」
「なんでなんですか!?」
「セクシーだから…です」
「無闇にタメるな!いやちょっと待ってください!私これ(段ボール)外せないじゃないですか!!」
「え?なぜですか?いつでも外して貰っていいですよ?…さあ!」
「絶対今ポーズとってますよね!?絶対取れないじゃないですか」
「だから大丈夫ですよ。ほら、さあ!」
「やめて!?ポーズ取らないで!?」
「ハッハッハッハッハッハッハ!ハッハッハッハッハッハッハ!!」
「嫌だ〜〜〜〜〜!!だ、誰か〜〜〜〜!!!」
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ねえむが天彦に小一時間ほど周りでポーズを取られ続けた頃、悲鳴と笑い声が響くリビングを猿川が訪れた。頭をガシガシと掻きながらあくびをする姿からは、今し方の騒音で安眠妨害されたのであろうことが読み取れる。
「うるっせーな何なんだよ…いやマジで何だコレ!!?」
猿川の苛立った言葉尻は、頭部が段ボールの女と、全裸の成人男性の存在を認識した瞬間驚きに変わった。その声を聞いてねえむは助けが来たと飛び上がるほど喜んでいる。
「猿川君!?助けて〜〜〜!!」
「やぁ猿川くん!」
「どういう絵面だシャレになんねーぞ!服を着ろ天彦!!あと、大瀬もンなとこで震えてんじゃねー!出てこい!コイツふん縛るぞ!」
「えっ!?大瀬君もいたの!?」
理解が居ない今、この部屋に通常通りツッコミが行えるのは猿川1人である。大瀬はというと、リビングに入るか入らないかというところでうずくまっていた。
「すみません…すみません…1時間くらい前からいました…ごめんなさい…」
「いや…大瀬君にこの状況は流石に重荷だから…全然、そんな気にしないで…まじで……」
謝る大瀬だが、ねえむからすれば仕方ないという感想しか出てこない。天彦の暴走はカリスマハウス全員を持ってしてもそうそうは止められないのだ。まして大瀬1人が向かって行ったところでワールドセクシーアンバサダーの世界観に巻き込まれるだけだ。
そうこうする内に、ポージングをキメ続ける天彦を猿川が捕縛している声がねえむにも聞こえてきた。
「ああっ猿川くんもっと優しく!セクシーに縛ってください!いやしかしこの乱雑さもまた…」
「無敵かお前!?ハァ…とりあえず天彦は動けなくしといたぞ。ねえむも大瀬も出てこいって」
「は、はい……」
捕縛した天彦をラグの端の方へ転がし、一仕事終えた猿川はソファへ腰掛けた。ようやく段ボールを頭から外せると息をついたねえむに安息が、訪れるはずもなく。
「ありがとう猿川くん…ってウワーーー!!全裸のままじゃん!!」
生まれたままの天彦を見ることにはなってしまったが、体操座りの様な体勢で縛られていたのでねえむの中の超えてはならないラインはギリギリ守られることとなった。
「だって布とかねーんだもん。ちんこ出てねーだけ良いだろ」
「あ、それは考えてくれたんだありがとう…じゃあ天彦さんの部屋から服取ってくるか…ていうか脱いだ服どこにもないんだけどほんとどうやって帰ってきたのこの人は…」
-余談だが、この日の天彦の服は洗濯物にも出ていなかったので、彼がどうやってお天道様の下を歩いて外出しそして帰って来たのかは全くの謎である。普段は普通に服を着ていく為余計に…-
ねえむは天彦の服を調達しに行こうと、テーブルの上にあった天彦のルームキーを手にする。3.4時間は寝転がっていた弊害か、リビングの出入り口付近にいた大瀬の前で少々ふらついてバランスを崩した。
「あっごめん」
「ぇあ…っ」
ばしゃり、音がしてねえむの服と床に水が広がる。大瀬が一際大きな声を上げた。どうやらぶつかった拍子に大瀬が持っていた物、筆洗の水が溢れたようだ。
「あ、あぁあああぁあああぁ……!!」
「わ、冷たっ!」
ねえむの胸元にかかったのは、絵の具が溶けた色水だ。筆洗の水を替えるために降りて来て、異常な光景に立ちすくんでしまっていたのだろう。まだ入れ替え前だった水が、ぶつかったねえむの割と新しいトップスの色をドドメ色に変えていく。そして大瀬の顔も焦りで同じくらい形容しがたい色味になっている。
「きょ、今日に限って水彩にしてみようとかそんな最低なことを考えてしまったから…!今すぐに死にます!死にます…!」
「だからすぐ死ぬな〜!!ア"〜〜〜もう!!オイほらバケツ落としてるじゃねえか!」
「大丈夫大丈夫!私もよく見てなかったし、依央利君に色落ちるか聞いてみるし!!」
「水も滴るボディライン…」
「天彦さん口チャック!!うわー床も拭かなきゃ!」
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「ただいま〜……………えナニコレ」
「ええ!?地獄絵図!?」
大体同じ頃に帰って来たテラと依央利が見たのは、全裸の天彦とドドメ色で濡れた床、同じくドドメ色の水で濡れたねえむ、騒ぎの中で倒された机と椅子、自己嫌悪で死にたがっている大瀬にそれを制している猿川という阿鼻叫喚の光景だったとか。
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おまけ-その後
反省会。会話文のみ。どれが誰か考えつつお楽しみください。
「う"〜ん…まあ女性に手を出すタイプの変態ではなくてよかったというべきか…?」
「当たり前ですよテラさん。エクスタシーには同意あるべきです」
「何真顔で言ってんだコイツ、露出も当たり前に犯罪だろ」
「ええ…!?私有地内なのに…?」
「同意のない他人の前ですからね!ダメです!ねえむちゃんじゃなかったら訴えられてますよ!」
「天彦さん、反省してください」
「わかりました。天彦、反省しています。…考えてみれば、やはり一方的にというのは良くありませんでした」
「ん?」
「では、次は僕がシアターを被って横になりますので、ねえむさんに全裸でお好きなポーズを取っていただいて…」
「イヤ取るわけないですからね!?」
「全っ然反省してないなァこの人!!」
「うーん。リビングは邪魔だし俺はあんまり見たくないし、まあ部屋でやってくれたら俺はいいかな」
「いいワケないでしょ!ふみやさん!!」
「さ〜て、僕はこのとっ散らかりきった地獄絵図をキレイにしないといけないから、ハイ各自出てったでてった!」
「だから依央利さん!ダメですって!!2度とないように話し合わないと!」
「テラくんのことは一切巻き込まないで。それじゃね」
「テラさんも!!関わってもっと!!秩序が乱れちゃうから!!」
「ねえむさん…最低な1日にしてすみませんでした……」
「大瀬くん!!そう言いながらナイフ持ってくの禁止!」
「あークソくだらね〜…いお飯出来たら呼べ」
「かしこまり〜!」
「猿ーーーッ!!」
「では、ねえむさんは天彦とシアターを」
「しないって!!!」
映画は自分の部屋で見よう!そう心に誓ったねえむだった。
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