でみめん
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「アッ」
「あっごめん…え?」
なんの気なしに触れた、というか通り過ぎ様当たってしまった私の指とバルチカのパーツ。腰だったか、指だったか、一瞬のことだったので判別もつかなかったけど、急に声を上げたバルチカを振り返る。いつもは青い目が赤く光を放って、もしかして怒ってる?
「ソコハ、セクハラデ訴エルコトガデキル部位デス」
「そうなの!?ご、ごめんなさい!!」
「アア、傷ツイタ~」
両腕を胸の前で交差させて恥じらいのポーズを取るバルチカに、私はすっかり動転してしまった。AIを搭載したメカボディのアンドロイドな彼にも、やはり触れられたくない部位はあるんだ。
「知らなくて、あの、気分悪くしたら本当にごめんね…!!」
先程と同じポーズで項垂れるバルチカに焦って謝っていると、彼の目元の機構がカシャリと動く。サタンちゃんと似た笑い方なのにどうも若干悪意を感じるヌフ、という笑いを伴って、いつだか聞いた"ウソピョン"を記憶の音声そのままに鼓膜がキャッチした。
「…え、嘘なの?」
「ソノ通リ。焦ル指揮官ヲ見ラレテ、キュン」
「もう…」
そういえば、もう目の光も青に戻っている。してやられた、ということだった。
「チナミニ、私ノボディニハ触ラレテ恥ズカシイ箇所ナド、ナッシング。スベテハ”フリ”デス」
「本気で悪いことしちゃったと思って反省したのに!」
「クスクス、照レ損」
本当にそうだと思う。焦った時間と私の誠意ある謝罪に使ったエネルギーを返して欲しい。
「怒ッタ?…ねえむ、許シテ欲シイ」
謝罪シマス、と聞こえる音声が私の背後へ回る。硬くひんやりとしたバルチカの腕が駆動音と共に私の肩口から降りてくる。素直な謝罪…と捉えたいところではあるけどプネブマへ来てからだいぶ経つし、バルチカの性格だって以前よりは把握できているつもり。つまるところ、からかったことを反省しているというよりは、この行動でさえ私の反応を見て楽しんでいるんだろうということが不本意ながらわかってしまうのだ。
「…私がこういうのに弱いの知ってるんでしょ」
「バレテシマッテハ仕方ガナイ」
私の頭に顎を乗せ、ぐりりと圧をかけてくる。痛い。自分の体の硬度を考えて欲しい。私の頭皮が負けてハゲたらどうするつもりだというのか。ハイト博士に育毛剤でも調合して貰ってくれるのだろうか。
「指揮官ノ愛読書ノラインナップカラ、90%ノ確率デ"バックハグ"及ビ"不意打チノ名前呼ビ"ニ怒リノ持続ヲ妨ゲル効果ガアルト推測シマシタ」
パーセンテージまで出されてはたまったものじゃない。そしてなぜ私の愛読書を知られているのか。なぜなのか。
「とにかく、バックハグも名前で呼ぶのもしばらく禁止。えーと…ほら、上司に向かって失礼だよ!」
普段ならこんなことは言わないけれどからかわれて癪だったので職権乱用を試みる。考えるのにも時間がかかって、慣れていないのはバレバレなんだろうな…
「シバラクトイウ期間ハ曖昧デス。具体的ナ禁止時間ヲ指示シテクダサイ」
「急にアンドロイドらしく曖昧なことに厳しくなるね?!じゃ、じゃあ訓練と休憩終わるまでだから…4時間?」
そうして、4時間きっかりが経過した頃、私はわざわざ戻ってきたバルチカに名前で散々呼ばれ倒される羽目になるのだった。ご丁寧に4時間同様耳元で。抑揚のない機械音声とはいえ、私はバルチカの声に弱い。それは機械音声だから弱いのではなくて、バルチカが私の名前を呼ぶからに他ならない。…我ながら、他にいくらでも胸を高鳴らせる相手は居たんじゃないかと問い詰めたくなる。
「ねえむ、ねえむ指揮官」
それでも私を名前で呼んで、からかって楽しむような機械生命体の彼に一番心を揺さぶられてしまっているのは事実なんだと自覚がある。地球にいた頃にメカ好きの気はないし、そうなる要素もなかった。好きの範囲が広くなるのは、優しいプネブマの空気のせいだろうか。
「ゴ主人トミラーニ、自慢スル」
「待って?…もしかして今動画撮ってる?」
「機密事項」
「ちょっと」
「ヒミツ。ナイショ。シークレット」
「バルチカ?」
「……………」
尚もだんまりを決め込むバルチカに、じろりと視線を向ける。とはいえ、下から見上げてるいるだけだから効果はあんまりなさそうだけど。ムッとした顔を続けていると、ようやくカシャリと口を開いた。
「…白状スル。2分30秒前カラ動画ヲ撮リツツ、ハイト二察知サレナイ様、秘密裏ニ取得シタストレージヘバックアップモ取ッテイル」
「うわあーー!!消して!今!私の前で!」
「音声データガ、取得出来マセンデシタ」
「出来てないフリしないの!」
きっとまた人の焦った顔でオモシロ動画を作ってハイト博士に送りつけるつもりなんだ…
それだけは阻止しないと、そう思うのに、尊敬なんて微塵もこもってなさそうなバルチカの笑顔が可愛く見えているのだから世話はない。そう、彼は三歳なのだから、仕方ない。と自分に言い聞かせる。
「大丈夫、私ガ夜ナ夜ナ眺メテ楽シムダケニ留メマス」
「それなら…い、いやでもそれもちょっと…」
夜な夜な私の動画を見ているバルチカは想像したくないし、その姿を万が一ハイト博士やミラーに見られるのは私が恥ずかしい。どんな顔して映ってるかもわからない上に、バルチカの目線で撮影されているからどんな状況かがすぐわかってしまう。現在だって、未だにハグ状態なのだ。
「ム。ゴ主人カラノアクセスヲ感知」
「大事な用かもしれないよ。ほら録画も切って!」
「サラバ、癒シノ時間…」
渋々録画を停止したバルチカはハイト博士からの通信に応答する。
『バルチカ…ぅわっ指揮官さん!?
な…どんな状況だ!チカ、離れなさい!』
「拒否シマス。ソレニ定時報告ハ帰宅シテカラノハズ」
「お前が定時刻になっても戻らないからかけたんだ!指揮官さんも嫌なら嫌って言っていいですからね!?」
「い、嫌ではないんですが…」
むしろ触れ合えて嬉しいとは思うんです。それは嘘偽りなく。とはあえて今言わないけれど。
「ソウ。指揮官ハ私二メロメロナノデ、問題アリマセン」
「あはは…バルチカが楽しそうで断りづらくて」
「ハア…ご迷惑をお掛けして、すみません…。チカ、とにかく指揮官さんに甘えてばかりいたら…………甘えて……?お前、甘えてた、のか…………?」
ハイト博士が驚愕した声を出す。なるほど。確かにバルチカのこの態度は他の隊員には見せないものだし、そう捉えられてもおかしくないのかも。
「…………ハ?勘違イシナイデヨネ!指揮官ノ照レル姿ヲ見テ楽シンデルダケナンダカラ〜」
「無機質ながらも急なツンデレ…しかもその間、図星だなお前…!」
私にはいつも通りのらりくらりと受け答えしているようにしか聞こえないけど、やっぱりハイト博士にはバルチカの気持ちの機微がわかるのかな。ツンデレかそうじゃないかと言い合っている横から、また聞き慣れた声が増える。
「バルチカ…?指揮官と一緒にいるのですか?…ワタシも…」
「あっ、ミラーまで!」
うーん…とひとつ唸ったハイト博士が言いにくそうに声を絞り出す。そんなにかしこまらなくても、といつも思うのだけど慣れるのには時間がかかるみたい。
「あ、あの…指揮官さん…よかったらでいいんですが、これからウチにしょ、食事に、来ませんか…?2人が、一緒に過ごしたい様で…あ!ご都合が悪ければいいんです!!」
「いえ!私はもう予定ないので大丈夫です!お邪魔してよければ、伺いたいです」
「ゴ主人、ファインプレー」
「嬉しい……です」
ミラーの嬉しいですを聞けるとレアな気がしてこっちも嬉しくなる。お呼ばれしたハイト博士宅のお夕飯ではバルチカの膝の間にクッションを敷かれ、その上へ鎮座することになってしまった。空いてる席あるのに。
「も〜バルチカ、食べにくくないの?」
「今日ノワタシハワガママナ気分」
「バルチカ、次は私と、交替…して欲しいです」
「すみません………うちの息子が…!」
ハイト博士は謝り倒していたけど、私にすれば家族の輪にすこしだけ入れたような気がして嬉しい限り。ふと、食事し始めてからバルチカの口数が少ないことに気付く。今度は騙されない。
「…バルチカ、また録画してない!?」
「チッ、バレタ」
「チカ…舌打ちするな!録画もやめなさい!」
課題は多そうだけど。もしかしたら両想いかも、なんて楽観的なことを考えながらバルチカの胸に寄りかかって青色の目と視線を合わせる。録画にこだわる姿勢に、さすがに折れてあげようかと思って。
「夜な夜なは見ないで欲しいけど…バルチカが欲しいなら撮っておいていいよ」
「…了解。動画作成ノ素材ガ増エテ感謝感謝」
「そういうことに使うなら消して〜!!」
しばらくは、まだまだ悪戯好きな三歳のアンドロイドに振り回されそう。
end
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