「プラトニック」♡○ ♡side
○「ひ、っ…う、てごし、」
♡「ん…しげ、ちゃ」
指を絡め合って、口付けをする。
○「ぁ…ッも、イっちゃう…」
♡「イっていいよ」
○「んっ…んん、てごし…っうぁ、ぁ、あぁっ…!!」
シゲがビクッと身体を揺らし達したので、1度腰の動きを止める。
荒い呼吸のまま、シゲがふわりと微笑む。
♡「気持ちよかった?」
○「…ん、きもちかった、…やぁっ…!?」
♡「ごめん、俺、イってない、から。もうちょい、頑張って」
○「やっ、てご、ぅ、あっ…!」
俺がイけば、シゲはまたイった。
もう一度、深く口付けて華奢な身体を抱きしめる。
♡「…しーげ?」
○「んん、なぁに」
♡「疲れちゃった?ふふっ」
シゲは眉を下げて笑う。
○「疲れちゃったけど、手越ならいいの」
♡「俺ならいい?」
○「…だから…あの、離れない、でね」
──たぶん、シゲなりの「好き」なんだろう。
今日の21時から明日の1時30分まで。たった4時間半の、時間制限のある恋人なのだから。
そもそもなぜ、俺がこうしてシゲを抱いたかというと──
○「──手越」
楽屋で、慶ちゃんとまっすーが来るのを待っていた時。
シゲはノートパソコンと向き合っていたから、俺もそんなに邪魔したりせずに座っていたんだけど。
♡「ん?何?」
○「…こっち来て」
いつの間にかパソコンを閉じていたシゲは、自分の座るソファを叩いた。隣に来い、と寂しげな瞳に見える。
♡「どうした?」
○「…ここ、座って」
言われるがまま、座り。
○「今夜、暇?」
♡「へ?夜?…んー、暇、だけど」
○「…お願いがあるの」
こうして至近距離で見ると、やっぱりシゲは綺麗な顔だ。
肌も白くて、目は大きくてくりくりで。鼻筋もしっかり通って、唇の形も綺麗で。
女の子も憧れるような顔、なんじゃないだろうか。
○「…抱いてほしい」
シゲは、至って真剣だった。
♡「……は?」
○「あ、いや、その、性欲処理とかじゃ…!騙すとかじゃなくてっ」
あわあわとするシゲがかわいくて、思わず笑ってしまった。
シゲはそっと目を伏せる。
○「…ねぇ、抱いて?」
ゆっくり、シゲと目が合う。
♡「……いいよ」
○「え、」
シゲの目が見開かれる。
♡「但し、9時から1時半までの恋人ね?」
○「…4時間半、…うん、わかった」
ほんのりと紅い頬に、背筋がゾクゾクする。
一夜だけとはいえ──愛しい彼を、俺だけのものにできるんだ。
そして、20時50分。
俺は指定されたホテル前に着くと、ぐるりと辺りを見回した。
見た限りシゲはいないような…
○「わっ」
♡「うぉっ…!?びっくりした…!」
○「んふふ、じゃあ行こ?」
ホテルに入ると、シゲはあっという間にチェックを済ませて鍵を持って俺のほうへ戻ってきた。
○「行こっか」
♡「…何階?」
○「んー、最上階。25階だよ」
エレベーターに入る。シゲが25のボタンを押した。
ここで、俺たちは2人きりになり──21時になったので、俺たちは“恋人”同士になった。
♡「シゲ」
○「ん?っふ…!?」
押し付けた唇から伝わる熱。
○「ふゃ…まっ、て、…ッん」
♡「待てない…」
○「ね、ッぁ、着いちゃう、からぁっ」
死ぬほどキスに弱いらしく、すでに膝の力を失っていた。
俺はシゲを支えながら部屋へ移動する。
○「お腹空いてる?」
♡「ん?いや、さっき食べてき──」
○「違うよ。んふふ、言い方変えるね?」
ベッドに座っている俺にじりじりと近寄りながら、シゲは上からゆっくりシャツのボタンを外していく。
○「──しげのこと、たべてくれる?」
シゲの肩を抱いて、立場を逆転させた。
キスをしながらシャツのボタンをすべて外して、腹を撫でて突起に触れて舐めて──
そして、冒頭へ戻る。
♡「シゲ、今何時?」
○「…んん…?11時…46分…、」
♡「…え、…?シゲ、泣いてる?」
隣で横になっていたシゲの頬が濡れて煌めいていた。
♡「…どうしたの」
○「っ、んーん…、…時間…早いなって」
♡「何言ってんの、まだまだでしょ?」
シゲの涙を舌で掬い、ぎゅっと抱きつく。
○「…寂しいね、こんな恋」
──味わったことないような、この胸を切り裂くような痛み。
「好きだよ」と素直に伝えることも許されない恋。
♡「…シゲちゃん」
○「てごし…離れないでね、っ」
この時間は、もう去っていく。
「離れないでね」と約束をしても、そんな契りもなかったことにされる──もはや夢。
♡「もちろん」
○「…泣きつかれるまで、…ッそばに、いて?」
抱きしめながら、シゲの頭を撫でた。
柔らかな髪の毛に指を通していく。
○「…てごし?」
♡「ん、ごめんごめん。シゲの髪好きなんだよ」
○「…髪質のこと?」
まだ涙声だったけど、シゲは微笑みながら言った。
♡「そうそう」
○「…俺は好きじゃないよ、…癖あるし、」
♡「でも、俺は好きだよ」
シゲの目が見開かれ、また大粒の涙が溢れ出した。
♡「え、あっ…あぁ…!ごめんって」
好きを伝えられない事実を思い出したのか、シゲは寂しそうに小さく嗚咽音を漏らして泣き出す。
♡「…ごめん」
○「っ、やさしく、して…ほしい…」
シゲは無理矢理涙を拭うと、涙をぐっと堪えた。
ひゅっと喉を鳴らし、ぎゅっと俺に抱きついてきた。
○「あと1時間半…」
♡「どうする?キスでもハグでももっかいセックスするのでもいいよ…どうする?それはシゲちゃんが決めて」
なんでも受け入れる準備をして、シゲを見つめた。
○「…東京タワー」
♡「へ?」
○「…窓から見えるの…だから一緒に、…見よ?」
ベッドから降りたシゲは、スタスタと窓際へ歩いていく。臀部は剥き出しだ。
俺はシゲに着いていって、後ろから抱きしめる。
○「…てごし」
♡「…キスでもする?ふふっ」
○「……ばか…してよ、」
後ろから唇を奪い、唇を噛んだり舐めたりして唇を離さない。
がたん、とガラス窓にシゲの背中を押し付ける。
息苦しくなったのか、シゲが俺の肩を弱々しく叩いた。
俺はふぅっと息を送り込むと、もう一度深く口付けた。
キスすること3分以上──。
シゲの身体がゆっくりと下がっていったところで、キスは終了。
♡「シゲ、立てる?」
○「…お前のせいで立てない…」
顔を真っ赤にしたシゲが顔を覆っていた。
♡「…気持ちよかった?」
○「っ、」
シゲは俯いたまま、こくりと頷く。
そっとシゲの顔を覗き込み、首筋を舐める。
○「ひゃっ…!」
♡「しげ、ッ…ふ、」
○「いっ…!!ぁ、待って、嘘、」
♡「つけちゃった」
キスマークは、どうせ1週間ぐらいで消える。
それまでは、シゲとの寂しい恋に溺れていたい。
○「…ばか、こんな目立つところに…っ」
♡「ごめんって」
テーブルに置いてあった、薄い水色の紗でできたブランケットのようなものを取り、シゲの背にかけた。
○「…ねぇ、手越?」
一緒にソファに座り、東京タワーをぼんやり見つめる。
♡「うん?」
○「手越は…俺が好きでしょ?」
高層ビルの光が、ひとつひとつ丁寧に消えていく。
○「なのになんで、時間制限のある恋にしたの…?」
♡「…好きだから…だろうな」
○「…どういうこと?」
純粋な目に惹かれるのは。
♡「傷つけたくない。きっと、世間からは冷たい目で見られるだろうから…シゲはきっと、“大丈夫”って言うんだろうけど──シゲのことだから、絶対に傷ついて、泣いちゃうと思う…好きな人の涙は、もう二度と見たくない」
シゲの形のいい眉が八の字になる。
俺は泣かないよと、言うの、だろうか。
○「…大丈夫じゃないよ、そんなの」
あまりにも意外な発言だった。
○「そんな怖い思い、したくない…。手越のことは好き、だけど手越を愛してしまうことは…怖い。たぶん、愛することに怯えてる…」
──あぁ、また。また、泣かせてしまった。
さっき、涙を見たくないと言ったばかりなのに。
○「──それなのに、愛してほしい…」
愛することは怖い。それでも、愛されたい。
♡「…もう、ワガママだな」
抱きしめた身体は震えていたけど、気づかないフリをした。
とんとんと優しく背中を叩き、頭をわしゃわしゃと撫でる。
○「わ、っ、」
♡「…あと、約1時間」
きっと、このまま抱き合って笑いあっていれば、すぐに終わる。
1時間なんて、普段のツアーのライブよりも短い。
○「好きって、…愛してるって、いっぱい、言って」
シゲの膝の上に乗って、じっと目を見つめる。
♡「…好きだ。顔も、華奢でしなやかな身体も、謙虚なところも、…全部が好き。愛してる」
…ここから、優しい嘘を、ついてあげる。
♡「もう離さない。ずっと隣で、笑って生きていこう」
○「…て、ごし…っ?」
♡「…もう1回抱いてやるよ」
シゲの腕を引っ張って、ベッドに埋もれる。
ブランケットは、床に落ちた。
○「うぁ…ッひ、…やんっ、ふ、ぅあ…!」
♡「しげちゃ…ぁ、シゲ…っ」
悲しい恋でいいの?短い夢でもいいの?
○「…ッう、ぁんっ、ぎゅって、してぇっ」
♡「…っ!しげ、」
揺さぶられているシゲは、綺麗すぎる涙を零していた。
○「んっ、…ね、スノードロップ…っ、知ってる?」
♡「雪どけ、光を探したスノードロップ…っ、…花でしょ?」
○「花言葉、あぅっ…!は、“希望”って意味もある…んだけど、“死”を象徴してる…ッん、から…っはぁ、“あなたの死を望みます”って意味にもなるらしいの、ッあ…っ!」
びゅくびゅくと白濁が吐き出された。
それを掬うと、俺は「こんな色だよね」と問う。
○「…っ////そうだけど…恥ずかしいから、見せないで」
♡「かわいいねぇ」
俺は、自分の絶頂のためにゆっくり腰を揺らす。
○「…そ、れで…、他にも…百合も、白いのは“純粋”だけど、黄色は“偽り”って意味もあるの…やっ、ぁ…!でもね…黒百合は…ぁ、百合とは別属なんだけど…ッん、黒百合は“恋の呪い”なん、だって…っは、」
♡「…じゃあ、俺たちは、黒百合みたいな恋をしてる。きっと呪われちゃうよ、ははっ」
○「あぁっ…!ん、っ、」
腰振りのスピードを上げ、欲を吐き出した。
○「死んじゃいそう…」
♡「…死んでも、冷たい風で起きちゃうんじゃない?」
○「ははっ…風狸かよ」
♡「…フーリ?」
シゲを見下ろす体勢のまま。
○「風の狸。風狸。妖怪で、叩けばすぐ死ぬのに、風に当たると生き返るらしいの」
花言葉に続き、妖怪ときて。
博識なシゲは、だからこそ俺との悲しい恋を選んだのかもしれない。
○「…あと…30分、」
まるで、堰を切ったように──ラムネ瓶を開けるのに失敗したように、シゲの瞳から涙が溢れ出した。
♡「…しげ…、また、どうしても耐えられなくなったなら抱いてあげるから」
○「ダメだよ…俺たち、元に戻れなくなっちゃう…!」
♡「…メンバー同士なら…きっと大丈夫、だよね。…急に、春になったら木星が消えてしまうことなんて、ないから」
○「何そのたとえ」
くすくすと笑い合った。
玩具みたいな羽でも、きっと2人なら夢に向かって跳べる気がしてた。
それは、叶わないんだろう。
アイスよりも冷たくなって、この世の人じゃなくなるまで。
もう二度と、俺たちの恋は報われない。
美しかった紗のブランケットも、キラキラしていた東京タワーも、全部消えていくのだろう。
シゲに手を引かれ、もう一度ベッドに倒れ込む。
○「──報われなくて、いい」
♡「え…?」
○「悲しい恋で…いいの…短い夢でもいいの、っせめて…ッ嘘でもいいから愛してるって言って、もっと抱きしめて…!」
嘘でも抱いて、と。
♡「…愛してる」
○「もっと…!取り繕った綺麗な嘘で抱いてよ…!!」
抱きしめて愛を囁けば、シゲは小さく「夢なら醒めないで」と祈るように呟く。
幸せな夢なら、何時間でも寝ていたいと思う──そうだろう?
あと、22分。
○「──ずっとこのまま、2人がいい…!」
嘘じゃないんだ、本当に、好き。愛してる。
もう一度キスしたい。抱きたい。もっと、もっと──
○「…なんで…だよぉ」
きっとシゲも、まだ言い足りないこともあるんだろう。
○(…嘘じゃないんでしょ、俺のこと愛してるんだろ。知ってるよ…)
あと、20分。
○(きっとまた、俺のことを抱きたいんだろうな…でも、俺を抱くことは、今後一切許されない。だって、時間制限のある恋だから)
…こっそり、この関係を続けないか。
バレなければ、世間から冷たい視線を浴びることなんてないだろ?
○(ねぇ、こっそり付き合うっていうのはダメ?青春みたいじゃない)
♡「シゲ」
○「うん?」
ちゅ、と触れ合うだけの口付けを。
○「んっ」
♡「シゲ、俺はお前のことが」
シゲの綺麗な指に、口止めされる。
○「…だめだよ」
溢れ出る涙を、拭うことはできなかった。
シゲの作り笑いに、また涙は止まらなくなる。
──どうして、想いのままに言えないんだろう。
○(どうして、想いのままに言えないんだろう…!)
あと、15分。
顔をぐしゃぐしゃにして笑うシゲは、もう見ていられない。
♡「どうする?あと15分」
○「どうしようか、ふふ」
唇と、耳と、首と──そこらかしこにキスをする。
○「ね、てごし…ッふぁ、も、とまんなくなっちゃうから…」
♡「…うるさい、」
○「え…?」
シゲの、明らかに傷ついた表情。
…違う。そういうことではない。
♡「今夜だけは、俺の恋人だろ?…あと、14分」
キスをして、愛してると何度も言って、抱きしめて、それでもまだ足りないのに…!
○「ふ、…ぅ、……んっ、てごし、」
♡「あと…10分、っふぅ」
1秒が過ぎる毎に、もう恋人でいられなくなる事実に寂しくなる。
○「…いやだ…ぁ、」
♡「え」
○「…てごし、てごしっ」
♡「あぁもう…、俺も嫌だよ、寂しくて死にそう」
泣きながらぎゅっと抱きついてくるシゲ。
そうやって傷口を舐め合って埋め合えば、とっくに時間は過ぎていて──あと、3分。
○「…ね、1分間、ちゅーして」
♡「ん…ッふ」
いち、に、さん、し…。
舌を絡めるキスをして、快楽に堕ちていく。
○「んん…、やっ、…ぁん……」
♡「っ、ぷは、1分」
○「次、1分間、ぎゅーっ」
いち、に、さん、し…。
呼吸が苦しいぐらいにぎゅっとハグ。
あと、1分。
何をするか、それはシゲに託されている。
俺はそれに、ただ応えるのみ──。
○「…愛してたよ」
♡「…っ」
○「愛して“た”。もう、手越を愛することは、怖いから」
澄んだ瞳に見つめられる。
○「…それでも、愛されたいって思うのは、罪なのかな」
あと、30秒。
♡「罪なんかじゃないよ…俺もシゲのことを愛したくない。それでもシゲに愛されたい」
○「…ぁ、手越、時間っ…!もっかい、ちゅーっ」
♡「…わかった」
あと、10秒。
♡「っふぅ…、ねぇ」
○「…ん」
3.2──
「「愛してる」」
──俺たちの恋は、終わった。
一瞬にして、恋人同士からメンバーへ変わった。
俺はベッドにシゲを残し、シャワーを浴びに出た。
シャワーブースから戻ってくる頃には、シゲはすでに深い眠りに落ちていて、身体を冷やさぬようにシーツをかけると、俺はホテルを後にした。
外へ出て1人になった瞬間、涙が止まらなくなってしまった。
♡「く…ぅ、…!しげ…!!」
愛していた。とにかく愛してた。
溢れ出した想いを告げることができないまま。
最後に交わしたキスの名残が、この気持ちをさらに切なくする。
叶わない恋におぼれて──また、キスを願った。
♡「…今夜だけは、……君だけを…」
三日月が雲に隠れて、俺を嘲笑うようにもう一度現れる。
泣いたり笑ったりのシゲを思い出して、1人失恋に泣き暮れた。
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