「過去といま」セイギ×零 零side
二度と会わないと決めたミツルが、俺の前に、いる。
俺のせいで夢も希望も失わせて、俺のせいですべてを壊した彼が。俺の、せいで、すべて、俺の、俺のせい、で──
峰子「…零?」
ガタガタと手が震え出して、声も出ない。
怖い。また、俺のせいでミツルが、ミツルが、死んだりでも、したら。俺はもう、生きていけない。
○「ごめんなさ、ごめんなさい、っおれ、が、ぁ、ごめんなさい、っひ、ごめんなさい、ご、めん…なさ、っか、は、」
俺の、せい。なんだ。
脚もガクガク震えて、その場に崩れる。うまく、息が吸えない。
昔からそうだ…自分を責めると、息の吸い方から何から、忘れてしまうのだ。
「おい、っ」
ヒロシさんたちの焦った声に、恋人の声が混ざって聞こえた。
○「っ、か、ぁ゙」
□「…零、」
そして、昔の、恋人の声も。
もう、俺が愛してはいけない人の、声。
○「ぁ、ッぁ、…っ」
「落ち着けって」
背中を優しく撫でられる。セイギさんに身を預け、俺はとにかく呼吸をするのに必死だった。
□「…零、答えなくて、いいからね」
○「へ、ぁ゙ッぐ、…」
荒く乱れた呼吸をしながら、濡れた視界でミツルを見た。
□「…あれだけ愛してくれて、好きだって言ってくれたのに、もう、俺じゃないんだね。違う男がいいんだ?」
違う。ミツルが嫌いになった訳じゃない。未練タラタラなままだ。
だからといって、セイギさんが嫌いな訳でもない。過去といまじゃ、愛し方が違うだけ。
□「…俺より、その銀髪くんのほうがかっこいいから?それとも、俺は歩けないから?健康な人のほうが、なんでも自分でできる人のほうが、」
○「…ッちがう……」
今でも、ミツルのことが好きだ。
○「ミツルが、俺の前から消えろって、言うから…!だからっ、未練抱えたまま諦めたの…だけど、セイギさんを愛してない、訳じゃなくて」
□「何が言いたいのかわからない、俺はっ」
○「…俺がミツルを愛せる時間が過ぎたんだ」
小さな声で、ミツルへと言葉を紡ぐ。
○「…きっと、セイギさんのことだって愛せなくなるよ、俺は」
「…零、」
○「…それに、ミツルは言ったよね?“俺の前から消えろ”ってさ」
愛さないというより──愛せない。
俺はもう、これ以上…
「俺は、死ぬまで零のことを愛してるはずだ」
□「…ッ俺だって、動けなくても零のことを、っ」
弱った手で、床を叩いた。コンクリートは、ただ痛いだけ。
○「…愛してるって、どんな根拠があって言えるの?俺はね、ミツルの希望も夢を失わせてしまったんだよ?…愛せないんだ、もう、ミツルのことなんて。代わりに、セイギさんはっ」
背中に感じたままの、セイギさんの温もり。
○「セイギさんは、俺の命を救ってくれた…だけど、俺はセイギさんの命を救えていないんだ」
え、とセイギさんの困惑した声が聞こえる。
愛してるんじゃない。愛し続けなきゃいけない。
○「セイギさんを、救うためだ──俺がセイギさんを愛してるのは」
愛することは、きっと、生きることだろう?