第一章
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「原真砂子!?」
「えー!?ほんと!?あのテレビに良く出てる綺麗な子!?」
「……そうなの?」
学校にて。お昼休みにミチルたちに昨日の報告をすると予想外に大きい反応が返ってきた。
芸能人だったのか真砂子!!
私は"前"からあまりテレビを見ない。朝は時計代わりにニュースを見たりしているがバラエティなどはからっきしだ。
だから芸人のネタを振られてもまったくわからないし反応できないので友人たちはあまりそーゆー話題は振ってこない。
「で?で?どーだったのよ!!」
「え、えーっと…確かに美人だった…。あと毒舌だった…」
「毒舌!?」
「うん、他の霊能者と口げんかしてた」
「へぇ~。で?他には?」
「うーん…あ、ナルをナンパしてたよ」
なーんちゃって、と続けるつもりで軽く言うとみんながしょんぼりした。
え、えー…ちょ、おまいら今まで散々私の愚痴聞いといてそれ!?
「あんな横暴で毒舌でデレの見当たらないツングサのどこがいいの…」
ぐったりと脱力しながら呟く。と、恵子から簡潔な返事が返ってきた。
曰く、「顔!!」と。…あんたらねぇ…。
女は顔じゃなくて愛嬌よっ、とさわぐ3人を投げやりな気持ちで眺めているとふと黒田さんと目が合った。ので逸らす。
酷い、とか冷たい、と言うことなかれ。あーゆータイプの人間とは付き合いたくないのだ。
彼女もあのクール文学少女ミステリアスキャラをやめればいいのにな。
いや、でも知り合いが多数いる学校でキャラチェンジは困難だとも思う。うん、応援はしてる。心の中で。
「……………何してんの」
生暖かく見守ってあげようという思いはその日の内に諦めに近いものに変わった。
放課後、ベースに行くと居たからだ。黒田さんが。高価でデリケート(だそうだ)な機材がたくさんある、そこに。
「別に…見に来ただけよ」
「じゃあ帰りなよ」
「なっ…!何の筋合いがあってあなたにそんなこと言われなきゃならないのよ!」
見に来ただけ、というのでハッキリ不快感を口に出していうと激昂しだす。当然の反応だ。が、
「仕事できている人間の邪魔をするなって、私、言わなかった?黒田さんがここに来る筋合いこそないでしょ」
「別に邪魔してないじゃない!昨日はどうだったかって聞きに来ただけよ!」
「それこそ、ここに来る必要ないよね。同じクラスなんだし、普通に聞きにくれば?」
「……っ」
俯く黒田さん。…それができないだろうことがわかって言う自分も意地が悪い気はしたけどイラっとしたんだからしょうがない。
私は決していい人間じゃないし優しい女の子でもない。大して親しくもない人間と仲良くしようだなんていうほど心も広くない。
……それにしても今日は輪をかけて大人気ないかもしれない…。
そう思って少し悶々としていると黒田さんが口を開いた。
「わたし、さっきおそわれたのよ」
「は?」
何に?暴漢?の割には衣服にも乱れたあとがない。しかも今言い出す意味がわからない。
「ホントよ。廊下を歩いていたら急に誰かがすごい力で髪を引っ張ったの。逃げようとしたら首を絞められて…」
オマエノ霊感ハ強イカラジャマダ……
・・・・・・。
………あっ、悪霊の話か!!変質者が出たのかと思って思わず先に帰った友人たちの心配をしてしまった。
にしても稚拙すぎる設定だ。引っ張られたにしてはおさげは乱れていない。締められたという首にも何の痕跡も無い。
更に言ってしまえば霊感が強いから邪魔って何だよ。見える人に近づいて自分の意思を伝えたいとかじゃないんかい。つーか随分と説明的な悪霊さんですこと。
そして彼女に本当に霊感があるなら、そして本当に悪霊がいるならばココには近づかないだろう。
殺人鬼がいるとわかっている校舎に丸腰で入っていくようなものだ。
百歩譲って悪霊に襲われたあたりまで信じるとしても、はたしてそんな目にあった校舎の中に残ろうと思うだろうか。私だったらゴメンだ。
てかこの人除霊できるとか言ってなかったっけ。
とりあえずどこからツッコもうかと考えていると開けたままのドアから声がかけられた。
「どうした?」
「あーー…ナル、なんでも」
ない、といいかけたところで黒田さんがセリフを遮ってさっきのツッコミ所満載な心霊体験を話し出した。
「―――…それはいつごろ?」
「さっきよ」
「ビデオを再生してみよう。場所は?」
「二階の廊下…」
ちゃんと取り合うナル。まぁ、本当だったらアレだもんね。でも私は高い確立で嘘だと思っている。
ナルは慣れた手つきでモニタを操作して30分前の映像を流した。それをニ倍速再生で進めて黒田さんの姿を探す。
と、昇降口に黒田さんが入ってくる映像が出た。再生の速度を通常に戻す。
カメラの視界から消えた黒田さんを別のモニタが映す。…しっかし、カメラ目線…いや、そりゃ見るよねー…あんなごてごてしいカメラあったら。
などと考えている内にカメラの映像が途絶える。砂嵐を映し出すモニタをナルは静かに見つめて言った。
「意味深だな」
曰く、他のものに異常はなく、カメラが壊れているはずもない。
(何故言い切れるのかが謎だ。多分メンテ直後だったりするんだろう)
霊があらわれるとまず機械は正常に機能しないのだ、と。
「ふぅん…黒田さん、知ってた?」
「ええ、当然だわ」
「…これは――どっちだろう。霊か、電波障害か、あるいは……」
言葉を濁すナルに少し違和感を覚える。なんだよ。気になるじゃんか。
心霊現象が起こると機械が壊れたりするのは有名だと思う。照明が消えたり、電話が通じなくなったりは怪談の定番だ。
だから黒田さんも当然知っていたのだろうけれど。…うん。知っていたなら偽装も出来る、というのは決め付けすぎだろう。
ナルに霊の声について訊ねられた黒田さんが掠れている女の子の声だという。
想像してみる。幼い少女がものすごい力で首を絞めながら『オマエハジャマダ…』
こ、怖ぇーーーーーーー!!!!!少女の口調じゃねぇ!!しかも怪力!!怖ぇーーーー!!!!
それ幽霊じゃなくて妖怪とか悪魔とかじゃね!?
私が想像に耽っているうちに、ナルはここにいる霊と黒田さんはひどく波長が合うのかもしれないという仮定を出していた。
そう言われた黒田さんはどこか安心したような、嬉しそうな顔をしていた。…なんだかなぁ…
一段落ついたところで廊下が騒がしくなった。どうやら巫女さんがお祓いをするらしい。
自信満々に準備を始めた巫女さんは巫女装束に身を包んでいながらもあまり巫女っぽくはなかった。多分濃い化粧が原因。マニキュアくらいはがそうよ。
胡散臭そうな顔をしながらも見学するつもりらしいぼーさんがナルに声をかけた。
「ボウヤはどうする?」
ボウヤ…。シャ○かよ…。そのボウヤ発言も意に介さないナル。
あれか、そんなことで傷つくほど安いプライドは持ち合わせていませんので的な。
ナルも見学をすることにしたらしい。
私は…私は本当は行かない方がいいのだろう。自分でも言ったが何かあったときにナルに迷惑がかかる可能性がある。
でも見てみたいのだ。…だって神道だよ!?
結婚式ならそこそこ有名でそこらでやってるけど葬式は滅多にお目にかからず、ましてお祓いなんて見る機会はない。
一度だけ神主さんの格好をした人が先頭に立っている葬列を見たことがある。
向かう先が仏式の墓地だったことに笑った。日本の宗教のカオス具合にはほんと脱帽する。
まぁつまりはただの好奇心で見てみたいだけなんですけどね!!悩んだ末、ダメもとでナルに聞いてみることにした。
「あのー…私も行っていい、かなぁ…?」
「ああ」
「へ?」
「何だ?来ないのか?」
すごくあっさりOKが出た。拍子抜けだ。
そんな経緯でナルとぼーさんに従って壁際から巫女さんのお祓いを見学する。
簡易な祭壇には多分榊と米と塩と丸い鏡。そう詳しくはないけど丸い鏡は確か太陽を表しているんだったような。
神道っていっても種類はいろいろらしいからなぁ。惜しむらくはこれがどこの流派なのかわかる知識がないことかな…
儀式は順調に進んでいった。巫女さんが大幣を振りながら朗々と言葉をつむぐ。
因みに大幣とはハタキみたいなアレだ。見たことはあっても名前がいつもわからないので調べたことがある。閑話休題。
独特の節がついた巫女さんの言葉を解読しようと試みる。
謹んで…かんじょう?勘定?いやいや…奉る、みやしろ、は御社、かなぁ。こうりんちんざはそのまま降臨鎮座だよね。
降臨鎮座したまいて、しんぐのはらい……だめだ
「…なんて言ってんのかさっぱりだ…」
わかったことといえばどうやらこれは神様を呼んでここに来てください、と言っているっぽいというニュアンスだけだ。
「日本人のくせに祝詞も知らないのか」
ナルがバカにしたような目をこちらに向ける。
無知、と言っている。目がそう語っている。ムキになるものか。こっちは中身は大人なんだ。
「祝詞ってのは流派とか社とかによって違うらしいし、始めて聞いた文語体の詩の意味がわかるわけがないでしょ…!!」
「…意味の方か」
「え、何。私が祝詞の存在知らないと思ってたっつーこと?そりゃすぐに"祝詞"って言葉は出てこなかったけど…」
「うるさい。黙っていろ」
く、あーー!!横暴なヤツ!!可愛くない~~!!
少しぶすくれながら祝詞の続きに耳を傾ける。
ちはやふる、ここもたかまのはらなり、
お、これはわかる!ちはやふる、は神関連の枕詞でたかまのはらは高天原…天照大神が祭祀を行う場所。…ん?神々の住む天上の世界だったっけ?
あつまりたまえ、よものかみがみ
はそのまんま…よもの意味がわからんが。
なむほんぞんかいまりしてん…なむって南無?それって仏教じゃないの?ほんぞんは本尊かな。本尊は摩利支天?いやいや摩利支天は仏教だろ!
らいりんえいこうきこうしゅごしたまえ
ら…来臨?えいこう、は永劫かな?きこうはわからんなぁ…。守護し給えはそのまんま…
さ、さっぱりわからん!脳内で漢字変換してる間に次に進むもんだからだんだん混乱してきた…
そして混乱している間にお祓いは何事も無く…本当に何事も無く終わった。
なんかもうちょっと不思議現象とか期待してた自分はイタイ子なのかもしれない…
校長と巫女さんがお昼がどうのとか話しながら出口に向かうのを尻目にベースに戻ろうと足を向けた、その時、
ギッ、っと校舎が軋んだ。
振り向くと、巫女さんたちにも聞こえたらしく足を止めている。
何の音だろう。もう一度大きく軋む音がした。
次いで、小さくガラスにひびが入る音が聞こえる。
直後、大きな音をたてて昇降口の扉にはめ込まれていたガラスが砕け散った。
「きゃぁっ…!」
「っ、巫女さん…!」
破片の直撃を受けたであろう巫女さん(とついでに校長)に駆け寄る。
咄嗟に巫女装束の大きな袖で防いだらしく巫女さんに怪我をした様子はなかった。
校長は額を少し切ったらしい。…まぁ、前髪がハゲしく後退なさっているから是非もないかと…ゲフン。
何はともあれ巫女さんといえど女の子の顔に傷が出来なくて良かったと思う。まあ出来てもコンシーラとかで隠せるけど。
「除霊なんてできてないじゃない。校長先生にケガまでさせちゃって」
ベースに戻ると何故かまだ居る黒田さん。巫女さんに嫌味を言っていた。どうやら一連の事件をモニタで見ていたらしい。
まぁ、前に巫女さんが大人気なく彼女を言い負かしたし、勝ち誇った顔で貶したくなるのもわからなくない。
が、何度も言うがお前何でココにいんだよ。帰れよ。
そして黒田さんの態度に腹を立てた巫女さんが彼女を睨みつける。…大人の余裕は皆無だ。
と、そこに真砂子が冷静な顔で
「あれは事故ですわ」
とキッパリ言った。我が意を得たとばかりに巫女さんは「そうよねえ!」と引きつりながらも笑顔で言う。
「アタシはちゃんと…」
「除霊できた、という意味ではありませんわよ。ここには初めから霊なんて居ませんの」
ちゃんと除霊できた、という巫女さんの主張はスッパリと真砂子に切り落とされた。
す、すっげー…ある意味息ピッタシ…。
ぎゃあぎゃあと口げんかを始めるいつもの2人(+黒田さん)を完全に放置してこちらでは男性陣が何度目かわからない霊の有無についての議論を開いていた。
「…偶然ですやろか」
「やーっぱなんかいるんじゃねぇ?巫女さんじゃ手に負えないような強いやつが」
「だったらもっと機械に反応があってもいいはずなんだが」
いや、だからさー…せやけど…うんぬんかんぬん
…どっちなんだぁーーーー!!
ちょ、もう助けてドラえ○ん!!何か幽霊探知機か見えるようになる道具出して!!いやもういっそぬ~○~!!ぬ~○~呼んで来て!!
ああイライラする!!もうどっちなんだかホントはっきりしやがれコノヤロー!!
この際 鬼○郎でもいいわ!!…妖怪アンテナって幽霊にも有効なんだろうか。というか妖怪の中で暮らしてるんだから反応しっぱなしなんじゃ…
思考がずれた…そう、ガラスが割れた理由を考えてたんだった。
誰かが外から割った風ではなかった。人影は無かったし、投げ込まれたものもなく、更に外側にも破片が散らばっていた。
また、寸前にしたひびが入るような音が空耳でなければ何らかの衝撃で割れたわけではなくなる。
それに、ガラスの割れ方だ。破片は一つ一つが大きく、扉のガラスは全面的に割れ落ちていた。
…なんっか気にかかるんだよねー。何だったけなー…この割れ方、どっかで…
「…って、あれ?」
モニタの一つにになんとなく違和感を感じた。んー?
あ、椅子だ。昨日はこんなカメラの正面に撮ってくださいとばかりに置いてなかった。
私の声に反応したナルがどうした、と声をかけてくるのでその旨を報告。
「…誰か、西の教室に行ったか?」
「いんや……?」
誰も行っていないらしい。いつの間にか口げんかをやめた女性陣も何事かと不思議そうな顔をしている。
静かになった教室に録画データを巻き戻す音が響く。巫女さんの除霊が終わるあたりまで巻き戻してから再生するとやはり椅子は真ん中にはなかった。
モニタの中で先ほどの出来事が忠実に(そりゃそうだ)再現される。ガラスが割れる、と…
「う、ごいて…る…?」
椅子が、動いた。少しずつ横に、横にと動いてついに真ん中まで来て、止まった。
「えーと……何ですかねコレは」
何とも言えないのでナルに聞いてみる。なんつーか地味だがちょっと不気味だ。
しかし返ってきたのは無言だった。多分思考中なんだろう。平成○育委員会のマスコットキャラがクルクルまわっている。勿論イメージだ。
「ポルターガイストじゃないかしら」
しかもいらんところから返事がきた。くーちーを、出すなっちゅーねーん。うぜぇ。
ポルターガイスト…確かに家具が動いたりする現象をそう呼ぶらしいのは聞きかじったことがある。
「『騒がしい幽霊』って意味だったと思うわ。霊が物を動かしたり音をたてたりするのよ」
語源は知りませんでしたー!詳しいな!うーんこれは(私にとって)役にたったと言うべきだな。グッジョブ黒田さん!帰れ!
思う存分知識をひけらかした黒田さんどうだとばかりにナルに話を振った。
「そうでしたよね、渋谷さん」
「詳しいね。だけどポルターガイストとは思えないな」
知識に関しては肯定。しかし意見には反対だったようだ。
ポルターガイストが動かしたものは温度が上昇することと例の椅子に温度の上昇は見られなかったことを説明している。
そう、専門家が黙っているからにはそれなりの理由があるのだ。知らないわけがない。
だから余計な口を挟んで思考を邪魔してはいけないと思うのだよ黒田さん。通じろ私の思い。
「そやけど、ポルターガイストの条件は満たしとるのとちがいますか?」
黒田さんに念を送っていると、ポルターガイスト説に否定的なナルのセリフにジョンがまたコアなツッコミを入れた。
さすがにそこまで詳しいわけじゃないらしい黒田さん。もちろん私もさっぱりわからない。条件て、何。
「…ティザーヌだね」
当然ナルはわかったらしい。丁寧に説明してくれる。ゴメンね素人で。
…私の不注意で助手さんが怪我を負っていなければ、こんな手間はなかったはずだ。
黒田さんがここをうろうろすることもなく…
「…僕はポルターガイストにしては弱いと思う」
「…じゃあ、私が襲われたのは?」
「なんだってぇ!?」
この馬鹿の自意識過剰かつKYな台詞でまとまりかけた話が混乱することもなかっただろうと思うと涙が出らい!!黒田さんの馬鹿!!
めんどくさそーな顔をしているナルに申し訳なさ過ぎる…!!
「なんだってそれを早く言わねぇんだよナルちゃん!!」とぼーさんが声を荒げる。
ああ…ちゃん付けしてたのはぼーさんだったのか…といつぞやの記憶に逃避する私。仕方なさそうにその映像を出してモニタに映し出すナル。
ほんと申し訳ない……!!