第一章
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「――こんだけの機材を…よくまあ集めたな」
あとから来た皆様をベースにご招待~。いや勝手についてきただけなんだけどさ。
ぼーさんがベースに置かれた機材を見て感心したようにいった。
むしろこんだけの機材を運び込んだことに感心して欲しいかな!
同じく機材を見渡した巫女さんが嫌味っぽく言う。…さっきの根に持ってんのかな。
「これだけ集めてムダ骨なんてご苦労さまね」
「いやあ俺は見直しましたよ。こんだけのモン持ってる事務所の所長さまだからなぁ」
こりゃ有能にちがいないわ。と言うぼーさんも嫌味口調である。
…わざわざ邪魔するためにココにきたんかなこの人たち…
もちろんナルは気にする様子もなく
「あなたがたは除霊に来たんですか、遊びに来たんですか?」
スッパリと切って捨てていた。…この人たちには人間関係を円滑にしようという心遣いが欠けている…
まったく…聖徳太子も「和をもって貴しとする」っていってるのに!
何回やっても口で勝てない巫女さんは「これだから子どもはイヤなのよっ」とプンスカ出て行ってしまった。
後ろをついていくぼーさん。…協力するつもりがあるのかないのかイマイチわからん…
「…協力するのとちがうんどすか?」
出て行く二人とこちらを見比べながらおろおろしてるブラウンさん。癒しである。
「…ボク、こういう雰囲気はかなんのです。できるだけ協力しますよっていてもよろしやろか」
「どうぞ」
ホント謙虚でいい人だ!大人気ない二人…いや、ナルも含めて三人に見習って欲しいね!
「ブラウンさんありがとう!ブラウンさんが居なかったらこのツンケンした空気の中で一人ぼっちになるとこだったよー」
思わず本音がポロリした。…睨まないでよナル!事実私の繊細な神経は磨り減ってるのであります!
ブラウンさんはと言えば照れ笑い――いや、苦笑かな?―をしながら
「そんな…あ、ボクはジョンと呼んでおくれやす」
と返してくれた。…笑顔がとっても可愛かったデス。
その時、目の端で何かが動いた気がして視線をやる。…なんだモニタか。………ん!?
「…渋谷さーん…この人誰ですかね…」
そこには着物を着た黒髪の女の子が映っていた。
うわーいなんだかミステリアスな雰囲気ー…画像が暗くてよく見えないけど。
モニタを見つめるナルは目を瞠っている。あ、フェードアウトした。
と思ったら少し間をおいて床がきしむ音がした。振り返ってみてみるとさっきモニタに映っていた女の子が立っている。
多分私と同い年くらいの着物美人である。ぬばたまの、と枕詞のつきそうな黒い髪と瞳。
普段から着慣れているんだろうな。しっかり着物を着こなしている。さらさらの髪を肩で揃えててまるで日本人形だ。
いつぞやのようにぼーっと女の子を眺めていると、そんな私をナルは呆れたように一瞥して女の子に話しかけた。…綺麗なものが好きなんだい!
「…校長はよほど工事をしたいらしいですね。あなたまで引っ張り出すとは」
「え、お知り合い!?」
「いや、顔を知ってるだけだ」
な、なんだ…。
そしてやっぱし霊能関係の人か!校長ほんと何人呼んだんだよ!!
つか校長霊能関係に人脈広ーー!!
「原 真砂子。有名な霊媒師、口寄せがうまい。多分日本では一流」
「へぇー…イタコさんってこと?」
ほへー…業界の有名人ってことか。
私が何気なくそう言うとナルが意外そうな顔をした。な、何…?
「…よくイタコなんか知っていたな。まぁ、そんなものだ」
…評価が改められたと考えていいのかな…!…駄目だ馬鹿にされているようにしか聞こえない…。
「あなたは…?霊能者には見えませんけれど」
おっ、喋った。声もすっごく可愛い。でもしっかりしてそうな感じの子だなぁ。
てゆーかやっぱりナルは霊能者には見えないんだね。…あの巫女さんとかぼーさんとかジョンだって見えないけど…
「ゴーストハンターです。渋谷と申しますが」
と、ナルは非常に簡潔な自己紹介をしている。
…ナルに巫女さんにぼーさんにジョン。更には原真砂子ときてこれで5人か。
しかも全員 霊能者って以外には関係のない人たち。…ホント、うちの校長の人脈はどーなってんだか。
その時、何か大きな音と共に悲鳴が聞こえた。え…な、何事…!?
「なんだ今の声は!?」
とぼーさんがこっちに来た。し、知らねーよ!…ん?巫女さんは一緒じゃないのか?
とゆーことはさっきの声…
「松崎さんの声とちがうやろか」
あ、やっぱり?廊下に出てみるとドンドンと多分ドアを叩いている音がする。
近づいてみるとドアの向こう側で巫女さんがパニックになっている。
「開けて!ちょっと、開けてよ!!」
…開かないだけかい!!悲鳴上げるから何事かと思ったじゃんか!!
ナルが観音開きであろう扉のドアノブを回すが一向に開かない。
「おかしいな」
「どれ、かしてみろ」
と交代したぼーさんが多少力任せに引いても扉は動かない。
…あれー…?なんか引っ掛かってるのかな。引き戸なら建てつけの悪さでたまに開かなくなったりするけど…
「仕方ねえな。おい、蹴破るぞ!どいてろ綾子!」
「勝手に呼び捨てにしないでよ!」
ええ壊すの!?…まあ、どーせ壊す校舎だからいいのかもしれないけど!
掛け声と共にぼーさんが扉を蹴破る。古いだけあってあっさりと扉は教室の内側に倒れた。
ん…?気になって中に入ろうとする。が、止められた。あり?
「ちょっと!危ないわよ!」
「勝手な行動をするな」
二人がかりで。そのままベースに連行される。
真砂子は何にも言わないじゃん…!と思ったが言えない。あれ、私"思ったけど言えないこと"多くね?
…おっかしいなぁ…そんな意思表示できないキャラだっけ私。…否、周りのキャラが濃すぎるんだなこりゃ。
ベースに着くと我が物顔で椅子に座った巫女さんが缶ビールのプルタブを開けた。
「――なんなのよもう!」
いやいやいやいや!?仕事中!お酒!ダメ!絶対!
こ、この人のモラルとかそーゆーものはどこにあるんだ…!
「教室の中見てたらいつの間にかドアが閉まっててさ、開けようとしても開かなかったのよ」
「自分で閉めたんじゃねぇのか?」
「違うわよ!」
そういうことらしい。でも…さっきから気になってたんだけど…
「ね、窓は開かなかったの?」
実はベースは一階にある。巫女さんが閉じ込められた部屋も同じ階にあるのだから窓から外に出られるはずなのだ。
「え……」
ぽかん、とする巫女さん。
「…確かめなかったとか?」
「う、うるさいわね!気が動転しててそれどころじゃなかったのよ!」
…まぁ、窓が開いたとしても巫女さんの動きにくそうな格好じゃ高い窓枠を超えることはできそうにないけどね。
「…あの程度で声をあげるなんて…仮にも霊能者として情けなくなりません?」
「…なんですって」
真砂子だ。おお、コッチの美人も毒舌か。美人不信になりそうだ。ならないけど。
そしてそれに噛み付く巫女さん。
「そもそも霊はいませんわ。なんの気配も感じませんもの」
「小娘は黙ってなさい!アタシは顔で売ってるエセ霊能者とは違うのよ!」
「容姿をお褒めいただいて光栄ですわ」
あああ…霊能者の口げんか女同士バージョン…
口で勝てなくなったのか年長者として引いてやったのか巫女さんが先に話をかえた。
…彼女の名誉の為に後者ということにしておこう。
「アタシはこの場所に住んでる地霊の仕業だと思うわ」
「チレイ?地縛霊とかってこと?」
「うーん、ちょっと違うわね」
と普通に説明してくれた…!曰く、地縛霊は何らかの因縁でその場所にとらわれている人間の霊。地霊は土地そのものの霊…精霊だと。
うん、わかりやすい!意外だ!
「なるほど!地鎮祭で祭るやつ?」
「あら、地鎮祭なんて知ってんのね。でもそれは土地神ね」
「…何が違うのさ。でも、土地の神様だか精霊だかがなんで建物壊すのに反対するの?祠とかってわけじゃないのに」
「知らないわよ。人間の理屈じゃ推し量れないよーなこと考えてるんだから」
そ、そーなのか…。私が感心していると今度はぼーさんが意見を述べた。
…なんか協力してやってくみたいな流れになってきた…!良かった…!
「おれは地縛霊のほうだと思うけどなあ。この校舎、昔なんかあったんじゃね?」
はい、ありましたね。
自殺とか殺人とか事故とか。
「んでその霊が棲み家をなくすのを恐れて工事を妨害してるかんじじゃねえ?」
そんなかんじですかね。ぼーさんの意見は王道な気がするよ。うん。
王道って大事だよね。
「君はどう思う?ジョン」
ナルがジョンに意見を求めた。…ジョンって呼んだ!
さっきの私とジョンの会話の影響だろう。意外と人の話も聞いてるらしい。
「ボクにはわかりまへんです。ふつう幽霊屋敷の原因はスピリッツかゴーストですやろ?」
すぴりっつ…?魂?精神?
「スピリッツ…精霊か。ゴーストは幽霊。聞いてるか麻衣?」
「…ご親切にどーも!」
さすがにゴーストくらいはわかりますよ!!つかどこで拾ったのその釘!ポイしなさい!
更にジョンの説明は続く。原因がスピリットならそこが地霊ゆかりの場所――つまり祠とかかな―か悪魔を呼び出したことがあるとかなのだそーだ。
…前者はともかく日本で悪魔召喚はあんまりないと思う…。やるとしたら黒田さんみたいな中ニ病患者とかだよな。あとはオカルト愛好家…あれ、結構可能性高い?
「ゴーストが原因やったらそれは地縛霊ゆうことになります」
ジョンが説明を終えた瞬間に巫女さんとぼーさんがジョンに迫った。
「地霊だと思わない?」
「地縛霊だよな!?」
「わ、わかりまへんです」
最初からわからないっつってんだろ!まったく落ち着きのない年長組みである。
「とにかく!祓い落とせばいいんでしょ?アタシはあした除霊するわよ」
そう宣言してベースを出て行く巫女さん。…あれ!?協力態勢は!?
意見だけ言ってあっさり出て行ってしまった巫女さんを呆然と見送っていたら真砂子が呆れたようにため息をついた。
…私にじゃないよ!巫女さんにだよ!
「ムダですわ。霊はいないといってますのに」
「ね、ほんとに何にもいないの?」
「ええ、もしいるなら何かしら感じるはずですもの」
「ふーん…」
じゃあここで死んだ人たちは地縛霊になっちゃってたりはしてないんだな…。これだけ人死にが出てるのにそれってのも逆に凄いかも。
いや、そもそも早々地縛霊になったりするもんじゃないのかな。事故で人が死ぬ度に地縛霊になったらそこら中、地縛霊だらけだよね。見える人は大変だ。
「あ、そーいえば巫女さんとかぼーさんは幽霊見えないの?」
「お?おお、なんかいるかな~ぐらいには感じてもな」
「へー。じゃ、お祓い大変だね。どこにいんのかわかんないし」
私たちの会話には興味がないらしい真砂子はナルに話しかけていた。
「先ほどから気になっていたのですけど、あたくし以前あなたにお会いしたことがあったかしら」
え、ナンパ?
…いやいや冗談だけども。セリフがまんま古すぎてネタでしかなくなったナンパのそれだったものだからつい。
こんなお嬢さんがこんなところで逆ナンなんてするハズないよね。うん。ないってぼーさん。
だからそのニマニマ笑いはひっこめた方がいいと思うよ。怪しいしね。
少しだけ考えるように沈黙してからナルは面識はないと告げた。それに納得いかない表情の真砂子。
まぁ、誰かと間違える、なんてこともなさそうだしねぇ…類稀なる美形さんだし。ナルが忘れるとも思えない。
興味のない人間ならともかく、ナルは彼女のことを霊媒師として知っていたのだから尚更だ。
ま、デジャヴだかデスティニーだか知らんしどーでもいいけれど…それよりも…そう、それよりも、だ。
「渋谷サン渋谷サン日が暮れてきたので帰ってもヨロシイでしょーか」
綺麗な夕日が木造校舎の中に射し込んで…えらく不気味です隊長。
学校ってそれだけでもう異空間っていっても差し支えないかもしれないくらいの特殊空間だから、人のいない校舎はなんとなく…怖い。
だから出来れば暗くなる前には帰りたいのだ。…幽霊の噂もあるし足も痛いしね!!
こうなったのも全て自業自得だってのはわかってますよ。わかっていますとも!!
例えばナルの姦計とか黒田さんに引っ張られたこととかのせいになんかしませんよ!…して、ないですヨ…!!
私の言葉に窓の外を見て、赤々とした夕焼けに気付いたナルは同意して、言った。
「それじゃ二階の西端の教室に機材を入れて、それが終わったら一度車に戻って湿布をかえろ」
「え、大丈夫だよ。今日そんなに動いてないし」
「おまえの"大丈夫"は信用ならない」
昨日ほど動き回ったわけではないし、学校でも一度診てもらっているのだから大丈夫。
と、辞退しようとしたら睨まれ…いや、馬鹿にされた…!?
言葉だけ取ってみたら心配にも聞こえるその言葉。しかしこの人の態度とかその他諸々で馬鹿にしてるようにしか見えないミラクル。
っていうかどこを馬鹿にした!?自業自得で怪我したところ!?いや今更!?
「…って、嬢ちゃん怪我してんのか!?」
「あ?あー…いやちょーーっと足捻っただけで…」
「無理は良くありまへん。ボクが機材運びますし、麻衣さんは手当てしたらどうでっしゃろ」
「え?そんな重症じゃ…」
「そーしろそーしろ」
そしてぼーさんとジョンにあれよあれよと言う間に流されて、気付けば車の前に。
な、なんというか…
「過保護…。っていうか大袈裟…」
特にぼーさんとか。ナルにイヤミ言いまくるくせに良い人なんだか嫌な人なんだか。
ただのフェミニストだったりして…うわ似合わなーい。
「何をぼさっと突っ立っているんだ」
車を前に一人思索に耽っていると後ろから戻って来たらしきナルに声をかけられた。
…この人は相手を馬鹿にしないで話すことはできないのかな…!
「って戻るの早ッ!?」
「……好き勝手あさられたらたまったものじゃないからな。指示だけ出して戻ってきた」
「あー…それは…ご迷惑おかけします…」
ちくしょうコノヤロウてめーが言い出しっぺじゃねーかとか、思ってない…とは言えません。
しかし気遣ってもらったようなのでここは下手に下手に。
「そう思うなら早く座れ。さっさと済ませたい」
「いや、いやいやいや!勘弁して!そのやってやるから的な姿勢はやめて!!」
車を開けて救急箱を取り出しながら座るように促してくるナル。
だが断る!!ってか無理!!あんな羞恥プレイは二度と御免です。
必死に遠慮する私にナルは眉をよせる。表情から読み取れるのは"いいからさっさと座れ。グズグズするな"とでも言いたげな不機嫌さ。
スミマセン目でそこまで語らないで。人は言語でコミュニケーションをとる生き物…あ、コミュニケーションとか不要ですか。ハイ。
しばし無言の抵抗を続けるも無言の圧力に負けて昨日と同じ場所に腰掛ける。
「あの、ほんとに大丈夫だって…換えたばかりだし…」
それでもやっぱり諦められない。何故なら足の手当てを他人にされるのが酷く気恥ずかしいからだ。
医療関係とかそういう仕事の人ならいいんだけどね。なんつーか足を触られるというか掴まれるのがなんとも…せめて同性ならいいんだけども…。
そんな事を考えながら治療を遠慮する旨を伝えるとナルは一度救急箱にやった視線を再び私に合わせた。
「いつ」
「へ、あ、えーと…放課後?保健室よってきたから」
「…見せてみろ」
「ちょ、待って、見せる必要ないよね?」
「さっきも言った。麻衣の自己申告はあてにならない」
「えぇ!?いや、ちょっ…」
どんだけ信用薄いのーーーーーー!?!?!?
驚き、むしろある意味でのショックに固まっていると痺れを切らしたナル(気ィ短ッ!!)が私の左足のニーハイに指をかけ…
ちょまーーーーー!?!?!?待って!!脱がされるとかやっぱりかなり恥ずかしいから!!
パニックのあまり何も言えずに身をよじって逃れようとする。
と、手首を掴まれた。え、何。ナルはその不機嫌そうな目で私を射抜いて、低い声で一言、
「大人しくしていろ」
「……ハイ」
勝てるわけがありませんでした。…私の方がずっと年上なのに…!!(心だけだけども)
その後は大人しく新しく手当てし直して、尚且つサポーターもちゃんとつけてあることを確認されました。
や、なんでそこまで…?ナルは変なところで過保護だと思う…。よくわからん…。
そう、その時の私は気付かなかった。
「……いやいやいや、セクハラだろ。それでいいのか嬢ちゃん…」
「仲がよろしいんどすなぁ」
……傍からどう見えていたかなんて、全く気付かなかったのだ。
車から降りて戻る途中に微妙な顔のぼーさんと相変わらずニコニコしてるジョンと出くわしてそれに気付き、羞恥のあまり身悶えしたのは封印したい記憶だ。
くっそ何たる失態…!!恥ずかしいーーー!!!