第一章
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そしてあっちゅーまに放課後。念のために湿布をかえに保健室に行く。
今度は養護の先生がちゃんといて苦笑しながら捻挫を見てくれた。
「あら~、ちょっと腫れてるね。体育とかやっちゃダメよ?」
「あはは~…はーい…」
体育は見学してますが重い機材運んだりしてます。なんて言えねー!
先生にお礼を言って保健室を出る。ナルもう来てるかなー。
てくてくと旧校舎に向かって歩く。…昇降口通ると少し遠回りなんだけどしかたないなぁ…
ちょっとびっこをひいて歩く。あんまやると今度は右足痛めそうだから車のトコまで。
あー…あんまり遅くなったら文句言われるかな。まぁいいか…
そんな事を考えている内に旧校舎に着いた。車と相変わらず美人なナルと若いお兄さんとお姉さんが見えてきた…どちらさまで?
ナルの知り合いかなーと思ったがどうやら違うらしい。お姉さんがナルに声をかけた。
「へぇ!いっぱしの装備じゃない!子供のオモチャにしては高級すぎるカンジねぇ?」
あ、この装備に違和感はないのか。…意外とこれが普通?いやそんなまさか…
ナルは顔をあげて…あ、目が合った…。むしろ睨まれた…。
いや隠れてたわけじゃないんですよ?ちょっと入りにくかっただけですよ?
と心の中で言い訳しているとお兄さんに声をかけられた。
「お?嬢ちゃんこのガッコのコかい?危ないからあんまこの校舎に近づくなよ~」
「あー…どうも…その…」
「僕の助手です。それよりあなた方は?」
代理ですが。気遣ってくれたお兄さんに言い出しにくくて言葉を濁していると思わぬ助け舟が!
私を睨むのをやめたナルがお姉さんたちに視線を移す。
お姉さんは松崎綾子と名乗った。が、いきなりナルの得意技、毒舌が炸裂した。
「あなたのお名まえには興味ないんですが」
興味ないってあんた…!もちっと棘のない言い方できないのか…?できないんだろーな…
でも言っちゃ悪いけど自分以外が被害にあってると面白いな。
松崎さんは巫女と名乗った。…巫女ぉ!?
「あら、何か文句ある?」
おっと口に出ていたらしい。睨まれてしまった。
だけど正直ちょっとショックだ。巫女ってゆーと清楚なイメージがあったから…
「…巫女とは清純な乙女がなるものだと思ってました」
言っちゃったぁーーー!!?ちょ、ナルさんそれは思ってても言っちゃダメだよ!
日本人の美学だよ!!後ろでお兄さんも吹き出している。
「ああら!そう見えない?」
「少なくとも乙女というにはお年を召されすぎと思いますが」
巫女さんは怒り気味…てあたりまえでしょー!ちょ、ナル言い過ぎだって!
「さすがに失礼ですよ渋谷さん!純潔守ってるのかもしれないじゃないですか…!」
一応人前なので敬語で発言する私。
・ ・ ・ ・ 。
空気が固まった。3人の視線が私に向く。
直後にお兄さんは爆笑。巫女さんは私を睨みつけて真っ赤に…あれ?私変なこと言った?
えー…乙女って処女のことだよね…?そーゆー人は一生操を守るって聞いたことがあるよーな気がしたんだけどな…?
「…それで、あなたは?松崎さんの助手ってわけではなさそうですが」
呆れたようなナルは今度は爆笑しているお兄さんに視線を向けた。
お兄さんは笑いを納めてナルに向き直った。
「…冗談だろ」
あ、違うんだ。ゴメンナサイ、そうだと思ってました。
「おれは高野山の坊主、滝川法生ってもんだ」
ボウズ…思わずお兄さんの頭部に視線が行くのは当然だと思う。
「高野山では長髪が解禁になったんですか?」
そんな当然の疑問もナルにかかれば嫌味に早変わり!横で巫女さんが「破戒僧」と呟いた。
「い、今は山を降りてんだよ!」
それって身分詐称なんじゃ…。いやでもいちいち説明してられないからそう名乗ってるだけなのかな。
そこで巫女さんがタバコの吸殻を踏みにじりながら――オイオイ、ちゃんと捨ててくれよ…?生徒が吸ったと思われて注意されたらいい迷惑だ。
――「とにかく!」と強い調子で言った。
「子供の遊びはここまでよ。後は任せなさい」
な、何ちゅー無責任な…。こっちも仕事なんだからハイそーですかってわけにはいかないっつの。
それに仕事の様子を見たわけじゃないのに年齢だけで人を判断するのはよくないよね。
つーか仕事したいなら勝手にすりゃいいのに…。なんか言い争ってるよ…。
その会話の中で校長のダメっぷりが垣間見えてちょっと落ち込んだ。オイ校長ー…
立地で勝手に信頼して外見で勝手に失望して人様の悪口言うなよ…
「ところでボウヤ、名前は?」
「渋谷一也といいますが」
二人の言いあいには我関せずと背中を向けたまま答えるナル。…慇懃無礼ってコレのことかな。
てゆーかそんな名前だったんだね!
巫女さんとぼーさんの低レベルな争いをBGMにスッキリ気分を味わっていた私の視界に厄介なものが映った。
「谷山さん」
そう、黒田さんだ……ってなんであんたここに居るんだよ!!
口出すなっつーたのに…!やっぱわかっとらんかったんか。あーータチ悪ぃ…
「この人たちは?」
「校長の依頼で来た巫女さんとお坊さんだって。ね、プロの邪魔になるから」
帰りなよ。と言おうとした私の言葉は遮られた。もちろん他でもない黒田さんにだ。
「ああ!よかったわ…旧校舎は悪い霊の巣で、わたし困ってたんです!」
ぐはぁ!厨二タイム突入かぁ!?
「…あんたが、どうしたって?」
そんなマジ顔で聞くよーな話じゃないですよおねーさん…
後ろでぼーさんは困ったような表情をしていた。言葉にするなら「あちゃー」。うん、そうなるよね。
「わたし霊感が強くて。それですごく悩まされ…」
「自己顕示欲」
黒田さんの厨二トークは巫女さんにバッサリ切られた。
「目立ちたがりね、あんた。そんなに自分に注目して欲しい?」
まぁ、確かに巫女さんの言うとおりである。……だけどねー…
ビク、と肩を揺らす黒田さんを見る。アホだ、自業自得だ。とは思うけど
「巫女さん言い過ぎ。言っていいことと悪いことがある」
「何よ、ホントのことでしょ。そのコ霊感なんてないわよ」
「だとしてもそこまで言うことないでしょ!大人の対応できないわけ?」
中二病を糾弾しまくるのを見るのもなんかイタいんだよ!!
巫女さんを黙らせるべく説得に当たる私の後ろで黒田さんがククク、と演技がかった笑い声を上げた。
あーあ…あんまり追い詰めるからプッツンしちゃった…
「――なによ」
「…わたしは霊感が強いの。霊を呼んであなたに憑けてあげるわ…」
まだ大人気なく噛み付く巫女さんに黒田さんがあちゃーな発言をした。
「強いんだからね…本当に」
これこそボイスレコーダーで録音してタイムカプセルにいれたいな。
もう好きにすればいいさ!つかコレは半分くらい巫女さんのせいだろ!
この年頃は否定されると頑なになるからなぁ。反抗期ってやつ?
「……フン!」
「おーお、すさまじ」
「…一番怖いのは霊より人間、ってことで」
さってと黒田さんも帰ったことだし…
「ナル!今日は何をすればいい?」
「そうだな…今昨日のデータを見ていたんだが特に反応のあるところはなかった」
あ、まずった。普通にナルって言っちゃったい。
…うーん巫女さんもぼーさんもそんな礼儀を払う対象じゃないからいいか。ナルも気にしてないみたいだし。
「麻衣の先輩が人影を見た教室がわかればそこに機材を置こうと思う」
「うーん…二階の…一番西側だったかな」
「よし、そこに機材を運ぶ」
「りょーかい」
…あれ?いつの間に名前呼びに?…まぁいっか。そもそも私の名前知ってたんだね。
こんなこともあろーかと持ってきた髪ゴムで髪を縛る。
…実は昨日ちょっと邪魔だったんだよねー…。適当にまとめあげてナルの方に行こうとした時、何やらぼーさんが声をかけてきた。
「なぁ嬢ちゃん、"ナル"ってなんだ?ニックネーム?」
気になったらしい。…この人フレンドリーなんだか軽いんだか…。普通にいい人そうなんだけどな。
聞き様によっては悪口にも聞こえるこのあだ名。チラ、とナルを見るがいつも通りに我関せず。…じゃあいっか。
「うん。ナルシストのナル。渋谷さんって言いにくくって」
私がそう言うとぼーさんはぶほっと吹き出した。…よく笑うなこの人。
「そりゃいい!嬢ちゃん肝が据わってんな!」
自慢の一品です。
ぼーさんの疑問も解消されたところで仕事に戻ろうとした私。しかし今度は巫女さんの声に足が止まる。
「――ねぇ、あれ…」
今度はなんじゃいな。と振り返ってみるとそこにいたのはダメらしい校長ともう一人。
「やあ、おそろいですな」
そう愛想笑いをする校長の隣で愛想良くにこ、と笑ったのは金髪の可愛いお兄さんだった。
え?外人さん?留学生とか?いやいや留学生をココにはつれてこないだろ…とゆーことは
「もうひと方お着きになりましてね。ジョン・ブラウンさん。仲良くやってくださいよ」
もうすでに仲悪いんですがね。つかいったい何人呼んだんだよ校長。
仲良く以前にそもそも言葉の壁が…。
そんな事を考える私の目の前でブラウンさんは愛想良く頭を下げて丁寧に挨拶してくれた。
「もうかりまっか」
…とりあえず日本語はできるらしい。
まぁぼちぼちでんがな。と返すべきだろうか。…やめておこう。
「ブラウンいいます。あんじょうかわいがっとくれやす」
「その、ブラウンさんは関西のほうで日本語を学んだようで…」
全然カタコトじゃない日本語…や、方言だけどさ。すごいなぁ、日本語は難しいらしいのに。
いっぱい勉強したんだろうなぁ。後ろでは大人気ない大人二人が爆笑している。
…ま、確かに外人の口から出る京都弁の威力はすごい…ぷぷ…
さすがというか何と言うか、ナルは涼しい顔でブラウンさんに話しかけている。
「…ブラウンさん?どちらからいらしたんですか?」
「へぇ、ボクはオーストラリアからおこしやしたんどす」
…ま、多少言葉の使い方が変かもしれないが伝わるんだからいいだろう…。敬語は日本人でも正しく使えないくらいややこしいし…。
と、耐え切れなくなったのかぼーさんがヒーヒー言いながら
「おいっボウズ!たのむからその変な京都弁やめてくれ!!」
……や、そこまで笑わなくても…。
どうやらブラウンさんは丁寧な言葉だと思って京都弁を話していたらしい。
その言葉にぼーさんが爆笑しながらツッコミを入れたので普通の喋り方に
「はぁ、そやったら仲良うにいかせてもらいますです。あんさんら全部が霊能者でっか?」
ならなかった。ぼーさんたちはもう抱腹絶倒だ。…お、珍しいことにナルもちょっと笑ってる?
「そんなものかな……君は?」
昨日は一緒にするなとか言ったくせにー。
訊ねたナルにブラウンさんは愛想良く答えた。
「へえ、ボクはエクソシストいうやつでんがなです」
爆笑してたぼーさんと巫女さんがぴたりと止まった。
エクソシスト…ってーと悪魔祓いだっけ。そんな映画もあったなぁ…
とゆーかこの人たちの反応からするとすごい職業?なんかな。
「たしかあれはカトリックの司祭以上でないとできないと思ったが…。随分若い司祭だね」
「ハイ、ようご存知で」
そ、そんな決まりがあったんか…。免許みたいなものもあるのかな。
物知りだなぁナル。さすがプロだ。
「せやけどボクはもう十九でんがなです。若う見られてかなんのです」
じゅうく!!?な、なんと!!日本人の私から見ても実年齢より下に見える…!!
エクソシスト、ジョン・ブラウンとの出会いはいろんな意味で衝撃でした。