第一章
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渋谷さんについていった先は旧校舎…の外にずらっと並ぶでっかいマイク。
「マイクを外して集めていってくれ。僕がスタンドを回収する」
…なんか…もしかして助手って肉体労働?
「これって音入ってるの?」
「今日一日調べてみたが特には入っていなかった」
「…入ってるとしたらどんな音が入るの?」
「…霊がいるならばラップ音や声など。雑音が一番多いかな」
「へぇ~…怖くないの?」
「別に」
お、結構テンポよく返事が返ってくる。その間も手は止めないし目も離さない。
…コレも高そうだしな。落としたら大惨事だ。
それに仕事の手を休めると間違いなく彼は『口ではなく手を動かせ』と言う。そういうタイプの人間だ。
「渋谷さんはさ、なんでこの仕事やってるの?しかもその年で所長」
「必要とされているから」
わお。やりたかったからとかじゃないんだね。そしてこうも自信満々にキッパリ言われると意味もなく否定したくなるな…。
いやいや大人になるんだ自分!なんとか貶したい衝動を抑えて会話を続ける。
「でも、解決できなかった事件とか、失敗とかだってあるっしょ?」
あれー…衝動おさえきれてなかった…!
「ないね。僕は有能だから」
即答されました。ほんっと自信家だなこの人。プライドが高いんだろうな。
すっごいナルシストに見えるけど多分事実なんだろーな。
うはー…なんか大変そーなお方だよ…。いろんな意味で凄い人の助手になっちゃったなぁ…
「終わったらさっさと来い」
「はーいはいはい」
意外とそんなに重くない(でもかさ張る)マイクを持って渋谷さんについていく。
すると一台のバンが見えてきた。…渋谷さんのかな?や、年齢的に免許持ってないだろ。
と、渋谷さんがドアを開けてスタンドを積んだ。つまり渋谷さん関係ではあるとゆーことか。…ちょっと待て
「…渋谷さん、その大量の機械類は…」
「運び込むぞ」
「全部!?」
「必要なだけ全部」
容赦ないな!つか運び込むってことは中に入るんかい!ぎゃひぃ!
引きつった私の顔から心情を察してくれたのか渋谷さんが声をかけてくれた。
「心配するな」
と、彼は背広を脱いで腕まくりをしている。
え、もしかして入らなくていいとか…
「一人で行かせやしない」
わけないですよね!
かっこいいセリフだなぁオイ!死なばもろともとも聞こえるけどね!
…つくづく今朝の好奇心に負けた自分を殴りたい…。
大人しく渡された機材を持って旧校舎に入る。…日も落ち始めて中は薄暗い。
「せめて昼間やってくれればいいのに…」
「助手がいなかったもので」
「うっ…」
独り言に思わぬカウンターパンチをもらってしまった。
ひ、独り言に相槌うってんじゃねー!
「――ここを使うか」
そう言って彼は実験室と書かれた教室に入って機材を机の上に置いた。
「棚を組み立ててくれ。僕は機材を取ってくる」
「え、一人で?」
「じゃあお前が機材を運ぶか?重いもので40キロ近くあるが」
「いやいや何も一人で行くことないでしょ。二人で組み立てて二人で取りに行こうよ」
「…効率が悪い」
「そう?…まあ、渋谷さんがそう言うなら」
そりゃお兄さん、一人で残るのも嫌ですけどね。んな重いもん任せっきりも何かなーなんて思ったんですよ。
渋谷さんの足音が遠のいていく…。こ、心細い…。
なんだかソワソワと落ち着かなくなる。うーん、取りあえず仕事しよう…。
と、棚を組み立てていく。一人にしないって言ったくせにー…あ、一人では行かせないだっけ。まぁどちらでも同じだ。
渋谷さんのことを考えていたら連鎖的に先ほど考える事を放棄したモノを思い出した。
"前"に読んだ漫画、ゴーストハント。やっべ自分主人公じゃんとかいろいろ考えたけどよくわからんので放棄!
内容だってそんなに覚えてないしそもそもあんま知らないし。
だけど疑問に思ったら気になりだしたことがある。それは"渋谷さん"の名前だ。
なんっか別の呼び方されてた気がするんだよねぇ…。苗字じゃなくて名前だったとか?
あ、名前知らないや。うーーん…なんか…二音くらいの…○○ちゃんって…。
いや、ちゃん付けってどうなんだろう…
しばらくそんな事を考えながらも大人しくやっていたけど…ここ、家鳴りがひどいなぁ…と思って手を止めた。
こーゆーときはなんだか小さな音も大きく聞こえるのだ。と、足音が聞こえてくる。
振り向いた瞬間、視界の端に入った白い手に不覚にもビクッとしてしまった。そこにはドアを開けた渋谷さんが。
…そりゃそーだ。機材取りにいったんだから戻ってくるっての。
なんだかほっとして棚を組み立てる作業に戻る。すると渋谷さんが私を呼んだ。
「はい?」
「逆だ」
…どうやら組み立て方を間違えたらしい。やり直しデスか…
その後は順調に機材を運び終わってセッティングもほぼ完了した。
もちろん棚を組み立て終わってから私も機材を運んだ。…は、ハンパねぇ…!!
「つっかれたー!なんか飲みたい!」
「買ってくれば」
男女差なのか慣れなのかは知らないけど渋谷さんは汗一つかいている様子はない。なんか不公平だ!
けどそんなこと言っても仕方ないのでお言葉に甘えて飲み物を買いにいく。結構近くに自販機があるのだ。
「さて、何にするかな…」
自販機の前でしばし悩む。うーん…アクエリでいいか。
汗だくになったわけではないけれど水分補給にはスポーツ飲料だろ、と言うことでアクエリのミニボトルを二つ買って戻る。
一本はもちろん渋谷さんにだ。頼まれてはいないが持っていけば飲むだろう。
涼しい顔をしていたって暖かくなってきたこの時期にあれだけ動いてのどが渇かないはずはない。
これを飲む時間くらいの休憩は取ったほうがいいだろうしね。
機材を運び込んだ教室に戻ると作業は進んでいた。…やっぱり自分から休憩をとるタイプじゃないか。
「ただいまー」と声をかけても無反応。む、挨拶は大事ですよ!
渋谷さんが何も持っていないのを見計らって声をかける。
「渋谷さん!」
反応して振り返った彼にボトルを投げる。
…危うげなくキャッチしてくれた。実はちょっとくらい慌てるかなーと期待してたんだけどな。
「ちょっと休憩しましょーよ」
そう言って自分のボトルの蓋を開けて飲む。
渋谷さんは何か言おうとしたみたいだけどやっぱり喉は渇いていたらしく素直にボトルに口を付けてくれた。
…つか、美形は何やっても絵になるなー…ジュース飲むだけでこんな綺麗な人はあんまりいないと思う…
伏せられた目とか。わーまつげ長いなぁ…。上下するのどぼとけとか。形のいい指とか、爪とか…
思わず凝視してしまう。ボトルを持ったままぼーっと眺めていると渋谷さんがこっちを向いた。
「……何か」
「あ、いや、綺麗だなぁっと思って」
「僕が?」
「渋谷さんが」
もうこれは景色とか絵画とかのジャンルの"美しい"に近い感情だよねー。
だから渋谷さんが言った「ふぅん、趣味は悪くないな」っつーなんとも言えないセリフもさらっと流せてしまう。
つかこの人美醜に興味あったのねー。ぐらいだ。
「あははー。渋谷さんたらナルシストー…」
ナルシストー…ナルシー…
…っあああぁぁぁぁああ!!そーだ!ナルだナル!
いきなり思い出したんで飲みかけのアクエリが器官に入ってむせてしまう。
「…何をやってるんだ」
ああ!そんな怪訝な目で見られても"原作思い出しました☆"なんて言えるわけがない!
「や…渋谷さんがあんまナルシーなことゆーからでリアクションが遅れたんだよ!」
と、とっさに誤魔化してしまったじゃないか…!
「ほんっとナルだなー渋谷さん!いっそナルって呼ぶか!」
苦 し い だ ろ !!それは!さすがに!
無言で睨んでくる渋谷さん。う…やっぱさすがにナルシスト呼ばわりはまずかったかな…
「……だ、ダメっすか?」
「………好きにしろ」
………ええええ!?い、いいんだ…。そーゆーふざけた愛称嫌いそうなのに…
まぁいっか。これで下手踏むことないだろうし!
「じゃ、ナルで!」
「……」
早くも飲み終わったらしい"ナル"が無言で仕事に戻る。ホントに呼んでもいいらしい。
にしても棚にずらーっと並ぶモニタなんてちょっとなかなかお目にかかれない光景だ。テレビ局みたーい。
と、ナルがまた新しい機材を出してきた。うん?なんだこれ…レンズがないからカメラじゃないだろーけど…えーと…LECボタンがあるっつーことは…
「…録音機…?」
「ああ。ただし長時間の録音ができる特別なものだ。これとマイクで音を拾う」
お、当たった。
ふむふむ、つまりさっき言っていたような音を拾うわけだ。…それ解析する方が大変じゃね…?
「今日は一日窓の外から一階の音を拾ってみた。今夜は室内にこれをセットしてみる」
「ふぅん。泊り込んだりはしないの?」
「今日はまだしない。霊がいるとしたらどの程度のものか確かめてからだ」
ほー…まあ印象どおりっちゃ印象どおりだけども…
「慎重だねぇ」
「当然だ。幽霊屋敷にはとてつもなく危険なものがある。下手に手を出すと取り返しがつかない」
うへぇ…。じゃあ調査ってめっさ時間かかるんだ…。
その間中肉体労働だったらどうしよう…。薬局でサポーター買ってこよーかな…。
そのとき足元に置いてある機材が目に入った。
「っと、こんな床に機材おかないでよ…」
蹴っちゃたりしたらどーすんだ…危ないなぁ。とそのカメラらしきものを持ち上げて机の上に降ろす。
よく見ると普通のカメラとは形が違う。
「ね、これって普通のカメラとは違うの?」
「……素人とは話したくない」
ほほう、説明が面倒だと。てかお前自分が素人引き込んだんだから我慢しんしゃい!
とか思うことはあっても助手さんの怪我の原因と言う引け目があるので全部飲み込んで忠告だけしておく。
「面倒でも今のうちに説明しといた方がいいと思うけどね」
必要なときにいちいち説明するはめになっても知りませんよ、と言ってやるとナルは少し押し黙って
「…赤外線カメラだ」
と言った。ため息つきだ。
うむ。わかってくれたよーで嬉しいよ。
ナルは「聞かれる前に言っておくが」と嫌味ったらしい前置きの後にサーモ・グラフィーと超高感度カメラを紹介してくれた。
「へぇ~、これがサーモ・グラフィーなんだ」
「知ってるのか?」
「うん、温度が色で表示されるやつね。映像は見たことあるけど機械は初めて見た」
「そうか。あとの二つは暗いところを撮るのに使う。覚えておけ」
「あいあいさー」
サーモ・グラフィーぐらいはよくTVとかにでてくるもんねー。
私が気の抜けた返事をすると渋谷さんがため息をついて小型の機械を渡してきた。
「デジタル温度計だ。各部屋の温度を測ってきてくれ」
一緒に記入用のボードを渡された。…ご丁寧に平面図付だ。
うへぇ…歩き回るのか…とちょっと辟易しながらも素直に従う。
…暗くなる前に旧校舎を出たいもんね…
「いってきまーす」と言ったが返事はなかった。…いや、この人が「いってらっしゃい」とか言うわけないけどさ。
こうして機械類を起動させているナルを尻目に教室を出たのだった。
「ただいまー」
新校舎ほど広くはないとはいえ校舎一つ分歩き回るのはちょっときつかった。
あー…なんであのときカメラのことなんか心配したんだろう自分…
ナルにボードを手渡すと彼はすぐさま確認を始めた。
「…異常はないな」
確かに各部屋の温度に大差はなかった。一番低かった教室も問題になるほどの温度じゃないらしい。
「ふーん。じゃ、霊はいないってこと?」
「まだわからない。霊はシャイだから」
ナル曰く、心霊現象は部外者がくると一時的に収まるのが普通だ、と。
なるほどねー。もしかしたらこれから反応があるかも知れない、と。……ないといいな…
「とにかくこれじゃターゲットの決めようがないな―――とりあえず」
とりあえず?…嫌な予感が…
ナルはちょっと考えてから
「一階と二階の廊下に四台、玄関に一台。暗視カメラを置いてみよう」
と言った。さらりと。
…なんてこったい!!!
思わず心情が顔に出てしまったら睨まれた。…わかったよ!やりますよ!やればいいんでしょやれば!
「お、わった~~…!」
最後のカメラを運び終えて思わずへたり込む。
ふぉぉおお構いなしに酷使した左足が痛いの何の!ってか腰にもキタ…!
立ち上がって前後屈をする…バキッっていった…!
「もう帰っていいぞ。今日の仕事はここまでだ」
ナルは涼しい顔で何かメモっていらっしゃる…。あれ、あなたも何か運んでましたよね…?
まぁ日暮れ前に帰れるのは嬉しいですけど…心霊調査ってなんかイメージと違うなー
「なんか霊能者ってかテレビ局みたいな装備だよね…」
「テレビ局でもなければ霊能者でもない。僕はゴーストハンターだ」
一緒にするな、といわれましても違いがわかりません隊長。さっき幽霊退治って言ったじゃんか。
そんなことを言えばまと10倍になって返ってきそうなのでお口にチャック。
「…んじゃ、お先に失礼しま~す…」
と帰ろうとした私の背中にナルから容赦のない言葉がかけられる。
「明日の放課後。車の所に」
……今日よりは肉体労働少ないだろ…もう機材運んだし…
つか「お疲れ」ぐらい言ってくれても…まぁいいけど…
はぁ、と脱力しながら帰るために足を踏み出した…うーん、ちょっと湿布かえたいかも…
そうだ、家までも歩きじゃん。あー…うーん…どうしようかな…。えーいダメもとで訊いて見るか…!
「あの~…ところで」
「何だ」
「湿布持ってたり、しないよね…?」
「……湿布?」
ナルが怪訝そうにこっちを向いた。
あー…持ってないよねー…。なんでこの人に訊いたかな私…
「…一応車にあるが」
あるんだ!?
「えーと…一枚もらえないかな」
「かまわない」
そう言ってナルは車の方に歩き出した。慌ててついていく。
先に車に着いたナルは中をごそごそと漁って救急箱をとりだした…救急箱!?なんというかまたミスマッチな…
恐らく目当ての湿布が入っているであろうその救急箱を渡される。
「あ、どうも」
とお礼を言って車の後ろ――機材が積んであったスペースにお邪魔して靴下を脱ぐ。
救急箱から湿布を出してから巻いておいた包帯を解いた。
と、黙って見ていたナルから声がかかった。
「なんで黙っていた」
「へ?」
「朝にやったやつだろう。どうして何も言わなかった」
思わず湿布を持ったまま手を止める。どうして、と言われましても…
わざわざ主張するほどのことじゃないし自業自得の怪我だしなぁ…
迷惑かけた相手に言えることじゃないっつーか…
「た、大した怪我じゃないし…?」
思わず語尾が上がってしまう。…わ、私なんか悪いことしましたか…?
むすっとしたナルがつかつかと近づいてきて湿布を剥がした私の足首をグイっと曲げた…いっ
「っったぁーーーーー!!!?な、なんばしよっとね!?」
「わかる言葉を話せ。何が大した怪我じゃない、だ」
多分西の方の方言ですよ!つか、ぎゃー!!つかむな!!
現在何故かナルにいじめられています。美人さんが相手でもいじめられるのは嬉しくありません!!
「どこが痛い?」
え、それは痛いところを攻撃してやんよってことですかSですか?もしかしてナル呼びの報復!?嫌ならそう言ってよ!!
思わず身を引いてしまうが足は依然掴まれたままだ。ぎゃひぃ!
「わ、私Mじゃないんで結構です…!!」
「……痛くして欲しいのか?」
な ん で !?…よく見ると私の足首を掴む手とは逆の手に湿布を持っていらっしゃる…
………えーと、手当てしてくれるつもりですか。
ナルの真意がわかったので身体の力を抜いて素直に答える。
ナルは器用に的確に手当てをしてくれる…のはいいんだけどなんか気恥ずかしいです!!
手とかならまだしも足ってのが!!
「あ、あの!やっぱ自分でやります!」
と言ってナルの手から包帯を奪い取る。…足に包帯巻いてもらうのってなんか恥ずかしいんだよ!
自分でさっきよりもきつめに包帯を巻いていく。やっぱりちょっと腫れだしていたのだ…痛ーー…
どうにか包帯を巻き終わって靴下を履いているとナルが口を開いた。
「やっぱり明日はこなくていい」
「え?」
「怪我人に来られても迷惑だ」
むかっ腹が立つので意訳する。怪我してるんだから無理するな、と。
まぁリタイアしちゃいたいのはやまやまなんだけどね。それじゃ無責任、っつか罪悪感が、っつか…
「…明日も今日みたいに器材運んだり歩き回るの?」
「いや、今日ほどじゃない。だから僕一人で十分だ」
「でもさっき来いって言ったってことはやることがあるんでしょ?」
「怪我人にやらせることはない」
「今日の仕事よりハードじゃなけりゃ大丈夫だよ」
「……」
なんだかんだ人手はほしいらしいナルは少し考えて
「…いいだろう」
了承。あれ!?なんか"手伝ってやってる"はずが"手伝わせてもらってる"みたいになってる!?
ま、まぁ…一件落着…?
その後は予定通り薬局でサポーターと湿布を買って帰った。
かなり好意的にとれば心配ともとれるナルの言動にちょっとニヨニヨしながら歩いてたのでかなりの不審人物だったかもしれない。
の、翌朝――――……
我が親愛なる心優しい友人たちは昨日、別れてからのことを心配してくれた。
曰く、「抜け駆けなんてズルイ!あの後渋谷先輩と何してたのよー!!」と。
…ちょっとは私の心配しよーよ…
別に口止めされてるわけではないので旧校舎の放課後デートの話をしてやった。
主に機材の話を。もちろん彼が"ゴーストハンター"と名乗ったことも含めて。
ここまで聞けばねぎらいの一つも出るだろう。
「えーーー?じゃあ渋谷さんて転校生じゃないの!?」
「…ってそっち!?心身ともに疲れ果てた親友にねぎらいの言葉は!?」
「そんなの渋谷さんと長時間ふたりっきりってのでチャラよ!」
「私になんのメリットもない!!」
わっ!と泣き伏せるマネをする私とその私を放置する恵子とミチル。
唯一慰めてくれる亜里沙…私の癒しは君だけだよ…!
やんややんやといつもどおりの掛け合いをしていると思わぬ闖入者が。
「…ちょっと、谷山さん」
ハイ一気に空気冷えたー…。勘弁してよ黒田さん…
「あの人霊能者なの?旧校舎を調べにきたって今言ってたけど」
「えーと、本人曰く霊能者じゃなくてゴーストハンターだそーですけど」
昨日訂正されたので一応訂正しておく。恵子が違いを訊いてくるが私にもわからんのだ。
つか親しくもない人間に空気をぶち壊されたこっちの身にもなってくれ。
いきなり話に入ろうとすんなっての…
「…谷山さん、あの人に紹介してくれない?」
「はあ!?」
ななな何を言い出すかなコイツは!!なんて紹介しろってのよ!
『クラスメートで中ニ病を患っている黒田さんです☆下の名前は知りません☆』とでもいえば満足かテメー!!
つかな!紹介ってのはした方にも責任が生じるんだよ!!仕事において紹介ってのは安いモンじゃねーんだよなめんな勘違いの世間知らずヤローが!!
と、言いたいところだけどきっとミチルたちにもドン引きされるから言わない。私、大人。
そう自分に言い聞かせてとりあえず言い分だけ聞いてやろうと目を向ける。
「ホラ、私にも霊能力があるじゃない?」
知らぬぇーよ。
「何か手伝えるかもしれないわ」
雑用くらいならやらせてもらえるだろうさ。
…というか、コイツ度胸あるなー。もしかしたら霊感があるって嘘じゃないのかな。
嘘だったらバレるようなことはしたくないはず…。もしくはなりきっちゃってるかのどっちかだよねー。
「はぁ。止めたほうがいいと思うけどね」
「何でよ。あなたよりは役に立つはずよ」
「渋谷さんがそう思ったなら昨日会ったときに声をかけるはずだよ。黒田さんは霊感があるのを主張したでしょ」
「それは…!」
さりげなく貶されちまったよ。なんでこう根拠のない優越感を持つのか…
事実を言っただけで言葉に詰まる黒田さん。感情論じゃないのよー。実際、彼は黒田さんの霊感を信じてはいないようだった。
「あの人はお金貰って仕事してんだからさぁ。子供が無責任に頭つっこんでいいことじゃない」
責任をとれないヤツが口出していい話じゃないでしょー。
もし何かあったらナルの責任になってしまう。その辺考えてなさそーだしねコイツ。
「麻衣ったらそんなこといって渋谷さんと二人っきりがいいんでしょー」
「だーーーっ!!んなわけあるかっつの!」
「またまたー」
シリアスな話をしているのに恵子とミチルが絡んできた。後ろからのしかかられて潰れる。
もー!どうして私がナル狙い設定にしたがるかなぁ!!
「あんな怖いお兄さんゴメンだっての!顔は良くても毒舌でおつりがくるわ!!」
うがー!と反論するが二人は「うっそだー」…嘘なもんかい!
あ、黒田さん放置しちゃったい
「と、だから渋谷さんには関わらない方が…」
いいよ…と親切心で言ってやってるのにいつの間にか席に戻っちゃてる黒田さん。
あちゃー…疎外感与えちゃったか。ちょっと反省。
でも友達と楽しく話してんの邪魔してきた彼女も悪いので謝りません。
すると恵子がちょっと怒ったように
「あいつ、あんなヤツなのよ。中等部のころから有名だったんだ――アブナイって」
「ああ、黒田さんも恵子たちと同じ内進組みだっけ。…あー、だからか?」
「だからって何が?」
「うーん…そりゃキャラ変えにくいよねって話」
中学のメンバーが多く同じ高校なのだ。そりゃ成長も促されないし中ニ病から脱する機会も持てない。
そう思うとだんだん可哀想に思えてきた…。
中ニ病から脱した後、この事を思い出して悶えるのだろうと思うと…アハーいい気味!
性格悪いとか言うなかれ。外に発信するタイプの中ニ病は後に本人に与えるダメージもデカいがそれまでの周りに与える迷惑もデカいのだ。
恵子はなんのことかよくわからなかったらしいが深く追求はしてこなかった。
彼女たちの中で私は「たまによくわかんない事を言う」位置づけらしい。
「霊感とか言っちゃってバカみたいだよね」
……ノーコメントで…。生暖かい笑みを向けるほどの余裕は、まだない。……あの頃は…若かっ、た…。
何も言わずに苦笑した私は気にしないで恵子はミチルに耳打ちをした。
「ねね。もしかしてさぁアイツ、渋谷さんに一目ボレとかだったりして!」
きゃーー!!やだー!やめてよーっ
ってお嬢さん方、それはちょーーっと酷いと思う…。
ほらほら黒田さんも睨んでるよ。そーゆー噂は醜いからやめんしゃい。
された方はいい気しないからねー。とか言っている間にミチルたちはもう別の話題で盛り上がっていた。早っ!