第三章
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10.
ベースを出たナルとリンさんがずんずんと進んでいくのを小走りで追いかける。
コンパスの差ェ…
廊下はシンと静まり返っているが、教室の前を通り過ぎる度に授業の声が漏れ聞こえている。
多分廊下に響く足音も聞こえているんだろうな。気にしないでいてくれるとありがたい。
目的の場所に着いたのか、ナルが歩調を緩める。
2年の教室フロアに出た時点でナルの目的はわかった。
呪詛と聞いて真っ先に思い浮かぶ場所。例の席だ。
それはわかった。わかったが、躊躇なくドアに手をかけるのはなんでかなぁッ!?
そしてなんの遠慮もなくガラッと開け放つ!そこにしびれもしないし憧れもしない!
授業中のクラスの前で大声出して止めるのも躊躇われ、かといって手も足も間に合わない。
開け放たれたドアの向こうに、ポカンとした2-5クラス生徒諸君の顔が見え…は、しなかった。無人だ。
どうやら移動教室か体育か、とにかく教室を空ける時間だったらしい。
びっくりした…いや、それにしてももうちょっと確かめたりとかないのかと…。ないのか…自信に満ち溢れたナルにはないのか…
ナルはツカツカと教室の奥の席…所有者は電車に引きずられるという例の席にむかい、机を引っつかんで入ったままの文房具をかき出した。ちょっと乱暴だと思います。
そしてその机の奥からべりりと引き剥がされたのは『汚い』ガムテープ。
十字に貼られた内側には、ヒトガタが貼り付けられていた。
「…よくできています。間違いなく厭魅ですね」
ナルが手渡したヒトガタをリンさんが検分し、頷いた。
これは厭魅に使われたヒトガタであるらしい。
「ただ、これは特定の個人ではなく、この席の所有者を呪うもののようです」
「だろうな。……」
リンさんの手の中にあるヒトガタを見つめる。
おかしいと思ったんだ。私は別に潔癖じゃないし、むしろ普通の女子生徒諸君よりは汚れ物に耐性がある方だ。
なのに、初めてこのヒトガタ…正確には、それを覆うガムテープを見たときに「汚い」と思った。忌避感があった。
今は少し違うようにも感じる。呪いに使われたものと知っての、先入観もあるだろう。
いま、この小さなヒトガタから感じるものは『悪意』だ。
そう、夢に見た鬼火と同じ…
「麻衣、ぼーっとするな。次は陸上部の部室だ」
「っあいさッ!」
いや~な感じのヒトガタを持ったナルにはちょっとお近付きになりたくない。今度はコンパスの差に感謝。
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陸上部の幽霊は陸上部の部室で備品を整列させるやつだ。
これがヒトガタの影響ならば、部室内にヒトガタがある可能性が高い。
そして机と同じく、部全体を対象とした呪詛だろう。
職員室で鍵を借りて扉を開けると、備品とロッカーなんかのある、ごく一般的な部室。
それも、運動部の部室によくあるコンクリート敷き。
「普通は床下だな?」
「はい。天井裏のこともありますが…」
「…まず、天井から行ってみるか」
賢明だと思います。
土木工事はちょっと。
さて、机の件から考えてるとロッカーあたりが怪しいか。
だが部室のロッカーは生徒の私物――たとえば着替えとか、女子高だし、下着なんかも――が、あるかもしれない。
本人たちと女性だけならともかく、男性陣のいるここで開けるわけにいかない。
入口まで戻って、部室を見渡す。
天井裏確認のためにナルが登った椅子を抑えてるリンさんに変なものを見る目で見られたけど気にしない。
でも、その役割分担逆がいいと思うよ、身長的に。
誰しもが経験しうるだあろう、「見たくないものほどうっかり目に入ってしまう」現象。
なんか真っ先に目に入るポイントがある。部屋の角だ。
何故だか、非常に近づきたくないという衝動を抑えて歩み寄る。
一部、コンクリが剥がれたのだろう、明らかに乗っけてあるだけのコンクリ片が少し浮いている。
そこそこ厚みのあるそれを持ち上げると、下は直接土だった。
「………」
ちょっと見回してみるが木片やら枝やら、土をほじくれそうなものはない。
手に持ったとんがり気味のコンクリ片はデカすぎる。
もしも土中にヒトガタがあったら粉砕してしまいかねない。
ヒトガタは、模した相手に近くなると言う。ヒトガタ粉砕したことで誰かに何か起こったらやばい。
………仕方ない、素手か。
意外と固くなっていない土を手でどけていく。
というか、おそまつなことに一部土がほぐれている。そこを狙って発掘作業。
大して掘らないうちに、指が木の感触に触れた。
周りの土をどかして摘み上げてみれば、それは先ほど目にしたものと同じ、ヒトガタだ。
「ナル」
指先でつまんで眼前に掲げ、これちゃいますかねとナルに発見を報告する。
私がここ掘れワンワンしてる間に高所作業をやめていたらしいナルがすぐ後ろに来ていて、私の手からヒトガタを回収した。
「やはり、厭魅に間違いないな。呪われた席と陸上部…その延長線上に、犯人はいるはずだ」
犯人探しチームのはずが、何故ヒトガタ探ししてるのかと思ったら前提条件の地盤を固めるためだったらしい。
間違いなく厭魅なのか、呪詛の対象は予想と一致しているのか、実物を見て確認するつもりだったのか。
ナルのそういうところ好きよ。でもね、一言あってもいいと思うの。
そっとぼーさんたちにメールを送信した。
『2-5の呪いの席と陸上部部室からヒトガタ回収済みです。』
もう手遅れで二度手間になってたらスマン。