第一章
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「きりーつ。れーい」
キーンコーンカーンコーンとお決まりのチャイムと号令が終業を告げる。
あー、体育と移動授業がなくて良かった…。
無事に一日の授業が終わってSHRも終わった。歩いて帰るのがちょっと憂鬱だが何とかなるだろう。あ、養護の先生にもちゃんと報告した。
それより確か渋谷さんはミチルたちと怪談をする約束をしていたけど…リンさん?があんなことになってもしかしたら来れないんじゃないだろーか。
ぼー、っと考え事をしていると日直らしい恵子たちが黒板消しを弄びながら渋谷さんの話題で盛り上がっていた。
「ね、場所どうする?ここじゃムードないじゃない?」
「また視聴覚室使おうか」
みんなノリノリである。渋谷さんこなかったらがっかりするだろーなー。
と、そんなきゃぴきゃぴした会話に咎めるような声が割り込んだ。
「ちょっと」
言ったのは黒髪お下げに眼鏡の女の子。同じクラスの…えーと…えーと…
「あ、黒田さん…さよなら」
そう黒田さん!祐梨が挨拶したのにも関わらずニコリともしないで彼女は続けた。
あー…こーゆータイプは関わるとめんどくさいぞー…
「あなたたち、今してたの何の話?」
「昨日会った美人さんの話」
私がそう投げやりに答えると黒田さんは「誤魔化さないで!」と声を荒げた。
ほんとなんだけど。主題なんだけど。
「ムードとかなんとか言ってたでしょ!」
「そうだね。それが何?あなたには関係ないでしょ」
そう言うと黒田さんは黙ってしまった。そんな悔しそうな顔されても。
喧嘩腰できたんだから好意的な態度が返ってくるわけはない。
彼女には友人もいないみたいでいっつも一人だからな。気持ちはわからなくもないが正直付き合いたくないタイプだからフォローはしない。(え?大人げないって?だって私いま高校生だもん)
そんな黒田さんのせいで居心地の悪くなった教室にノックの音が響く。
…わざわざノックするって…もしかして…
「谷山さん、いるかな」
ミチルたちがきゃあ、と華やいだ声をあげる。わー、空気が軽くなったナー
入り口に顔を出したのは案の定渋谷さんでした。
しかしそれでもKY黒田さんはめげなかった!
「何年生?なんの御用ですか」
お前何様だ。とりあえずその態度を改めてほしいところ。
ま、この年齢にありがちな…一種の病気みたいなもんなんだよね…。そう、誰しもが通る道…だけど周りには迷惑極まりないってね。
「ああ、彼女たちと約束があって」
「約束?何のです」
何でそこまで報告せにゃあかんの。あー、めんど。
「怪談を一緒にしようって話。はい、終わり」
私がそう言って廊下に出ようとすると黒田さんに引き止められた。
腕を引かれた拍子に捻挫した足で思いっきり身体を支えてしまった。いっっっ!!!
こ、コノヤロー…知らなかったとはいえテメー…
あまりに痛かったので思いっきり黒田さんを睨み付けたら怯んで離してくれた。
…そんなマイナスの感情ぶつけられたくないならそのキャラやめればいいのに。
「っ怪談なんてやめなさい!通りで今日学校に来たら頭が痛くなったハズだわ!」
あイッターー…。しかも霊感キャラときたか。ああ、ありがちだよ…
彼女は間違いなく…
「私、霊感が強いのよね」
中ニ病患者だ……!!!
なんかうんちくたれてるよ…。イタい…。イタすぎる!
中ニ病なんだから高校上がるまでには卒業しとけよ!
ああ甦る過去の記憶!"前"にこの病気を患ったことのある自分!はーずーかーしィーーーー!!!
てか前世持ちも中ニ病っぽいよね。あははー。
私が大声あげながら机をバンバン叩きたい衝動に駆られている間にも話は進む。
怪談なんて面白がってしちゃだめよ?面白がる以外でなんで怪談するんだよ!
そもそも本当に"見える人"だったらきっとこんなことは言わない。
仲良くもなんともない人に。それも怪談をした、というだけで。
"特別"には"特別"なりの苦労があるはずだ。生まれつきの"特別"は周りから異端視される。だから普通そうペラペラ自己申告はしないものだ。
「あなたも。年長者がそんなじゃ困るわ。いちおう私が除霊しておきますけど」
えええ除霊もできちゃう設定ィーーーー…?
あはーこの子絶対最強クール設定大好きな子だーあははー
「…君の気のせいだと思いますが?」
こらこらそこ!煽らない!これ以上の厨二発言、私耐えられない!!
「これだから霊感のない人は困るのよ」
もうやめてぇーーーーー!!!!
ちょ、本格的に恥ずかしくなってきた!拷問かこれ!
渋谷さんと黒田さんが言い合う…というか黒田さんがつっかかってるのだけど。
話の矛盾点を突かれた黒田さんが自分は特別で他の誰にも理解されない的な厨二発言をかましたあたりで収拾つかなくなってきた。
そこにミチルが気まずそうに
「あのう…渋谷先輩、今日はやめませんか」
と言った。
恵子も同意する。祐梨も二人に賛成のようで、その様子を見た渋谷さんがあっさりと
「…そう。じゃあ、またいつか」
と言ったことでお開きになった。
が、去り際に渋谷さんが黒田さんをちょっと見たものだからまたもや黒田さんが喧嘩腰にくってかかる。
ちょ、まだやる気!?と思ったが渋谷さんは「――いや」とあっさり黒田さんから私に視線を移して…あれ?「――ああ、谷山さんちょっと」あ、ハイ…
「…なんですか」
あーー、そういえばこの教室に入ってきたときも名指しだったな。
朝のことだろうな…。まさかほんとにお医者さん産婦人科だった?だったらやだなー…
「少し時間をくれないか」
あー…それ疑問じゃないですよね。絶対疑問符ついてないよね。
まぁ、あの怪我したお兄さんの容態も気になるし…
「ハイ…」
産婦人科じゃありませんように…違った。大怪我してませんように。
後ろでずるーいとか言ってる二人!代わってくれ!
「―――彼女はクラスメイトか?」
廊下で私の少し前を歩いている渋谷さんが尋ねてきた。
どうでもいいけどさっきの黒田さんのせいで捻挫絶対悪化したって。
だんだん痛みが酷くなってきたー。まあ彼女は知らなかったんだけど。
少し片足を庇いながら歩く。幸い擦り傷も打ち身も捻挫も全部左足に集中して…全然幸いじゃないなコレ。左足災難。
とか考えながら渋谷さんの質問に答える。
「うん。話したのは今日が初めてだけど」
あ、敬語。いいか。一つ違いだしあっちもタメ口だし。心は年上だし。心は。
「…本当に霊能者かな」
「正直私は嘘だと思うけど。もしくは妄想」
「…谷山さんは霊能力者否定派?」
渋谷さんが振り返って私にそう問いかけた。なんだか目がマジだ。
問いかけられた私はきょとん、としてしまう。むしろ渋谷さんの方が否定派っぽいのに、この言い方からすれば彼は肯定派なのだろう。
「うーん…否定はしない、かな。でも会ったらまず疑ってかかると思う。私には見えないから」
私の答えに渋谷さんはふぅん、と意外そうな声を出した。
否定派かと思ったのかな。
「意外とまともな思考回路をしているんだな」
わぁ、褒められ…いや貶され…?どちらにしろやっぱり神経逆撫でするヤツだな!
「それはどーもっ!ところで今朝の人は大丈夫だった?病院、ちゃんとわかった?」
「それなんだが」
こっちから振った話題ではあるが渋谷さんの前振りにびくっとする。
ななな何かあったのかな…!産婦人科だったのかな…!
「左足を捻挫した。かなりひどい状態でしばらく立てそうにない」
あ、怪我の方…。あちゃー…。捻挫って痛いですよね。うん。
…それよりも心配していたのは…ちょっと言葉を選ばなければ誤解を生みそうだけど…頭の方だ
「…頭は強く打ったりは?」
「額を少し切っただけだ」
「そっ…か」
少しほっとした。や、十分大怪我はさせてしまったんだけど。
もしその人の人生に関わるような大怪我を負わせてしまったらと思うとぞっとする。
でもしばらく歩けないってのも十分大変だ。
「…ごめんなさい」
うーん、お金はないから…どーやって謝罪しよう…。
お兄さんに謝りに言っても嫌がられそーだしなぁ…。あー…そういえば
「ところで、あのお兄さんはどちらさまで?」
「助手」
簡潔なお返事どーも。助手ね。…何のだよ!!
「…誰の?」
「僕以外に誰がいる」
いちいち怒ったりしませんよ大人だモン……ムカつくー!!
「その助手が動けなくて困っている。君に責任があると思うが。谷山さん?」
あー!そのいちいち癇に障る言い回し!事実だけど…いやむしろ事実だから腹立つーーー!!大体何が言いたいんだよ何が!
…言葉の言い回しから判断すると私に責任を負う義務があるから何かして欲しいわけで…
"助手が動けなくて困ってる"…つまりは代わりに動けってこと?…っかーー!!回りくどい!!
「素直に手伝ってくれとかいえないわけ!?」
「カメラも壊れた」
「是非やらせていただきマス」
お金の話持ち出されると弱いのですよ…。悲しいかな苦学生…
即答した私に渋谷さんはニヤリと笑った。使いっぱしりゲットだぜ!というところか。
憎たらしいけど前のヘッタクソな作り笑いよりはかなりマシな笑顔だった。
「…それで?一体私は何をすればよろしいんでしょうかご主人様?」
「そうだな…とりあえずついてきてくれ」
ツッコミなしですかーーー!!
臨時雇いとはいえとんでもなく絡みにくい上司だよ…。絡むなってか…。
再び歩き出した渋谷さんについていく。歩きながらさっきから気になっていたことを訊ねた。
「ね、渋谷さんって何をしてるの?私は何の助手になるわけ?」
「ゴーストハント」
「……え?」
それって…それって…
「直訳すれば幽霊退治…かな」
小説が原作のアニメ化したコミック…孤児の女子高生、谷山麻衣が主人公の、漫画の題名…
そこに思い至った瞬間、今まで感じたデジャヴの理由がわかった。それは今も感じている。
「校長の依頼で旧校舎の調査に来た『渋谷・サイキック・リサーチ』の」
そう、どっかで見たと思ったら漫画越しに見ていたわけだ。
だから印象深い場面になるとデジャヴを感じる。あれ、でも…
「僕は所長」
彼は"渋谷さん"なんて呼ばれてたっけ…?
渋谷さんはグラウンド脇のあまり人目につかないベンチに座ると詳しい事情を説明してくれた。
要約すれば一週間前に校長から旧校舎の調査の依頼が入ったと言う話だった。
「はぁー…なるほどねー…」
どーりで曖昧な言葉で言及を避けるわけである。
「つまり私たちの話を聞こうとしてたのは情報収集ってことか」
「ああ。生徒間の噂を集めたかったんだ」
それならさらりと嘘をつけばいいのに。わざわざ曖昧な言葉で濁すあたりちょっと可愛いかもしれない。
そういうと不謹慎に聞こえるので言い直そう。彼の誠実な人柄が垣間見えました。と。
「で、話は出たか?」
「ん、ミチルが話してくれたよ」
「そうか」
そういうと彼は録音機を取り出した。って録音するんかい!一回聞いただけでちゃんと話せるか不安だっちゅーに…。
それでもなんとか話し終えると渋谷さんは録音機のスイッチを切った。
「――なるほど」
と呟き、持っていた鞄から分厚いファイルを取り出す。…つまりOKってこと?
渋谷さんのことだから『要領を得ない。やり直し』とかって言われるのも覚悟してたんだけど。
「ね、この話どの程度ホントかな」
「…旧校舎が使われていたあいだ、死人が多かったのは事実」
パララ、とめくられるページが目に入る、が、読めん!!なんで英語で書かれてるんだ!!
しかも流暢な筆記体でメモがとられている。なんでわざわざ…帰国子女とか外国に縁深い人なんだろーか…
渋谷さんはすらすらとファイルに記載されているであろう情報を述べていく。…こういうところ、律儀と言うか誠実というか。
素人である私の意見なんか期待してないのだろうし、もうすでに頭に入っているであろう情報をわざわざ読み上げてくれてるのはひとえに私の質問に答えるためなんだろう。
真面目だなー。にしても凄い情報量だ。
「…よく全部調べ上げたねぇ。すごい…」
「当然だ。僕の情報収集能力をバカにしてもらっては困る」
「……褒めたんだから素直に受け取りなさいよ」
「それはどうも」
これはわざとやってるんじゃないだろか…。反抗期…そう、反抗期だと思えばやりすごせる…
とにかく彼は非常に優秀で尚且つ自分の能力を高く…いや正当に評価しているようだ。うん、確かにすごいしね。
その優秀な渋谷さんの見解では今のところそんなに大した事件じゃなさそうだそうで。…良かった…!
…怖い思いはあんまりしたくないなぁ… そうは言っても一旦引き受けちゃったしなぁ…。ま、スカだといいなぁ、と期待して頑張りますか。
ベンチから立ち上がってスタスタと進む渋谷さんを追いかける。
怖いことがおこりませんよーに!