第二章
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気が付くと、視界には薄暗い天井が映っていた。
えーと…。
あー…礼美ちゃんの話を聞いて、典子さんとオヤツ片付けて…。あ、そうだ、仮眠とってたんだっけ。
そろそろ起きるか。と寝転がったまま身体をのばす。んぎぎ。
よっこいせ、と身体を起こす。と、目の前にナルが居た。………!?
「な、なに……?」
何で居る。何故居る。しかも無言で。てかいつから居た。
そしてこっちを見ているナルが、微笑んだ。にこって。…にこって。可愛い笑顔である。
この衝撃には覚えがある。旧校舎で気絶してるときに見た夢だ。
ふと、彼が表情を引き締めた。そして何かを伝えようと口を開く。
不思議なことに、音はなかった。ないように、思った。それでも、何を言いたいのかは伝わった。
礼美ちゃんが、危険。
すとん、と理解した。
「…危険、なのね?やっぱり、礼美ちゃんが…狙われてる?」
こくり、と頷く彼。
声の届かないような遠い感覚。
遠ざかる。なんで、と尋ねた声も届かない。
そして、
気が付くと、視界には薄暗い天井が映っていた。
えーと…。
夢ですか。夢ですね。
夢は記憶の整理の時間だと言う。
記憶の引き出しから情報を取り出し、整理し、まとめるその過程。
だが、夢占いだとか、縁起の善し悪しだとかもあるわけで…
…というか、あの夢の意味をそのまま受け取るとして、どうして忠告する人がナル(天使の微笑みver)なんだろう…。神か?お告げを下す神ポジションか?
自分の中でのナルのポジションに大分悩むところである。
しかも優しい笑顔。実際にされたらとりあえず写真を撮って逃げる。でも夢の中では素直に可愛いと思えるからなぁ…。うーん…うーん……
「――礼美ちゃんがそんなことを?」
「そ。私、なんか心配でさぁ…心配のあまり、ナルに礼美ちゃんが危険って言われる夢まで見ちゃったよ~。仮眠中」
「…………」
考え込むナルである。やっぱり仏頂面。真剣な顔にしたって夢とは大分雰囲気が違う。
…優しい~雰囲気のナル?…私はナルに何を求めてるんだか。と軽く自分に苦笑してしまう。
ナルはとりあえずミニーを見てみることにしたらしい。
典子さんに頼んで持ってきてもらった実にーを、ナルが受け取る。
…ナルが西洋人形を持っている図は、なんだか、非常に…非常に不気味である。
ナルが典子さんとミニーに関する問答をしていると、必死な叫びが割り入ってきた。
「かえしてっ!」
礼美ちゃんである。
どうやら、礼美ちゃんの同意の上でミニーを借りたわけではないらしい。
…が、あまりに必死である。それに、礼美ちゃんの位置からじゃ、ナルがミニー持っているのが見えないはずだが…礼美ちゃんはナルに一直線。後ろからナルの腕を引っ張っている。
「ミニーかえして!さわらないで!」
「礼美ちゃん、ミニーとお話ができるんだって?」
「だれもさわっちゃだめ!!」
ナルの質問は完全にシカトして、必死に腕を伸ばす礼美ちゃん。
ミニーを奪還すると、典子さんの制止も聞かずにどこかに逃げていってしまった。
…ナル……子供向けに話すことができたんだね。でもノリと表情は変わらないので、そりゃ子供も怖い人だと思うよ。そして間違ってないよ。
にこ、と生温か…もとい、温かい眼差しでそのようにアドバイスしてやるとナルの眉が跳ねた。
器用な表情筋ですね。それをもっと笑顔的な方面に活用して欲しいです。
「麻衣がやれ」
「えーー………いいよ」
子供相手に奮闘するナルを見てみたかったが、明らかに効率が悪い。それに、お仕事ですしね。お給料貰ってる分は働きますです。ハイ。
そして夜。モニターの向こうにはベッドに座らされているミニーの姿。
「お、これがミニーか。よくチビちゃんが貸してくれたな」
ふふん。ナルと違って私に抜かりはない。
「礼美ちゃんが寝てからこっそり誘拐してきた」
どや顔。
冷視線×2頂きましたー!…えー、子供が寝てる間に事を済ますのが大人じゃない?サンタさんとか。
ため息をついたぼーさんのやれやれ、というモーションをスルーしてモニターに視線を戻す。ちなみに、ナルの視線はとっくにモニターに向けられていた。
「人形って苦手…」
薄暗い中でミニーの白い顔が目立って見える。
昔から人の形を模したものは苦手だった。人のような形のぬいぐるみも好きではなかった。
真実幼い頃から、人形やぬいぐるみには愛情というより、一種の敬意を以って接していた。
「まーな。人形ってのは、もともと人の魂を封じ込める器だからなぁ。魂がなくて中が空っぽだから、霊が憑依しやすいんだよ」
「あー…なるほど…」
ぼーさんが霊能豆知識を披露してくれる。更に人形が苦手になった。
「でも私が怖かったのはどっちかっていうと付喪神的な方かなぁ。モノに心が宿るってやつ」
大切にすればもしかしたら守ってくれるかもしれないが、ぞんざいに扱うと仕返しされそうな気がしていたのだ。漫画の読みすぎかもしれない。
突然ナルが立ち上がる。そちらに目を向けると、モニターにかぶりついていた。
あんまり近くで見ると目を悪くするぞー…ん?
「あれ…?座ってなかったっけ…」
ミニーがうつぶせに倒れていた。
いくらなんでも、人形をうつぶせに配置はしない。
不思議に思ってみている、と、ミニーが動いた。
思わず息を呑む。明らかに、うつぶせのままベッドの上をナニカに引きずられている。
不気味。そして、不思議だ。目の前で、ありえないことが起きている。
…って、首…!!首がもげたーーー…!!?
ぎょえーーー!!あ、礼美ちゃんになんて説明したらいいんだコレ…!!
ミニーが自決しました?どこの武士だミニー!!可愛い名前に反してやりおる…!!
、じゃなくて。
首が転がり落ちたところで動きは止まった。
とりあえずミニーを確認しに行こう…
「ちょっとミニー見てくるねー」
「待て」
「待てい」
「え」
「ぼーさん」
「あいよ」
…としたら止められました。ぼーさんが代わりに出動したもようです。
ぼーさん…首もげてるミニーをよろしくね…。ちゃんと直さんと礼美ちゃんが泣く。
そしてぼーさんを待つ間に映像の確認。を、したわけだが
「――駄目です。何も記録されていません」
「測定機器も全部エラーだ」
だ、そうです。記録の確認をしていたのは、一言も喋らなかったもののずっとベースには居るリンさんである。リンさんマジ空気。
なるほど、霊と機械は相性が悪いとは聞いていたけどもこういうことか。
モニターをさらにカメラで撮影すれば…と一瞬頭をよぎったが、脳内で却下した。
ベースにカメラ設置したら狭いし邪魔だし、コンセントは足りないしカメラ台数的にも問題がありそうだ。
それに、ナルのことだ。そうしないってことは何か理由があるんだろう。多分。
がちゃり、とドアを開けてぼーさんが戻ってきた。
「あ、どうだった?」
ちゃんと直った?ミニー。
とのつもりで問いかけると、ぼーさんは疲れたようなため息を吐いた。
「…なんともなかった」
「はい?」
「ミニーの首、取れてなかったぜ。最初に見たまんま座ってやがった」
で、何事も無かったかのようにミニーを礼美ちゃんのもとに戻したのが、昨日の夜の終わり。
正直言うと、明らかに何かありそうなミニーを礼美ちゃんのもとに戻すのは気が引けたけれど…お気に入りの「お友達」をなんの説明もなしに引き剥がすのはまずいだろうし…。
とにかく、礼美ちゃんが危険。との自分の夢にしたがって、できるだけ礼美ちゃんを見ておこうと思う。
そして礼美ちゃんの部屋を訪ねる。ドアの前、なう。
「みーんなおいだしてあげる」
話し声、なう。
「おねえちゃんも、麻衣ちゃんも?」
「もちろん」
声は二人分。片方は礼美ちゃんだ。
もう片方は内緒話をするように声を潜めて、笑いを含んだ声で礼美ちゃんに語る。
家の中は悪い魔女だらけなのだと。礼美ちゃんの味方は、自分しか居ないのだと。
「礼美、おねえちゃんはいたほうがいい」
「だめだめ、おねえちゃんはマジョのテサキなんだよ。だいじょうぶ。ちゃーんとシマツしてあげるから」
はい、麻衣ちゃんは排除されてもOKなんですねわかります。
そしてマジョじゃない男性陣はいいのだろうか。…ん、もしかして、礼美ちゃんが懐いてないから…とか?
「そのかわり、あたしのいうこときかなきゃだめだよ」
あ、まずい。これは返事をさせちゃいけない。
思わずノックを忘れてドアを開く。少し乱暴になってしまったかもしれないが、それはそれ。
ぱ、っと部屋の中を見た限りではきょとんとした礼美ちゃんしかいない。
にっこりと挨拶をしながら後ろ手でドアを閉めて、礼美ちゃんに歩み寄る。
「や、礼美ちゃん。呼ばれたような気がしたから来てみたよー」
「礼美、よんでないよ?」
「あらそう?じゃ、間違えたかな~…誰とお話してたの?」
ちょっと逡巡した様子をみせる礼美ちゃん。
が、他意なくニコニコしてみせると小さく口を開いてくれた。
「…ミニー」
「そっかー、ミニーかぁ…。礼美ちゃん、ミニーの他にお友達はいる?」
「うん、いっぱい。いまもお話してたの」
指差す方向は、私の背後で。
「あれ……いっちゃった」
閉めたはずのドアが、開いていた。
…きゃー。
「…あらま。すれ違いかな~。礼美ちゃんがミニーとお話してたから、つまんなかったのかもね」
「ううん、違うよ?だって、ミニーがつれてきたんだもん」
「……そっかー」
怖いよー。ホラーが本領発揮したよー。
ちょっと泣きそうになりながら、典子さんが来るまで礼美ちゃんと二人で遊んだ。
なんとか時間はしのいだけれど、たまに部屋の隅に視線を向けたりする礼美ちゃんが怖かったです。
昼間の見えないお友達事件をご報告してみる。
すると綾子はほとんど悲鳴のような声を上げた。
「この家なんなのよ!もしかしてアレ?近所でも有名なオバケ屋敷ってやつ?」
どうやら、香奈さんと一緒に居た綾子の方でもちょこちょこ何かしらあったらしい。
…典子さんの言っていた、子供の悪戯のようなできごとのようだけど…もしかして、これってそーゆーことなのでは?つまり…典子さんが遭遇したのは礼美ちゃんの悪戯じゃなくて…
「家っつーか、ミニーに何かあんじゃねえの?」
というか、心霊現象がおこるって依頼が入ったのに「お化け屋敷?」って…
そうです。としか言いようが…
考え事をしているとぼーさんが私に話を振った。
「その見えない友達を連れてきたのはミニーだって言ったんだろ?」
「まーねぇ」
「どー思うよ、ナルちゃん」
暫定リーダーに話を振るぼーさんは副リーダーポジの人である。
話を振られた(何だかんだ言ってリーダー体質な)ナルはというと
「――…」
無言であった。目も合わさず、熟考中。
「えー、所長はまだ考えを保留するそうデス」
「…相変わらずですなー」
返事くらいしなさい。と思って代弁しておく。
違ったら嫌味と訂正が来るだろうから大丈夫。間違ってない。
呆れたように呟いたぼーさんがピンときたらしく声を上げる。
「お、そーだ!ミニーに霊が憑いててミニーのフリしてるってのは?どーよ」
「…そのセンかもしれないな。落としてみるか、ぼーさん?」
「おうともさ!」
ぼーさんの意見を一考したナルの一声で、そういうことになった。
ピンときたところ悪いけど…あの…そーゆー方向で話が進んでたんじゃなかったんですね…
そうだと思い込んでた私は、ちょっともやもやした気持ちを抱えることとなったのだった。ぬーん…
そして、夜。
例の手口でまたもやミニーを誘拐して、今度はミニーを置いた部屋にぼーさんも入る。
私とナル、ベースに固定のリンさんはモニター越しにぼーさんの除霊を見学。
綾子は…一番危なそうな礼美ちゃんの側についている。一応、護符を作って配置はしてあるらしい。
誰もついていないよりは安心だけど…正直、不安である。そのお守り、効く?
嫌などきどきを感じながらもぼーさんの除霊を見守る。
そういえば、ぼーさんの除霊をちゃんと見るのは初めてだ。
聞き覚えのあるような、ないような、韻を踏んだお経が聞こえてくる。
多分、うちのお葬式であがるお経と同じだろう。真言部分はよく覚えてないから、たぶんそれ。
だって、高野山は真言宗だし。うちも真言宗でお葬式挙げたし。
効果があるのかないのか、よくわからないそれを眺めている。そう、ぼーっと…
大きく悲鳴が上がり、肩が跳ねた。ぼーっとしてたから尚更びびった…!
この前までの悲鳴とは、違う声…典子さん!!
ダッシュで駆けつけると、そこには床に倒れている典子さんの姿があたった。
「典子さんっ、大丈夫ですか?何が…」
「っ…あ…足……」
か細い声で典子さんが言う。
同じく駆けつけたぼーさんが典子さんの足を見た。
「…足首、脱臼してるぞ」
脱臼…って痛いらしい。ものすごく。
個人的にははめる時が一番痛かった気がするが、遠い記憶なので如何ともしがたい。
「誰かが…すごい勢いで足を引っ張ったの…」
そう言った典子さんの足首には、強く握られた後があった。
まだらで…そう、子供が両手で掴んだように見える。けっこう、はっきり。
「…救急車の手配してきます。典子さん、電話お借りしますね」
できるだけ不安にさせないように笑って、典子さんをぼーさんに任せてその部屋を出た。
緊急性のない傷病で救急車を呼ぶのは好ましくない。けど、典子さんの場合、足首を脱臼してる。タクシーを呼んだとしても、乗降が大変だろう。例え男性に力を借りたとしても。
ちょっと悩んだけれど、119番通報させてもらった。
聞いた話、幸運なことに、結構病院は近いらしい。
到着した隊員に担架で運ばれる典子さんに、香奈さんが付き添って行くことになった。
…怪我したときの状況とか、聞かれるんだろうか。そのまま説明したら救急隊員たちは気味の悪い思いをするんだろうなぁ…可哀想に。